ITで地方と東京をどう結びつけるのか――。昨年から、NTTデータとエコッツェリア協会は、宮崎県西諸県郡(小林市、えびの市、高原町)と連携して空間共有をテーマに、ハッカソンやトライアル実証などに取り組んできました。今年3月24日には、その1回目の実証実験とともにハッカソンのアイデアコンペ審査が行われていますが、それを受けて開催されたのが、8月20日「ITでつながる!宮崎の子どもたちと泥んこ祭り」です。
その名の通り、ネットで宮崎県小林市と東京をリアルタイム中継でつなぎながら、小林市では田んぼで、大手町では特設プールの泥んこ会場で、交流しながら同時に泥んこ遊びを楽しんじゃおうというもの。これは今年度の「エコキッズ探検隊」の特別プログラムとしても実施されているもので、小学校1~3年の児童らが東京・大手町に集まり、ITの力と泥遊びの楽しさを体感しました。
この日は前半、小林市の紹介やITの解説をする座学と、後半、泥を使った体験イベントの2本立て。座学の会場スペースと、泥遊びのための特設プール両方に中継用のカメラ・マイクが設置され、宮崎県小林市の様子とともに4元中継するプロジェクターも映しだされました。
冒頭の小林市の紹介では、「地理バッ地理塾」の澤内隆先生が登場、「小林市、バッ地理―!」の掛け声とともに小林市の場所や地理的特性などを分かりやすく解説しました。その後は、NTTデータの仕掛け人である吉田淳一氏が、ドラえもんの"どこでもドア"などを例に挙げながら、ITが拓く新しい関係性の可能性、未来について話しました。
後半は、子どもたちが分かりやすく、遊びやすいゲーム仕立ての体験イベントを3つ用意しました。1番目は「じゃんけんフェイスペインティング」。泥んこ会場と小林市の田んぼをつなぎ、じゃんけんをして負けたチームが、泥で顔に絵を描く罰ゲーム。2番目は「がちゃがちゃ玉でペアリング」。泥んこの中に隠れたガチャ玉を探しだし、中に入れられた名指しのメッセージ(質問)を使って小林市・東京間でコミュニケーションします。3番目は「泥文字かき対決」。お題に出された文字を泥玉で描いて、キーワードを探すゲームです。
泥んこ会場に移った子どもたちは、ゲームの開始前から軽く興奮気味。とはいえ、いかにも田んぼから持ってきたらしい、黒々とした泥を恐る恐る遠巻きに見ています。ちなみに今回の泥は、エコッツェリア会員企業である小岩井農場の協力を得て、わざわざ千葉県から持ち込んだものだそうです。
じゃんけんゲームでは、3チームに分かれた東京チームが連敗を重ね、泥でヒゲやハートマークを描かれる罰ゲームに甘んじることに。最初は泥を嫌がっていた子どもたちでしたが、手が泥まみれになり、服が汚れるに従って泥に馴染んでいき、どんどん楽しげになっていきます。
次のガチャ玉を探すゲームでは、待ちかねたように一斉にプールに突撃、真っ黒な手と顔で泥の中を一心に探します。「ぎゃー」「気持ちワルイ!」「でも気持ちいい!」。次々に上がる歓声は、すっかり小林市の子どもたちと変わらないものになっていたのでした。泥んこ遊びに地方も東京もありません。もっともプリミティブで、遊びの原点ともいうべき泥遊びで、子どもたちの心もひとつになったかのようです
NTTデータの吉田氏は、「小林市と東京を中継で結んで何が生まれるのか、これはひとつの実験」と話していましたが、泥んこ会場と小林市の田んぼをつないだ中継では、若干音声のタイムラグが出はしたものの、モニターに映る自分自身の姿の面白さもあって、熱心に取り組む子どもたちの姿が見られました。後半の最後には、小林市の田んぼで開催されている泥んこバレーに参加している東京組のメンバーが、カメラの前に立って子どもたちと言葉を交わすなどのコミュニケーションも交わしました。
遠隔地をITでつなぐ試みに対して、宮崎県側からも大きな期待が寄せられているようです。泥遊びの体験イベントの後、宮崎県と大手町をつないで、最後の挨拶を交わした際には、小林市の肥後市長、えびの市の村岡市長とともに、宮崎県、河野俊嗣知事も登場、「東京と宮崎が、こんなふうにつながって話せるなんてすばらしい」と話し、先日閉会したリオオリンピックのメダリストや関係者に宮崎県出身者が多いことから「みなさんも宮崎県の牛やお米を食べて、オリンピックを目指してください」と子どもたちに呼びかけました。
NTTデータの吉田氏は終了後に取材に答えて「(小林市の)田んぼに施設を持ち出すのに苦労があった。もう少し通信環境を整えられれば通信もスムーズになったのでは」と振り返りつつも、「ノウハウは蓄積できている。子どもたちの笑顔はやっぱり最高、ぜひまた開催したい」と、ITで地方と東京をつなぐ活動をさらに加速させていきたい考えです。
教育、地方創生、観光業、農業等々、さまざまな課題にまたがるプラットフォームとして、ITが果たすべき役割はますます大きくなることでしょう。
エコッツェリア協会も、大丸有エリアが「イノベーションシティ」として成長するために、このような地方と都市の結びつきを強め、課題解決に向けてアクションを起こしていくことに前向きで、今回のイベントについても高く評価しているそうです。ITで遠隔地をつなぐカタチを、今後他の地域でも活用することも検討していきたいと話しています。