・御殿場市が官民連携で「エコガーデンシティ」の実現を目指している
・富士山や自然環境の活用、企業の新事業・技術開発の進展、市・市民のブランド向上を3本の柱として取り組んでいる。
・その中核を担う一つが、御殿場市にあるリコーの「環境事業開発センター」。
・最近話題の「御殿場油田」、新しい木質バイオマス事業、マイクロ水力発電等が、市とリコー他の連携の取り組みで行われている
この数年でCSV経営のコンセプトは広く浸透し、SDGsを巡る動きとも相まって多くの企業がCSVを念頭に置いた取り組みを始めています。大丸有に籍を置く大企業ほどその傾向は強く、エコッツェリア協会の会員企業もまた意欲的な取り組みを展開しています。
CSV経営サロンでは毎回、会員企業活動についての報告・情報交換がありますが、エコッツェリア協会では、これをさらに深掘りするために、会員企業の様子を見学するツアーを2月8日に実施。訪問先は、静岡県御殿場市、会員企業はリコーです。今回はこの環境事業視察ツアーに同行し、企業ツアーをベースにした地域視察の可能性を探りました。前後編で、ツアーの様子をお届けします。
※御殿場ツアーレポート後編はこちらから
株式会社リコーは2015年、生産地の海外移転等で一時閉鎖していた御殿場の生産拠点をリニューアルし、「環境事業開発センター」を開設。環境問題解決型事業を立ち上げるとともに、環境ビジネスを推進するオープンイノベーションのパートナーを探す拠点としての活動を展開しています。
また、リコーは2017年に御殿場市と包括的な提携協定を取り交わしています。御殿場市は2017年、環境と景観を軸にした新しいまちづくり「エコガーデンシティ」構想を立ち上げ、産官学+金融が一体となった取り組みを開始。市にとっては、リコーの環境事業開発センターはエコガーデンシティ構想の"強力なパートナー"という位置づけです。
今回のツアーでは、まず市役所を訪問し、エコガーデンシティ構想のアウトラインを学んだ後、市の代表的取り組み事例である秩父宮記念公園の木質バイオマス施設を見学。ここでは"身の丈"をキーワードに着実な運用をしており、まだ実証実験段階とはいえ、全国的に普及したものの実稼働があまりはかばかしくないともいえる木質バイオマスのあるべき姿を強く示唆しています。
その後、リコーの環境事業開発センターへ。ここで行われているリユース・リサイクルの取り組みや事業開発の様子を概観し、オープンイノベーションのために共創パートナーを探す取り組みについて聞きました。
前編は各所の様子を写真中心にダイジェストをレポート。後編では各パートのポイントを詳述していきます。
御殿場市役所では企画部未来プロジェクト課課長の沓間信幸氏、副参事の芹澤知輝氏がエコガーデンシティ構想についてプレゼンテーション、解説しています。
エコガーデンシティは、富士山の麓という地理的特性を最大限活用したまちづくり構想で、環境と景観の保護改善、観光客・移住定住者の増加、シビックプライドの醸成を通して、地域経済を活性化させようというもの。産官学連携と市民参加を通し、その実現を目指しています。
リコーやJAXAとの提携を中心に産官学連携の協議会が発足したのが2017年のことで、全体で10プロジェクトが設定されていますが、その取り組みは端緒についたばかり。今後どのような展開となるかは、PDCAを回しながら検討していくことになります。
鍵となるのは「市民参加」。行政、企業が意欲を見せても、まちづくりの主役はあくまでも市民です。「認知を広げ、市民ひとりひとりの意識を高めることが、エコガーデンシティの成否を握っていると思う」と沓間課長は力強く述べられました。
秩父宮記念公園は秩父宮両殿下が実際に住まわれた別邸で、薨去後にご遺言により市に寄贈され、2003年(平成15年)に開園したもの。枝垂れ桜と紅葉が有名で、毎年12~13万人の来場者で賑わいます。
ここに昨年木質バイオマスの熱供給プラントを試験導入しており、花苗育苗温室の暖房、公園内の軽食・喫茶施設「うぐいす亭」の冷暖房に熱供給しています。
運営は当公園の指定管理を担っている御殿場総合サービス株式会社(GSK)。35kw/hの小型ボイラーを入れており、運転は完全リモート・自動化。チップサイロは10トン未満となっており、非常にコンパクトなのが特徴です。
木質バイオマス事業はチップ供給が鍵となりますが、御殿場市は、林地と市街地が非常に近く、運送費が非常に安く抑えられるという強みがあります。市が推進する森林整備モデル事業と連動し、GSK傘下のNPO地域活力創造センターがチップ事業を担い、低コストでチップを供給しています。
日本の木質バイオマスは、2010年前後に火が付いて各地で導入が進みましたが、チップ供給が不安定であること、FIT目当てで導入したものの、事業規模やコストのバランスで採算が合わないこと等の理由で、運用が立ち行かなくなっている事例が各地で散見されています。そんな中、GSKは供給・需要のバランスと、事業性をウォッチしながら取り組む"身の丈に合った規模"をキーワードとして掲げ、サプライチェーンも含めコンパクトな木質バイオマス事業を実現しようとしています。
さて、リコーの環境事業開発センターは、CSV経営を考える企業から熱い視線を集めています。施設見学の予約は引きも切らず、2月初現在、4月までの見学予約はすでに満杯の状態だとか。通常であれば概要説明も含め3時間に渡る見学コースを、特別に短縮版で見ることができました。
センターで展開しているのは、リユース・リサイクルの取り組み、環境配慮型の新規事業開発および実証実験、そして環境活動の情報発信です。リユースの取り組みでは、年間8万台のコピー機を回収し、2万台をリユースして販売。再製品化できないものは部品リユース、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクルと段階を追って再資源化しています。
環境分野の事業開発には「省資源」「創エネ」「省エネ」の3分野があります。省資源では、コピー機の本体・部品のリユース。創エネでは、1月末にニュースとなった廃プラスチックから重軽油を採取する「御殿場油田」の実証実験や、木質バイオマス事業、マイクロ水力発電などの事業。省エネではオフィス向けのLED照明や管理システム、その他、これら3テーマをトータルで取り組む事業として、カメラなど光学装置による空間・位置把握システムの「マシンビジョン」を使った自動運転やドローンやUAVの製品化事業などがあります。
施設見学では、リユース・リサイクルの取り組み現場や、並列して行われている新規事業の様子を見ることができました。また、木質バイオマス施設は、工場をひとつのユニットとして高効率に稼働させるシステムを実現しており、地域の実情に即したチップ供給体制の構築まで含めたパッケージを商品化しようとしており、ここでも新しい木質バイオマスのモデルを見ることができます。
富士山麓に広がる御殿場市は、鎌倉時代には源頼朝による巻狩り場としても使われ、今も自衛隊の演習場として知られる一方で、富士山ろくの豊かな水資源を活かした農業、産業も多く、わさび、水かけ菜などの野菜類や、ウィスキーやビール等でも知られています。御殿場市に多いと言われる「芹澤」「沓間」姓も水にちなむものと見ることができるでしょう(芹は水場に自生。沓の原義は「水が流れる場」)。
そのような地方の特性をよく踏まえ、活用するところに、御殿場市やリコーの活動の特徴があると言えるかもしれません。次回、後編はそれぞれの取り組みの詳細を追って見ていきます。
>後編へ続く