イベント地域プロジェクト・レポート

【レポート】「復興支援のカタチ」を都市から考えてみる

丸の内de地方創生 第2弾 愛媛ライブ2018 DAY-1 2018年10月29日(月)開催

8,11

大手町3×3 Lab Futureを拠点に、さまざまな地方と都心生活者をつなげる企画を展開している「丸の内de地方創生」。2018年1月22日に開催された 前回に引き続き、「愛媛県」とのコラボレーションをテーマとして、2日間のワークショップが行われました。

今年7月、西日本を中心とした豪雨災害に見舞われ甚大な被害が、果樹栽培が盛んな愛媛県内にも生じたことから、今回は「復興支援のカタチ」をメイントピックにトークショー&ワークショップが行われました。最後には本イベントの特色でもある、愛媛県からの旬の食材を生かした熱々の料理と3つの酒蔵の地酒を合わせて楽しむライブ・キッチンも実施されました。

<第1回プログラム(10/29)>
18:30-19:30 第1部 愛媛ライブ・トークショー

      ~西日本豪雨被災後の復興活動や、食を通じた復興支援について~

       ①山口 聡子氏(西予市野村町地域おこし協力隊)

       ②比嘉 康洋氏(料理家・地域フードプロデューサー)
19:30-20:30 第2部 愛媛ライブ・ワークショップ

      ~東京と愛媛の関係づくり、復興支援のあり方について~

20:30-21:20 交流会 愛媛ライブ・キッチン

      ~愛媛食材を使用した比嘉康洋シェフの料理と愛媛のお酒~

モデレーターを務めたのは、大丸有「食」「農」連携推進コーディネーターの中村正明氏(東京農業大学客員研究員、関東学園大学教授、丸の内プラチナ大学農業ビジネスコース講師)。

昨年から継続されているテーマである、「愛媛の豊かな海・山・里の恵みを通じながら、都市とどうやって繋がっていくか」を引き継ぎつつ、奇しくも大変な被災をした状況に対して、都市からの「復興支援のカタチ」を考えてみる、という切り口に焦点を当てました。

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復旧と復興、さまざまな復興のカタチ

復旧と復興、さまざまな復興のカタチ

第1部トークショーの冒頭、今回の主催者である愛媛県の公益財団法人えひめ地域政策研究センター内・愛媛ふるさと暮らし応援センターの板垣氏から挨拶があり、二名のパネラーが紹介されました。

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一人目は、愛媛県 西予(せいよ)市 野村(のむら)町の地域おこし協力隊として活動し、NPO法人シルミルのむら副理事長でもいらっしゃる山口聡子氏。そして二人目は、"旅した先がレストラン" をコンセプトに料理家・地域フードプロデューサーとして活躍されている比嘉康洋氏。

「私は、もともと西予市の出身で、高校卒業後は東京に上京しフリーランスのセラピストとして仕事を続けていましたが、そのセラピストの仕事も続けつつ地域とのかかわりも持ちたいという想いから、副業として地域おこし協力隊に参加しています」(山口氏)

「株式会社マエストランサの比嘉です。私はもともと料理人で今も料理人ですが、"食を通して地域から日本を元気にする" というコンセプトから、食にかかわる全国のプロジェクトをやっています。最近ですと、東京でも10月から走り出した1階がキッチンで2階が25席の『レストランバス』や京丹後鉄道の『体験型食堂列車』を監修しました。また、被災した東北や熊本に「食で地域を復活させたい」という依頼から地域に入ることをしていまして、本日は "食と復興" という観点からお話をさせていただければと思います」(比嘉氏)

さらにコメンテーターとして、第2部ワークショップのファシリテーター役である田口真司氏(エコッツェリア協会)が入りました。

そして山口氏から野村町の特徴と被災状況のレポートが始まります。

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「西予市は愛媛県のまん中より少し下、海から山まで横に長い形の市になっていまして、海抜は0mから1400mあります。野村町は山側で酪農や養蚕といった第1次産業が多く、松山市からは車で2時間弱の距離にあり列車も無い田舎ですが、すごく自然が豊かな場所で8,165名の住民がいます。
この夏は多くの場所で豪雨被害があったと思いますが、7月に入ってから野村でも雨が降り続いていました。7月6日からはどんどん川の水量が増えていき、ダムが雨水をコントロールしきれなくなり、街の中心部が濁流に浸かってしまいました。7月7日には町全体が2mから5mまで浸水。5名の尊い命が奪われてしまい、600戸以上に浸水の被害が出ました。変電所や浄水場も水没してしまったため、停電と断水が1週間続きました。水が引いた後には汚泥が大量に残り、その後3週間ほど雨も降らず夏が暑かったため、町中にはなんとも言い難い臭いが充満していました」(山口氏)

町の機能が停止し非常事態に見舞われている状況に対して、野村町には四国に限らず全国から、様々な支援と共に一日1200人を超えるボランティアの方が集まったそうです。

「災害のフェーズには、壊れてしまったものを元に戻す "復旧の対応" と、町が再び元気になるための "復興の対応" の2つがあります。まず災害直後はボランティアの受け入れをしました。協力隊としては制約から動けなかったため、NPO法人の代表代理として被災三日後から人と物資の受け入れをしました。こんな時だからこそ元気になってもらえるようにと、炊き出し、子ども預かり、全般的な心のケアを中心に行いました」(山口氏)

ここで「復興の課題は地域ごとに違う」と、日本の各被災地を訪問されている比嘉氏からのコメントが。

「私は依然から東北から熊本、今回は広島の方にも行く機会がありましたが、復興の課題は地域ごとにまったく違う、ということを感じています。"復旧"はすごいスピードで進んでいきますが、"復興支援"はやはり時間がかかってくるもので、特に私は、被災した農家さんをどう立て直していけるか、という支援策を考えることが多いです。
東北に関しては、海沿いのエリアは津波で町が全部流されてしまった後の復旧に非常に時間がかかるということで、復旧が終わるまでの間どうするか、どう繋ぐか、という問題がありました。そこで漁業関係者や加工技術者の方々に東京にインターンに来てもらい、どういうニーズが利用者側であるかを直に1-2ヵ月体験してもらったこともありました。
また、つい先週、陸前高田市に伺いましたが、まだ復旧が3割までしか進んでいなくてほとんどが更地のままでした。被災してすぐの頃、まだクラウドファンディングが知れ渡っていなかった頃ですが、現地の牡蠣業者さんが、再び採れるようになるまで3年~5年かかってしまう牡蠣を、早くから個々のレストランを相手に先に買ってもらう"オーナー制度"を始めていました。そしてちょうどこの前、豊洲に市場が移転しましたが、その牡蠣業者さんは、一番の高値を付けて日本一になっていました。
町の復旧はまだまだでも、生産者さんはそういった支援で上手く立ち直った事例を多く見てきていますので、そのような支援の仕組みがいちばん大事なんじゃないかと思っています」(比嘉氏)

「まさにお二方も仰られている、復旧から復興、さらには復興のカタチは色々ある、ということが様々な被災地で起きています。そして当然同じ日本人として助けたい気持ちが我々のような都市の人間にもありますが、ついつい都市にいるとまず時間の使い方が違って短い時間で結果を出すということを仕事でやっているので、つい現地の現場に行くと答えを性急に言ってしまいがちなんですね。 それも寄り添うように言えれば良いのですが、こうすべきだという"べき論"を言ってしまって、現場に行って近づいたつもりが逆に離れてしまうということが、被災地支援に限らず地方創生に携わる場合に多いんです。ですので、"寄り添う"、"知る"、ということをじっくり時間をかけて取り組む姿勢がとても大事です」(田口氏)

地域を"復興"に導く準備・アイデア・人

次は"復興"についての詳細が山口氏から会場参加者へ共有されました。

「被災状況だったり、被災地によって復旧・復興のフェーズが違うとは思いますが、野村町は9月に入って仮設住宅ができあがりました。そのあたりから、なんとか生活をすることから、食べていくための生業の部分に少しずつシフトしていた感じがします。その中でNPO法人としてどんな復興対応ができるか。
私は東京で東日本大震災を経験したことをきっかけに愛媛に帰りましたが、途中で福島県いわき市の災害ボランティアに長期でかかわっていたことがあったので、災害が起きるとどういうことが起きるかが何となくわかっていました。
なので、まずした事として、被災から10日後には香川県の知り合いのカメラマンに撮影を依頼していました。というのも、被災した現地の人は写真を撮れるような状態ではないんですね。目の前の片付けへの忙しさや景色が変わってしまった辛さから、とてもシャッターを切れないんです。しかし、記録を残しておかないと、被災状況を正確に把握したり伝えたりすることが出来ません。なので、カメラマンには、定点観測的に何度も来てもらい、とにかく写真を撮っておいてもらいました」(山口氏)

その甲斐があり、NPO法人として復興支援金の準備をその後すぐに始められて、11月の「乙亥(おとい)相撲」の復活のクラウドファンディングに繋げられました。「乙亥相撲」は江戸時代末期頃から約百十数年続いている伝統で、そもそも当時に野村に大火があった際に以後大火が起きないことを相撲を神事として奉納、祈願することが発端で始まっており、野村の人もこれをやらなきゃいかん、という気持ちがありました。しかし、土俵が流されてしまっていて、どうしたら良いのかがわからなくなっていました。

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「そこで地域のお祭りと地域の象徴である土俵をつくる支援金を集めるクラウドファンディングをFAAVOで始めました。結果、196万6000円が集まり、新しい会場に土俵をつくることができました。また、クラウドファンディングの返礼品として、一緒に土俵づくり体験をするという項目を入れておりまして、多くの方に直接地域にかかわってもらう、知ってもらうことに繋げることができました」(山口氏)

山口氏の野村町での復興支援のエピソードに対して、ここでスピーカーが日本各地でプロジェクトに携わっている比嘉氏にバトンタッチ。さらなる地域復興の事例を紹介されました。

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「復興支援に入った人が、移住するケースは実はすごく多いんです。普段いままで地域に入ってこなかった人が入ってくるので、そういった人たちとうまい関係性作りをすることが面白いんじゃないかなと思います。
私自身も、丸の内朝大学で「復興プロデューサークラス」を作って実際に被災地に行っていただく人を増やしたり、"ビールの里づくり"をコンセプトに岩手県・遠野地区の地域リーダーになりそうな農家さんたちと6年がかりで年間8,000人が訪れる「ホップ収穫祭」イベントをつくったり、東京のビジネスマンたちと一緒に関係値をつくるプロジェクトをやっていることが多かったりします。
熊本の方は、インフラはもう復活していますが、観光客があまり戻ってきていないことと農業者が減ってしまったことが問題になっていました。そこで使われなくなった田んぼでカヤックに乗る「田んぼカヤック」で観光名所にしてしまおうとか、人手不足で収穫が追い付かなくなったいちご農園は「いちご狩り観光農園」にしよう、などといった発想の転換をして観光客を呼び戻す工夫をやっていたりします。
中でもけっこう有名なのが、阿蘇が長らく停電していた時に阿蘇の星空がものすごく綺麗であることがわかって、その発見から生まれた「阿蘇の星空を見るツアー」が大人気になっています。被災したことをきっかけに、星をテーマにして観光が成り立つということに気づけたというのはとても面白い事例だなと思いました。東京や各県からボランティアで人が地域に入ってきているときに、様々な関係性を持った面白い人たちとアイデアを練りながら進めていくことが、良い結果を見つける近道なんじゃないかと思います」(比嘉氏)

まずはとにかく考えてみることで、地域とつながりだす

第2部は参加者同士でのワークショップの時間に。

まず第1部の「ライブ・トークショー」を聞き、愛媛の現状について感じたことをテーブル毎にシェアを行い、最後の30分を使用して「首都圏と愛媛をつないでできる実践アイデアを考える」というお題に取り組みました。各参加者からは本当に幅広いアイデアが飛び出し、一緒に参加した愛媛県関係者とも活発な意見交換が行われました。

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途中、中村氏からは28万人のオフィスワーカーが働く大丸有エリア(大手町・丸の内・有楽町)の独自視点で生産物の品評会、交流会、商談会を行い、地方の生産者の商品価値向上をサポートを行っている「大丸有フードイノベーションプロジェクト」の事例紹介があり、田口氏からは環境ジャーナリスト枝廣淳子さんの著書『地元経済を作りなおす』から地域経済をバケツに見立て、都市から入った資金が地域内で何度も循環するような施策の重要性についても語られました。

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第2部の最後は田口氏より、「今日皆さんは、初めて愛媛のことを聞いて、初めて愛媛のことを考えた。実はこれはすごいことで、今まで繋がりが無かった人が繋がっていく、この連続が地域とのつながりへの良い循環を生んでいく一つの事例です」という言葉で締めくくられました。

愛媛の豊かな里の恵みを味わって

第3部は、参加者お待ちかねの「ライブキッチン」の時間です。
比嘉シェフ率いる料理人チーム3名がア・ラ・ミニッツで熱々の料理を提供しました。

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「猪肉と根菜のポトフ」
愛媛の山と大地を感じられる食材を使用。豚よりも甘みが強く感じられる猪の脂が煮込まれることで溶けだしたブイヨンを、鰹だしで割って半和風にアレンジ。日本人ならばついお替わりしたくなる味わいで、参加者からは大好評でした。

「小松菜のサフランライス」
油で炒めて凝縮された小松菜の驚くほど滋味深い旨味が、シンプルでありながら見事にサフランの風味と融合します。

「白菜とほうれん草のグラタン」
チーズをほとんど使わずにベシャメルソースとのみ合わせることで、野菜の甘みとコクを引き出しつつ、後味は非常にライトなグラタンに。表面には事前に炒ったパン粉を載せてオーブンで仕上げているため、時間が経ってもサクサクな食感が続きます。

「みかんのレアチーズケーキ」
香りがとても濃厚な愛媛みかんの素材力を生かしつつ、ふんわりムース生地とカリカリのチュイルのコントラストが同時に楽しめる一品。

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料理と共に、松山市の津田酒店・津田高啓氏により、被災した西予市・大田市の3蔵からの地酒が振舞われ、参加者たちの頭と胃袋は愛媛一色で満たされ、会場内の談話はますます熱気を帯びていきました。

愛媛ライブ2018第2弾、そして今後の進展にも是非ご注目ください。


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