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【レポート】メーカーと生活者の視点で考える、サステナブルな食文化に必要なこと会員限定

CSV経営サロン2021年度 第2回 2022年1月21日(金)開催

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企業が環境問題や社会課題の解決に取り組むことで、経済的価値と社会的価値を創造することを目指したCSV(Creating Shared Value)。エコッツェリア協会では、環境経営の最新の取り組みを共有し、持続可能な社会を実現するための議論の場としてCSV経営サロンを展開してきました。
今年度第2回は「新しい環境ビジネスを生む。サステナブル食品を例にして」をテーマとし、サステナビリティ実現に取り組むフード事業者と生活者の2つの側面から課題をディスカッションしていきます。

農水省によれば、2019年度の日本の食品ロスは約570万トン。日本の人口1人あたりに換算すると世界ランキングで6位となります。一方で、世界では水不足や食糧不足の問題も迫ってきており、メーカー、消費者、行政、小売店などのさまざまなステークホルダーが協力して持続可能な食の実現が求められています。冒頭開催の挨拶において、エコッツェリア協会専務理事の竹内が食料問題の課題と現在の日本の取り組みについて語り活発な議論に期待が寄せられました。
司会進行は、座長の小林光氏(東京大学先端科学技術研究センター研究顧問、教養学部客員教授)と、副座長の吉高まり氏(一般社団法人バーチュデザイン 代表理事)によって進められました。

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サステナビリティは、食料問題と環境問題を解決するための必須科目

サステナビリティは、食料問題と環境問題を解決するための必須科目

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店舗で食料品を手に取るとき、みなさんはどのような基準で購入しているでしょうか。値段はもちろん、栄養やカロリー、添加物といった健康の観点を基準としている人もいるかもしれません。ここに「サステナブルな基準を加えられないか?」が、今回の焦点の1つとなります。小林氏は、身近な食と環境問題のつながりを、G20で消費されている食料品の資料や欧州の法規制の紹介を通して、説明しました。

ノルウェーのNPO「EAT財団」がまとめた資料には、環境負荷と健康負荷のレベルを食品ごとに計測した表が掲載されています。その中で、負荷が大きい食品とされているのは赤身肉や加工肉。食肉は生産の過程で多大なCO2や穀物を消費するため、環境負荷が大きいことが明らかとなっており、資料の中ですでに日本は赤身肉を食べ過ぎだというデータが出されています。
また、現在EUでは、商品の生産過程で適正な手続きを踏んでいなければ、輸入を規制する法案(コモディティ法案)が提案されています。例えば、その商品の生産過程で森林減少を起こしていないか、などが審査の基準になります。もちろん、エネルギーは輸送過程でも多く消費されますので、輸入大国である日本は、特に考えなければならない問題です。

「値段や栄養などの指標だけでなく、さまざまな面に考えを巡らせないと、環境にどんどん負荷をかけていくことになります。今は、環境の恵みをお金の山に変えている状態。このまま環境を犠牲にし続ければ、お金だけが残ることになりますが、お金は食べることができません。そういったバッドエンドを避けるためにも、持続可能な形で食品を生産し、美味しく健康的に消費される循環を作り出していく必要があります。どうしたら環境に配慮した商品を手に取ってもらえるか、一緒に考えていきましょう」(小林氏)

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続いて、吉高氏から世界市場での環境問題の取り上げられ方と、東京都環境局とサステナブルライフスタイルTOKYO実行委員会の協働事業「DO!NUTS TOKYO」についての紹介がありました。
今、投資家たちの間でフードテックへの関心が高まっているとともに、吉高氏の専門とするESG投資の分野で、食品に関連するインデックスができ始めていると言います。具体的には、食肉業界の上場企業を選別するようなインデックスに日本の企業も入ってきているとのこと。ESGというと、日本では気候変動やエネルギーが中心となりがちですが、世界的には健康や生物多様性といった分野へ進んでいると吉高氏は指摘します。

「ダボス会議の2020年のグローバル・リスク報告書によると、トップは気候変動であったほか、生物多様性、天然資源危機がトップ10にランクインしています。グローバル・リスクが世界市場や投資家たちの動きに影響を与えていくことからも、いかに食と環境への感度を高めていかなければならないかがわかります」(吉高氏)

東京都では、ゼロエミッションの実現に向けてさまざまな取り組みを行っています。その一環として、市民・企業・行政・教育・NGOなどがアイデアを出し、かつ発信を行っていくプラットフォーム「DO!NUTS TOKYO」が発足されました。現在、18人の多様な背景を持つ若い世代がアンバサダーに任命され、企業とともにサステナブルな商品・サービス・ビジネスモデルの共創を展開しています。今回の登壇者である森永製菓の金丸氏は協賛パートナーとして、井上氏は若者アンバサダーとして「DO!NUTS TOKYO」に参画しています。「DO!NUTS TOKYO」が目指すのは、気候危機を乗り越えてサステナブルな未来を創造すること。吉高氏は、多くの方々への参加を呼びかけました。

企業と消費者を近づけて、フードロスを解決する

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金丸氏は森永製菓に勤めながら、コーポレートベンチャー「株式会社SEE THE SUN」を立ち上げ、業界の枠を超えた共創コミュニティ「Food Up Island」を運営しています。
「SEE THE SUN」では、食を通した社会課題の解決を目指す事業を展開。2017年の立ち上げ以来、さまざまな事業を行っていく中で、食産業の課題は一筋縄ではいかないことに気付いたと言います。

「世界では人口増加によって食糧問題が起きている一方で、日本の食品業界は人口減少でマーケットが縮小しています。ですが、人件費や原材料費などのトータル費用は上がり続けており、今後も下がることはありません。日本の食産業は、丁寧な味を量産できるという世界でも高い技術があるのに、小さな国内市場の中の価格競争で疲弊しきっている状況にあります。業界全体の問題なので、一個人でも一企業でもなく、全員で取り組まなければいけない。そういった背景があり「Food Up Island」を立ち上げました」(金丸氏)

現在、「Food Up Island」に参画している企業は大手食品メーカーなど8社。産業視点の課題と社会課題の両面からアプローチしていくことを目的とし、いくつかの分科会に分かれて課題解決の研究をしています。そのうちの1つである「2030年の未来社会デザイン分科会」で行ったワークショップについて紹介していただきました。

「60人ほどの参加者が、それぞれ未来の人になったつもりでライフスタイルを想像し、地球上の自然環境などの制約を受け入れた上で、どうしたら楽しい生活を送れるのかアイデアを出し合いました。それらが社会として実現したとき、今足りないものを現実にしていくのが企業の役目。最初に企業の未来像を描くのではなく、社会の未来像を描くことで、それぞれの参加者たちの間に企業や業界を超えた絆のようなものが生まれた気がしました」(金丸氏)

今回のテーマであるフードロスの一因として、企業と消費者の距離の遠さがあると金丸氏は指摘します。サステナブルな商品を開発しても売れるとは限らず、結果としてフードロスにつながってしまう。この問題を解決するためには、製造と消費の新しい関係性を作る必要があり、それには、企業と消費者がもっとコミュニケーションできる場が必要との考えに至りました。
そこで、2021年度からは「DO!NUTS TOKYO」と共同パートナーとなり、多様な考えを取り入れながら消費者との距離を近づけるための新しい仕組みを模索しています。Z世代の若者たちと意見を交わす中で、金丸氏が気づいたのは「余白」。企業が実現できていない部分をあらわにすることで、一緒に考える余白が生まれる。完璧でないことが、逆に若者=生活者との距離を近づけることにつながり、新しい価値を創造できるのではと金丸氏は言います。今後、アイデア公募などを通じて、さらに積極的に共創コミュニティの活動を広げていきたいと締めくくりました。

ウェルビーイングの観点で、気候変動問題をライフスタイルに組み込む

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「DO!NUTS TOKYO」の若者アンバサダーである大学生の井上氏からは、大学4年間の環境活動への取り組みと気づきについてお話しいただきました。
井上氏は、「Fridays For Future」の東京支部の立ち上げに関わったメンバーです。「Fridays For Future」とは、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリ氏がきっかけとなり始まった、気候変動対策を求める国際的な草の根活動です。東京都に対して環境政策を求めるために署名活動を行ったり、学生を対象とした気候危機サミットのワークショップを行ったりと、さまざまな環境活動を展開していきました。その結果、1年後には全国に支部が広がり、メディアにも取り上げられるなどの成果を得ましたが、井上氏は立ち上げメンバーとしての責任感や問題の大きさに絶望を感じることがあったと言います。この経験を通して、気候変動解決までの過程の中でウェルビーイングを保ちながら過ごすことが、井上氏のテーマになっていきました。

博報堂の社会人大学University of Creativity(UoC)第1期ゼミ「SUSTAINABLE CREATIVITY実践編」に参加したのは、「Fridays For Future」を辞めた1年後の2020年。年齢も専門性も異なるメンバーが集まる中で、さまざまなアイデアや活動が生まれました。井上氏は、イノベーションの大きさは多様性に比例することに気付いたと言います。

「スピード感は遅いかもしれませんが、多様性があるほど爆発的なイノベーションが生まれることを体感しました。UoCがきっかけとなりスタートしたプロジェクト「Tokyo Urban Farming」に参加し、現在は恵比寿のシェア農園でコミュニティマネージャーとして働いています。この都市農園、いわゆるアーバンファーミングが、環境問題とウェルビーイングを結びつけるヒントになるのでは、と考えるようになりました」(井上氏)

アーバンファーミングとは、都市の遊休地を活用した農的活動のことです。フードマイレージの削減や地産地消に寄与することができるほか、身近な農業体験、災害時の食糧補給、ストレスの軽減などにつながることから、日本だけでなく世界でも注目が集まっています。井上氏は、卒業論文でアーバンファーミングについての研究をする中で、興味深い結果が得られたと言います。
「アンケートやインタビュー調査の結果、アーバンファーミングの習慣化はウェルビーイングに効果的だということに加えて、自然とのつながりを通して、気候変動や環境問題に対する興味関心が増すことが明らかになりました。大学院でも引き続きアーバンファーミングの研究を重ね、将来的には、気候変動解決までの過程を、ウェルビーイングを高めながら過ごせる都市空間を実現したいと考えています」(井上氏)

消費者とともにストーリーを創造し、サステナブルな未来を開く

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メーカー側である金丸氏と生活者側である井上氏、それぞれの環境問題に対する考え方と向き合い方を受け、パネルディスカッションではさまざまな質問や意見が挙がりました。
小林氏と吉高氏からは、地産商品のブランドストーリーが消費者を惹きつけるために重要であること、ストーリーのある商品をどのように流通に乗せるかが課題であるとの認識が共有されました。その中で、商品化までが上手くいかない原因について、メーカー側の金丸氏は、企業の利益体質を一つの理由として挙げました。

「確実に売れるものを売っていく、という方向性が第一にあるため、ボリュームゾーンに一番受け入れられやすい「安くて美味しい」商品が優先されてしまうのが現実です。加えて、商品の入れ替わりのスパンが早いことから、新しい商品が出ても小売店で売れなければすぐにカットされてしまう。サステナブルな商品を普及させていくには、小売店の売り場を変えていくことも必要だと思います。今は、若い人を中心に意識が変化している過渡期だと思うので、販売数としての結果が出なくとも、あえてストーリーを伝えていくことも方法ではないでしょうか」(金丸氏)

また、消費者と企業の距離の遠さについては、大企業ならではの原因も挙げられました。

「消費者からの意見を吸い上げて選別する部署と、開発する部署とが分かれているため、どうしても消費者側の温度感までは正確に伝わらないのだと思います。また、企業のブランドイメージの問題もあります。イメージを崩さないように、どこまで情報を消費者と共有し合うのかは、研究していかなければならない課題の1つです」(金丸氏)

価値観を共有するまとまった数の人たちと、生産側とのパイプがあれば、流通販売の過程でもスムーズに商品化できる可能性も示唆されました。吉高氏からは、農水省が進める「みどりの食料システム戦略」を例に、サプライチェーンからサステナビリティ商品の市場を変えていく提案がなされました。現状の流通システムでは、メーカーは小売店に商品を置いてもらう立場になるため、メーカー側からの売り場の提案には消極的だそうです。メーカー側から提案していけるシステムも必要ではないか、との意見も共有されました。

消費者側の意識の改革については、環境に配慮したECモールとSNSを紐付けたアイデアなども提案されました。また、大学生の参加者からは、環境問題を取り上げたインターンがあれば参加してみたい、などの意見も。共通して挙げられたのは、価値観の押し付けではなく、自分からやってみたいと思える「楽しさ」や、ライフスタイルに組み込める「気軽さ」が大切ではないか、などの意見でした。

「サステナブルな商品を選んでもらうための意見として共通したのは、ストーリーを作り込んで消費者に訴えていくこと。そして、消費者との距離を縮めていくことで、面白いストーリーが作れるのではないか、ということ。人々の価値観が変わっていくためには時間はかかるでしょうが、時代と共に食習慣は変わっていくものです。今回の議論を通して、環境との関係を考えた食文化の浸透は、決して何世紀もかかる話ではないと感じました」(小林氏)

「気候変動と食は、切っても切り離せない関係にあります。企業は、フードマイレージを考えた製品を作っていかなければ、今後は世界の投資家たちから選ばれなくなっていくでしょう。一方で、サステナブルなライフスタイルの広がりのためには、共有感が大事になってきます。環境活動を仲間内だけで完結させるのではなく、それぞれの場所で自分が心地よい範囲で続けていく。ぜひ、それぞれの活動を共有して、新しいイノベーションやビジネスを作っていきましょう」(吉高氏)

最後に、小林氏と吉高氏から総括があり、第2回CSV経営サロンは幕を閉じました。企業からの参加者だけでなく、「DO!NUTS TOKYO」の若者アンバサダーの皆さんも加わり、活発な意見が飛び交う会となりました。

CSV経営サロン

環境経営の本質を企業経営者が学びあう

エコッツェリア協会では、2011年からサロン形式のプログラムを提供。2015年度より「CSV経営サロン」と題し、さまざまな分野からCSVに関する最新トレンドや取り組みを学び、コミュニケーションの創出とネットワーク構築を促す場を設けています。

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