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【レポート】「『おいしい日本の野菜が消える日』が問いかける日本農業の未来」

【丸の内プラチナ大学】特別連携講座 2026年5月22日(金)開催

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東京・大手町の3×3Lab Futureで5月22日、農園経営者であり数々の農業に関する著書も執筆している株式会社久松農園代表の久松達夫氏をお招きして、丸の内プラチナ大学の特別連携講座「『おいしい日本の野菜が消える日』が描く日本農業の未来」が開催されました。
久松氏は5月20日に「おいしい日本の野菜が消える日―二極化する農業の未来」を出版されており、講座では久松氏からの講演だけでなく、有識者とのパネルディスカッションも交えながら、人口減少やテクノロジーが進化する中で日本の"おいしさ"はどのように変わるのかが様々な角度から議論されました。

image_event_260522_001jpeg 左:開会にあたり、ファシリテーターを務めるエコッツェリア協会の田口真司が久松氏を紹介
右:会場では発売されたばかりの「おいしい日本の野菜が消える日」も販売されました

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『ドヤ顔でお裾分け』を掲げる久松農園主が語る日本農業の現在地

『ドヤ顔でお裾分け』を掲げる久松農園主が語る日本農業の現在地

まずは久松氏が登壇し、イベント直前に発売された著書「おいしい日本の野菜が消える日」について紹介しました。久松氏は本書について、「農業を外から炙り出そうという趣旨だ」と説明。「農業の中からだけ考えていても農業の未来は見えない。外食産業や建設業など、個人事業中心だった業界がどのように産業化してきたのかを知ることで、これから先の日本の農業がどうなっていくのか、あるいはどうなっていくべきなのかが見えてくるのではないかと考えた」と執筆の背景を語りました。

image_event_20260522_.003.jpeg 「農業を外から炙り出す」という視点から著書を紹介する久松氏

続いて話題は、久松農園へと移ります。久松農園は、新卒で総合化学メーカーに勤務していた久松氏が農業の世界へ飛び込み、新規就農によって立ち上げた農園です。現在は約6.5haの農地で年間70品目以上の野菜を栽培し、首都圏などの個人顧客や飲食店へ直接販売する中規模農家として事業を展開しています。

久松農園の特徴は、消費者ニーズに合わせて作るのではなく、自らが良いと思うものを届ける「お裾分け」のスタイルにあります。久松氏は「生鮮野菜の味を決めるのは、旬・鮮度・品種の3要素」だと説明し、「適した時期に、自分がおいしいと思う品種を育て、それをできるだけ早く届ける。そのためには中間業者を介さずに直接販売することが重要だ」と強調しました。そして、その販売コンセプトを「ドヤ顔でお裾分け」と表現し、会場の笑いを誘いました。

image_event_20260522_.004.jpeg 農家数の減少や消費行動の変化など、日本農業が直面する課題を解説する久松氏

そんな自己紹介を終えたのち、久松氏は日本農業が直面している構造変化について解説しました。まず挙げたのが農家数の減少です。農家数は2015年から2025年までの10年間で約半減しており、2020年時点で107万戸あった農家のうち約半数は年間売上100万円以下だったといいます。

一方で2025年には、こうした零細農家の退出が進み、中規模以上の農家が農地や生産規模を拡大する流れが加速しています。さらに、消費者側の変化も農業に大きな影響を与えています。単身世帯の増加により家庭で調理する機会が減少し、「日本で最も人気のある家庭料理カレーでさえ、2017年にはレトルトカレーの販売額がカレールーの販売額を上回った」と紹介しました。消費者の食生活は、生鮮食品を購入して調理するスタイルから、加工食品や外食へと大きくシフトしていると指摘しました。

しかし、生産現場はこうした変化に十分対応できていないといいます。久松氏は「ニーズに合わせた生産ではなく、乱暴に言えば農家が作りたいものを作って市場へ持っていっている状況」と説明。「加工品や外食向けを中心に国産野菜への需要そのものは大きいにもかかわらず、生産する側がそれに合わせた体制を十分に構築できていない」と現状の課題を語りました。

モジュール化は農業をどう変えるのか――進む二極化と多様性への問い

こうした需要と供給のミスマッチを解消する鍵として、久松氏が挙げたのが「農業のモジュール化」です。久松氏は、農業のモジュール化を「これまで経験や勘に依存していた農業技術が、機械やソフトウェアとしてパッケージ化され、再現可能になること」と説明します。近年のテクノロジーの進化によって、「農産物は工業部品と違って計画生産できないという言い分は通用しなくなってきている」と久松氏は指摘しました。植物工場と呼ばれる土を使わない栽培システムや、自動走行するトラクターなどが登場し、農業の現場でもモジュール化によって生産性を大幅に高めることが可能になっているといいます。

image_event_20260522_.005.jpeg テクノロジーの進化がもたらす農業のモジュール化について語る久松氏

久松氏は、こうしたモジュール化によって大きなゲームチェンジが起きた事例としてワイン産業を挙げました。ワインはフランスやイタリアなどの伝統的な産地が長年培ってきた技術やブランド価値によって支えられてきました。しかし、オーストラリアやアメリカなどのニューワールドでは、安定した気候や広大な平地を活かし、最新の醸造技術を導入することで、高品質かつ低価格なワインを大量生産することに成功しました。その結果、どこで作られたかを重視する「テロワール主義」に対し、どのブドウ品種で作られたかを重視する「セパージュ主義」が広がり、ニューワールドワインが低価格帯市場を大きく獲得しました。久松氏は「私はこのワインの事例が、農業のモジュール化によってゲームチェンジが起きた最たる例だと思っている」と語りました。

image_event_260522_006jpeg 参加者は日本農業の未来をめぐる議論に熱心に耳を傾けていました

そして久松氏は、この農業のモジュール化が進むことで、日本の農業は大規模農家と小規模農家へと二極化していくと予測します。「ジャガイモやニンジンのようにモジュール化によって大規模生産が可能な品目は、加工食品を作るようなフードサプライチェーンに適応し、集約化や大規模化が進む。一方で、里芋やケールのようにモジュール化しにくい品目は、職人型の小規模農家が担うことになる。このような棲み分けが今後起こっていくだろう」と説明しました。

しかし、モジュール化の進展は必ずしも良いことばかりではありません。久松氏は「流通が大規模化し、寡占化が進むと店頭に並ぶ品目は絞られ、多様性は失われていく」と指摘します。野菜でいえば、機械収穫しやすく手間のかからない品種へと集約されていく可能性がありますが、それが必ずしもおいしい野菜であるとは限りません。今回の著書でも「農業が産業化した国は食がおいしくない」というテーマに触れている久松氏は、「モジュール化が日本でどこまで進むかということは、消費者がどこまでそれを許容するかという問題でもある」と説明します。生産性向上や効率化が求められる一方で、日本の豊かな食文化や多様な野菜をどのように残していくのか。その問いを参加者に投げかけながら、講演は次のテーマへと移っていきました。

「おいしさ」とは何か――味覚・文化・人とのつながりを考える

パネルディスカッションが始まるまでの準備時間を利用して、久松氏から「おいしいとは何かを考える材料にしてほしい」として2種類のニンジンが参加者に配られました。一つは一昨日収穫したニンジンで、もう一つは2月に収穫したニンジンだそうです。

image_event_20260522_.007.jpeg 「おいしさ」を考える材料として配られた2種類のニンジン

参加者が、解答を考えているうちに、パネルディスカッションが始まりました。久松氏に加え、新たにパネラーとして登場したのは飲食店プロデュースを手掛ける株式会社カゲンの子安大輔氏、丸の内プラチナ大学アグリ・フードビジネスコース講師の中村正明氏です。ファシリテーターはエコッツェリア協会の田口が務めました。冒頭に配られたニンジンの答え合わせが行われ、「少し甘いと感じたほうが2月に掘ったニンジン。冬のニンジンは水分をしっかり与えて貯蔵すると甘みが濃くなる。鮮度という意味では一昨日のニンジンのほうが良いが、何を『おいしさ』と定義するかによってアプローチが変わる良い例だ」と解説してくれました。

パネルディスカッションでは、農業のモジュール化や産業構造の変化を踏まえながら、「おいしさとは何か」について議論が交わされました。中村氏は久松農園を視察した感想として、「畑がきれいで、スタッフの動きも非常にスマートだった」と振り返ります。久松氏も「職人型であっても生産性は重要」と語り、多品目栽培を支えるためにGPS搭載トラクターや工程管理システムなどを積極的に導入していることを紹介しました。また、子安氏は外食産業との共通点として、チェーン店と高級店への二極化が進み、町中華や個人経営のそば屋といった「中間層」が急速に姿を消しつつある現状を説明。久松氏が語った農業の二極化に共感する部分が多いと語りました。

image_event_20260522_.008.jpeg パネルディスカッションの様子、左から田口、中村氏、子安氏、久松氏

また、子安氏は「野菜そのものよりも、調味料や味付けがおいしさを決める場面が増えている」と指摘し、「本当においしい野菜とは何だろう」と問いかけました。これに対し久松氏も、「調理器具や調味料の進化が家庭内の食のモジュール化を進めた」と応じます。

一方で中村氏は、「地域ならではの野菜や食文化が失われてしまうのは惜しい」と語りながらも、人材不足が深刻化する地方ではスマート農業への期待も大きいと説明しました。参加者から改めて「『おいしさ』とは何か」と問われると、久松氏は「私がおいしいと思う野菜を作り、それを欲しいと思う人がいることが大切。万人においしいと思ってもらう必要はない」と回答。これに対し中村氏は、「生産者の人となりや想いに触れることで、人はよりおいしく感じるのではないか」と語りました。

image_event_20260522_.009.jpeg 参加者からの質問に答える久松氏(右)

おいしさとは味覚だけでなく、何をおいしいと感じるかという価値観や、作り手の思い、地域文化、人とのつながりなどが重なり合って生まれるものなのかもしれません。最後に久松氏は、「本日、私は日本の農業に対する『悪魔の代弁者』として、あえて厳しい意見を提示した。参加者の皆さんは腹立たしさを感じる場面があったかもしれないが、ぜひ今日の話を考え続けてほしい」と呼びかけ、講座を締めくくりました。講座終了後には懇親会が行われ、久松農園の野菜を使った料理が振る舞われました。参加者たちは料理を味わいながら講座の感想や意見を交わし、それぞれが「おいしさとは何か」という問いを胸に、交流を深めていました。

image_event_20260522_010.jpeg 左上:懇親会では久松氏(左)と参加者との交流が続きました
右上:講演後には子安氏(右)にサインを求める参加者の姿も見られま
左下:中村氏(右から2人目)も参加者と農業の未来について意見を交わしていました

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