住友商事が運営するMIRAI LAB PALETTE、三菱地所とSAPジャパンが運営するInspired.Lab、そして三菱地所とエコッツェリア協会が運営する3×3Lab Futureという大手町を代表する3つのラボが連携し、大手町から新しいコラボレーションを生み出すきっかけをつくることを目的とした「大手町ラボフェス」。このフェスは2022年からスタートし、200名以上が参加するなど好評を博していました。
2回目となった今回は「SDGsを感じる、考える、繋がる1日」と題し、午前中は「感じるInspired.Lab」、午後からは「考える3×3Lab Future」、夕方からは「繋がるMIRAI LAB PALETTE」と、それぞれのラボでテーマを設けながらSDGsに関する講演やワークショップを実施。MIRAI LAB PALETTEでの交流会には日本中で人気の"スペシャルゲスト"も登場するなど、大手町が大いに盛り上がった1日の様子をレポートします。
2023年の大手町ラボフェスの幕開けとなったのは、Inspired.Labで行われた海洋プラスチック問題に関するワークショップです。ゲストは産業廃棄物処理などを手掛ける株式会社浜田で働く傍ら、ごみ問題を正しく学び、考え、行動する機運を作るために情報発信などを行う「ごみの学校」の代表の寺井正幸氏。寺井氏から海洋プラスチックごみ問題の現状や対策状況について学ぶと共に、参加者同士で議論を重ねながらプラスチックごみの再利用方法について考えるワークショップを実施しました。
1950年頃から一般的に使われるようになったプラスチックは、幅広いニーズに応えることができることから当初は「夢の素材」と持て囃されていました。しかし、海洋に流れ着いて海面や海岸を埋め尽くしてしまったり、適切に管理されないとマイクロプラスチックと呼ばれる微小な形で自然界に流出し、動物たちの体内に有害物質が蓄積されていったりする点など、環境に多大な影響を及ぼすものとして全世界がその扱いに難儀しています。
プラスチックの処理方法としては、再利用して新たな製品を作る「マテリアルリサイクル」、焼却処理して熱エネルギーに変えて再利用する「サーマルリサイクル」、分解して化学原料として再利用する「ケミカルリサイクル」、海洋や地中に埋める「埋立て」の4つに加え、海外の途上国に輸出する方法があります。ただ、回収されるプラスチックの品質が安定しないこと、循環のためには膨大な量が必要でコストが掛かることなどが要因となり、実際にはそれほど循環できているわけではありません。このような状況に直面しているため、多くの国で未来に向けたプラスチックのあり方を見直していこうとされています。
「安定供給には様々な課題があるため、ひとつの自治体やひとつの企業だけで取り組むのではなく、複数の組織が連携して負担を分散・軽減していくことが重要です。私たちも企業と連携しながらプロダクト開発に取り組んでいて、海洋プラスチックを使って洗面器やツールボックス、家具などを制作しています。今日のような機会で皆様からもアイデアを募ったり、連携に繋げていったりしたいと考えています」(寺井氏)
寺井氏の講演が終わると、実際にプラスチック成型機を使って海洋プラスチックを成型し、キーホルダーを作る過程を見学・体験しました。さらにその後には4つのグループに分かれ、「海洋プラスチックを活用して会社のノベルティをつくる」をテーマにディスカッションを実施していきます。各グループからは指輪のようなアクセサリー、ヨーヨーやジグソーパズルといった楽しめるアイテム、名刺や防災用ヘルメットやコースターなど実用性に富んだものなど、幅広いアイデアが寄せられました。
午後からは3×3Lab Futureに場所を移し、「健康」に関する講演が開催されました。まずは「人間の健康」をテーマに、運動が続かない人が運動を続けていくためのポイントを考えていくセッション。「都心で温泉に入れる」フィットネスクラブとして知られるSPA大手町FITNESS CLUB支配人の原田公威氏に話を伺いました。
「当クラブの会員には、滞在時間が短く、真剣にトレーニングする人よりも温泉好きな人が多いという特徴があります。他のフィットネスクラブとは毛色が違った会員層ですが、その分運動が苦手な方でも参考にできる部分があると思います」と話し始めた原田氏。例えば運動を継続するための心構えとして、次の5つを挙げました。
①初めに気合を入れすぎない
②何か1つだけをやったら良いとする
③記録をつける
④他人と競わない
⑤健康的な生活をしている人を味方につける
それぞれシンプルな考え方ですが、気負いすぎずこれらの点を意識することが、運動の習慣化には実は重要なのです。また原田氏は、運動強度を示す単位である「METs(メッツ)」を紹介し、家事や育児、移動など日常生活の中での行動も立派な運動になると話しました。その上で、次のような言葉でプレゼンテーションを締めくくりました。
「大切なのは"運動する"ことではなく、"体を動かす"機会を作ることです。ただし、睡眠不足が続いている時、ストレス過多な状態の時、忙しすぎる時などは習慣化が難しいと言われています。つまり、心にゆとりがある時にこそ新しい何かを始めることをオススメします」(原田氏)
続いてのテーマは「動物の健康」です。登壇したのは犬のためのリラックス音楽の開発・提供を手掛けるOne by One Music代表の畠山祥氏です。畠山氏は事業を手掛ける理由を次のように語りました。
「現代は人と犬が一緒に暮らす社会ですが、人は仕事などに行かなければならず、犬だけが家に残されるシーンが多くあります。そうすると犬は不安やストレスを抱え、分離不安症という無駄吠えや粗相、自傷行為などを引き起こしてしまう恐れがあります。そこで、犬が聞いてリラックスできる音楽を流すことでストレスや不安を和らげたいと考え、このサービスの開発に取り組み始めました」(畠山氏)
このリラックス音楽は、24時間365日、自動作曲できるOne by One Music独自のシステムを用いて制作されたもので、実際に犬のストレス値を低減させる効果も確認されています。個人だけではなくペットカフェやペットホテルといった法人向けにもサービスを提供し、更にペットの保護を手掛ける施設やボランティアには無償で提供し、引き取り手のない犬たちのストレスを緩和させ、少しでも里親へとつなげることで社会課題の解決も実現していきたいと畠山氏は話しました。
「今後はサービスの拡充に務めると共に、犬以外の動物にも展開できるようにしていきたいと考えています。『One by One Music』という社名は犬に掛けたものでもありますが(笑)、『それぞれの』という意味もあるので、それぞれの種類の動物、それぞれの個体ごとに最適な音楽を提供し、すべての動物のウェルフェアをテクノロジーの力で実現することを目指します」(畠山氏)
夕方からはMIRAI LAB PALETTEに舞台を移しました。ここでは、MIRAI LAB PALETTE、Inspired.Lab、3×3Lab Futureそれぞれに関係のある企業が自社サービスや製品を紹介するブースを設け、ライトニングトークも行いました。この日出展したのは次の7社です。
●Last Item:廃材や不用品を用いた商品企画を展開
各社のピッチが終わると懇親会へと移りました。普段からラボ内での交流は盛んですが、ラボの垣根を超えてコミュニケーションを取る機会は多くないことから、名刺交換から始める参加者も多くいました。それでも時間が経つにつれてリラックスムードが浸透し、会場は笑い声に包まれていきます。そして、宴もたけなわになってきたところで登場したのが大阪・関西万博の公式キャラクターの「ミャクミャク」です。思わぬスペシャルゲストの登場に誰もが喝采の声を挙げ、記念写真を撮影していました。
こうして2回目となる大手町ラボフェスは終了の時間を迎えました。前回よりもさらに各ラボの色を見せつつも、相互に絡み合うセッションを提供したことは、今後さらに大手町におけるラボ同士の連携を深めることにつながっていくでしょう。次回3回目は春の開催を予定しておりますので、これからのラボ同士のコラボレーションにも乞うご期待ください