総括講座に参加した受講生たち
総括講座に参加した受講生たち
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地方創生と働き方改革を同時に実現すべく、都市部のビジネスパーソン等が地域の課題解決を地域と共に探る丸の内プラチナ大学の逆参勤交代コース。今年度の総括をする講座が3月12日、東京・大手町の3×3Lab Futureで開催されました。講座では2023年度に実施されたフィールドワークの振り返りが行われたほか、得られた知見や課題を振り返り、参加者からの感想や来年度以降に向けた改善提案が行われました。
冒頭、本コースの講師を務める松田智生氏(丸の内プラチナ大学副学長)は「今日の論点は2023年度の逆参勤交代コースを振り返って良かった点や課題点を抽出し、来年度以降により良いコースにするとともに、日本全国に拡大するための方策を考えることだ」と講座の目的を語りました。
松田氏は続いて振り返りのためのキーワードを4つ紹介しました。1つ目は『コミュニティ』。「逆参勤交代は新しいコミュニティづくりをするということでもある。今日ここに集った私たちも仲間であり、チームである」と松田氏。
続いて『80万人』というキーワードを挙げ、「80万人とは今の日本で1年間に減少する人口で、佐賀県や山梨県の人口に匹敵する。つまり日本では毎年山梨県や佐賀県が1つなくなっているというのが実態だ」と解説。人口減少は、3つ目のキーワード『人材の争奪ではなく共有』に繋がってきます。松田氏は「この人口が減る日本でやるべきことは人材の争奪ではなく共有で、それを実現するのが逆参勤交代だ。2015年から地方創生の政策が始まったが、移住は進まなかった。私たちは地方に移住は難しくても期間限定の滞在は可能という人を生み出していく」と語りました。
そして最後のキーワードとして『異次元の政策』。「歴史を振り返れば江戸時代の参勤交代制度というのは当時では異次元の制度だったが、その結果江戸に地方の優秀な人が集まった。今の日本もそれぐらい異次元の政策をやっていかないと変わらないのではないかと思っている」(松田氏)。
2017年に提唱された逆参勤交代ですが、現在までに全国約20の市町村で開催されてきました。今年度実施されたのは北海道乙部町、新潟県妙高市、長野県諏訪市、静岡県浜松市、高知県須崎市、長崎県壱岐市の6つ。フィールドワーク前には東京講座が開催され、各自治体の首長にお越しいただき、まちの魅力、課題、そして逆参勤交代に期待することを話してもらいました。
続いて逆参勤交代の参加者アンケート結果を紹介しました。集計結果によれば、2023年度逆参勤交代の参加者のうち53%が会社員で、個人事業主(19%)と大学生(19%)が続きます。40、50歳代の参加者が半数を占める中、松田氏は近年の傾向として「学生が興味を持ってくれる、非常にうれしいことだ」と若い世代の参加を喜びとともに語っていました。参加目的は、ビジネスとプライベートがちょうど半分ずつでしたが、特筆すべきは参加者の高い満足度です。逆参勤交代の参加者の7割以上が「大変満足した」と回答しており、「満足した」という回答と合わせると95%が満足度を得ています。さらに参加後のウェルビーイングが向上したと答えた人は75%以上で、フィールドワークのみならず、その後のライフスタイルにも好影響を与えているとのこと。高評価の理由は、地域のキーパーソンとの交流をはじめ、地域の課題や魅力を発見できることに起因しているようです。逆参勤交代が確かに人材の共有を生み出していることをも示していると言えます。さらに、参加者の30%がフィールドワーク後に対象自治体を再訪しており、ふるさと納税は22%が実施しています。副業やボランティアを対象自治体で早くも始めた人が5人、二拠点生活やロングステイは2人がすでに始めているとのことで、参加者が地域への繋がりや愛着を醸成できたと言えるでしょう。
その一方で、アンケートでは逆参勤交代の課題も浮かび上がってきました。主要な点としては費用の問題とその費用を拠出することへの効果を明確にしたいという意見でした。また、参加者の稼勢久恵氏から「最終日に行う首長へのプレゼンテーションが地域に合ったものだったかというレビューをもっと聞きたかった」との声もありました。
松田氏によると逆参勤交代は4つのモデルに分類できると言います。地域の人材育成や研修を担う『人的資本型』、地域で新規事業を興す『ローカルイノベーション型』、地域で新しい仕事を見つける『兼業副業型』、地域でリフレッシュする『ウェルビーイング型』。アンケートではどのタイプが最も有望かという問いもあり、『兼業副業型』と『人的資本型』という答えが多かったことが分かりました。この理由について松田氏は「大企業でも兼業や副業が解禁されてきたことや従業員に対してどんな取り組みをやっているかを人的資本の点から投資家や株主に説明しなければならないという昨今の潮流が影響しているのではないか」と分析していました。逆参勤交代の事務局を務める田口真司氏は、「確かに多くの地域の課題である担い手や人材不足を補っていくような逆参勤交代は今後有望だと思う。ただそこにはパートナーシップの気持ちが大切で、地方と同じ目標を共有し、首都圏と地方が相互で助け合えるように丁寧に進めていかなければならない」と語りました。
次のセクションではフィールドワークの振り返りや進捗報告が行われました。乙部町の振り返りでは、今田毅氏が登壇し、札幌市内のホテルレストランで乙部町の特産品を扱ってもらうべく、シェフと乙部町の橋渡しを進めていることを明かしました。今田氏は過去にホテル会社に出向した経験やネットワークを活用し、「北海道を体感するというコンセプトのホテルのレストランで乙部町の産物を扱ってもらえないかと考えた」と言います。2023年末には乙部町長も宿泊され、「北海道らしさをすごくシンプルに感じたホテルだった」と好感をもっていただいたそうです。4月には乙部町の担当者がホテルを訪問予定で、順調にコラボレーションの準備中とのことです。
また別の参加者の後藤竜也氏は、海外でも高い評価を受けている乙部町の乾燥ナマコを味わうイベントを企画中で、5月にも実施する予定だそうです。
次に諏訪市でのフィールドワークの振り返りが行われ、光行恵司氏が登壇されました。光行氏は自身が所属する自動車部品メーカーのノウハウや技術をホテルの客室の快適性向上に転用すべく、諏訪市の諏訪湖畔の某ホテルと取り組みを進めているそうです。「ホテルの戦略として、ウェルネスや健康志向をツーリズムに取り入れたいと聞いている。私たちの技術を活かせればと思う」と力強く語っていました。
続いて須崎市へのフィールドワークの振り返りでは大学生の北條貴一氏が登壇し、自らがインバウンド旅行客向けに作ったという須崎市紹介ムービーを披露。動画を見た後、外国人・インバウンドの観点で今年の逆参勤交代にアドバイザーとして参加・協力した香港出身のカービィ・チャン氏は「須崎市の魅力がわかりやすくまとめられている。3つか4つの重要な点に絞って紹介してくれるともっといい動画になる」と助言。北條氏は須崎市の印象について「良い人が多かった。東京ではあまり感じられない温かいウェルカムな感じがすごく好印象だった」と述べていました。
続いて、同じく大学生の上田海翔氏が登壇し、須崎市で行われているアートを使った地域活性化プロジェクト現代地方譚と芸術を学ぶ学生をつなげる提案を紹介しました。上田氏は「今年度は4か所のフィールドワークに参加したが、都内の学生にはわからない各地域のリアルを目の当たりにできたということが一番の収穫だった。学生も地方で能動的に活動できれば日本の未来はもっと明るくなると感じた」と語っていました。
そして、妙高市観光商工課商工振興戦略室室長の田中宏顕氏とともに、妙高市での逆参勤交代の振り返りが行われました。妙高市では2022年度から2年連続で実施されており、今年度は教育・観光・食農の3分野をテーマにして、東京で3回のワークショップを開催、2023年11月にフィールドワークが実施されました。
松田氏から逆参勤交代を実施して良かった点を聞かれ、田中氏は「もっと深く妙高市と関わっていただきたいという想いがあり今年度の実施に至ったが、その目的は十分に達成できた」と語りました。また今後の課題に関しては「今年実施したワークショップでは妙高市側が一方的に話してしまった。もっと地域の課題を参加者と議論してからフィールドワークに臨めばよかった」と言い、「参加者と地域の人がコミュニケーションをとる時間をいかに長く取れるかということが課題解決への方策の一つだと思う」と述べていました。事務局の田口氏も「地域から見た課題と首都圏から見た課題は違うことがある。課題定義のところからもっと一体となって取り組めれば、解決方法がスムーズに運んでいたかもしれない」と田中氏の意見に共感を示していました。
一方、妙高市出身者として「ふるさと逆参勤交代」という立場で参加した岡本岳志氏は「子どもの頃は地元の風習などがあまりわかっていなかったが、大人になってから改めて地元を見た時に妙高には山岳信仰や修験道の歴史がある。インバウンド需要を狙う上で、そのような歴史や文化などのソフト面を使ったプログラムを作る必要性を感じた」と語りました。
次に2023年7月に実施された壱岐市の逆参勤交代が話題として取り上げられ「壱岐市はとても夕焼けが綺麗な土地だった。地元の高校生との意見交換では彼らの地元愛の強さが感じられ、とても好感を持った土地だった」と振り返りました。
壱岐市のフィールドワークの好事例として再び光行氏が登壇し、壱岐市との二拠点生活が取り上げられました。光行氏は、壱岐市内の空き家を借りて二拠点生活の居住地とするとともに、不在期間は一棟貸しをするという取り組みを進めているそうです。「2019年に逆参勤交代で壱岐市に行ってから今まで7,8回足を運んでいる。ビジネス感覚ではなく、本当にこの島が好きになり、島の人が好きになった。一棟貸しを通じて壱岐市のファンが少しでも増えるきっかけになれば」と期待を語っていました。
続いて、昨年度に実施した静岡県伊東市のその後の活動が紹介されました。松田氏は「伊東市では『伊東部』を作って定期的に交流会を行っており、2024年2月には逆参勤交代参加メンバーと伊東市を訪問してきた。市役所の人も交えて楽しい夜になった。地域への貢献というのはこのようにみんなで集まって対象市町村に遊びに行くことも大切で、あるいはふるさと納税でも十分に地域貢献になると思う」と語っていました。
浜松市の逆参勤交代がメディアの取材記事とともに紹介された後、今年度行われた逆参勤交代フィールドワークに皆勤し、多くの地域とのつながりを得た入部英成氏は、「地域の文化に触れたり体験したりするような、英語でいうところのDeep Travelという概念が日本ではなかなかない。逆参勤交代はまさにそのDeep Travelを実践していると思う」と言い、「市長へのプレゼンテーションを通して、自分の足りないところや得意なことを再認識できる機会になった。人を集めるのが得意という自分の長所を活かして多くの若い世代を逆参勤交代に送り込むことで貢献していきたい」と、フィールドワークを終えての感想を語っていました。
今年3回の逆参勤交代にアドバイザーとして参加したカービィ・チャン氏は、インバウンド視点からの感想として、「初めて行ったところばかりだったが、どの地域にも隠れた魅力があることが分かった。例えば乙部町ならまた訪れたいと思わせるような人々、浜松ならみかん、妙高ならウィンタースポーツなど、どの地域にもほかにはない魅力ばかりなので、もっと自信をもって世界に発信していってほしい」とエールを送っていました。
最後に事務局メンバーの長倉有輝氏と柴田柾彦氏が登場しました。二人はそれぞれ宮崎県庁と奈良県庁から出向しており、県庁職員としての視点から逆参勤交代の感想を語りました。長倉氏は「逆参勤交代の参加者が真剣に地域課題について考えてくれることは、自治体にとっては素直に嬉しいことだと思う」と自治体目線での良さを語り、柴田氏は「逆参勤交代のような取り組みがあるのは驚きで、現地に行ったからこそわかるその地域の面白さを感じた。これをもっと多くの人に知ってほしいし、奈良県内でも是非実施したい」と意欲を示しました。田口氏は「やはり違う地域を知るというのは勉強になる。事務局は大変なところもあるがいろんな人と関われるというメリットもある。ぜひ逆参勤交代を彼らの自治体でも実施したい」と語りました。
最後に松田氏は、逆参勤交代がもっと良くなるための今後の構想として、「大手町、丸の内、有楽町地区には約28万人の就労人口がいる。このマスボリュームを動かしていかねばならない。例えば逆参勤交代に参加すれば税制優遇をするなど程よい強制力とインセンティブを与えるような異次元の政策が必要」と提案していました。
今年度の逆参勤交代の総括として「逆参勤交代は縁と運と恩だと思っている。逆参勤交代を通じて新しい縁ができると良い運が広がるということは間違いない。今までは行ったことがない自治体で出会ったことがないような人に出会うことが自分に良い運をもたらしたと本当に思う。その意味では各自治体も参加者も運に恵まれたと感じてくれていると思う。そのような運を与えてくれたことに対して恩返しをしていきたい。ビジネスでも個人でも何かしら恩返しをすることが大切だと思っている。自治体、個人、企業単体でできることは限られているが、今日集った人たちがみんなで一歩を踏み出せば日本にとって大きな影響をもたらすことができる。この講座が皆さんの新しい一歩を踏み出すきっかけになれば嬉しい」と締めくくっていました。
講座終了後には、逆参勤交代で訪れた地域の特産品やお酒が振舞われ、参加者らは今後の逆参勤交代の発展に向けて意見交換をしていました。
逆参勤交代は首都圏人材が困っている地方自治体を助けるのではありません。フィールドワークなどを通じて見えてきたことは、首都圏と地方が同じ立場で相互補完しながら一緒になって課題解決をしていく姿でした。そしてその際にカギとなるのはヒト同士の繋がりです。字面だけでは「その地域のために」と表現されることもあるでしょうが、参加者の感想から聞こえてくるのは「地域の人々が好きで、彼らのために協力したい」という想いです。その想いが異なった地域に住む者同士を繋ぎ課題解決に取り組んでいくことなのだと思います。松田氏が最後に語ってくれたように「一歩を踏み出す」ことで、このような首都圏人材と地域人材の交流や有機的なつながりが日本中で増えていくことを期待します。
丸の内プラチナ大学では、ビジネスパーソンを対象としたキャリア講座を提供しています。講座を通じて創造性を高め、人とつながることで、組織での再活躍のほか、起業や地域・社会貢献など、受講生の様々な可能性を広げます。