「きっかけさえあれば... 」今の生活を変えたいと思っている人は少なくないだろう。ネクスタイド・エヴォリューション代表の須藤氏は大学卒業後、ファッションやデザインなどの世界で輝かしい功績を残すと共に、次男が脳性まひで出生するまでは、生活の大半を仕事に費やしていた。
「一生動けないかも知れないと医者に言われていた次男坊がある日、自分の力で立ちあがったんです。仕事に忙殺されて過ごす前に、こういう瞬間を目撃することこそ人生かなと思いました。その瞬間から人生の時間を自分でハンドリングできる道を模索し始めました。」
30代前半にして収入には苦労がなかった須藤氏だったが、14年間勤務した会社を退職。人生をリセットして、実家の一部屋を事務所に最初の会社フジヤマストアを立ち上げた。
「次男を通して、福祉の環境に関わる時間が増えて見えてきたのは、障がい者と健常者を隔てる文化に慣れてしまった日本の現状でした。障がい者を特別視する社会。困っている障がい者に手を差し伸べることにモジモジする日本人。果たして、こんな世の中で次男坊は一人で生きていけるのだろうか? バリアは物理的なものよりむしろ人々の意識の中にあるのではないか?健常者、障がい者双方にある"心のバリア"こそをフリーにすることが、"暮らしやすい社会"の土台なのではないか?」
次男をきっかけに見えてきた気づきが須藤氏の人生観を大きく変え、後の行動を強く後押ししていった。
須藤氏は今、ファッションやデザインの力で日本を変えようとしている。ネクスタイド・エヴォリューションでは世界のトップクリエーターと企画した製品やサービス、地域の価値づくりのコンサルティング等を行っている。本来日本人が持っている"思いやり"の気持ちを、"手を貸し、声をかける"といった具体的な"行動"として促す思想。気付きのデザインとも言えるそれを、ピープルデザインという概念として立ち上げた。
この概念は昨年、オランダ・デルフト工科大学のMBAマスターコースの授業に採用され、EUや北欧諸国からの注目が高まりを見せている。ユニークなのは従来型の"障がい者のために"という視点とは真逆のアプローチにあることだ。主要ターゲットをF1層※としており、ファッション性を重視し、同時に機能性を兼ね備えているデザインであることから、慈善活動的な救済の側面だけではなく、むしろ経済発展の提案や展開を特徴としている。印象としては、厚生労働省から経済産業省へのシフトチェンジだ。
※20歳から34歳までの女性
不条理な現実に直面したとき、人がとる行動は3つあるという。「1つは愚痴を言って日々を終わらせる。2つ目はとっとと別の道に移る。3つ目はできることを自らやる。
僕の場合、次男坊の出生というきっかけがあったわけですが、その一方で、彼は僕の人生を想像も出来ないほど豊かにしてくれた。彼のお陰で僕は具体的なTO DOで2つ目と3つ目を選ぶに至り、現在も続けている。そこでの幸福感を超える納得感が、今の僕の原動力になっているんです」
自ら体験することで知る社会の課題を自分自身で解決しようとする"志"。
須藤氏の創造力と行動力が心のバリアを解き放った社会を少しずつ実現している。
NPO法人ピープルデザイン研究所で作られている「コミュニケーションチャーム 」。
街中で困っている人を「 サポートします!」という意思のある人に身につけてもらうアイテム。
思いやりの気持ちを行動に変える"自らのきっかけ"を生みだしている。
目の前に起きた現実に立ち向かい、ひるむことなく行動し、想像以上の納得感を得る!
無から有へ挑戦し続ける須藤さん。
「今、丸裸で放り出されても生きていく自信あるよ」と答えてくれた。
健常者と障がい者の価値感に隔たりがないことをあらためて認識させられた。
1963年生まれ。大学卒業後、 (株)丸井に入社、2000年に独立。次男が脳性まひで出生したことを機に日本の福祉に疑問を感じ、2002年ネクスタイド・エヴォリューションを設立。3児の父。