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丸の内サマーカレッジ2日目。配信会場である3×3Lab Futureでは、徐々にZoomに集まってくる参加者を大きなモニターで見ながら始まりを待っています。参加者は皆初日よりもリラックスし、打ち解けた雰囲気の表情が印象的。初日終了後のアンケートでは、グループワークの構成についても要望が上がるなど、本プログラムにかける意気込みもまた徐々に高くなっていることを感じさせます。その他アンケートで出てきた感想や意見、要望を見たエコッツェリア協会の田口からは「素晴らしい」の一言。今後も自由に、活発に意見を述べてほしいと呼びかけて、2日目が始まりました。
<2日目のプログラム>
・講演2「グローバルな世界を感じてみよう」
桝本博之氏(B-Bridge International, Inc. / President&CEO)
・講演3「多様なキャリアのあり方」
奥村武博氏(株式会社スポカチ 代表取締役、一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構 代表理事、公認会計士)
・ワークショップ1 テーマ検討
桝本氏は、日本の大手企業を経てシリコンバレーで働く夢を叶え、後に独立してB-Bridgeを起業。現在までに15件の起業を実現し、教育機関の設立にも関わっています。「シリコンバレーの環境を活用して日本を元気にする若者を応援したい」と、日本からの留学生、インターンシップの受け入れなども行っています。この日の講演では、シリコンバレーの現状を詳しく語り、「君はどうしたい?」と投げかけます。
シリコンバレーはアメリカ西海岸、サンフランシスコから車で1時間弱走った地域です。地図上にその名はなく、シリコンバレーはあくまでも通称。誰もが知るAmazon.com、Intel、GoogleといったIT企業の集積地というだけでなく、「ここに来れば何かが起きる!」というワクワクと期待が文化として根付いているのです。
「全米の外国人比率が24%のところ、シリコンバレーは人口300万人の36.8%が外国人。そのうえ、全米の特許の17%があり、ベンチャーキャピタルの50%が集まっている。つまり、ベンチャー企業が動きやすい環境が出来上がっています。ここに海外からも大勢の人間が集まり、シリコンバレーを使い、活かして、世界に打って出ようとしているわけです」
「僕は日本が大好きで、日本から野望を持ってシリコンバレーへチャレンジしに来る人のアシストをするのが夢」という桝本氏だが、シリコンバレーで起業する日本人は非常に少ないそうです。例えば、大学・大学院卒業後に、アメリカで働くために発行される「OPT(Optional Practical Training)」を利用する日本人は、留学生2万人のうちたったの7.5%。インドの学生は10万2千人が留学しており、27%もOPTを取得しているのに比較すると少ないことが分かります。シリコンバレーで学んだことを日本で活かしたいという人、シリコンバレーを利用して豊かになりたいという人。どちらがいいという問題ではないが、「そういう状況であることは知っておいてほしい」と桝本氏。
そのうえで、シリコンバレーをめぐる3つのポイントを解説し、参加者に「質問」を考えるように促しました。
1点目は、常識を逸脱して考えようということ。そして、それは多様性が豊かな場所でこそ起きるのだと指摘。例えば、日本人だけの社会では、靴を脱いで家に上がるのが普通で、靴のまま上がるのは非常識。しかし、常識が覆されたときにイノベーションが起きるのです。「単一民族の中にいると常識が狭くなる。シリコンバレーのような多様な社会では、常識が覆されるときに"違う"ことが起きる。それがイノベーションと言われる」と桝本氏。
2点目は「やってみる」というチャレンジすることの重要性。1点目のような今までにないことを知ると、何かをやってみたくなるもので、桝本氏は「そういう気持ちをアントレプレナーシップと呼ぶ」としています。そしてまた、アントレプレナーシップで、新しいことにチャレンジできるのは、若いうちだけだ、とも。
「大企業は社員を守るために安定を求めるし、新しいことへのチャレンジはハードルが高くなる。しかし、スタートアップは生まれたばかりのいわば赤ちゃんで、成長するしかない。だから新しいことにもチャレンジできる。君たちに置き換えると、非常識なことは今の若いうちにしかできないということ。それがチャレンジするということです」
3点目は「リーダーシップ」についてです。知識だけでなく、やってみる、そして失敗する。その経験を持つ人だけが、リーダーシップを発揮することができる、というのです。 「ある程度までの知識は本でも学べるが、その先のことはやってみないと分からない。そしてまた、失敗の経験を持っていると強い。僕はこういう失敗をしたから、みんなはこうするといいよ、と人に話せるようになる。それがリーダーシップで、シリコンバレーにはそういう人がたくさんいます」
ここで5、6人のグループに分かれ、桝本さんへの質問を考えるワークへ。20分ほど議論し、各グループの代表者が質問する質疑応答の時間となりました。シリコンバレーについて、起業することについてなど、幅広い議論となりましたが、そのうちの主だったものを紹介します。
質問「日本に少ないと言われる挑戦する人材を増やすにはどうしたらいいか。シリコンバレーについて知る機会が増えれば良いと考えたがどう思うか」
桝本「それぞれが自己PRする能力を持つことが大切だと思う。自分が何者なのか、『●●をやっている桝本です』というような"冠"を自分につけることができればアピールしやすくなるし、人の冠のことも気になるようになり、つながりも生まれやすくなるだろう」
質問「日本では就活する人の方が多く、大企業に一度入ると、次のステップに行けないことが多いのではないかと感じている。どうしたら挑戦の方向に持っていけるのか」
桝本「例えば、僕は就活をしていたときからずっと、その会社の社長になると言い続けてきた。何かを学んでどこかに行く、という意識では大学と一緒。目標の持ち方次第だと思う」
質問「シリコンバレーにいる人は、起業や新しい挑戦のためのネットワークをどう作るのか、人と人がどうつながるのか。その点は日本とシリコンバレーで大きな違いがあると思うが、日本で再現することはできないのか」
桝本「相手に興味を持つこと、自分が何者なのか明らかにすることが最初の一歩。そのためにはやはり多様性が大事だと思う。シリコンバレーのまちなかにはサッカーコートがたくさんあって、そこに勇気を出して『ハロー! 一緒にサッカーやろう!』と声を掛ければ、そこで新しい人たちと出会える。同じ大学にいて、同じ仲間で集まっているだけだったら、そういう出会いはない。だから、今いる環境とは違うところへ行ってみるということが大事だと思う。具体的にシリコンバレーでは、ミートアップが毎日どこかで行われている。そういうところへ出掛けていけばいいし、そこで自己PRすれば、ネットワークも広がるはず。今はコロナ禍でミートアップの99.9%がオンラインで開催されている。だから君たちもその気になれば、すぐシリコンバレーでネットワーキングができるだろう」
そして、再び桝本氏からグループワークとして、「マインドセット・起業家精神・リーダーシップは、なぜシリコンバレーだと構築されるのか?」というお題の共有がありました。そして、そのような文化が構築される重要な要素として、People、Place、Processという3つの「P」を変えることが大切だと桝本氏は話します。
「同じ仲間と同じ場所にいるだけでは何も生まれない。つまり自分の環境を変える必要があるということです。ぜひ、今日出会ったこの場の仲間たちに興味を持ってほしい。また、自分自身の冠をつけるという意味で、それぞれのストレッチゴールを考えてほしいと思います」
ストレッチゴールとは、容易に到達できるゴールではなく、できるかできないか分からない、その少し先に設定するゴールのこと。
「そのうえで、今日は最後に自分のBHAG(Big Hairy Audacious Goal)、すなわち、大きなバカバカしいゴールについて話し合ってください。その後、グループの中で一番面白いBHAGを決めて発表してもらいます」
10分のワークは、自分を語り、大きな夢を語り、愉快に盛り上がる議論となりました。その後のBHAGの発表はフリートークで、言いたい人が自由に手を挙げて発表する場となり、聞いている方も、発表する方もワクワクする楽しいものになりました。
そして最後に桝本氏から、以下のような締めの言葉がありました。
「これからも大きな夢、BHAGを思い描くことを続けてください。そしてマインドセットを変えて、新しい自分を作るために、いろいろな人、文化と付き合うこと、その一歩を踏み出すことを繰り返してほしい。夢は口にすればするほど実現に近づきます。そして言うだけでなく、夢に自分の時間を費やそう。それが、30年後の日本を作ることにつながると思います」
奥村氏はプロ野球選手から公認会計士になった人物で、アスリート、プロスポーツ選手のデュアルキャリア形成の活動にも取り組んでいます。
「現役時代に輝いたアスリートでも引退後には輝けないことが多い。それを、現役時のスポーツの知識と経験、それから公認会計士としてのファイナンスの知識でサポートしたい。それが僕のミッションです」
奥村氏は、甲子園にこそ出場できなかったものの地方大会での活躍が認められ、1997年にドラフトで指名され阪神タイガースへ入団。同期には後に球界を代表する井川慶投手がいたそうです。しかし、1年目のオフに右肘、3年目は肋骨、4年目には肩と、怪我に泣かされ、1軍の公式戦を経験することなく戦力外通告を受け、引退。
「なぜ大成できなかったのか、一番大きな理由はマインドセットだったと思います。プロ野球選手になることがゴールになってしまって、阪神タイガースに入団した瞬間それが叶ってしまった。本当ならどんな選手になるのかを明確にして取り組むべきだったが、身体のケアも十分にできていなかった。つまりプロフェッショナルじゃなかったんだと思います」
引退後は、チームの活躍を横目に見ながらホテルの調理場などでアルバイトをして過ごし、つくづく感じたのは「自分には何の価値もないということ」だったそうです。
「ユニフォームを脱いで、オクムラタケヒロ本人になったときの価値の低さを、ものすごく痛感しました。お前は誰? 何ができるのか?と問われて答えられるものが何もない。世間も知らないし、武器になるのは身体ひとつしかない。その価値の低さに気づいたときにどう生きたらいいか悩みました」
そのときに出会ったのが一冊の資格ガイドブックでした。当時の彼女(現在の夫人)が、「世の中にある様々な職業を知ることで選択肢の幅が広がるのではないか、という想いで僕に渡してくれた本だったのですが、そこで公認会計士という資格を知り、思い切ってチャレンジすることに決めました。その瞬間、それまで自覚していなかった自分の中にあるいろいろな種に気づき、そこにフォーカスすることで、さまざまな芽が出ることにつながった」と話しています。例えば、高校時代に簿記2級を取っていたことを思い出したことがそれに当たります。そして、苦節の9年を経て、2013年に公認会計士に合格。
こうした華々しい表舞台からの転落と暗黒時代、そして「野球でいえば逆転サヨナラ満塁ホームラン」で公認会計士になった経緯を振り返り、「スポーツも勉強もビジネスも、本質的な部分は同じ」と話します。
「目標を達成するために、その目標やゴールから逆算で考えるという思考は、野球から学んだものでした。挑戦と失敗を繰り返し、なぜダメだったのかを振り返り、練習する。そのプロセスが自己を成長させる。そのことに気づいたときに、公認会計士の試験の成績も急激に伸びました」
このプロセスについては、組織行動学者のデービッド・コルブの経験学習モデルを挙げ、「経験する」「振り返る」「教訓を引き出す」「応用する」のプロセスを解説。このうち、「経験する」が、目標設定を伴うもので、一番重要であるとしています。
「目標を立てないと成長につながらない。大切なのは、できることよりも少し高い目標設定と経験をすること。それが自分の現在地を知り、学ぶことにつながります」
また、学びと成長においては「自己責任」が重要であるとも指摘。「人に言われてやった」と言っている間は成長もありません。そして最後に「決して超えられない壁」は、「自分で作った壁」だと奥村氏は話します。
「無理だ、できない、向いてない、と思った瞬間に壁ができる。そして自分で作った壁を超えることは絶対にできないんですね。逆にいえば、自分で壁を作りさえしなければ、何でもできるはずです。そのためには、常に自分の領域よりちょっと外側、未知の領域に踏み込むチャレンジをすること。他人なんて関係ない。すべて自分の責任だと思えば、どんなチャレンジだってできるはず。僕も公認会計士になったことをゴールにせずに、この先にいろいろなチャレンジをしていきたいと思っています」
講演の後はグループワークで感想をシェアし、奥村氏への質問を話し合ってもらい、質疑応答へ移りました。奥村氏自身の経験に基づく、非常に具体的なトークだっただけに、参加者は自分自身に置き換えて考えることができたようで、質問も具体的で、活発な議論となりました。また、3×3Lab Futureにインターンとして籍を置いているフットサル選手の吉林千景氏も登壇し、アスリートの実態やデュアルキャリア形成に向けた想いを語り、さらに充実した内容となったのでした。
2題の講演の後、本格的なグループワークが始まります。最終日に、全員が発表する「将来のありたい姿」について深掘るため皆でディスカッション。3、4人のグループに分かれて、10分2セットを行いました。
その後、1対1のワークでさらに内容を深掘り。①将来何をしたいのか ②なぜそれをしたいのか ③それは誰のためなのか ④どうやって成し遂げるのか という4点をじっくり話し合います。
そして最後に、「Who」誰が、「What」何を、「Why」なぜ、「How」どうやって、「Where」どこで、「When」いつ、「Whom」誰に、「How much」いくらで、という「6W2H」を記入するシートを配布し、最終日の発表に備えて整理してもらいました。
自分の将来の夢を、本気で語り合うことは決して楽なことではないはずです。プロデューサーの田口は「本当にやりたいことでないと続かない。本気で苦しんでやる覚悟があるのかどうか、将来の夢の精度を高めてもらうのが今回のワークショップの狙いだった」と話します。実は、本プログラムの事前ワークでも同様の質問を投げかけていましたが、その回答の中には自分の言葉で落とし切れずもがくような内容も見受けられ、このワークショップではどこまで輪郭をはっきりさせることができるかが問われることになるのかもしれません。最終日では、この6W2Hをもとに、具体的な一歩への決意を語ってもらうことになります。