2月22日、CSV経営サロン第5回目のフィールドワークが開催されました。これは今年度最後のサロン開催でもありました。第5回のセミナーで登壇した明治安田生命相互保険会社(以下明治安田生命)の永島英器執行役企画部長の講演内容を受け、講演にあった、明治安田生命の「感動実現プロジェクト・MoT運動」の一つとして行われている「丸の内部活動」を運営している村上治也氏、嶋田和洋氏の両名が登壇し、部活動実践の現状と課題を語りました。会場は明治安田生命ビル。
冒頭、本サロンの企画運営を行うエコッツェリア協会の平本真樹氏が挨拶に立ち、今年度の振り返りとともに、イノベーションタウン構築に向けた来年度の活動への期待を語るとともに、さらなる活動を参加者に呼びかけました。
講演に先立ち、ファシリテーターの臼井清氏の呼びかけで、講演テーマの"大人の部活動"にかけて「あなたの"部活"の思ひ出は」というお題でアイスブレイクを行いました。これは臼井氏も驚くほど盛り上がり、会場が温まりました。学生時代の「部活」は青春の熱く甘酸っぱい思い出と結びついているからかもしれません。
その後、メインのトークに登壇した村上氏は、まず同社の感動実現プロジェクト・MoT運動の経緯を説明。セミナー回で永島氏が語った内容をコンパクトにまとめたもので、プロジェクトが中期経営計画と連動して推進されており、企業風土の醸成、感動の瞬間(Moment of Truth)を創出する"人財"の育成を目指していることが解説されました。
その中心的役割を果たしている小集団活動「MoT運動」は全社的な取り組みで、全社統一テーマの活動に加え、所属部署独自の活動も認められています。その小集団活動のひとつとして、丸の内本社の企画部が独自に始めたのが「大人の部活動」です。
「丸の内を横串で通すコミュニティがなかなかないと感じており、地域貢献として何かちょっと変わったこと、意味のあることをしたかった」と村上氏。当初は阪神ファンの「猛虎部」(永島氏ご推薦とか)、広島に縁のある人で集まって、カープやサンフレッチェを応援する「広島部」などを発足させましたが、「もっと社会性のあるものは何かできないか、とパッと思いついたのがイクメン部だった」。
背景には、国策としての女性の活躍推進、まちづくりにおける丸の内の"ワイガヤ創出"という社会的な文脈があり、そこに沿った内容であったのが成功のポイントであるでしょう。子育てを担う父親を育成する、といえば聞こえは良いですが、ポイントは「イクメンになれない父親が集まって、一人では見きれない子どもたちの面倒をみんなで集まってやる」ということ。完璧でかっこいいイクメンではなく、その一歩手前のいわば"発展途上のイクメン"が集まって、みんなで子供の面倒を見て、その日だけはママの負担を減らすのです。
発足した2014年には結成パーティをはじめ、5回のイベントを開催(うち4回は子どもも参加)、2015年度は6回のイベントを開催。2014年10月の料理教室や11月の「イクメンフェス」では東京家政大学とのコラボレーションを行うなど、のべ500組を超える多数の参加者で賑わいました。イクメン部からスピンアウトし、ミキハウスとコラボして行っている「プレママ&パパセミナー」も好評で、1日1ステージでは間に合わず、1日2ステージ開催でも毎回即座に満員になるほどだそう。
NHKのニュース等でも取り上げられ、大きなムーブメントに成長した理由を、村上氏は「他企業が共通する価値を見出せるテーマだったこと」「企業間で役割分担したこと」と話しています。
続いて登壇した嶋田氏は、丸の内部活動の事務局リーダーとして、イクメン部含むさまざまな部活動全体を取り仕切っています。氏からは、部活動全体の取り組みの概要とともに、内外における部活動普及のポイントなどの解説がありました。
まず2015年のトピックスとして、「丸の内新大人部」「丸の内フレッシャーズ部」の設立などがありました。新大人部は、新たな"大人"のスタイルを模索することをめざしたもので、「おしゃれ」「粋」などのキーワードで活動を展開。落語会や大人の料理教室などを開催しています。
また、嶋田氏が「アウトドアが好きだから」という理由でスタートした山登りを楽しむ「丸の内山楽部」を中心に、イクメン部でもアウトドア企画が広がっていることを紹介。「ちょっとした面白みがあったほうが活動が広がる」と嶋田氏。こうした個人の思いに支えられているのが丸の内部活動の特徴といえるでしょう。
2014年は全7回だったイベントが、2015年には18回になり、大丸有ワーカーを中心にのべ1400名を超える参加者があったそうです。この急成長の理由を、嶋田氏は「会社、上司の後押しがありながらも、有志による小集団活動であることから、失敗しても大丈夫。まず"やってみる"という流れができた」のも大きな要素。また、「会社の業務ではないことから意思決定スピードがとても早いのも特徴」です。
この構造は、実は「イントレプレナー実践の場にもなる」と嶋田氏。自由度が高くスピードが早い。繰り返しトライ&エラーに取り組める。実ビジネスとは間接的な位相にある......。これはまさに社内ベンチャーや"2階建ての経営"と言われるものと同じ構造です。
また、「他企業と共有できるコンセプトで、それぞれの強みを活かして、みんなでCSRをやるという、いわば"オープンCSR"の形になったことも成功の理由のひとつでは」。これに通じますが、「なんでもかんでも自前でやることにこだわらず、積極的に他の企業の活動と一緒にやること」も、無理なく運営する秘訣になっているようです。
しかし、課題ももちろんあります。人とのつながりを生み出していくことは実ビジネスと同じベクトルとはいえ、「その効果発現はばらつく上に時間もかかる。営業現場の協力を得たくても、どう効果を測定するのか」が悩みのひとつです。また、活動のモチベーションが個人に立脚しているために「人事異動で活動の継続性が失われる可能性が高い」。組織力が必要になりますが、組織化すると硬直化する側面もあるのでしょう。「集まった人で、自発的に動く仕組みが必要だ」と嶋田氏。
今後は、「会社のCSR活動へ引き上げること」「他企業との新たなコラボレーション」「全国への普及」などを視野に入れて活動を続けていくと抱負を語りました。
登壇者への質疑応答を挟み、その後ワークショップを行いました。
ワークショップのテーマは「あなたも周りも熱中する"大人の部活動"とは?」「その実現のために明治安田生命と一緒にやれること、やりたいことは?」の2つ。「部活」をキーワードにしたアイスブレイクが盛り上がったように、ワークショップも非常に盛り上がりを見せ、各テーブルでは熱心な意見交換が行われました。本質的に人は「楽しい」ことを人に伝え、共有したいものなのでしょう。それを肌で感じることのできるワークショップでした。
全体シェアでは、そんな楽しく交わされた意見が発表され、中には意表をつくおもしろさのある部活案も見られました。例えば定年後に行き場を失った男たちの活動の場にする「シニア部/OB部」。山手線の各駅でうどんでもそばでもラーメンでも「麺」ものを2軒ハシゴし、バーで締める「麺々バー」。仕事とプライベート、遊びと知的の間のニュートラルな部活の提案などなど、多彩なアイデアが出されたのでした。
シェアを受けて、嶋田氏は「シニア部などとても興味深い活動アイデアをいただいた。社内でも共有し、今後の活動に生かしたい」と語りました。また、村上氏は「大人の部活動のポイントは、いろいろな企業と協同すること。その意味で、まさにこの場が部活動のようでもある。自分の企業ばかりに閉じこもっていてはいけないなと感じた」と感想を述べました。
今年度のCSV経営サロンはこれをもってひとまずの終了となります。しかし、これはほんの「序章」の終わりにすぎないことは、これまでのCSV経営サロンの参加者はよくよくご存知のことでしょう。来年度は、次のステージに上がるために、より具体的なアクションへと移っていきます。みなさまに於かれましては、乞うご期待。なのであります。
エコッツェリア協会では、2011年からサロン形式のプログラムを提供。2015年度より「CSV経営サロン」と題し、さまざまな分野からCSVに関する最新トレンドや取り組みを学び、コミュニケーションの創出とネットワーク構築を促す場を設けています。