12月3日、シナリオプランニング講座の第2回が開催されました。不確実な未来にどう備えるのか、それを考えるための「技術」であり「思考方法」であるシナリオ・プランニングは、教えられて身に着くものではありません。実際にその技術を学びながら、思考法を実践する。本講座「2030年のビジネス創発拠点"東京"を考える」はまさにそのための場です。
今回はシナリオ構築に向けた前段階として「キークエスチョン」を確認しつつ、未来を不確実にする「外的要因」の抽出を行いました。一見簡単に見えるこの作業も、体験してみると実にハードで、いかに自分が限定された思考の中にいたのかにも気付かされます。シナリオ・プランニングはビジネスに援用できる有用なツールである前に、良質な思考トレーニングなのです。
朝9時30分から予定を越えて18時過ぎまで延々と続いた第二回の様子から、ポイントをかいつまんでレポートします。
前回は「未来の東京のありよう」のダイナミックスに影響を及ぼすさまざまな外的環境の変化要因に関する情報インプットが行われました。ワークショップでは、「大丸有の街づくり」を行う主体者の「戦略的意思」を確認し、その戦略的意思を全うする投資を行う際に主体者の頭をよぎる「最重要な外的要因」が何かを問うブレインストーミングが行われました。
これが、「主要影響要因」=Key Question(KQ)です。そして、このKQから、未来の不確実な要素を洗い出す作業が、本日のメーンの「外的要因の抽出」。冒頭、SBIの高内氏は「"外的要因"というと静的なイメージがあるが、英語で言えばExternal Force。強い影響力を持つ要素を抽出していってほしい」と説明。factorよりも動的なニュアンスが強いと言えるかもしれません。
前回Decision Focusの一部として行った「オラクル(巫女)に尋ねる質問」は、『日本の経済はどうなっているか』『アジアで中心地足りえているか』『エネルギー問題はどうなっているか』の3つに集約されましたが、この日最初のセッションで補強を行い、以下のように再整理されました。曰く
●世界経済
●東京の競争力
●日本の産業構造
●生活者の価値観・意識
●利用可能な技術・インフラ
●災害(地震・気象)
の6項目。これが今回のKQになります。
これは「外的要因を抽出するための"きっかけ"のまとめ」でもあり、「この項目別に意見を出していってもらう。今日終わるまでに250項目くらいは出したい」と高内氏は話し、本格的な外的要因抽出作業が始まりました。
ブレインストーミングは、「気付いたForceの名称を大きな付箋に書いて全員の前で発言しつつ、貼りだしていく」作業を繰り返す形で行われました。そこで高内氏は「ブレインストーミングは、放っておくと音楽のような瞬間芸術と同じように 消えていってしまう。発想を広げながら、それをいかに記録し続けるかが極めて重要」と発言し、個々のメンバーにオンラインでの記録作業も課しました。具体的には、事前に準備された簡易的なクラウド環境を利用し、受講生がForceを考え、提案する際のガイドラインとします。個々の デバイス上に映し出されたフォーマットを埋めていくと、提案しようとしているForceの内容が、名称とともに整理されていく仕組みになっています。自らが気付いた内容だけでなく、他の人の発言を聞きながら浮かんだ発想を、画面上に記述しながら練り直し準備するので、発言内容の整理に大きく役立っている様子が見られました。
このようなルーチンを繰り返し、個々のメンバーがそれぞれに思いついたことを書き出し続ける。折にふれては休憩をとりつつも、これを延々6時間。終わりの見えない過酷な"デス・マーチ"です。15時を回るころには頭の芯がしびれてきます。しかし、その疲労は心地良い爽快感を伴ってもいました。
また、壁面に貼られていく付箋の広がりも圧巻です。最初は広く見えた壁でしたが、2時間も経つと壁が足りなくなるのではないかと不安になるほど広がっていきます。人間の思考力もこうやって可視化されると結構すごいものではないかと思ええるほど。人は群居性の高い生き物ですが、思考も群れで行うことで飛躍的な広がりを見せるのです。まさに三人寄ればなんとやら。
途中、どうしても断定的で未来予測的な発想になってしまうことがあったり、当たり前だが入れておかなければならない内容を見落としてしまうこともありました。そんなときには、高内氏ほか、主宰メンバーが指摘し、意見を補足してくれます。また、関連する情報や思考の枠組みをタイミング良く出してくれるので、議論が先細りになることもありません。高内氏はじめ主宰メンバーのファシリテーション能力の高さを実感することもしばしばでした。
冒頭でも記したように、この作業は非常に良質な思考トレーニングでもありました。さまざまな人の大量の意見にさらされ、多様な思考の波に洗われる。1970年代に始まるシナリオ・プランニングの長い歴史の中で、シナリオ作成者のみで行わる試みも広がりましたが、なぜSBIが、意思決定者や関係者、そして多様なバックグラウンドを持った参加者を交えて丁寧に構成化されたブレインストーミングを行うことに拘り、推奨しているのかが、現場の作業を通じて心に響いてきます。
最終的に外的要因は211項目まで出されました。KQ別にみると「世界経済」49、「東京の競争力」52、「日本の産業構造」53、「生活者の価値観・意識」61、「利用可能な技術・インフラ」47、「災害(地震・気候)」12となりました。(※外的要因1つにつき複数のKQを選択できるため、項目数を上回る)
この後、参加者全員で若干のForceの整理を行い、「Decision Forcus」に照らして、一番重要だと思う10個」を選ぶよう、全員にドットシールが手渡され投票が促されました。最後に高内氏は「今日は外的要因をダーッと出して、最大限拡散した状態。これをしなければ収集させられない。次は本当に大事なことは何であったのか、多角的に検討する作業に移る」と次回にプロセスを伝え終了ととなりました。
「ドットを貼りこむ作業は、1日の作業の振り返りでもあります。今一度自分たちが発想してきた Forceを多くの目で見直し、記憶に定着させ、主体性を持って次の作業に進む準備となるのです」高内氏は、こう話したあと次のように続け、一日のまとめに進んでいきます。
「意思決定においては、拡散を徹底的に行わなければ収束につなげることはできない」とし、さらに「今回はインテリジェンスの高い参加者に恵まれ、質的、量的に非常に充実したForceを得ることができ、とても良いブレインストーミングになったと感じている。ただし、ブレインストーミングには、参加者どうしが互いに刺激しあい一人では思い至らない幅広い知見を導き出すことを可能にする大きな利点がある一方、その部屋 の中にいる参加者の知の限界を超えることはできないという欠点もある。これが不要な『不確実性の拡大』を生まないよう、部屋を出た後、そのForceを見直し、調べれば分かることは調べると言う努力も必要になってくる」
どんな作業にも限界があるのは当然ですが、こと誰も知らない未来のことを考える作業に限界があるのは当然でしょう。6時間のブレインストーミングは苛酷でしたが、その苛酷さがあったからこそ、どのようにすればベスト・エフォートを尽くしたことになるのか身をもって体験した1日となりました。
次回の開催は1月14日です。参加枠はほぼ埋まっているそうですが、希望者はまだまだ参加が可能とのこと。次からはいよいよ本格的なシナリオメイキングの作業へと移っていきます。高内氏曰く「本当に楽しいのはここから」とのことなので、興味を持った方はぜひ参加してみてください。