MIRAI LAB PALETTE/Inspired.Lab/3×3Lab Futureという大手町に拠点を構える3つのラボが連携し、新たな技術やサービス、斬新なコラボレーションなどを生み出すきっかけづくりを目的とした「大手町ラボフェス」。2022年からスタートして好評を博してきたこのイベントは、2024年からは個別のテーマに特化したスピンオフ企画も実施することになりました。
今回のスピンオフ企画vol.1では、イノベーションのエンジンとして欠かせない「コミュニティ」をテーマとしたイベントを開催。コミュニティマネージャー(コミュニティにおける管理運営を担い、加入者同士を繋いだりコミュニティの価値向上に向け取り組む人々を指す。コミュニティコーディネーター、ネットワークコーディネーター等とも呼ばれる)として活動する人をはじめ、コミュニティに関して研究する人や、コミュニティのつくり方を学びたい人などが集まり、講演会やワークショップを通じて見識と交流を深めていきました。
この記事では、3×3Lab Futureで行われたランチ交流会と講演会の様子を中心に、当日の様子をレポートします。
スピンオフ企画は、3×3Lab Futureでのランチ交流会からスタートしました。参加者同士の親和性を高めるために、「人材育成/新規事業創出/まちづくり/企業カルチャー」のテーマごとにテーブルを分け、それぞれが関心を抱くところに着席する形式を取ります。すると、スタートの合図を待たずして自発的に挨拶や名刺交換を行う様子が見られ、参加者の意識の高さと積極性が垣間見えました。
この日のランチ交流会は、イベントの開催日時・場所と料理を注文するお店を選ぶだけで、誰でも簡単に食事会を行えるWebサービス「shokujii(ショクジー)」を活用して開催されました。事前の注文数62人分は、shokujiiを運営するニジュウニ株式会社の安川尚宏氏によると「1回のイベントとしては史上最大人数」で、大手町ラボフェスやコミュニティというテーマに対する関心度の高さが伺えました。
shokujiiで注文したお弁当を楽しみながら、3×3Lab Futureのネットワークコーディネーターの田邊が各テーブルを回り、参加者の取り組みや日々感じていることなどをシェアすべくマイクを渡していきます。
多くの参加者が「首都圏・都市部のコミュニティ運営方法を学びたい」と語りました。地方でコミュニティ創出に携わる参加者は、「コミュニティマネージャーは『仕事』だと思われないこともあり、地域の人々とつなげていくことに苦労している」と課題を口にしました。別の参加者は、「地域でやりたいことがある人と東京の人と連携できるようにしていきたい」と話していました。
その他にも、都内でコミュニティスペースを運営する人や、「Buff」(※)を卒業したばかりの人、大学でコミュニティ運営を担う学生など、多種多様な人々が自身の取り組みや状況を語り合いました。
※「Buff」とは、「コミュニティマネジメントを全ての組織の当たり前に」を掲げて活動するコミュニティマネジメントファーム。「コミュニティマネージャーの学校」を通じた人材育成等に取り組む。
ランチ交流会を終えると、「コミュマネのトリセツ~コミュニティマネージャーに関する研究~」と題した講演会へと移りました。登壇したのは、社会学者で東京都市大学教授の坂倉杏介氏と、株式会社ファイアープレイス代表取締役の渡邉知氏。
坂倉氏は本題に入る前に、会場に詰めかけた多くの参加者を眺めながら「グッと来ています」と胸を熱くした様子でした。
「今日は渡邉さんと共に進めてきたコミュニティマネージャーに関する研究調査について紹介する機会を頂けましたが、この取り組みを始めた2022年よりも前、コミュニティマネージャーはまったく市民権を得ていませんでした。仕事のコツや大変さもわかってもらえず寂しくなることも多く、だからこそしっかりと研究をしようということになりました。それから2年ほどが経ち時代が変わったことを、たくさんの方々がいるこの風景を見て実感し、感激しています」(坂倉氏)
コミュニティの管理運営や価値向上を担うコミュニティマネージャーは新しい職種です。特別な資格はなく、求められるスキルや経験も確立されていないことから、認知度は低いものでした。その状況を正確に把握し、コミュニティを活性化させる要素や、コミュニティマネージャーに求められる人材要件などを明確にすることを目指し、坂倉氏と渡邉氏の研究は始まりました。
両氏はまず、コミュニティを地域活性型/価値創造型/生活充実型/仕事充実型の4タイプに分類し、次に全国に存在するコミュニティのうちコミュニティマネージャーの常駐が確認できるコミュニティの情報を収集して、どのタイプに該当するか仕分けていきました。すると意外な事実が見えたと言います。
「自分たちのコミュニティがどこに分類されるのかを運営者自身もよくわかっていないケースが多くありました。想いが渋滞したような状況で活動を進めると、目指すもの、やるべきこと、評価軸などが曖昧になります。そうした時に最も重要なものを理解・確認するために、この4象限はいい議論のツールになると思います」(坂倉氏)
その他にも、同じコミュニティの構成員でも属するコミュニティタイプの認識が異なるケースもあったと言います。渡邉氏は「それくらいコミュニティというものは抽象度が高い」と述べた上でこの調査を総括しました。
「必ずしも4タイプのどれかに正確に分類できるわけではありません。ただ、分類することで、とかく抽象的になりがちなコミュニティの目的や目標の解像度を上げることは実感できました。正確に分類できないということは、世の中のコミュニティの大半は、例えば地域活性型4:価値創造型3:生活充実型3というようなグラデーションで構成されていると言えますから、定期的に優先順位を確認することが大切でしょう。コミュニティのステークホルダーの認識が合っていないと、特にクライアントワークで『言った・言わない』になりがちで、根深い問題にもなり得ます。必ず確認しておくべきです。4象限はいずれも関わる立場によって目的や目標は異なるので、ステークホルダーごとのつながりを編集し、取り持つことこそがコミュニティマネージャーの腕の見せどころかもしれません」(渡邉氏)
両氏が全国209名のコミュニティマネージャーにアンケートを取った結果、以下の10のスキルセットが重要であることがわかりました。
(1)企画
(2)ファシリテーション
(3)発信
(4)ビジネス理解
(5)環境整備
(6)人的ネットワーク
(7)事務処理
(8)情報感度
(9)対人関係構築
(10)組織構築
また、コミュニティを活性化させる要素を理解することも重要です。坂倉氏と渡邉氏は、人やプロジェクトに点火し加速させる要素を「火」、想いを乗せた水を流し運ぶ要素を「水」、関係性を耕し土壌を育む要素を「土」、新しいつながりの風を吹かせる要素を「風」と表現します。各要素はさらに3つずつ計12のキーワードに細分化できます。
「コミュニティはエコシステムのように全体がつながり、動的な状態になっています。4つの要素が上手く噛み合い機能している状態でないとコミュニティの活性化は難しく、バランスが取れていない場合にはどこが不均衡になっているのか説明できなければなりません」(坂倉氏)
最後に坂倉氏は、コミュニティマネージャーがこれからの社会で求められる要因を語り講演を締めくくりました。
「コミュニティマネージャーはとても自立性の高い職種です。それだけに豊富な経験を持たないとスムーズな活動は難しいですし、忙しく、孤独で、公私混同も生じやすいです。ただ、その分ネットワークをたくさん作れますし、他の職種に活かせるスキルセットを獲得できるので、仕事に対するエンゲージメントが高いという特徴もあります」(坂倉氏)
コミュニティマネージャーに対するニーズやマーケットは拡大しています。これまで必要とされてきたコミュニティは、町内会やマンション管理組合などのように、皆の財産をいかに管理していくかが基盤になっていたため、組織メンバーの流動性は低く、その中でメンバー間の関係性をどのように維持・向上させるかに焦点が当てられていました。ところがこれからの社会では、新しいことに取り組むために初対面の人々がコミュニティを形成し、その縁で新しいつながりが生まれ、さらに後日別の取り組みのために新たなコミュニティが生まれるというように、プロジェクト単位でコミュニティが組成されることが一般化しつつあるからです。
「組織が絶えず動き、新しい関係性が作られ続けていく状態がこれからのコミュニティと言えます。だからこそ、同じメンバーでルールを決めてつつがなく運用するよりも、新しい関係性の中からどうやって新しいものを生み出していくかが大切です。組織ではなくコミュニティを作っていくプロセスが大事になります。さらには『コモンズをケアするコミュニティ』の重要度が高まるでしょうし、それができるコミュニティマネージャーの価値が高まっていくと思います」(同)
講演を終えると質疑応答へと移ります。参加者たちの熱量は高いままで、ここでも積極的に意見が飛び交いました。例えば講演の中で紹介された「同じコミュニティの構成員でもコミュニティに対する認識が異なるケースがある」ことに対して、「目線を揃えた方がいいというニュアンスでしたが、そうした認識の違いがあることこそが豊かなコミュニティにつながると言えるのではないでしょうか」という質問がなされます。これに対して渡邉氏と坂倉氏は次のように回答しました。
「世の中のコミュニティの大半はグラデーションで構成されていると話しましたが、それはスタッフ一人ひとりも同様です。当社でも、僕自身は火の要素が強めですが、水を運ぶのが得意なメンバーや、土を耕すのが得意なメンバーがいるから組織として成り立っています。自分とは違う特性を持った人々がいてくれるのが組織の強さですし、グラデーションを描いてひとつのチームになるからこそ美しいコミュニティが体現できるだろうというのが個人的な意見です」(渡邉氏)
「ご指摘のようにコミュニティマネージャーにも様々な人がいた方がいいですし、一人ひとりの持ち味を活かし、コミュニティと一緒に何かを作っていくことが大事です。だからこのやり方がベストというものはありません。コミュニティに関わる人はさらに多様な方がいいでしょう。これまでの仕事は、たとえばトウモロコシだけを育てる畑をどうやって効率的につくっていくかを考えるようなものでしたが、これからは多様な動物や植物が生きられる元気な雑木林を育てていくことがコミュニティマネージャーの仕事になると思いますし、多様性を受け入れることにこそコミュニティの面白さがあるからです」(坂倉氏)
この他にも数多くの質問や意見が挙がりましたが、渡邉氏が「レベルが高い質問ばかりで困ってしまう」と嬉しそうに語るほど、参加者の造詣の深さと熱量の高さが感じられました
3×3LabFutureでのイベントを終えると、Inspiredlabへ場所を移します。ここでは「コミュトークバラエティ?! "ラボトーーク!"」と題したトークイベントを開催。MIRAI LAB PALETTE/Inspired.Lab/3×3Lab Futureをはじめ、様々なコミュニティで活躍する"コミュニティ芸人(コミュニティマネージャー)"が一堂に会し、大企業の新規事業創出や都心でのまちづくりに紐づくコミュニティのあり方や、コミュニティマネージャーの役割について激論を交わしました。
さらにMIRAI LAB PALETTEでは、「地域の未来を切り拓く!共に築く豊かな地域コミュニティとその舞台裏に迫る」と題したクロージング基調講演を実施。様々な地域でエコシステムづくりに取り組むリーダーに集結いただき、活動事例の紹介を通じて、コミュニティが地域にもたらすものについて探っていきました。
こうして、大手町ラボフェスのスピンオフ企画は無事終了の時間を迎えました。各会場では多くの参加者が駆け付け、高い熱量でコミュニケーションを交わしていました。その様子からは、この日をきっかけに新たなコミュニティが創出されることを予感させてくれました。
今後もラボ同士が連携しながら、コミュニティのあり方を考え、コミュニティマネージャーの価値を向上するための仕掛けが検討されていきます。地域や企業内でコミュニティ運営のあり方を考えたい、コミュニティマネージャーとして成長したい方は、ぜひ今後の展開にご注目ください。