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「CSV経営サロン」では、「環境」をひとつの軸としつつ、社会問題の解決をどうビジネスにつなげていくか、検討を続けてきました。7年目となる今期のテーマは「東京オリンピック・パラリンピック(以降オリパラ)」と「持続可能性」についてです。
本年度最後、第5回となる今回のサロンは、「参加型社会」がテーマ。地球環境と人々の暮らしを持続的なものとするためすべての国連加盟国が2030年までに取り組む目標である「持続可能な開発目標(SDGs)」の17の分野のうちから、「女性活躍躍進」と「障がい者活躍推進」についての企業活動を取り上げます。
なお、現在アメリカ滞在中の"道場主"、主宰者・小林光氏(エコッツェリア協会理事、慶應義塾大学大学院特任教授)の代わりに、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のクリーン・エネルギーファイナンス部主任研究員、慶應義塾大学大学院政策メディア研究科特任教授である吉高まり氏が司会進行を務めます。
最初のプレゼンテーションを行うのは、住友化学株式会社のCSR推進部長、福田加奈子氏。「住友化学の女性活躍推進について」と題し、女性社員としての自身の経験も交えながら、その取り組みを話します。
「私が在籍しているCSR推進部は、本業を通じての社会貢献を行うことを目指すとともに、グループ全体にCSRの重要性を浸透させる役割を担っています。この"本業を通じて"というのが、仕組みとして回す上でもっとも重要なところです。当社の具体的な取り組みとしては、電気自動車の生産に貢献する電池を作ったり、家畜から出る温室効果ガスを低減する飼料を作ったり、というように持続可能な社会構築のためのソリューションを提供しています。そんな組織において、CSR推進部を、企業価値を上げるためになくてはならない部署にしたいという思いで5年間やってきました。そこで出会ったのが、SDGsでした。これからの時代、企業はCSRをきちんとPRし、有言実行であらねばならないと考えていた矢先であり、これはいい、と感じました」
SDGsの活用を社内に提案したのは、2015年7月。当時はまだまだSDGsの認知度は低く、理解されませんでしたが、諦めずに社内PRし続けたそうです。
「2016年には、SDGsを社内に広めるべく、『サステナブルツリー』というWeb投稿プロジェクトを立ち上げたり、SDGsを解説した漫画を11か国語で配信したりという活動をしました。そうした取り組みは、日本の企業の中では早かったこともあって、世間から注目していただくことができました。それを好機として、トップのコミットメントにより事業を通じて全員で取り組むという方向性を打ち出しました。経営陣に認めてもらうのは、もちろん簡単ではありませんでしたが、とにかく繰り返し、繰り返し、SDGsの重要性を伝えました。また、自社でSDGsのロゴを使ったバッジを作り、それを株主総会などで役員に着けてもらうよう提案しました。バッジを着けるからには、SDGsに対してそれなりの知識が求められるでしょうから、関心が高まると考えたのです。こうして少しずつ理解を広めていきました。」
住友化学WEBで公開されているコンセプト画
SDGsの中でも、特に力を入れてきたもののひとつが、「ジェンダー平等を実現しよう」という項目、すなわち「女性活躍推進」でした。
「グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)という団体があります。2003年に日本におけるローカルネットワークとして発足し、2008年から経営トップ主導型のネットワークへ移行。加入企業・団体の力をより結集し、持続可能な社会の実現に向けて積極的に活動を行っています。私はその分科会であるWEPs分科会の幹事をしています」
WEPsとは、2010年に国連グローバル・コンパクト・ネットワークと国連ウィメンが作成した「女性のエンパワーメント原則」であり、具体的には以下の7つの内容で構成されています。
①トップのリーダーシップによるジェンダー平等の促進
②機会の均等、インクルージョン、差別の撤廃
③健康、安全、暴力の撤廃
④教育と研修
⑤事業開発、サプライチェーン、マーケティング活動
⑥地域におけるリーダーシップと参加
⑦透明性、成果の測定、報告
「企業がジェンダー平等と女性のエンパワーメントを経営の核として位置づけ、自主的に取り組むことで、女性がより活躍し、それが企業活動の成長の活力となります。そして、ひいては企業の競争力強化にもつながっていきます。これからも日本社会のジェンダー平等の底上げへの貢献を目指していきたいです」
プレゼンテーション後は、質疑応答の時間が設けられました。もうひとりのプレゼンテーターである松井久憲氏(三菱電機株式会社執行役員 東京オリパラ推進部長)から、こんな質問がありました。
松井氏:「SDGsは、CSRの中ではKPIが分かりにくいこともあり、予算管理部門の対応は厳しいと予想されるが、予算獲得のためのアドバイスをいただけますか」
福田氏:「私もそこは苦労しました。お金がつかなければ仕事ができませんから。最初は、会社のPRになるというところから入り、漫画配信など話題作りを続けつつ、ホームページのアクセス数をまめに報告するなど、地道に積み上げていきました」
会場の参加者からも、手が挙がりました。
参加者:「SDGsの社内浸透をやってみて、経営陣の変化はありましたか」
福田氏:「明らかに変わったと思います。最初は、こんなことをしてなにになるのかとはっきり口にする人もいましたが、今では経営の達成目標を話し合う会議にSDGsという言葉が出てくるようになり、ツールとして手に馴染んできたという印象です」
一通りの質疑応答が終わった後、次のプレゼンターである松井氏が登壇しました。
プレゼンテーションのテーマは、「三菱電機が進める共生社会の実現に向けて」。創立100周年の節目となる2020年に向け、オリパラに向けた自社の取り組みと、共生社会について紹介していきます。
「創立100周年に向けた社内プロジェクトとして、2013年からいくつかの取り組みをしてきました。その目的は、まずオリパラを契機とした商談受注機会の最大化。これは、設備を納めるという通常の事業の延長線上にある話で、障がいのある方や高齢者、ベビーカーを利用する子育て世代に必要不可欠な設備であるエレベーター、エスカレーター、ムービングウォークなどの受注を目指しています。次に、企業プレゼンスの向上。オリパラに向けて、当社としてできることは何かを検討してきました。そしてもうひとつは、スポンサー業務の遂行です。東京2020組織委員会とのオフィシャルパートナー契約を結び、オリパラをバックアップします」
そうした活動の中でも、松井氏がもっとも大切にすべきもののひとつと考えているのは、パラリンピックに対する貢献だといいます。
「日本パラリンピック委員会のホームページには、次のような言葉があります。『様々な障がいのあるアスリートたちが創意工夫を凝らして限界に挑むパラリンピックは、多様性を認め、誰もが個性や能力を発揮し活躍できる公正な機会が与えられている場です。すなわち、共生社会を具現化するための重要なヒントが詰まっている大会です。また、社会の中にあるバリアを減らしていくことの必要性や、発想の転換が必要であることにも気づかせてくれます』。まさにその通りで、そこにパラリンピックの大きな意義があります。当社としては、パラリンピックの理解を通じ、障がいのある方も、そうでない方も、あらゆる人がお互いを尊重し認め合う共生社会の実現に貢献したい。そしてそれを、2020年以降も当社およびグループ会社に残るレガシーにしたい。そう強く思って、進めてきました」
三菱電機では、具体的に以下のような支援や普及活動を行ってきたといいます。
・オリパラを目指すトップアスリートを採用し、引退後のセカンドキャリアを心配するアスリートの不安を解消
・情報技術総合研究所の大船体育館をバリアフリー化し、車椅子バスケットボールチームの練習場所として貸出するなど、パラスポーツができる場の貸し出し
・全国にパラスポーツを普及するための活動として「Going Upキャンペーン全国キャラバン」を展開
「本日のテーマである共生社会の実現という観点からいうと、Going Upキャンペーンが特に関連性が深いかもしれません。これは、パラスポーツを実際に体験できる場を用意し、広く参加を呼び掛けるというキャンペーンです。2016年から始めて、全国17会場を回り、延べ35000名以上に参加いただきました。こうして広げていくことができたのは、集客力の高いイベントとジョイントしたり、地域の障がい者スポーツ協会と連携をとったり、メディアでの告知や理解促進を行ったりと、複数の方向からアプローチをしたからだと考えています。また、Going Upセミナーと題し、社員に対してパラスポーツの持つ価値や共生社会の実現に必要な多様性を伝えるプログラムも展開し、人材育成にも力を入れています。障がいを持つ方の雇用もそうですが、受け入れる環境づくりにしっかり投資を行い、整備する企業が評価される世の中を作っていく必要があると考えています。また、障害を持つ方が積極的に外に出たいと思えるような環境づくりに、事業を通じて貢献していきたいです」
続いて、質疑応答です。
吉高氏:「ご自身の活動を通じ、社内の雰囲気は変わりましたか」
松井氏:「社内の理解は進みつつありますが、まだ足りないというのが実感です。今後もキャンペーンなどで社内を巻き込みながら進んでいきたいと思います」
福田氏:「共生社会への理解を自社で広めるにはどうしたらいいでしょう」
松井氏:「パラリンピックのボランティアに参加してもらってはどうでしょう。また、いろいろな団体が障がい者スポーツをやっているので、接点を作るのもいいと思います」
参加者:「今回のパラリンピックに対する取り組みの、量的な目標設定はありますか」
松井氏:「KPIは、47都道府県を回った際の集客目標やWebへのアクセスカウントなど、細かく設定してきています。ただ、それだけではなく、取り組むことの必要性を繰り返し伝えて行きたいです」
ここで、第一部は終了。二人のプレゼンターに、改めて大きな拍手が送られました。
そして、グループディスカッションに移ります。
ディスカッションのテーマは、「2020年とその後に向かってどんなことをしたいか」というもの。プレゼンターも参加者に交じってディスカッションを行います。
「若い人をどう巻き込むか。発信の仕方を工夫するべき」
「周知する場合、相手によりどこをゴールにするかが変わってくるのでは」
各テーブルで、熱のこもった議論が交わされていました。
一通りの意見が出たタイミングで、ディスカッションは終了し、各テーブルで出た意見を集約して、代表者が発表します。そのやりとりの一部を紹介しましょう。
参加者:「私は新聞社で働いているが、SDGsをどう伝えていくか、メディアとしても試行錯誤しています。世間だけではなく、社内にも浸透させなければならない。オリパラがいい契機となってくれるでしょうか」 吉高氏:「SDGsは今後、2世代に渡って取り組まれるような内容です。いずれ必ず浸透していくと思いますが、日本ではオリパラが大きな役割を担うことは間違いないでしょう」
参加者:「障がい者の中には、東京のほうがバリアフリー化が進んでいるけれど、大阪のほうがよく人が話しかけてくれて暮らしやすい、という人がいます。ハード面の整備ももちろん重要ですが、ソフトもまた大切にする必要があるのではないでしょうか」 吉高氏「人と人とのコミュニケーションという意味では、東京はもっとも希薄な都市のひとつかもしれません。オリパラを機に、障害を持つ方々とのコミュニケーションが増えることでそれを打ち破ることができれば、人々の心もずいぶん変わり、共生社会に一歩近づくでしょう」
発表が終わり、最後にプレゼンターの二人から総評がありました。
福田氏:「女性活躍と共生社会というのは、実はまったく同じテーマで、多様性を持って働き、生きていける環境をどう整えていくかということです。これからも私なりに、できるだけたくさんの人を巻き込みつつ、思いのたけを伝えていきたいと思います」
松井氏:「障がい者スポーツの中には、誰でもできて非常におもしろいものがたくさんあります。ボランティアなどを通じ、それをぜひ、自分で体験してみてほしいです。そうした行動が、きっと共生社会を実現するための入り口となります」
会場は、大きな拍手に包まれ、本年度最後のサロンにふさわしい盛り上がりでの締めくくりとなりました。
この後は、恒例の懇親会です。そこで生まれた参加者同士の新たな結びつきは、多様性の根源につながっています。きっと参加型社会を作るための一助となることでしょう。
今回ご参加いただいた会員企業のみなさまは以下の通りです。
エーシーシステムサービス株式会社
清水建設株式会社
シャープ株式会社
ダイキン工業株式会社
日本郵政株式会社
パタゴニアインターナショナルインク
パナソニック株式会社
東日本電信電話株式会社
三菱地所株式会社
三菱電機株式会社
ヨシモトポール株式会社
朝日新聞社
株式会社アンビシャス
株式会社Unleash
株式会社クレアン
株式会社スポーツビズ
住友化学株式会社
西武信用金庫
株式会社パソナテック
株式会社熊本日日新聞
エコッツェリア協会では、2011年からサロン形式のプログラムを提供。2015年度より「CSV経営サロン」と題し、さまざまな分野からCSVに関する最新トレンドや取り組みを学び、コミュニケーションの創出とネットワーク構築を促す場を設けています。