環境経営を重視し、企業と社会の持続的発展に取り組む「環境先進企業」と、環境意識の高い人材とがエリアに結集し、互いに良い刺激と影響を与えあいながら成長していくには、どうしたらいいのか。「よい子が住んでるよいまち」を創造していく可能性を探る試みとして、2011年7月~2012年1月、エコッツェリアを会場に7回にわたって「環境経営サロン」が開催された。
サロンでは、環境に先駆的な取り組みを進めている企業--金融、建設、家電、自動車、不動産、電鉄等多岐に亘る12社に、環境への取り組みを軸にしたプレゼンテーションをお願いした。報告を受けて、「環境先進企業」とは何なのか、具体的な取り組みへの疑問や課題、触発された事例、自社との係わり等、環境経営の今後の可能性をめぐって、自由闊達な議論が交わされた。
サロンにおいてコメンテーターを務めた小林光氏(慶応義塾大学大学院教授/前環境省環境事務次官)と、ファシリテーターの小松俊昭氏(金沢工業大学産学連携室コーディネーター)に、議論を通して得られたさまざまな気付き、環境経営をめぐる可能性や課題等を振り返っていただき、今後求められる「環境先進企業」像と「環境経営サロン」の役割について語り合っていただいた。
― これまで企業における環境の取り組みは、どちらかといえば社会貢献的で、本業というよりもプラスアルファといったイメージが強かったと思います。それが少しずつ変化してきているとするなら、その背後にどのような社会的変化があるとお考えでしょうか。
小林:「環境経営サロン」が開催される社会的背景として、まず2011年3月11日の大震災以降、明らかになってきたことがあると思います。たとえば「原子力の電気はコストが安く、太陽光は高い」ということがこれまで当たり前のように語られてきましたが、震災と原発事故によって、本当にそうなのか、ということが問われ始めました。今まで社会や自然環境に押しつけてきた「目に見えない費用」というものが表に出てきたわけです。従来の電力「コスト」に、安全対策や災害対策などといったさまざまな社会的「コスト」が含まれていなかったことを、多くの人が知るきっかけになりました。3・11とは、そうしたことまでを明らかにしたという意味で、衝撃的な出来事でした。また今では、国内の原発事故の問題だけではなく、世界的にエネルギーが枯渇し資源価格も上昇しています。さまざまなリスクが、あちこちで顕在化しはじめている。けれども企業としては利益を得る活動を続けていかなければならない。こうした状況下になると、環境問題に取り組むのは特殊な企業だけではなくなってくるということです。あらゆる企業、あらゆる商品が環境的でありうるし、そうあらねばならないということが、社会に浸透してきました。つまり、環境への取り組みは「社会貢献」を超えて、もっと基本的・本質的なことなのだという認識が広がってきたように思います。
小松:たしかに、日本人の多くは3.11まではやや受け身的に、「環境」という言葉と向き合っていたのかもしません。CSRについても、本質的なテーマであるという理解よりは、ある意味で「やらされ感」があったのは事実だと思います。2011年という年を境に、主体的に取り組むことに意義があると実感的に気付いたのではないでしょうか。同時に、環境への取り組みをしないと、自らの製品やサービスが世の中に訴求できないという認識も深まってきています。まさしくバリューチェーンとして、「環境」という価値がそれぞれの製品やサービスに不可欠につながってくる時代になったんですね。先進企業はいち早くそのことに気付いて、環境経営へとシフトしてきているのではないか、と私も感じています。
小林:でも意外に、会社同士が商売の話を抜きにしたところで、ざっくばらんに「環境」について語り合う「場」というのは少なかったのではないでしょうか。「環境」というテーマを掲げると、どうしてもたて前や紋切り型の発言が横行しがちなんですよね。そうではなくて、参加したからには率直な話ができるという、そういう場作りが、まずは大切なことだったんだと思います。他社がどんな取り組みをしているのか、現場の悩みとは何なのか、問題を乗り越える工夫や知恵をどのように作っているのか。今回の環境経営サロンがそうした情報交換のための貴重な「場」になり、企業の人たちが会社の垣根を越えて率直な対話する「場」になっていたのだとしたら、これまでにない意義深い集まりだったと思いますよね。
小松:まず、サロンを企画したエコッツェリアという場そのものが、オープンでフラットでした。ふらっと立ち寄れるフラットさ(笑)が、いい雰囲気を作っていますよね。その「場」で7回にわたって開催された環境経営サロンは、回を重ねるごとに自発的な発言がどんどん出てくる、まさしくワイガヤの雰囲気になりました。通常の会議や委員会と違う点は、サロンは決め事をする場ではない、という点です。サロンとは、互いの価値を分かち合う場でなければなりません。「ワイガヤ」を通じた議論によって、より深く一人一人の中に価値の共有がおこっているという実感が、ファシリテーターを務めた人間として、強くありました。必ずしもプレゼンテーションをする経営者だけでなく、部長、課長、担当者など、それぞれが自分自身の言葉で自分の組織における環境経営への取り組みについて語り、実践部隊はどうなのか、担当者を動かす中間層としてはどういう悩みを持っているのかといった、さまざまな階層の方が積極的に発言されたことが印象的でしたね。
― 環境経営サロンの7回の議論内容を少し具体的に振り返って、印象に残っている取り組みやエピソードなどをお聞かせください。
小松:たとえばパナソニック、ホンダ、阪急電鉄などの企業は、当初から松下幸之助、本田宗一郎、小林一三といった強烈なパワーを持つ創業者が存在し、企業をぐいぐいとひっぱってきたわけですね。そのリーダーが代替わりをしていく中で、創業者精神を持続させながらも第二の創業等の転換を重ね、その中に少しずつ環境経営の要素を織り込んでいったという経緯が、プレゼンからよく伝わってきました。原点としての企業理念や創業精神を忖度しながら、環境への取り組みをそこにつなげていく細やかな努力をされていましたね。
小林:そうしたプロセスについて直接お話を聞くことができたことが、とても興味深かったですね。また、金融機関の取り組みでいえば、たとえば西武信用金庫からは、融資をする時に環境問題に関心を持つ人や組織に積極的に融資をすることが、結果として貸し倒れリスクが低くなりリスク回避にもつながっている、というお話がありました。それを聞きながら、もしかしたら、業種はまったく違うけれど、エコッツェリアを生み出した三菱地所の仕事にも通じる要素があるかもしれない、と感じました。つまり、大丸有のビルに、環境問題に意識の高い企業がテナントとして入ってもらうことが、結果として持続的に発展していくまちづくりにつながっていく、ということでもあるんですね。そんな風に、サロンでの対話を通して、当たり前だと思っていたことが当たり前でなかったり、とても大事だなと思って取り組んできたことが各社の間でもしっかり共通していたりという、新鮮な発見がありました。
小松:たしかに大丸有というエリアは長い目で見ると、優秀な企業が集まってくることでエリアそのものの価値が上がり、安定的な収益の基礎ができていく、といえます。環境への取り組みには、そうした中長期的な視点が大切なんだと思います。株主や投資家はどうしても短期的な収益性に注目しますが、環境に取り組む企業としては中長期的な可能性や収益性を見てほしい、という共通の思いがある。金融機関でいえば、元本リスクと金利リスクの話にも通じます。つまり、多少金利を低く設定したとしても、元本がちゃんと返ってくるような安定感のある企業に融資をしたいと金融機関は考える。企業がバランスシートの中でそうした安定性を持っているかどうか。環境経営の基本として、バランスシートについて理解を深めていくということは大切だと思います。良質の債権をどれだけ持っているか、やや危ない債権がどれくらい含まれているか。それを見ることが、企業を測る一つの基準になることはたしかでしょう。
小林:そうなんですが、環境への取り組みでは、財務的な数字のみならず、隠れた社会的費用をどう見せていくのか、隠れた資産をどう評価していくのかといったことがさらに大切だと思います。たとえばお客さんからのサポート度をどう評価するのか、社会的な信頼性の高さ、取引相手が環境企業かどうか、消費者がどれくらいリピートしているのか等のさまざまな価値を、どうしたら客観的に評価して見せることができるのか、そこがポイントだと。商品の環境性能は高いけれども、それに見合った価格がつけられない、だから利幅が少ない、というケースがありますよね。でも、その商品を別の角度から見れば、環境負荷が少ないということは、社会的な費用を節約できているということ。目には見えないそうした潜在的な価値を、外に見せていく仕組みをなんとか作ることはできないのでしょうか。
小松:たしかに、環境負荷が少ない製品の価値を価格に反映できないという悩みは、しばしば耳にします。見えない価値をバリューとして分類して、あるいは川上まで訴求して、定量的な評価として整理していき、それが再び環境的な価値として製品の中に組み入まれていくといったシステムを作る可能性を探りたいですね。日本政策投資銀行や三井住友銀行がプレゼンテーションしてくれた「環境格付」的な融資には、様々な可能性があると思います。環境の取り組みを評価して融資するというリンケージを広げていくことで、「環境格付」が社会の中で価値化されてくる。ただし最終的には、やはりマーケットが決めることになるでしょうね。市場が環境経営に対してどう反応するのか。それによって銀行だけでなく金融業全体に、証券も含めて広がっていくことが期待できると思います。
小林:環境経営の度合いを測って融資するという「環境格付」には、私も期待しています。さらに、企業が知財に投資している金額とか、環境技術の特許の数も、一つの指標になるかもしれませんね。日本は欧州の倍、アメリカよりもなお多いくらい環境技術の特許をとっている国だと言われています。また、GDPあたりの特許件数でいえば、日本は他国に比べて非常に多いですね。
小松:あるいは日本の製品の耐久性、これもすごく高いですよ。長時間使えるということは、期間で区切れば、単価が安いということ。日本製品のそうした評価は、時間をかけて世界中にじわじわと浸透していきましたが、環境に関する取り組みの評価を、今後どのように世界へと伝え浸透させていくかが大事になりますね。
― 優れた環境対応の商品やサービスを作るためには、研究開発的な投資がますます大切になってくると思われます。しかし、利益が出るかどうかわからないことへの投資に躊躇する企業も多いのが現状です。そうした壁を越えて、環境への取り組みを余分なコストとして削減する発想ではなく、「未来への投資」として捉えていくために大切なこととは何でしょうか。
小林:たしかに、一般的にR&Dへの投資はトップが決断することが多いですね。それは、何が儲かるかわからない世の中で、会社の将来を見越して決断を下さなければならないという側面が強いからでしょう。環境への取り組みも、実はハード的な開発というより、横のつながりやコンセプトの創造といった中味に近いのかもしれませんから、ある程度経営トップの高度な判断が必要になりますね。
小松:振り返ると、今回の環境経営サロンには、比較的研究開発型の企業が多く参加されました。環境の取り組みを進めている企業は、イノベーション志向が強い企業なのかもしれません。明確なビジョンを描きあげないとなかなか新しい取り組みは進まないのか、それとも時代の変化の兆しをとらえて、まずは課題に着手してみよう、となるのか。企業の体質や考え方によって違うでしょうね。
小林:たとえば環境への取り組みが、社会的意義があり社会のリスクを減らす試みである、といった深いコミュニケーションが共有できれば、環境的な投資費用についての理解も進むのではないでしょうか。価格が高いということは、悪いことだけではないんです。良い人材によって良い製品ができている、という意味でもある。製品に対するそういった読み解き方も必要ではないでしょうか。私なんか昔から、「電力が高くて何が悪いのか」と言っています。電力には、それを生産する「質」の問題があるのですから、ただ価格が安いと数字だけで判断するのはどうなのかなと思います。
― 日本の企業は、これまでグループ会社や系列関係の中で互いに助け合ってきた歴史がありますが、グローバル化の時代を迎えて、より積極的に外へと開いていくことが求められています。今回のようなサロンの場は、そうした時代の中でどんな役割を果たすでしょうか。
小松:実際に参加された企業の方々からは、「世の中に異業種交流会というものはたくさんあるが、環境経営をテーマに議論する機会はなかなかなかった」という声が聞こえてきました。また他の業種の人と話ができてよかったという感想と同時に、「環境経営を手探りで続けてきたが、このサロンで他の企業の環境の取り組みやそのねらいなどを知り、自分たちのこれまでの取り組みに確信が得られた」といった感想も聞きました。つまり、環境経営そのものに価値があることは皆さん理解しているんです。でも、今まではそうしたことを社外できちんと確認する手段がなかったんですね。それがサロンに参加することで確認できて、誇りや自信につながったということなんだと思います。環境経営サロンは、価値を共有していくためのプラットホームとして機能していたんだなと実感しました。
小林:そうですね。価値を共有するということが、サロンの役割の一つだと思います。もう一つ、生物学・生態学には「共進化」という概念があります。たとえば、チョウが草を食べますね。草は食べられてしまうと困るので、たとえばアルカロイドなどの化学物質を出して防御する。すると今度は、それに耐性のあるチョウが育っていく。相手を食べ尽くしたり排除し尽くしてしまえば、互いに不都合が生じるので、ともに変化していくことで安定した関係を作りあげていく。それを「共進化」と言います。実は企業同士にもあてはまるのではないでしょうか。つまり、今ある姿で互いに協力してシナジー効果を産み出すだけでなくて、それをこえて、両者が自分自身を変えながら共に育っていく。そうした「共進化」は、ネットなどのバーチャルではなくて、実際に顔をつきあわせて、リアルでやった方が推進できます。ネット上で情報を集めるのとは違って、同じ場を共有していると、そこに感動が深まり、リアクションが生まれ、関係が深化していくわけです。環境経営サロンに参加した企業同士で、BtoBの形なのか顧客を共有するのかわからないけれど、さまざまな形で新たな取り組みを発展させていったり、次元の高いつながりができていくかもしれません。横へのつながりが生まれると、新たなものが生み出されていく可能性が広がりますね。
小松:特に不動産業や信用金庫、鉄道事業などは、そもそもエリアから逃れることができない宿命を持つ業種だから、まず課題として「エリア内でいかに共進化するか」ということがありました。ただし、今後の共進化としては、エリアから外へと開いて他との関係性を広めることが、翻ってそのエリアの力を強くする、という方向性に繋がっていくあたりが面白い。外との関係を作ることが競争力を付けることだと、多く人が認識し始めているのではないでしょうか。
小林:もう一つサロンを通して考えたかったポイントは、「環境経営」と「経営学」との違いです。二つは、どこがどう違うのか。何が環境経営に特徴的なポイントなのか、ということですね。
小松:通常の経営学では、比較的数字として見えるもの、わかるものを素材にしながら経営を組み立てていきますね。しかし、環境経営の場合は、ストレートには見えない。けれども価値がある。その価値をどう引き出し、経営まで汲み上げていくのかということが問われると思います。そのあたり、医療にたとえていえば、外科的なものは見えやすいし手術で対処できる。しかし、内科的な問題はなかなか問題が見えにくい。内科はいわば、生態のシステムそのものが対象になるということですね。環境のテーマは、どちらかといえば内科的ではないでしょうか。
小林:たとえばISO14001のノウハウといった細かい分野の問題を超えて、環境価値そのものを考えてみると、その製品を持っている人や使っている人の利益だけではなくて、社会や地球にとっても価値があるといった点が特色ですね。「みんなのもの」という形で、価値が所有者の外にまで流出している、というのが特徴だと言えます。「お客さまを喜ばせる」ことからもっと範囲を広げて、「自然や地球も喜ばせる」ことをしなければならない。そうしなければ企業自体も存続していけない時代だからです。自社の成長が、他者や自然環境や地球の持続的発展につながっていくのが環境経営ですから、もっと進めていく必要がありますね。これまでのような競争原理にもとづいた企業経営とは別な、会社が儲かるだけでなく、社会も顧客以外の人にも利益が配分され、自然や人や地球も喜ぶ、そんな商取引があるはずです。環境経営への挑戦は、失敗すると人類にとっての危機が迫ってくるという商売ですが、インドや中国といった新興国も含めた市場で急拡大していくことのできる実にチャレンジングな商売でもあるんです。それだけに、今までのやり方ではたちゆかない難しさもある。だから、新しいやり方をこれからも探っていかなければなりません。
小松:環境経営は、一般的にいえば出口としてのバリューが見えずらいんです。でも、環境経営を突き詰めて考えていくと、高付加価値経営へとつながる要素が、はっきりと見えてくるんです。そこに普遍的なテーマが浮き彫りになってくる。
小林:私は環境先進都市のイメージを「よい子が住んでるよいまち」と表現してきましたが、「よい子」とはつまり、高付加価値になる、ということなのかもしれませんね。
― 大丸有では、エコッツェリアを拠点にまちづくりを中心にしたエリアマネジメントに取り組んできました。今後、このエリア全体がもっと高付加価値に進化していくにはどうしたらよいでしょうか。
小林:大丸有というエリアには、多様な企業や人材がだんだん集積してきましたね。コミュニティバスが走り、高層のオフィスビルの中に赤提灯の居酒屋もあればオシャレなカフェもある。生グリーン電力を導入したり、丸の内朝大学を開催したり。いろいろな魅力が生まれていてとても面白い。「まち」が新しいライフスタイルを発信しているんです。そういう取り組みをもっと広げていくことで、まちそのものが高付加価値になっていくのではないでしょうか。
小松:小林先生のおっしゃる「よい子が住んでるよいまち」というフレーズは、環境的な価値は単体の価値だけでない、という意味を含んでいると思います。一つの企業の中で深く掘り下げる縦の価値と、ステークホルダーとの横の関係の中での価値、つまり縦と横とのかけあわせの中でトータルの価値が見えてくると思うんです。
小林:その中で、顔をつきあわせて議論する「サロン」は、情報を文字で読むのとはまったく違う体験を提供してくれる。交流による組み合わせや擦りあわせを重ねていくことによって、新しい価値が出てくる。形而上的なアウフヘーベンや異種同士のコラボレーションなど、いろいろなアプローチで価値を作っていく時代に突入したということでしょう。今後は、環境経営サロンと他地域のそうした取り組み、サードプレイス的サロンとの交流も、面白いでしょうね。あるいは、組織の中にいる下積みの人の話を聞く会、中間管理職の人の会などをセットしても面白いかもしれません。それと同時に、環境経営サロンでの議論を、消費者にどう伝えていけばいいのか、というテーマもあります。企業と消費者とが互いに共進化していくためには、広告代理店とか調査機関、情報発信に携わる人々も参加してもらう必要があるのかもしれません。今までは、個社を見てきましたが、これからは、どうやったら環境についての新しい価値が社会に伝わり、共有化されるのか、といったあたりも大切な要素ですね。
小松:メディアや媒体が重層的に折り重なってくることが大切でしょうね。社会の変化の中で広告業自体も、今までのビジネススタイルではなかなか仕事が成り立ちにくくなっていて、お互い共進化にむけて変わっていく過程にあると思います。また、環境といえばCSR担当者が参加する、という形でよいのか。もっと広い範囲の人の参加も促したいですね。それから、これまで無料で誰でも参加できた集まりを、ちょっとだけ有料化することで意識のハードルができ一定のレベル以上の人が集まる、ということもありえますね。完全にオープンなコミュニティだけはなく、しかし、特定の人だけのクローズでもない、そのちょうど中間、ちょっと閉じているコミュニティに私は関心があります。今回のサロンも似ていますが。そうした中間的なコミュニティでは、課題を共有する力が強いので、より鮮度が高く明確な議論や情報共有ができるような感じがします。
小林:今回の環境経営サロンには、大小とりまぜてさまざまな企業に参加してもらいました。それはいわば「企業町内会」なんですね。大丸有という「まち」の中に、そうした企業町内会が存在していて活発に機能していくことになれば、環境経営についての理解や取り組みもますます深まっていくことでしょう。これからも継続して、エコッツェリアがそうした企業町内会の集会場という「場」として機能していくことを期待したいと思います。
密接な関係を持つ複数の生物種が、互いに変化していくことで、安定した関係を作りあげていく。生物学では「共進化」と言うそうだ。今回の対談で、「共進化」は企業同士にもあてはまる、という指摘にはっとさせられた。「共進化」は企業の「サステナビリティ」を考える際にも大きなヒントになりそうな概念だ。企業もまちも、そこで働く人々も、「環境」というテーマで少しずつ自身を変化させながら共に育っていく。「環境経営サロン」がそうした「共進化」を手助けする場になれたらいいと思う。
慶應義塾大学教授
1949年東京生まれ。1973年、慶應義塾大学経済学部卒業。
同年環境庁(当時)入庁。1995年以降は、同庁地球環境部環境保全対策課長として、気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)の日本への誘致、同条約の京都議定書の国際交渉、我が国初の地球温暖化防止法制(地球温暖化対策推進法)の国会提出などを担当。環境管理局長、地球環境局長、大臣官房長、総合環境政策局長を経て、2009年7月より環境事務次官。地方の現場の環境行政も担当し、北九州産業廃棄物課長を務めた。また、研究教育の面では、パリ大学都市研究所への留学、米国東西センター客員研究員なども歴任。東大大学院工学系研究科都市工学専攻修了(修士)。博士(工学)。2011年1月に退官し、同年4月より慶応義塾大学大学院及び環境情報学部教授。
専門は、環境政策論、エコまちづくり、環境共生経済論。
金沢工業大学研究支援機構 産学連携室コーディネーター、合同会社「家守公室」代表。日本開発銀行ならびに日本政策投資銀行でロス勤務、地方開発部、交通・生活部、北陸支店勤務などを歴任した後、金沢工業大学へ出向。2006年に日本政策投資銀行を退職して現職に。地方の歴史や文化に根付いた、地域資源を生かす「地域資源活用型産学連携」プロジェクトの実現を目指して、さまざまな活動を展開している。大丸有「都市の食」ビジョン検討会座長。埼玉県出身。
エコッツェリアに集う企業の経営者層が集い、環境まちづくりを支える「環境経営」について、工夫や苦労を本音で語り合い、環境・CSRを経営戦略に組み込むヒントを共有する研究会です。議論後のワイガヤも大事にしています。