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【レポート】無限に広がる「宇宙ビジネス」の可能性

未来予測コミュニティ第1回「宇宙分科会」2019年5月17日(金)開催

9,17

1969年に人類が初めて月に到着してから50年、今や特殊な分野とされていた宇宙開発は国や大企業だけでなく、スタートアップ企業やベンチャー企業も参加できる時代になり、今年はついに民間初の宇宙旅行が始まります。アメリカなど海外の宇宙開発に比べると、出遅れ感の否めない日本ですが、逆に言えば、宇宙ビジネスへの参入チャンスはさまざまな可能性を秘めていると捉えることができます。

未来予測コミュニティ「宇宙分科会」は、その第一歩を踏み出せるコミュニティです。宇宙ビジネスへの参入を検討している人や宇宙の知見を深めたい人が集まるこの場を通じて、企業同士が連携してより深い議論を交わし、オープンイノベーションを起こし、新しい宇宙ビジネスが生まれることを目的として活動していきます。

5月17日に開かれた第1回宇宙分科会では、田中栄氏(株式会社アクアビット代表取締役・チーフビジネスプロデューサー)をはじめ、斎藤紀男氏(スペースゼロワン代表)、松岡一郎氏(JAXA<国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構>新事業促進部)、森岡澄夫氏(インターステラテクノロジズ株式会社)が登壇し、宇宙分野の最新情報や日本の宇宙関連産業の現状、小型宇宙ロケット開発の実態などについて紹介しました。

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高度100km以上の宇宙空間。まずは、その"土地勘"を知ろう

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最初に田中氏が登壇し、今年4月11日に成功したスペースXの新型大型ロケット「ファルコンヘビー」の商業打ち上げなど最新の宇宙事例を紹介し、未来予測のアップデートを共有したのち、スペースゼロワン代表の斎藤氏が登壇。国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶ無人宇宙船「こうのとり」の打ち上げ映像とともに、こんな質問からプレゼンテーションをスタートしました。「宇宙というとどこか漠然として限りなく広大な感じがしますが、私たちは一体どこを指して、宇宙と呼んでいるのでしょうか?」

「アメリカでは高度80kmから先を宇宙空間と定義していますが、世界的な標準では、高度100kmを"カーマンライン"と呼び、そこから先を宇宙空間と定義しています」と斎藤氏。その宇宙空間をより身近に感じるために、「地球近傍宇宙」「太陽系」「太陽系を越えた宇宙」という3つのゾーンに分けて考えることを氏は提唱しています。「世に言う宇宙利用や宇宙ビジネスの大半は地球近傍宇宙で行われるもので、ニュースなどで取り上げられるのも、このゾーンで起きている出来事が多い」と付け加えました。

image_event_190517_02.jpegスペースゼロワン代表・斎藤紀男氏

続いて、斎藤氏が取り出したのは、1億分の1に縮小した地球と月の模型と長さ3.8メートルの紐。「地球から月までの約38万kmの距離感をリアルに感じ取ってほしい」と、参加者の前で紐を伸ばし、実演してみせました。「月の大きさは地球の約4分の1、太陽の約400分の1。太陽の大きさは地球の約109倍と巨大です。月食、日食という現象がありますが、これだけ大きさの違うものが重なることから、いかに遠いかということが理解できるかと思います」と氏は話します。

2019年、宇宙進出の『第3フェーズ』が始まる

image_event_190517_03.jpeg当日の投影資料より

人類の宇宙進出における現状を認識するために、斎藤氏は、旧ソ連が世界初の人工衛星「スプートニク1号」を打ち上げた1957年を起点に、それ以前を「第1フェーズ」、1957年から2018年までを「第2フェーズ」と仮定し、第2フェーズで起きた主な出来事について説明しました。

1961年、旧ソ連の宇宙飛行士、ユーリイ・ガガーリンがボストーク1号に単身搭乗し、世界初の有人宇宙飛行を成功させました。そして1969年、アポロ11号に搭乗したニール・アームストロングとバズ・オルドリンが、人類初の月面着陸を成し遂げます。アポロ計画が終了したのち、1973年から1979年までの間には、アメリカが宇宙ステーション「スカイラブ」を打ち上げ、NASAによるさまざまな研究や太陽の定期的観測、システム開発などが行われました。1981年、NASAが開発した有人宇宙船「スペースシャトル」が初飛行を達成。1998年にはISS(国際宇宙ステーション)の建設が開始し、2009年にはISS最大の日本実験棟「きぼう」が、人類初の有人宇宙飛行50周年となる2011年にはISSが完成するなど、約60年の間にめまぐるしい進展がありました。

そのフェーズに続くのが、2019年から2049年までの「第3フェーズ」。「アポロ11号が月面着陸に成功してから50周年の節目であり、民間機による初の宇宙旅行が始まるという意味でも、今年はターニングポイントの年。人類の宇宙進出は、今後30年間で宇宙開発から"宇宙活動"へと大きくシフトしていくでしょう。地球近傍宇宙での宇宙ビジネスが拡大化・多様化するとともに、"弾道飛行"とも言われるサブオービタル(準軌道)宇宙旅行の一般化も想定されます。地上の産業が宇宙空間と結びつくことによって、地上生活の宇宙(LEO)=低地球軌道での新しい産業が発達していくのではないかと思います。私はこれを"第8次産業"と呼んでいます。また、これからは再使用ロケットの実運用や小型衛星の多数打ち上げなどの活発化も予測されます」と斎藤氏。

氏が言うように、これまでの宇宙活動は、宇宙開発に代表されるインフラ整備が主でしたが、今後は宇宙旅行をはじめ、宇宙医学や宇宙人類学、宇宙社会学、宇宙芸術、宇宙国際法、エンターテイメントなど、人間が宇宙に関わっていくことで、さまざまな新しい活動分野の発達が期待されています。

アメリカと日本における『宇宙法』

image_event_190517_04.jpeg当日の投影資料より

そんな中、ますます重要になるのが宇宙法の存在です。斎藤氏は、1967年に国連総会で採択された宇宙条約を含む5つの条約など国際宇宙法について解説したのち、アメリカを一例に挙げ、商業宇宙活動に関する法律が民間やNASAに与えてきたインパクトについて紹介しました。アメリカでは、1984年に商業宇宙打上げ法(CSLA)が制定されたのち、1998年には商業宇宙法(CSA)が制定されました。その後、2006年にロッキード・マーチン社とボーイング社の衛星打ち上げ部門が合体し、アメリカ政府向けに打ち上げサービスを提供するULA(ユナイテッド・ローンチ・アライアンス)が設立されるなど、多くの民間企業が宇宙ビジネスに参入しています。

2006年にはCSAに基づき、スペースシャトルに代わる宇宙輸送サービスを民間から調達する手段として、商業軌道輸送サービス(COTS)、商業補給サービス(CRS)、商業乗員輸送開発(CCDev)の3つのプログラムがNASAによって立ち上げられました。COTSは、スペースXの「ファルコン9」、オービタル・サイエンシズの「アンタレス」が開発済みで運用中、CRSはスペースXの「ドラゴン宇宙船」、オービタルATKの「シグナス宇宙船」で開発済みで運用中、CCDevにおいては、スペースXの「クルードラゴン」、ボーイングの「CST-100スターライナー」で開発中です。NASAは両社と協力し、乗員を地上と低軌道を安全に行き来できるこれら2つの宇宙船と打ち上げシステムを開発する「商業乗員輸送プログラム(CCP)」を進行しているところです。

一方、日本では2003年10月にJAXAが発足したのち、2008年8月に「宇宙基本法」が施行され、2009年6月に「宇宙基本計画」(第1次・5年計画)が決定されました。「JAXAが宇宙開発利用を技術で支える中核的な実施機関として位置づけされたのは、2012年7月。2013年1月、宇宙基本計画(第2次・2年計画)が、2015年1月にはその10年計画(第3次)と工程表が決定されるとともに、宇宙政策委員会でJAXAの中期目標や計画の見直しが議論され、2018年4月1日からの7年間におけるJAXA第4次中長期計画が定められました」

2016年11月9日には、「宇宙活動法」と「衛星リモセン法」という具体的な国内法「宇宙二法」が成立されるに至りました。宇宙活動法は、民間企業が国の事前審査を受けることで、人工衛星やロケットの打ち上げ、射点整備などの事業に参加できるとした許認可制度で、打ち上げ事故に伴う賠償の指針も定められています。衛星リモセン法は、人工衛星に搭載された装置によって取得したデータの取り扱いに関する法です。

日本航空宇宙工業会のデータ(2018年)によると、主要国の航空宇宙工業の生産額は、アメリカが約2兆8千億円と断トツで、フランスが約7,100億円、イギリスが約4,600億円と続き、日本は2000億円ほどです。また、平成11年度から30年度までの日本全体の宇宙開発費全体の推移を見ると、2,514億円から2,904億円と若干伸びていますが、「2017年と2018年の各省庁の宇宙関連予算のデータによると、文部科学省は対前年度比100.2%、内閣官房は100.1%、経済産業省は106.6%(2018年 日本航空宇宙工業会データ)と横ばいの状況です。ここ17年間の宇宙関係研究開発費の推移を見ても、特に大きな変化はなく、2016年では宇宙売上総額の2.2%となっています」と斎藤氏は説明します。

「日本は国際宇宙ステーション計画(ISS)に参加して、宇宙先進国のメンバーに加わりましたが、国が民間企業を支援する体制はまだまだ整っていないというのが現状です。海外の勢いに比べて出遅れ感はありますが、これを逆手に取れば、未成熟であるがゆえに新規参入しやすい状況といえます。宇宙分科会では、未来予測コミュニティに属している利点を活かし、多様な分野との交流によって、新しい宇宙ビジネスの誕生が期待できます」と述べ、プレゼンテーションを締めくくりました。

JAXAの挑戦。「日本に宇宙関連産業を根づかせ、盛り上げていく」

image_event_190517_05.jpegJAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)新事業促進部・松岡一郎氏

次に、松岡 一郎氏が登壇しました。冒頭、氏は、「皆さんはお仕事上でどのような課題をお持ちですか?」「これからの時代に先駆けて、皆さんならば"宇宙"をどのようにビジネスに活用しますか?」と参加者たちに投げかけ、「この2つの問いが、今日のお話のベースになっています。頭の片隅に置きながら、お聞きいただけると嬉しい」と話しました。

2003年10月、JAXAは航空宇宙技術研究所、宇宙科学研究所、宇宙開発事業団の3機関が統合して発足しました。筑波宇宙センター、相模原キャンパス、調布航空宇宙センターを主な事業所とし、宇宙機の研究開発や開発試験、人工衛星の追跡管制、「きぼう」の運用をはじめ、宇宙科学研究、大学院教育、先進的な航空科学技術の研究開発や宇宙・航空分野の基礎・基盤技術の研究開発などを行っています。

松岡氏が所属するJAXA新事業促進部は、民間事業者との宇宙ビジネスの創出、知的財産の管理運営、NASAをはじめとする海外宇宙機関との事業連携などを担う組織です。部長の岩本裕之氏が「マツコの知らない世界」(TBS系列)に出演して、宇宙セールスマンの世界について語ったり、テレビドラマ化された「下町ロケット」(TBS)にアドバイスを行うなど、 「日本に宇宙関連産業を根づかせ、もっと盛り上げていくために、総勢28名のスタッフがさまざまな活動を通じて日々、奔走しています」と松岡氏は話します。

JAXAを取り巻く環境として、斎藤氏から説明のあった国内法「宇宙二法」のほか、2017年5月12日に宇宙政策委員会宇宙産業振興小委員会(内閣府)が公表した「宇宙産業ビジョン2030」を紹介しました。「これは、宇宙関連産業を現状の1.2兆円規模から2030年を目処に2.4兆円に倍増しようという、政府としての大方針です」。5年間で1000億円のリスクマネーを供給する宇宙ベンチャー育成のための新たな支援パッケージなど、JAXA新事業促進部は政府が行うさまざまな施策の実働における中心的役割を担っています。

image_event_190517_06.jpeg当日の投影資料より

「日本の宇宙関連産業は、3500億円の宇宙機器産業、8000億円の宇宙利用サービス産業の2つを合算して、約1.2兆円の市場規模が形成されています。先ほどの宇宙産業ビジョンの方針をこの図式に置き換えると、"これら2つの産業面積を2倍にしましょう"という政府の掛け声があると理解できます。これらの市場の活性化はもちろん重要ですが、もしかすると、約7兆円の市場規模が見込まれているユーザー産業の分野に社会的影響力を持つ企業が参入することによって裾野が広がり、市場規模の倍増という目標により近づきやすいのではないだろうか。私はそう考えています」

企業活動×宇宙利用=新しいビジネスチャンスは無限大に

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続いて、松岡氏は宇宙ビジネスを展開していくうえで要となる「企業活動と宇宙の接点」「宇宙を活用した産業の例」「企業視点の例」の3つを挙げ、それぞれの内容について解説しました。

◆宇宙利用の拡大① 企業活動と宇宙の接点

企業活動の一例として製造業を例に挙げると、研究・開発→試作・製造→マーケティング→営業・販売促進→アフターメンテナンスという一連の事業フローがあります。その一方、宇宙活用の視点としては、「①宇宙の特性を活用する」「②衛星データを活用する」「③宇宙開発技術を開発したり、活用したりする」の3つが挙げられます。具体的には、①は空気や季節、天気変化がない、200度の寒暖差、無重力など、②は位置情報、地表・海洋調査、気象情報など、③は宇宙輸送(ロケット)、有人宇宙活動、航空技術、宇宙科学、月・惑星探査などを活用するということ。

例えば、ある製造企業が新薬の研究開発をしようとした時に、宇宙ならではの"無重力"という特性を活用すると、地上では重力の影響によって実現できなかった結晶のはめ込みが、宇宙の無重力空間ではきれいにはまる、といったことが起きてきます。つまり、研究開発のみならず、あらゆる企業活動の工程における課題に、先の3つの視点のいずれかを掛け合わせることで、新しいものやビジネスの創出が可能になるということを表しています。「すでにJAXAとの協業実績がある事業者様においても、企業活動の別セクション(工程)などで、第2、第3のコラボレーションが可能になると考えられます」と松岡氏は付け加えました。

◆宇宙利用の拡大② 宇宙を活用した産業の例

宇宙を活用した産業の事例として、経済産業省がさくらインターネット株式会社に委託した日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」のオウンドメディア、宇宙ビジネス情報サイト「宙畑-sorabatake-」に掲載された「Space Utilization Map」を挙げました。「ひょっとして、宇宙を使えば、皆さんの課題のソリューションに近づくことはできませんか?という投げかけです。宇宙ビジネス参入のヒントになればと思い、ご紹介しました」。このMapによると、地球とは異なる環境下で行うものづくりとしての"宇宙太陽光発電"、"製薬の開発"や"資源探査"、地球でできない体験としての"宇宙旅行"、"宇宙ホテル"、"宇宙葬"や"人工流れ星"など、宇宙を活用することによって生まれる産業は数えきれないほどあることが分かります。

◆宇宙利用の拡大③ 企業視点の例

最後に、松岡氏は宇宙ビジネスへの参入を検討する企業にとって、「売上高の増大」と「コストの削減」が主な動機づけになると述べ、こう続けました。「自社製品のプロモーション、新製品・新規事業の創出、従業員のモチベーション向上、既存製品や既存サービスの品質向上など、宇宙を利用することの目的はさまざまに想定できますが、それらのベースにあるのは、他ならぬ"ロマン"です。その一方、今の日本の宇宙関連産業は、"相応の技術力はあるのに、まだまだ産業化されていない"状況です。現状の課題と(前述の)宇宙利用の視点を掛け合わせてみて、我が社ならどう宇宙を利用するだろう?と考えるきっかけになれば幸いです」と結びました。

image_event_190517_08.jpegインターステラテクノロジズ株式会社(IST)・森岡澄夫氏

インターステラテクノロジズが開発中の小型宇宙ロケットとは?

今年5月4日、観測ロケット「宇宙品質にシフト MOMO3号機」を打ち上げ、民間単独による開発・製造のロケットとしては日本初となる宇宙空間への到達に成功し、大きな話題を呼んだインターステラテクノロジズ(IST)。同社シニアコンピューターエンジニアの森岡 澄夫氏が登壇し、ISTで行われている小型宇宙ロケット開発について解説しました。

現在、ISTが開発中のロケットは、MOMO3号機に続く観測ロケット4号機と衛星軌道投入ロケット「ZERO」の2つ。全長約10m、重さ約1トンのMOMOは、サブオービタル(準軌道)を弾道飛行して地上100kmの宇宙に到達し、地上に戻ってくるサウンディングロケットです。高度100km以上の宇宙空間まで到達させるためには、時速約4,600kmの速度で打ち上げる必要があります。一方、2023年に打ち上げ予定の軌道投入ロケットZEROは、100kg(220lbs)のペイロードを高度500kmの地球低軌道に打ち上げ可能な超小型人工衛星ロケット。「全長約20mと大きさはMOMOの倍くらいで、高度500kmの軌道に到達させるには、時速2万8千kmまで加速する必要があります」

ロケットは小さければ(開発するのが)簡単で、大きいと難しいと思われがちですが、小さいから簡単なのかというとそうではありません。「大きさに関わらず、1段目が難しい」と森岡氏。人工衛星打ち上げ用の3段式ロケットなどで起こる打ち上げの失敗は、最下部の1段目に起因するケースが多いのだそうです。「理由としては、空力など外乱要因が多く制御が難しい、出力エネルギーが大きいことに加えて、設計や検証手段の確立が難しいことが挙げられます。1段目をクリアできれば、2段目と3段目はその延長上にあると言っても過言ではありません。MOMOの意義は1段目の技術取得を実現したこと。ZEROをつくるうえでかなり難しい部分がMOMOによってクリアできたというフェーズに来ています」

宇宙ロケットは、今もまだ実験段階にある!?

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「民間小型ロケットが可能になったのはごく最近のことです。インターネット社会となり、既存のロケットの詳細知識を入手しやすくなりましたし、IT分野の進歩があったからこそ、コンピュータ支援設計(CAE、EDA)を比較的安価で利用できるようになりました。10年前では、センサーひとつをとっても、まったく実用にならないレベルでしたが、民生の電子部品や材料の高性能化、高信頼化、低価格化が進んだ今、小型ロケットの開発を目指す企業にとって、より良い環境が備わっていると思います」と森岡氏。実際、小型ロケットの開発を目指す民間企業は世界に多くあります。小型だけでなく、「ファルコン9」など大型ロケットの開発も行うスペースXを除けば、小型ロケットに特化し、実機打ち上げまで到達できたのは、アメリカの「ロケットラボ」のみ。「この背景には、さまざまな参入障壁がある」として森岡氏は次のように説明しました。

「材料や物性、構造設計・解析、燃焼、流体、あるいは機械設計・製造や制御など、工学分野の多くの要素を集めて開発することの難しさがあります。また、社会的理解の獲得をはじめ、打ち上げ場所の確保や地元の支援獲得、関係省庁・機関との連携、法整備といった技術開発以外の活動が非常に重要であること。海や砂漠に隣接しているか、物資調達経路が構築できるか、地上施設などのインフラが構築できるかなど、地理上の制約が難しいことも挙げられます」

世間ではあまり認知されていない事実として、「宇宙ロケットは完成された技術などではなく、今もまだ実験段階にあること」「ロケットを安くする技術は未確立」「ロケットが高コスト化するのは単に使い捨てだからではない」ことなどを挙げ、根本的なコスト上昇の要因は、
飛行環境を地上で再現しにくく、未知事項も多い「試験と管理」であると説明しました。"高コスト→試験・管理が厳格化→さらにコスト上昇"という悪循環に陥りがちで、過剰品質化、特殊化しやすいことなども関係しています。

「ロケットの低価格化が待ち望まれている中、ZEROについては、1回あたり約6億円以下の低コストかつ高頻度な超小型衛星の打ち上げを目指すなど、弊社でもコストダウンを図っていく考えです。あくまでコストダウンであり、費用を確定させていくというのではありません。社内外の管理の軽量化や品質の適正水準、テスト手法、信頼性把握法の適正水準を見出すなど、コストダウンのために試行錯誤を重ねている現状です」

「機体を極限までコストダウンして使い捨てる」か「機体を再整備・再試験し再利用する」かについては、「ロケットの何に対してコストがかかっているか、費用コストを分析することが大事です。現状、我々としては、購入した部品を再利用するコストの方が高くなるのではないかという考えに近く、議論を重ねながら、スキームを決めている段階です」と森岡氏。

最後に氏は、「日本でも、民間宇宙開発が本格化しつつあり、今が最も事業加速が必要な段階です。無形有形のご支援いただきますようお願いいたします」と参加者に熱く呼びかけました。4人の登壇者によるプレゼンテーションのあとに開かれたパネルディスカッションと交流会では、活発な意見交換が行われました。宇宙一色の濃密な時間を共有した第1回宇宙分科会。参加者の人たちにとって、宇宙の知見を深め、未だ見ぬ宇宙ビジネスの可能性を実感する貴重な機会となったようです。今後の展開にぜひご期待ください。


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