CSVビジネスの創出を目指し、2014年までの「環境経営サロン」と「CSRイノベーションワーキンググループ」が発展的に統合された「CSV経営サロン」。今年はセミナー形式の座学と、CSVの現場に出て、リアルな体験をしながら実地で学ぶフィールドワーク形式の2つを取り入れて開催していきます。
前回のセミナー回でご登場いただいたイトーキの平井社長にちなみ、初めてのフィールドワークとなる8月31日のCSV経営サロンは、同社の「イトーキ東京イノベーションセンターSYNQA(シンカ)」を会場にして行われました。当日は、SYNQAの見学を行うとともに、CSV活動に関心の高い参加者同士のセッションで"共創"についての理解を深めるワークショップも行っています。司会、ファシリテーターは、エコッツェリア協会の山下氏、企業間フューチャーセンターの臼井氏が務めました。
冒頭のイントロダクションで、本サロンを企画運営するエコッツェリア協会の平本氏から、前回の振り返りとともにサロンの目的などのインプットがありました。平本氏によると、サロンは「学びと情報交流の場として、セミナーとフィールドワークの2階建て構造」になっており、ワークショップや見学、交流会などを通して会員企業の「要望とシーズを吸い上げ、プロジェクト化、ビジネス化を目指す」そうです。「プロセスを体系化し、ソーシャルセクターや自治体ともつながり、プラットフォームを構築したい」と目的を掲げるとともに、「社内のバカもの、ヨソものをどう育てるのか、"創発人材"の育成にもアプローチしたい」と話しました。
前回の、イトーキ平井社長の講演の振り返りとしては、同社が「単にオフィス家具を作り販売する、ということから、クライアントの悩みを聞いて解決策を提案する営業スタイルが必要となり、そのために"ソリューション営業部"が新設」された経緯を改めて紹介。その拠点が今回のフィールドワークの会場となったSYNQAであり、「イトーキのCSVビジネスの基礎」になっているとし、今回のフィールドワークにつながったと経緯を説明しています。
続いて登壇したイトーキの岡田氏は、明治から近年に至るまでの同社の歴史を概観し、主力事業であるオフィス環境は、景気の影響を受けやすく、市場が不安定なりがちであることを紹介。「それは仕方のないことだと感じていたが、痛みを伴う議論の結果辿り着いたのが、"価値"を感じてもらえる提案ができていないのではないか、"最良価値"を提示すれば良いのではないか、という結論」だったそうです。
その「最良の価値」を提案して、「顧客の課題」「共通の社会課題」の解決に前向きに取り組むために新設されたのが氏が所属するソリューション営業部でした。とはいえ、「以前は自分たちが作ったものの良さを一方的に訴えれば良いと思っていたが、押し付けでは難しい」ことに気付き、「オープンにコラボレーションし、共通の価値を提供する場」が必要であるとの認識からSYNQAが設立されたのです。このほか、やまとまちのつながりを取り戻す、国産材活用ソリューション「Econifa(エコニファ)」、働きながらカラダとココロの健康づくりを目指す健康ソリューション「Workcise(ワークサイズ)」も同様に共通価値創造というコンセプトから立ち上げられているそうです。
岡田氏からの紹介の後、SYNQAの見学へと移りますが、見学のポイントとして3点の提示がありました。 ひとつは、都心のRC造では初となる大規模木質化オフィスであること。日本では7番目(世界でも46番目)というFSCプロジェクト認証(全体認証)も取得しており、環境貢献度も極めて高いそうです。2つめは、新しい働き方を取り入れたワークプレイスになっている点。環境配慮型、省エネルギー設計、健康志向、コミュニティー機能の向上等々、オフィスに今求められている新しい多様な価値が盛り込まれています。 3点目は、「新しいモノ」を社員自らが試し検証する実証実験スペースになっている点。実用化以前の、さまざまな商品が試験的に導入されており、効果測定などを行っています。
この後、3つのグループに分かれての見学へと移りました。1階は実験的なコ・ワーキングスペース、イベントスペースの「ワークカフェ」。2階は会議・プロジェクトスペースの集合体「Team Lab」。Team Labは、プロジェクト拡大のためのコラボスペースとのこと。3階はSYNQAオフィスと呼ばれ、実際に社員が勤務しながら、さまざまなトライアルを行っているフロア。各グループは、それぞれの解説を受けながら、1時間ほどかけてじっくりと見学して回りました。中でも、3階のSYNQAオフィスは、ワークサイズと連動した仕掛け、工夫が多く、関心を持つ参加者が多かったようです。また、同様にオフィス空間に求められる人と人との交流を促す仕掛けや工夫も、最先端技術によるものばかりでなく、ローテク、アナログ技術をも駆使して作られており、"新しいオフィス"のあり方について考えさせられた点が多かったようでした。
見学の後は、テーブルごとに感想を語り合い、キーワードを抽出するワークショップを行いました。多様な要素が詰まった空間でのフィールドワークだったためか、ワークで出された感想・意見も非常に多彩に。「木質空間が心地良い」「働いている人の笑顔が素敵」といった、シンプルな感想から、「コピー機等の共有機器の位置が良い」「床材に柔らかい杉材を使っている点が秀逸」という技術的な(高い)評価、さらには「●●があったほうがいい」「効果測定をすべき」といった要望、課題等まで、非常に幅広い意見が出され、セッションは大いに盛り上がりました。
ファシリテーターの臼井氏は、今回のフィールドワークとそれに続くワークの狙いを「"オフィス"というひとつのテーマに集中的にアプローチすることで、それぞれの企業が持つリソースや課題を浮き彫りにすること」であったとしており、その点、SYNQAが多角的に考えることができるオフィスであったために、「視野や考える幅が広がり、狙い以上の効果があった」と今回のフィールドワークが予想以上の成果を上げていると話していました。
セミナーだけでは分からないリアルな空気や実態を感じ取れるのがフィールドワークの利点ですが、今回はそのメリットを目一杯発揮されたフィールドワークだったと言えるでしょう。このセミナーとフィールドワークの繰り返しによって、CSVビジネス創発が加速することが期待できそうです。
エコッツェリア協会では、2011年からサロン形式のプログラムを提供。2015年度より「CSV経営サロン」と題し、さまざまな分野からCSVに関する最新トレンドや取り組みを学び、コミュニケーションの創出とネットワーク構築を促す場を設けています。