手持ちの車椅子に装着するだけで、時速20kmまでの加速が可能になる次世代パーソナルモビリティ『WHILL(ウィル)』。昨年の東京モーターショーで発表されたコンセプトモデルは、大きな反響を呼んだ。この革新的なプロダクトを開発しているのは、若干29歳の杉江理さん。どんな理由からWHILLを考案したのかと伺うと、自然体な答えが返ってきた。
「きっかけはエンジニアの友達の誘いです。BOP向けに車椅子を作りたいって言われて。ちょうど日産デザインセンターを辞めて世界を放浪していた時期で途上国にいたので(笑)。でも調べ始めたら意外に可能性のある分野だと感じて、のめり込んでいきました」
その後、途上国向けは断念して先進国向けを再検討。そのなかで、杉江さんはある事実に気付く。「車も自転車も乗り物は基本的にステータスを上げると言われていますが、この世で唯一、それを下げる乗り物が車椅子だと調査で分かった。だったら、この価値観が逆転するようなものを作ればいい、と思ったんです」
車椅子ユーザーへのヒアリングを重ねるなかで、"100m先のコンビニに行くことも諦める"という現実を知る。自転車のように小回りの利く車椅子で、ステータスを上げるものとは何か。興味を持った同世代のエンジニアやデザイナーが次々と集まり、週末毎に合宿。約1年2か月の試行錯誤の結果、カッコよくて操作性と機動性の高いWHILLのプロトタイプが完成した。
東京モーターショーでの発表後は、アメリカを中心に世界中のメディアに取り上げられた。現在はその反響をもとにユーザー調査を開始。資金調達など製品化に向けて立ちはだかる難問を抱えながらも、事業化に向けた準備は着々と進んでいる。
「難しいこともありますが、同じ気持ちを持って集まった仲間がいるのが、何よりのエンジン。日々成長している実感がある。これからのWHILLに期待していてください」
友人がくれた機会と杉江さんの好奇心が重なり、そこに社会課題が結びつく。この幸福な出会いは今後、社会にとっても、杉江さんにとっても、かけがえのない存在となる可能性を秘めている。