「予測不可能な未来に対して、柔軟に対応する企業戦略をどう構築するのか」。この問いに答える強力なツールであるシナリオ・プランニングは日本にも徐々に広まってきました。エコッツェリアでは、このシナリオ・プランニングを体験しながら、2030年の東京都心における事業機会を探索する「Opportunity Discovery Round-table」を企画、11月14日に第一回目を開催しました。
参加したのは、製造業からサービス業まで多様な企業の企画担当者らおよそ20名。このセッションは一種の思考トレーニングでありながら、東京の未来予測とともにリアルなビジネス創出の場でもあり、なおかつ、異業種・他社との連携を図るまたとない機会でもあります。
第一回目の今回は、SBIの高内氏を司会に、考えるべき東京の未来についての情報のインプットが行われました。登壇者は、エコッツェリア協会理事長の伊藤滋氏と同協会事務局次長、共有価値創造プロデューサーの近江哲也氏の2人。対極的な都市計画の姿と、具体的な大丸有のまちづくりの現場について講義があり、その後シナリオ・プランニングのファーストステップのワークショップも行われています。全5時間に及ぶ充実のプログラムの概要をお伝えします。
まず、エコッツェリア協会理事長の伊藤滋氏から、東京のありうべき姿について、自身の著書『たたかう東京』をテキストにした講義がありました。これは今回のラウンドテーブルのいわば"下地"を作るためのインプット作業のひとつです。
「『インベスト東京』(東京への投資拡大を促すキャッチコピー)なんてありますが、それよりも、もっと簡単に、東京を変えるものがある。それが『ビジット東京』です」
「ビジット東京」とは、海外から東京へ誘客するインバウンド施策のひとつ。このビジット東京を軸に、東京の未来像について大胆かつ軽妙に語ってくれました。氏は都市計画の専門家であり、語られた内容は「予想」であるとともに、すでに実現が決定していると思われるものもあります。そのポイントは、容積率2500%超の超高層ビルの展開と、古きよき江戸・東京が集積する東京北部エリアの利活用です。特に、北側のエリアはビジット東京の目玉のひとつとなりそう。外濠の北側、一ツ橋、神保町をスタートに、秋葉原、駿河台、東京大学、不忍池、上野公園、寛永寺へと至る一帯です。
「江戸末期から明治大正、昭和16年までの貴重な、日本を代表する文化が眠っているのがここ。京都では『文化資源特区』を始めているが、対抗して東京でもやればいいんですよ。そうすれば、パリに負けない、"彫りの深い"街に生まれ変わることができるでしょう」
続いて登場した近江氏がレクチャーしたのが、現在進行中である大丸有の再開発の現状と課題です。明治時代に始まった大丸有の開発も現在は第三次開発の後期。長い歴史もあり、大丸有ならではの特徴もあります。
「エリア内120棟のうち1/3が三菱地所の所有で、ビルマネジメントは8割を手掛けている。そのため、合意形成が得やすく、面的開発を仕掛けやすいという特徴があります。また、まっさらの土地ではない、既成市街地の再開発モデルであるということも大きな特徴。計画から完成までには10年以上かかりますから、相当な先読みが必要です」
こうした状況下で、現在大丸有のまちづくりが目指している大目標が「高密度化(高層化)」「効率化・多機能化」「土地利用の多様化」「パブリックスペースの活用」「インフラの強化」です。これを進めるにあたって重要なキーワードになるのが「貢献要素」。社会的意義のある施設や取り組みをすることで、容積緩和を受けることができ、ビルの高効率化が可能になります。また、ビジネス以外の要素が加わるため町の多様化にもつながります。
今後の取り組みで注力していきたいとしているのは「地方」だそう。また、2014年には、エコッツェリア協会はメーンテーマを「環境」から「サステイナビリティ」へと大きく枠を広げました。「かつて環境問題は経済活動の負担でしかなかった。しかし、これからは、環境問題の解決が経済を回すようにし、そこに社会をジョイントしていくという発想が必要になる」。これが、三菱地所の掲げる「環境」経済」「社会」ががっちりかみ合って回る「3つのギア」の概念です。そして、『創造』『健康』『安全』『環境』をアクションの4本柱にした、重点事業領域の説明がありました。
そしてシナリオ・プランニングのファーストステップ「Decision Focus」をワークショップで行いました。Decision Focusとは、進むべき未来の方向性の確認と、その意思決定に欠けている知識が何かを議論することです。これは組織の意思決定者にシナリオ・プランニングの有用性を説くために重要なプロセスでもあります。各テーブルで話し合い、そのポイントを3つまで立てる作業を行いました。
ワークショップに先立ち、高内氏からは「東京の未来を考えるうえで『貢献要素』は非常に大きなポイント。また、大丸有エリアは、昼間人口が23万人に対して夜間人口が14人しかいないことにも留意してほしい。これが何を意味するか。丸の内が純粋な実験系であるということ」と指摘がありました。これらを踏まえて、各テーブルでは非常に緻密な議論が交わされたのでした。
この議論の結果は、最後にショートプレゼンで共有されました。このワークショップやプレゼンの様子は、クローズドのため詳細をお伝えすることができませんが、率直な感想をいえば「命がけの遊び」のようでした。多岐にわたる未来予測は、高度な知的遊戯でもあります。集まっているメンバーはいずれも名だたる企業の第一線で活躍する方々で、その舌鋒は鋭いものばかり。端で聞いていても相当に楽しいものなのですが、そこにはリアルな切迫感があります。センシティブな企業ほど、意識の高い人ほど、強い危機感を持っているからなのでしょう。
次回のラウンドテーブルは12月3日。シナリオ・プランニングの第一フェイズ「外的要因」の抽出作業です。朝の9時から17時までみっちりとワークショップを積み重ね、未来予測のベースを組み立てます。よくある受身のセミナーではなく、この体験を持ち帰って自社内で活用することもできるというもの。欧米のトップ企業ではスタンダードのシナリオ・プランニングの実際を学べるまたとない機会。まだ途中からの参加も可能だそう。興味のある方はエントリーしてみてはいかがでしょうか。