3月24日、TIP*S/3×3Laboで「ジェグテックマッチングフォーラム」が開催されました。
TIP*Sは、中小企業基盤整備機構(以下中小機構)が運営するもので、大丸有の大手企業と、全国の中小企業をつなぐことを主な目的として設立されたものです。中小機構では時を同じくして、昨年10月末に大手企業からのニーズ起点のビジネスマッチングサイト「J-GoodTech(ジェグテック)」を設立しており、今回のイベントは、このジェグテックとTIP*S、3×3Laboがはじめて本格的にタッグを組んで開催したマッチングイベントということになります。
こうしたイベントは名刺交換に終始し、際立った成果につながりにくいことも少なくありませんが、本イベントはテーマ、参加企業を絞り込んで開催されたために、非常にしっかりとした手ごたえを感じさせるものとなったようです。
まずマッチングサイト「J-GoodTech」(ジェグテック)を改めて確認します。中小機構が運営するウェブサイトで、全国からニッチトップ、オンリーワンの技術を持つ中小企業1300社を厳選し、情報を掲載しているポータルです。
これら優れた登録企業の情報は、中小機構の全面バックアップのもと、英訳もされて国内外に向けて広く発信されています。登録・利用は無料。情報発信にコストをかけにくい中小企業には実にありがたいツールと言えるでしょう。
ジェグテックのもうひとつの、そして最大の特徴は「ジェグテックパートナー」と呼ばれる大手企業とのマッチングです。名を連ねるのはさまざまな分野で日本を代表する大企業188社(2015年3月23日時点)。パートナー企業は、自社に必要な技術をジェグテックを通して全国の中小企業に呼びかけて探すことができる「ニーズ起点」のマッチングサイトなのです。
流れとしては、大手企業からのニーズを、まず中小機構が揃える専門家がヒアリング。専門家は全国で70名。ニーズとシーズを"翻訳"し仲介する役目を果たします。この情報が該当する中小企業に配信され、見合った技術を持つ企業が手を挙げます。中小機構は、サイト上の情報交換から、リアルでのマッチング、プレゼンテーションはもちろんのこと、契約成立後のフォローまでも行います。
ジェグテックの運用開始から3月末までの約5カ月で、パートナー企業からの情報発信は124件、中小企業からの提案件数は延べ264件、マッチングに至ったのは157件。多数の事例が進行中ですが、3月末の時点で、契約成立など実運用のフェイズに進んでいるのは7件あるそうです。
フォーラムでジェグテックの説明に当たった機構販路支援部参事の林隆行氏によると、ゆくゆくは掲載(登録)企業を3000社にまで拡充していくとのこと。登録されるには、ニッチトップ、世界でもオンリーワン、もしくはそれに類する技術力を持つと認定されなければならず、決しては低いハードルではありません。林氏は「掲載されることがゴールではなく、そこからさらにコミットしていくことができる、強い意志を持った中小企業を揃えたい」と話しています。中小機構といえばどうしてもユニバーサル志向で、何かひとつを強力にプッシュすることがないイメージもありましたが、林氏は「我々は本気」だと話しており、強い意気込みを感じさせました。
フォーラムは、前半のセミナーと後半のショートプレゼンテーション「JGT Pitch!!(ジェグテックピッチ)」の2部構成で行われています。
セミナーは、企業の高収益化を実現するコンサルタントの(株)如水の中村大介氏が登場し、技術に立脚した事業の高収益化のポイントを解説しました。「ニーズの源流」にたどり着き、下請けから脱却する自社企画を進める必要性、ヒット商品開発には「顧客価値創造型」「技術深化型」があるなど、集まった中小企業経営者らには非常に興味深いテーマでしたが、中でも氏は情報発信の重要性を強調。「自社技術を伝えることがアピールだと勘違いしている人が多い。大切なのは顧客を理解することで、技術ではなく、それによって生まれるユーザーにとっての価値を伝えなければならない」といった説明は、PRに悩む中小企業の課題を鋭く指摘していると言えるでしょう。
また、今は下火になったと思われがちなSEO対策ほかウェブの活用を強く推奨しています。「お金を使うというよりも、労力を2倍使うこと。広告を試し、結果を分析し、定量評価することで、広告の最適化が進み集客力につながるだろう」。そして、最後にジェグテックにも言及しています。「宣伝フェイズにはさまざまなツールを活用することが重要だが、ジェグテックも非常に有効なツールだ。中小企業の皆さんには大きなチャンスとも言える。ぜひ、うまく利用して高収益化を狙っていきましょう」と締めくくりました。
後半のジェグテックピッチは、テーマをあらかじめ「オフィスに役立つ環境技術・ビジネス」と設定し、プレゼン企業を募集。プレゼンを受ける大手企業側も、3×3Labo、エコッツェリア協会を通じて、ディベロッパー、ハウスビルダー、住宅設備メーカーなど、オフィス開発・販売に関与する大丸有の企業を揃えられました。
実はこの日のプレゼンのために、TIP*Sが各企業のプレゼンターとリハーサルを行い、必要に応じてアドバイスするなどの手当ても行っていたそうです。プレゼンに立ったのは全国から選ばれた以下の9社。紹介された商材の概略を簡単に紹介します。(発表順)
大島製作所(東京)/ウォーターベッド型マッサージ機
理学療法機器の開発・製造販売を行う企業。プレゼンで取り上げたのは「ウォーターベッド型マッサージ機」。水圧式のマッサージ器は他にもあるが、「水圧振動式」は大島製作所ならではの技術。人体の部位ごとの固有振動数に合わせた振動を与え、深部筋(インナーマッスル)、筋膜のほぐしに効果がある。「オフィスでの不定愁訴、肩や腰のコリから来る障害の解消に効果を期待できる」としている。これまで販路が医療系に限定されていたため、オフィスに新たな販路を求めたい意向。 企業サイト
オーディーシー(神奈川)/ハイブリッドLED管「alo」
情報処理ソリューションを主業務とし、環境事業にも取り組む。今回の商材は"ハイブリッドLED管"「alo(アロ)」。「コロンブスの卵的発想の技術的ブレイクスルー」だったという、反射板内蔵型のLED管だ。内蔵されたアルミ製反射板が光の収束率を上げ、効率的な光利用が可能になり、通常LED1000本に対し、aloは750本に削減できる。電気使用量も蛍光灯の50%、通常LEDの25%カットできるという。屋内野菜工場などの利用がメーンだが、省エネ型オフィスでの利用や、手元作業が必要な企業での使用を提案している。 企業サイト
大村塗料(鳥取)/多機能塗料「キトサンエイト」
塗料のほか、溶剤や接着剤などの開発・製造販売を行う。「キトサンエイト」は、かにやえびの甲羅に多く含まれるキチン質由来の生物資源で作られた塗料。高い調湿・消臭機能、抗菌性・抗ウィルス性があるほか、シックハウス症候群の主原因であるとされるホルムアルデヒドの吸着作用を持つ。また、塗料としての施工性が高いのも特徴。無機塗料で低臭性のため、即入居も可能だ。強い消臭機能のために介護施設などの利用が多いという。オフィスでの利用により、職場空間の快適性向上を図れる商材としている。 企業サイト
三協エアテック(大阪)/可動式加湿機「うるおリッチ」
空調設備機器の開発・製造販売を行う。オゾンを使った脱臭装置や空気清浄機などが主力製品。「うるおリッチ」は可動式の大型加湿機器で、1台で150平米をフォローできる。給水工事なども不要。特殊なフィルタを使い、空気感染・飛まつ感染する多くのウィルスの殺菌もする。近年室内空気質(IAQ)が居住空間の課題として浮かび上がっているが一般の認知は依然低いのが悩み。とはいえ、一部オフィスでの利用が進み、今後さらにオフィスでの利用を拡大したいとしている。 企業サイト
ジオパワーシステム(山口)/地中熱利用換気システム「GEOパワーシステム」
地中の熱が季節を通してほぼ一定であることを利用したパッシブな冷暖房システム。自然の熱変化や相転移を利用し、クーラーなどの電気機器を使わない冷暖房の仕組みを「パッシブ」と呼ぶ。地中熱を利用したシステムは競合他社があるが、居住空間の換気を組み込んでいる例はあまりない。オフィス向けとしては、大規模オフィスビルの躯体に設置する。適切な換気を行うとともに躯体の温度を一定に保ち、冷暖房の省エネ化を図れるとしている。 企業サイト
大都技研(栃木)/業務用厨房シンク型油脂分自動分別機「グリスECO」
施工性が高く高性能な油分の阻集システム(グリーストラップ)を開発販売。グリーストラップは業務用厨房で設置義務があるが、通常は床下設置のために施工性が低くメンテナンスも課題。しかし、グリスECOはシンク型で施工が簡単なうえ、空気調和・衛生工学会が定める「SHARE」規格で99.5%適合する高性能(グリーストラップ一般製品は90%以上で合格)のため、回収率が高く、配管などの公共インフラに与えるダメージも少ない。基準の厳しい国定公園周辺の飲食店で多く採用される。 企業サイト
ダイナエアー(東京)/調湿空調装置「モイストプロセッサー」
本製品の開発販売とともにメンテナンス業務を行う企業。モイストプロセッサーは調湿に特化した大規模施設向け空調システムで、湿度を一定に保つことで快適な住空間を生み出す。医療・介護施設での導入が多いが、オフィスでも労働衛生環境を向上するほか、適切な湿度により室温が安定するために冷暖房費の節減にも寄与する。外気に対し室内側の気圧が高い「陽圧」にするため、花粉や病原菌の防除にも効果があるとしている。 企業サイト
マクルウ(静岡)/マグネシウム製チェア「Mt」
マグネシウムの塑性加工、溶接技術を持つ。マグネシウムはアルミの1/3ほどの重量ながら鉄と同等の強度を持つが、材質特性上、加工が難しくダイキャストやプレスなどに限られていた。マクルウはマグネシウムの冷間引抜加工など、塑性加工技術を開発し、マグネシウム製品の幅を広げることに成功。その製品化の一例がマグネシウムチューブで作る「Mt」だ。Mtはデザイン性にも優れ、オフィスの創造性を向上させる。 企業サイト/特設サイト
マテリアルハウス(東京)/新採光システム・開発コード「SSF」
大規模施設の採光システムの開発販売を行う。反射を効率的に利用するトップルーフ(トップライト)が既存製品にあるが、新たに開発中の「SSF」の技術を発表した。太陽光のパッシブ利用は、太陽の日変化、グレア(まぶしさ)・配光特性などの課題があり、安定的に使うのが難しいとされてきた。SSFはこれらの課題を、アクティブ制御もなくクリアする技術。トップルーフとの置換も簡単に行える。昨今日光不足が鬱を引き起こすなどメンタルヘルスにも影響があることが確認されているため、オフィスでの利用が期待される。 企業サイト
1企業あたり10分のピッチで、プレゼンごとに質疑応答も行われています。また、その後は交流会の「ジェグテックサロン」も催され、プレゼン企業、大手企業の担当者が言葉を交わし合いました。
この日出席した大手メーカーの開発担当者は「もう少しプレゼンの条件設定を細かく決めておいたほうが議論が深められたように思う」としつつも、「こうしたコアな技術を組み合わせ、グローバル展開を狙える可能性を強く感じた。"あいのり"前提のプレゼンがあると面白いかもしれない」と今後の期待を語りました。
別の大手メーカーから出席した販売担当者は「完成度の高い技術・製品が揃っていて驚いた」が、逆に完成度が高いゆえに「関われる幅が少ない」と感じたと話しています。「秘密保持契約の問題はあるとは思うが、研究開発担当者が、基礎的な技術を相互に見せ合う場にしても良いのでは」。
一方で、完成度が高い製品で、「採用」が即可能な座組みが組めるケースでは、交流会で早くも具体的なビジネスプランを描いている例もありました。逆に、関わりが見えにくい技術・製品については、話が弾まないケースももちろんありましたが、おおむね積極的な意見交換が行われたと言えるでしょう。
しかし、プレゼンした企業側の参加動機にもグラデーションがあったようです。「とりあえず公の場に出せれば良い」と考える企業、大手企業の持つコネクションを利用したいと考える企業、文字通り「売り込み」のための営業の場だと考える企業など、背後の思惑には微妙なばらつきがあります。
このマッチングフォーラムを企画した中小機構 販路支援部 マッチング事業担当の渡辺孝志氏は、目的のひとつが「マッチングとはいえ、大手企業の視点から見た意見を聞きながら、アイデア創発をすること」であるとし、「効果はこれから回数を重ねることでじわじわ出てくると期待している」と話しています。今後も繰り返し、こうしたマッチングフォーラムを開催する予定とのこと。また、今後意見交換のやり方などもさまざまな工夫を重ね、より活発なセッションにつながるようにしていきたいと話しています。
ただの商談会ではない、活発な意見交換ができたのは、ひとつはテーマを絞り込んでいたことに理由があったと言えそうですが、もうひとつ、「場」も大きな理由であったように思います。参加企業はいずれもTIP*S、3×3Laboに少なからずなじんでおり、"オープン"な場を経験していたこと。もちろん、アテンドし、仲介役を務めたTIP*S、3×3Laboのスタッフのみなさんの尽力もあってのことではありますが、フランクに言葉を交わすにはそれ相応の空気が必要であり、その雰囲気をうまく作り出していたと言えるのではないでしょうか。
上記のように、具体的なビジネスの話が出ている例もあれば、3×3Laboで行われているプロジェクトへの参画する意思を表明している企業もあります。「大丸有のリソースと、全国の中小企業のリソースのマッチング」というTIP*Sと3×3Laboのかねてからの目的に向けて、小さな、しかし確実な一歩を踏み出したと言えるのではないでしょうか。