再生可能エネルギー入門コース講師の三上己紀氏(左)
ゲスト講師の株式会社ウィンフィールドジャパンの勝田健一氏(右)
再生可能エネルギー入門コース講師の三上己紀氏(左)
ゲスト講師の株式会社ウィンフィールドジャパンの勝田健一氏(右)
7,11
「再エネをイチからわかりやすく」をモットーに、ESGやSDGsの推進でも重要な役割を果たす再生可能エネルギーについての基本知識を学べる再生可能エネルギー入門コース。講師の三上己紀氏は、かつて資源エネルギー庁に在籍し再生可能エネルギー専門官として制度運用を担当し、現在は立命館大学客員研究員や東京工業大学非常勤講師などを務めています。また本コースでは多彩なゲスト講師も迎え、再生可能エネルギーの最新状況や生きた知識を学べます。
Day4では太陽光発電事業のトータルプロデュース・コンサルティング業を行う株式会社ウィンフィールドジャパンの勝田健一氏をお招きし、国内外の太陽光発電事業についてお話いただいた様子をお伝えします。
冒頭、三上氏は中東情勢が日本に与える影響について話しました。イスラエルとパレスチナの紛争地帯の東側にはペルシャ湾があり、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)などの産油国が面しています。そのペルシャ湾からアラビア海に出る出口となっているのはホルムズ海峡です。ホルムズ海峡は日本のエネルギーの大動脈ともいわれ、日本に輸入される石油のおよそ80%が通っています。ペルシャ湾からホルムズ海峡を通るルートは我が国にとって「エネルギーの生命線」なのです。
現在のイスラエルとパレスチナの紛争の影響で、イランなどの中東諸国がこのホルムズ海峡を封鎖するようなことになると日本へのエネルギー供給が断たれてしまいます。エネルギー自給率が低い日本は数か月以内にエネルギーが枯渇してしまうでしょう。三上氏は「イスラエルとパレスチナの紛争は対岸の火事ではなく、日本はエネルギーに関して危機的な状況に置かれる可能性を常に意識しなくてはならないのです」と語りました。そのうえで「エネルギーの国内での安定的な調達を実現するためにも、再生可能エネルギーにもっと積極的に取り組むことが求められるのです」と再生可能エネルギー推進の意義を話しました。
再生可能エネルギーを推進する重要性を再認識したところで、今回のゲスト講師が紹介されました。ウィンフィールドジャパン(以下、WFJ)の代表取締役、勝田健一氏は、同社設立までの経緯や海外での大規模太陽光発電(メガソーラー)の取り組みを紹介したうえで、これまでのキャリアを語りました。
勝田氏は幼少の頃から海外生活が長く、自動車企業で働きたいと大学は米ミシガン大学に進学しました。卒業後は念願だった日本の大手自動車メーカーに入社予定でしたが、折悪くリーマンショックで内定を取り消されてしまいます。
その後医療機器メーカーで人工心臓の開発に数年従事するも「会社の立ち上げから勉強したい」との想いから門を叩いたのは大手キノコメーカーでした。当時同社はアジア市場への進出を開始しており、勝田氏は顧客開拓、マーケティング、人材採用、工場の立ち上げと幅広い業務を経験することができました。その後、自らWFJを立ち上げた勝田氏でしたが、経営がうまくいかず休眠させることになりました。勝田氏は当時の心境をこのように振り返ります。
「今までいろいろなことを学んできたが、どこの学校でもお金の仕組みはまったく教えてくれなかった。仕組みを知らなければ、お金を生み出すことも増やすことも難しい。お金の勉強をしなければいけないと思った」(勝田氏)
勝田氏はここで行動力を発揮し、不動産投資・不動産運用事業を行う企業にかばん持ちとして入社。インドネシア、マレーシア、カンボジアなどで土地の売買や住宅の開発を通して、お金に関する考え方や、人の雇用の仕方、大きな事業をやり遂げるときの考え方などを学びました。その時の忘れなれない言葉は「幸運の女神は前髪しかない」(物事のチャンスは見えているときにしか掴めない)、勝田氏はその時の言葉を今も胸に刻みながらWFJの経営を行っているといいます。
アジアの不動産投資事業で手腕を発揮していた勝田氏でしたが、知り合いの社長に誘われて太陽光発電事業へと足を踏み入れることになります。当時の日本はFIT(固定価格買取制度)の導入により、太陽光発電事業は利回りの良い商品として様々な企業が参入していました。勝田氏を誘ったのも飲食チェーンの社長でした。門外漢だったこともあり、同社の太陽光事業は決して順風満帆ではなかったものの、勝田氏自身は次第に太陽光発電事業に魅力を感じていったそうです。そして、休眠させていたWFJ を再始動させることにしました。
このような多彩な経験を積んだ勝田氏が大切にしていることは「出会ったご縁のある方々に感謝し、そのような方々に応援してもらえるような仕事を常に目指す」ことだそう。勝田氏が経営するWFJ は大規模太陽光発電所にまつわる土地取得、開発資材の購入、工事、メンテナンスまでワンストップソリューションを提供しています。冒頭の三上氏のオープニングトークを受け、勝田氏は「日本はわざわざ中東から石油を輸入するというリスクを減らすためにも、自分たちの地域でエネルギーを作って消費するという地産地消を増やしていきましょう」と語りました。
勝田氏には、誰かが儲かり誰かが損をするような利権でつながるような太陽光発電ビジネスを変えたいという想いがあります。太陽光発電事業は「太陽光バブル」と揶揄されたようにFITの導入直後から、一定期間、発電した電力を決まった価格で売却できるという「うまみ」に目を付けた投資が急増しました。それはまさにマネーゲームの様相を呈しており、大規模太陽光発電所の建設ラッシュの裏では地域住民のトラブルや景観破壊などの問題が起こってしまいました。WFJではそのような状況を変えなければならないという想いから事業を始めたそうです。ご縁を大切にする勝田氏らしく、儲かればいいではなく、地主、地域、企業との信頼関係や協力関係をしっかりと築き、Win-Winの関係が築けるように太陽光発電事業を進めることを大切にしているそうです。
「地主さんが抱える相続の問題から、地域住民とのトラブルまで真正面から取り組み解決していく。そのうえで地域のアイコンとなるような発電所を作り、地域に何かしらの還元をしていくことで、その地域を盛り上げていく」(勝田氏)
そのような想いから始めた還元策が留学サポートでした。過疎化が進む地方では若者離れが深刻になっています。WFJでは若者が日本よりもっと進んだ海外で学ぶ機会を提供するために留学費用をサポートする制度を創設しました。この制度は留学費用の返還が不要な代わりに、海外で学んだことを活かして地域で仕事をすることが求められます。昨年からスタートし、現在まで8人の海外留学をサポートしてきました。勝田氏は「電気だけではなくて、いろんな意味で地方に元気になってもらわないと、私たちのビジネスは何も意味をなさない」と地方に還元することの意義を語りました。
続いてWFJでの海外事業に話が進みました。WFJは日本のほかにマレーシアとイギリスに現地法人があり、マレーシアでは太陽光発電所に使われる架台の生産に取り掛かっているそうです。架台生産の多くは中国の厦門(アモイ)で造られていますが、昨今の米中貿易摩擦や台中問題といった情勢不安から脱中国が進む太陽光発電業界におけるマレーシア産の架台需要を見込んでいます。またパワーコンディショナーを製造・販売するドイツのSMA社と戦略的パートナーシップを締結。海外のテクノロジーと日本の技術力が融合することで、経年劣化してしまった日本の太陽光発電所の発電量や発電効率の改善(リパワーリング)を推進していくようです。
とはいえ、WFJが注力する事業は、日本と同様、海外でもメガソーラーです。勝田氏はイギリスでの大規模太陽光発電所の開発・施工実績を紹介しました。イギリスの主要な再生可能エネルギーは風力発電で、イギリス国内の総発電量の約20%を占めます。一方で太陽光発電はわずか4%程度です。近年イギリスでは再生可能エネルギーが再び脚光を浴びて市場が活性化しているそうで、そこに着目したWFJは海外での実績少ないながらも、様々な縁や努力の甲斐があって、ノーサンプトンシャーにある歴史的建造物リルフォードホールでの大規模太陽光発電所の建設にこぎつけました。太陽光発電を使った電力の自家消費と余剰電力の売却という脱炭素化を進めるということでWFJに白羽の矢が立ったのでした。
リルフォードホールでのプロジェクトは様々な制約があり、困難を極めました。最重要歴史的建造物であるため、メガソーラー建設予定地内の樹木を伐採することはおろか、木の枝に振れることも禁止されていました。また渡り鳥の保護期間が設定されており、その期間の建設工事は避けなければならず、実質的な工事期間は一か月のみでした。また期間だけではなく、リルフォードホールは第二次世界大戦中にアメリカ軍の病院跡地として利用された経緯から、地面を掘削した際に想定していないものが出現する可能性や、敷地内の詳細な図面もないという非常に厳しい条件の下、建設工事はスタートすることとなりました。施工開始後も、様々な困難に直面。また施工チームが現地の施工業者と日本の業者の混合チームであったことから、衝突することも多く苦労が絶えなかったようです。
このような困難をいくつもクリアして、見事に期間内に完工にこぎつけることができました。リルフォードホールのメガソーラープロジェクトを通じて、勝田氏は「日本の仕事ぶりや技術というのはすごい。海外でも日本のスペック(仕様)は通用する。日本の工法と技術を積極的にイギリスに取り入れるべき」という手ごたえを得たといいます。短期間かつ様々な制約の下でメガソーラーを完工させたことは現地でも高い評価を得て、今は大学や自治体からの問い合わせが増えているそうです。
WFJは日本と同様に、海外でも地域への還元を大切にしています。地元住民の屋根の上に太陽光発電の設置や、道路の舗装工事等、地域住民が喜ぶ形で還元してきました。講義の最後に勝田氏はWFJが目指すべきものとして、次のように語りました。
「再生可能エネルギーのノウハウや技術、私たちの経験をその地域や国に対して共有、還元していくことが大切です。その際にご縁がある方や会社に対して感謝しながら続けていけば地産地消のビジネスになっていくのではないかと考えています。イギリスの次は欧州や北米も視野に入れて、日本流の再生可能エネルギービジネスを世界で展開していきたいですね」(勝田氏)
再生可能エネルギーは日進月歩で市場や技術が変化しています。この日は最新事例から再生可能エネルギーの現在地、そして今後の展望を、事業者の想いと共に知ることができました。
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