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【レポート】未来の電力を救う「DER活用」、発展のために求められるものとは

第2回DER&グリッドセミナー「DER活用の課題を乗り越えるには?」2024年9月18日(水)開催

カーボンニュートラルの実現のために積極活用が求められる「DER(分散型エネルギー資源)」。再生可能エネルギー、蓄電池、EVなど、注目の技術が存在していますが、一方でそれらの運用方法や課題の抽出といったことに関しては、まだまだ議論を重ねる余地があることも事実です。そこで、一般財団法人電力中央研究所(以下、電中研)が音頭を取り、様々な事業者の取り組み事例の紹介や、ディスカッションを通じて見識を深める「DER&グリッドセミナー」を開催する運びとなりました。
9月18日に開催された第2回では、「DER活用の課題を乗り越えるには?」をテーマに講演とパネルディスカッションを行いました。その要旨をレポートします。

注)本文中の以下の用語について
DER:Distributed Energy Resources 「分散型エネルギー資源」
EV:Electric Vehicle 「電気自動車」
DR:Demand Response 「需給応答」
VPP:Virtual Power Plant 「仮想発電所」

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基調講演1 宮古島で進むDERの取り組み

基調講演1 宮古島で進むDERの取り組み

image_event_240918.jpg.002.jpeg株式会社ネクステムズの比嘉直人氏

最初に登壇したのは、沖縄県宮古島を中心に太陽光発電と蓄電池を組み合わせたシステムを展開し、社会コストの低減や需要家メリットの最大化、電力供給コストの低減を目指している株式会社ネクステムズ代表取締役社長の比嘉直人氏です。比嘉氏は「DER活用の課題、VPP・アグリゲーション運用時の課題」と題して、自社の取り組み事例とそこから感じるDERを活用する上での課題について説明しました。

同社が展開する事業は2つあります。ひとつは、太陽光発電と蓄電池等を無料で設置し、利用した分に応じて料金を徴収する再生可能エネルギーサービスプロバイダ事業です。もう一つは、再エネ設備等と連携した需給調整や、メンテナンス情報をリアルタイムに把握することでスムーズな保守管理を行うエリアアグリゲーション事業です。

「2018年の事業開始以降、宮古島の戸建てや集合住宅、事業所など、1,000軒以上に普及しています。一つひとつの住宅ではマネタイズができているので、さらに系統電力の需要制御に取り組もうと沖縄電力と連携しています。宮古島市にある来間島の住宅のうち、半数に太陽光発電を設置し、発生した電力を蓄電池に貯め、島内で発電した電力を島内で消費するシステムを構築しました。電力の安定化や、台風など災害時の非常用電源として活用しており、今後は他の地域にも展開できないかと考えています」(比嘉氏)

順調に成長をしている同社の比嘉氏は「宮古島の現状の再エネ率は15%ほどなので、主力電源化したと胸を張って言えるのは50%を越えたあたりから」とも言います。さらに、「分散型電源が入り切ってしまった時に起こり得る障害や課題に対処できるか」といったことや、「他の地域に展開していくためには、それぞれの地域特性に応じた普及モデルを作り出さなければならない」などの課題を挙げました。その上で次のように今後の展望を話しました。

「今後はフランチャイズ制度を設けながら全国で普及させていき、海外展開もしたい。創意工夫とイノベーションで課題を解決しながら、社会正義に寄り添った経営判断をする会社にしていきたいと思っています」(同)

基調講演2 DR活用の課題と展望

image_event_240918.jpg.003.jpegエナジープールジャパン株式会社の市村健氏

続いては、AIとIoTを駆使してエネルギーマネジメントを提供するエナジープールジャパン代表取締役社長の市村健氏をお迎えし、「VPP・アグリゲーション運用時の課題」と題しご講演をいただきました。

天然資源が乏しく発電のための燃料を輸入に頼る日本では、現在でも安定的な電力の供給には課題があり、電気事業の困難さが浮き彫りになっており、このような状況下で注目されているのが、消費者側が電力使用量を制御し、電力の安定化に貢献するDR(ディマンド・リスポンス)とのことです。市村氏からは、DRには「厳しいDRと緩いDRの2つがある」と説明がありました。

「厳しいDRは系統運用事業者由来の容量市場・発動指令電源や需給調整市場・各商品等を活用するDRのことで、リクワイアメント・アセスメントとペナルティが厳格なDRです。緩いDRは、計画値同時同量を達成することを主眼とした小売り事業者由来のDRで、経済DRとも呼ばれます。参加される事業者はbest effort、つまり可能な範囲内で対応すればよく、ペナルティなども基本的にはありません。DRの要諦となるのはリソースの確保と、制御指令がなかった場合に想定される電力量のベースラインの遵守です。これらを考慮した上で、一次エネルギー自給率の向上に貢献する太陽光発電を最適化するDRの活用が、今後の電気事業には不可欠です」(市村氏)

ただし、DRの更なる普及には課題もあります。例えばDRに参加する企業や家庭に対するインセンティブが十分ではないこと、システムが複雑なため、一般社会での理解が広がってはいないとのことです。こうした課題を解決するには、政府や電力会社、そして需要家側の協力が不可欠とも市村氏は語りました。

「一次エネルギー自給率を高めるには原子力の再稼働や新増設が不可欠だと思っています。その上で、需要側の熱利用等のリソースをカスタマイズして電化を進めていくことが重要です。電化を進めればDRリソースの増加も見込めるでしょう。これからはシェアの競い合いではなく、電化の競い合いになるでしょうし、その結果として、脱炭素などにも貢献していくはずです」(同)

講演3 再エネ大量導入における系統用蓄電池活用の効果

image_event_240918.jpg.004.jpeg一般財団法人電力中央研究所の大嶺英太郎氏

三番目に登壇したのは、電力中央研究所の大嶺英太郎氏(同研究所グリッドイノベーション研究本部ENIC研究部門上席研究員)です。大嶺氏は「需給調整力確保とレジリエンス向上に向けた系統用蓄電池の活用事例―米国加州におけるNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)国際実証事例の紹介―」と題して、再エネの大量導入に伴う需給バランス維持の困難化、送配電設備の混雑、系統全体の余剰電力の発生といった課題に対して、系統用蓄電池の導入・活用という方法を取った実証実験の模様を説明しました。

系統用蓄電池には、高エネルギー密度で短時間に用途に向くリチウムイオン電池、同じく高エネルギー密度で長時間用途に向くNASU電池、長寿命で長時間用途に向き、安全性も高いレドックスフロー電池があります。 系統用蓄電池の導入事例は国内外でいくつもありますが、その中から大嶺氏が紹介したのはNEDOがアメリカ・カリフォルニア州で行った実証実験です。この実験では、再エネ大量導入時の調整力資源としてレドックスフロー電池を活用し、カリフォルニア州独立系統運用機関市場における電力・調整力の取引に参加。同電池の有用性を検証したものです。同時に、災害など非常時において同電池を主電源とするマイクログリッド運用の検証も行われました。

「蓄電池を活用した電力・調整力の取引の状況を見たところ、単価が安いと想定される深夜、あるいは再エネの電力が余っていると想定される日中での電力取引が行われていました。効率的に充放電することで収益は改善傾向が得られました。また、マイクログリッドに関しては、66軒の実需要家を含むエリアで運用を実証しましたが、電力の安定供給を実現することができました」(大嶺氏)

こうした結果から、大嶺氏は「カーボンニュートラルを目指す場合において、長時間の充放電ができる蓄電池のシステム導入の割合が増えると見込める」と話しました。

講演4 海外における小規模負荷VPP事例の紹介

image_event_240918.jpg.005.jpeg電力中央研究所の坂東茂氏

続いて登壇した電力中央研究所の坂東茂氏(同研究所グリッドイノベーション研究本部ENIC研究部門研究推進マネージャー)からは、「国外事業者のVPPリソース確保のための工夫・対策」と題した講演が行われました。

坂東氏が国外におけるVPP(仮想発電所)の事業分析を実施したのは、2018年頃から国外では小規模な負荷を束ねてVPPを運用する事業者が出現してきたことが関係しています。規模の経済が働きやすい大規模な分散電源中心のVPPだけでなく、kW単位くらいの小規模な負荷を対象としたVPPの成功事例を把握したいという考えがあったからだそうです。

坂東氏が調査対象としたのは、数十MW単位以上の規模の需要側資源の登録が確認できた需給調整市場のうち、約1万4,600台の電気温水器を束ねて、VPP資源を二次調整力市場に提供しているアメリカのMosaic Power社と、バイオマスコージェネレーションシステムを束ねてVPPを構築し、世界最大のVPP事業者と言われるドイツのNext Kraftwerke社です。両社を調査したところ、Mosaic Power社の場合は集合住宅を中心に電気温水器を設置して一括制御し、無線通信やAIを活用したことなどが成功の要因だとわかったそうです。また、Next Kraftwerke社については、多角的な事業展開で収益を安定化させていることに加え、自治体と連携したVPP事業や、ワンストップでエネルギーサービスを提供できていることが活躍のポイントになっていると述べました。

「今後VPPリソースが拡大していくと考えられる中、電力の需給バランスを調整できるリソースも必要になってきますし、そのための手段として、調整力市場やエネルギー市場での調達が注目されていきます。日本では大規模な負荷を対象としたVPP事業はすでに展開されていますが、今後はより小規模な負荷を対象としたビジネスも広がっていくでしょう。例えば給湯器やEVの充電器などにVPPレディ機能を標準装備し、これらをVPPに組み込むことなども検討されていくと思われます」(坂東氏)

講演5 系統電力不足の中で求められるものとは

image_event_240918.jpg.006.jpeg電力中央研究所の上村敏氏

最後に登壇したのは、電力中央研究所の上村敏氏(同研究所グリッドイノベーション研究本部ENIC研究部門長)。上村氏は「系統の慣性力不足への対応と地産地消型地域グリッド、無効電力の価値」と題して、再エネの導入拡大に伴って生じる電力系統の課題や、その解決策としてのDERのあり方について解説していきました。

カーボンニュートラルの実現に向けて再エネ比率の向上が必要とされる中、電力系統には、送・配電線の空き容量の不足、需要と供給の不均衡、系統の安定性の低下(慣性力不足、電圧制御の難しさ)といった問題があり、これらへの対策としてDER活用が注目を浴びています。例えば地産地消型地域グリッドは、需要が小さいエリアで蓄電設備や可制御な負荷機器を設置することで、太陽光発電の発電ピークを抑制し、潮流のピークが下がった分、送配電線の設備コストを低減できる可能性があります。また、慣性力を付与するPCS(パワーコンディショナ)を開発することで系統の安定性向上に貢献したり、エネルギーのやり取りは行われないが電力系統への貢献ができる無効電力の利用にも注目が集まっています。こうした実情を紹介した上で、上村氏は次のようなコメントで講演を締めくくりました。

「慣性力を出す際には応答速度が早くないといけません。また、無効電力を制御するにはインバータ型電源の方が便利に出し入れできる特徴があります。こうした点に注意をしながら、今後どのような市場でどういった取引ができるのか、アンシラリーサービス的に対価を得られる可能性もあり、共に検討していけるといいかなと思っています」(上村氏)

パネルディスカッション

image_event_240918.jpg.007.jpeg左:モデレーターを務めた電力中央研究所の堤富士雄氏
右:前回となる第1回で登壇した株式会社eVoosterの太田豊氏もディスカッションに参加

パネルディスカッションでは、電力の小規模リソースの活用と蓄電手段の課題について議論が交わされました。

1. 小規模リソースの活用

坂東氏は、EVの蓄電池やヒートポンプ給湯器といったエネルギー貯蔵機能を持つ機器の可能性と課題について言及しました。これらは、蓄熱槽を使い電力を貯めて利用できるが、電力使用の予測が難しい点が課題として残ると述べました。

2. 蓄電手段の課題と解決策

比嘉氏は、リン酸鉄リチウムイオン電池が今後主流となるとし、オフグリッド蓄電池の可能性についても触れました。市村氏は、水素エネルギーに注目し、太陽光の余剰電力を水素に変えるプロジェクトの効率性を指摘、PEM型水電解槽を用いた水素製造と、電力系統安定化に資する高速調整力供出の可能性に期待を寄せました。

3. 今後の展望

上村氏は、ネットゼロ社会の実現には地産地消の推進と地域の合意形成が重要と述べ、技術や行動工学の重要性を強調しました。太田氏は、将来の技術開発と人材交流の必要性を指摘し、産業の進化を促すためには外部の技術を取り入れる必要があるとしました。

こうして、第2回「DER&グリッドセミナー」は終了の時間を迎えました。閉会の挨拶では上村氏からは「この2回のセミナーで築いた皆様との関係をここで終わらせるのはあまりにももったいないので、今後のビジネスに活かしたり、継続的に情報交換をしていきたい」という言葉も出ました。この「DER&グリッドセミナー」をきっかけに、今後の電力業界をリードする動きが出てくるかもしれません。どうぞご期待ください。

image_event_240918.jpg.008.jpegこの日の会場は満席となり、配信では約300名が参加。DERに対する関心の高さが伺えました

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