※写真はイメージです。[スカイウォーカー/PIXTA(ピクスタ)]
※写真はイメージです。[スカイウォーカー/PIXTA(ピクスタ)]
昨今「医療の産業化」がひとつのムーブメントを形成していますが、その特徴のひとつは医療を専門的に扱うのではない、さまざまな一般企業も参画しているという点です。
例えば、ウェアラブル機器に象徴される「スマートヘルスケア」や、日本の高度医療を武器にした「医療ツーリズム」、特定保健用食品含め健康に役立つ「機能性食品」「機能性野菜」などがよく知られています。企業の持つシード技術を「医療」で捉え直し、新しいビジネスを創出する。これもまた、CSV(※)の形のひとつといえるでしょう。
そんな医療分野のCSVで今注目されているもののひとつが「漢方」です。
昨年12月に、神奈川県、富山県、奈良県の3知事が合同で記者会見を開き、2014年4月に「一般社団法人漢方産業化推進研究会」の発足を目指すことを発表。企業主導型の漢方ビジネスの創出に向けて、企業の参加を広く呼びかけました。
※CSV(Creating Shared Value):社会課題の解決を目指すビジネスの創出によって、社会と企業の双方に共有価値を創造する事業戦略のこと。ハーバード大学ビジネススクールのマイケル・E・ポーターが中心となり提唱。
今、なぜ漢方なのでしょうか。会見では、以下の3点が指摘されています。
1)超高齢化社会に向けて「未病」を治す漢方の重要性
2)特に中山間地における耕作放棄地を活用する高付加価値型作物の必要性
3)グローバル市場に向けて日本の漢方が主導権をとる必要性
発起人のひとり、慶応大学の渡辺賢治教授によると、超高齢化社会においては医療のスタイルが「病気の状態を治して社会復帰させる」から「複数の症状を持つ状態で健康を保つ」に変質せざるを得ません。これがいわゆる「未病」を治すということで、漢方薬の力が発揮されるところです。
また、今農村荒廃、耕作放棄地の拡大といった農業の課題に対して、政府では「攻めの農業」を展開していますが、中山間地の小さな耕作地では大規模展開がしにくいため、容易に攻めに転じることができません。そこを救う可能性があるのが漢方なのです。奈良県ではいち早く"漢方のメッカ"プロジェクトを展開してきており、育成の手間ができるだけ少ない漢方薬の種苗開発に取り組んできました。荒井正吾奈良県知事は「お年寄りでも栽培できる高付加価値型の漢方薬を開発したい。種苗開発とともにICT技術も活用していく」と話しています。
グローバル展開については、今がまさに正念場と言える状況です。欧米では漢方の見直しが進んでおり、世界的に漢方薬の需要が高まっていますが、中国、韓国、そして日本の漢方薬はそれぞれ同じ名前でも少しずつ異なり、漢方薬のグローバルスタンダードの主導権争いが熾烈化しています。特許を多く持つのは日本と韓国ですが、市場を席巻しているのは中国。その一方で、水や大気の汚染によって中国産の漢方薬に対する不安も噴出しています。「中韓と違い、日本にはグローバル市場に向けた横断的な組織がない。今後オールジャパン的な取り組みが必要」と渡辺教授も指摘しています。
こうした漢方薬の取り組みに向けて、新しい価値創出のために企業ができることはあるのでしょうか。
今のところ、生薬以外の部分を使った新しい製品の開発や、流通や販売におけるブランド化などが指摘されています。生薬以外の利用法が確立されれば、付加価値も上がり生産向上にはずみがつくでしょう。
また、漢方とツーリズムの相性も良いとされています。JETRO(日本貿易振興機構)によると、中国の一大漢方薬生産地である海南島では、漢方薬の産地を巡りつつ治療や人間ドックを受ける新しい医療ツーリズムが盛り上っているそうです。
今後、研究会は技術提供とともに「企業が参画するフィールドを提供していく」方針で、4月の発足に向けてさらに多くの企業の参加を呼びかけています。一見関係ないように見える技術やノウハウでも、アイデア次第で新しいビジネスにつながるはずです。CSVを考える企業にとっては今がチャンスかもしれません。
事務局では現在も参加企業を募集しています。興味のある方はぜひコンタクトを取ってみてください。「漢方産業化推進研究会」事務局(三菱総合研究所 人間・生活研究本部内) 電話:03-6705-6025 FAX:03-5157-2143 メール:kampo_suishin@mri.co.jp