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3月19日、エコッツェリア協会は3×3 Lab Futureで「春さがし自然観察会&木材でオリジナル色鉛筆づくり」を開催しました。観察会というよりも、大手町・丸の内・有楽町(以下、大丸有)で春の兆しを探す小さな"探検"ともいうべき、ワクワクとドキドキの詰まったプログラムを実施しました。屋外の探検後は、木材を使ったオリジナル色鉛筆づくりにもチャレンジ。5組の親子に参加いただきました。
春さがしのガイドは、大丸有の生物調査に長く関わる"インタープリター"こと自然観察員の佐藤真人氏(NPO法人生態教育センター)。
「もう10数年、この大丸有で生物調査をやってきており、どの辺にどんな生き物がいるかも、だいたいわかってきました。今日は、そういった研究をもとに春の訪れを探しにいきたいと思います」
屋外へ探検に出る前に「蝶に代わって葉っぱを見分ける」というゲームでウォーミングアップしました。佐藤氏は、アオスジアゲハの写真を見せて、蝶が肢先にある器官で葉の味を感知し、幼虫が食べられる葉かどうかを見分けて産卵することを紹介。
「蝶の幼虫は、食べる葉が決まっていて、それ以外のものは食べられません。だから親は子どもが食べられる葉かどうかを見分けて卵を産まないといけません。前肢の先に、舌のような味覚を感じる器官があって、葉に止まるとそれが食べられるかどうかがわかるんです」
ゲームとは、紙袋に入った葉を蝶と同じように手だけで触って見分けるというもの。参加者は、触った葉の感触を覚えて、ステージに並べられた葉の中から同じものを選び出します。参加されたお子さんがチャレンジし、ほとんどが正解することができました。
「皆さん、正解することができて、これなら卵を生んでも、腹ペコ青虫みたいにならずに、育つことができそうです。きちんと違いがわかったと思いますが、ポイントは葉の大きさ、形、そして表面の手触りです。ザラザラしているか、ツルツルしているか。細長いのか、丸いのか。そういうところで見分けることができるでしょう」
今回出題に使われたのは3×3Lab Futureの近くにある公開緑地"ホトリア広場"にあるツツジ、クスノキの葉でした。ツツジは産毛のような細かな毛が表面に生えているのでわかります。クスノキは逆にツルツルの葉で、厚みもあってしっかりとしています。一言でいえば「葉」ですが、その実、さまざまな種類があり、特徴も異なっていることがわかります。
ツツジの葉には、「ルリチュウレンジ」という光沢のある深い青(瑠璃色)をしたハチの仲間が卵を産み付け、幼虫が葉を食べて育ちます。クスノキの葉には、葉にわるさをするダニを集めて捕まえる小さな穴があるそうです。佐藤氏からそんな葉についての豆知識も教えてもらい、葉についての理解を深めました。
屋外での春探しも、最初はゲームからスタートしました。その名も「葉っぱビンゴ」です。ビンゴカードとして、葉の写真が印刷されたプリントが渡され、ホトリア広場の中で、その葉と同じものを探してもらいます。
「すぐ近くにあるものもありますし、探さないと見つけられないものもあります。写真では緑に見えても、今の季節では枯れて茶色になって落ちているものもあるかもしれません。葉の形、ツヤ、手触りなどを参考に、いろいろ探してみてください」
ビンゴの題材になったのは、クスノキ、トウネズミモチ、コナラ、イロハカエデ、ケヤキ、クヌギ、エノキの7種。制限時間は10分で、全部見つけたと思った人は佐藤氏にチェックしてもらいます。特徴がはっきりしているイロハカエデやクヌギは比較的探しやすかったようですが、ケヤキとエノキ、クスノキとトウネズミモチなど、手触りや雰囲気が似ている葉では、迷ったり間違えたりする人もちらほら見受けられました。
植物の名前を教えてもらうだけであれば、観察であり、知識を得るということにとどまります。しかし、名前を知り、違いを探し、「これはこれである」と認めるという作業は「同定」です。「葉っぱビンゴ」というゲーム仕立てではありましたが、研究者の目を養う体験でした。ビンゴの後は、それぞれの植物の特徴を佐藤氏から教えてもらいました。
続いて皇居のお濠端へ移動し、歩道の植樹帯の木々や植物が、どうやって春を迎えようとしているかを観察しました。
最初に見たのはサザンカ。サザンカで見たのは、ある生き物の訪花です。サザンカは冬に咲く花で、生き物たちにとっては貴重な食べ物になるのだそうです。「どんな生き物が来るか、実は花びらを見ると、その足跡を見つけることができます」と佐藤氏。見ると、小さな穴が3つ空いている花びらが見つけられました。小さな鳥です。
「そう、実はメジロが来ます。実際にここでメジロが顔を真っ黄色にして、サザンカに止まっているのを見たことがあります。これは、花に顔を突っ込んで、蜜を吸っているんですね。花粉で顔が黄色くなっちゃうんです。食べ物の少ない冬には貴重な食べ物ですし、花粉を運んでくれるので植物にとっても大切なことなんです」
このように、歩道を歩きながら、春を迎えようとする植物と生き物を観察していきます。「非常食になるから覚えておくといいよ」というノビル。「白い部分を味噌で食べると大人の味で美味しい」そう。キュウリグサも大きくなり始めました。キュウリグサは、揉むとその名の通り、キュウリのような青臭い香りを放ちます。ドクダミの葉も小さく育ち始めました。この葉も揉むと独特の強い香りを放ちます。植物は体全体で、春に向けて大きくなろうとしていることがわかります。
槐(エンジュ)の木には、最後の実が残っていました。
「槐の実はサヤに入っていますが、中がネバネバしていて、実はあんまり美味しくない。でも、冬は食べ物が少ないから、仕方なくなのかもしれませんが、鳥も食べることがあります。それよりも、枝につくカイガラムシやアブラムシのほうが、鳥たちは好きで人気がありますね」
芙蓉(ふよう)は春に咲き誇る木で、5、6月にはたくさんの蝶が舞い集います。それを見越してか、裸木の枝にはカマキリの卵嚢(らんのう)がありました。
「ハラビロカマキリです。虫が集まる木なので、きっとここだったら食べるのに困らないだろうと思って産んだんでしょう。花の陰で蝶を狙うようになるに違いありません」
わかりやすい解説のおかげで、どんな見方をすればいいのかわかってきたようで、次第に子どもたちも自分の目と手で探すようになり、次々と植物を見つけては、佐藤氏に質問を投げかけていました。ギシギシ、カラスエンドウ、ハコベなど、春を迎えるたくさんの小さな草たちに出会うことができました。
まちの中で春を探した後は、3×3 Lab Futureに戻り"オリジナル大きな鉛筆"づくりにチャレンジしました。
大丸有のまちの中に生えている木々は、冬の間に、伸びすぎた枝を切る"剪定(せんてい)"という作業が行われます。剪定された木から取った枝を使って、大きな鉛筆を作ろうというものです。樹種はクスノキ、シマトネリコ、エゴノキの3種類あり、参加者には見て気に入った枝を自由に選んでもらいました。
本来、まちで剪定された枝はまちの利用者の手に渡ることなく適切な方法で廃棄されることが多いのですが、今回のプログラムのように人が利用できる新しい価値あるモノに作り替えることで、参加者には樹木がまちの貴重な資源であることやその資源の再利用することの大切さに気づくきっかけとなっていることでしょう。
枝にはあらかじめ色鉛筆の芯となるクーピーを差し込むための穴が開けられており、あとは先端を削って鉛筆の様にする作業。ナイフを使う作業でしたが、子どもたちは驚くほど素直にナイフの使い方に慣れていきました。子どもの柔軟性ってすごい。
そして最後に、佐藤氏から参加者に向けてメッセージ。
「今日は、葉っぱを触るクイズ、葉っぱを探して当てるビンゴをやりました。どの植物も、まちなかでよく見られる木ばかりです。皆さんの家の周りでも、ぜひ、これと同じ木を探してみてください。お濠でいろいろな昆虫や植物も見ました。虫と植物はお互いに関係しあっていることもわかったと思います。
私たちはただの自然観察ガイドではなく、なぜそこに植物があるのか、なぜそこに昆虫がいるのかといったことを多くの方に伝える"インタープリター"と呼ばれています。自然の翻訳者が私たちの仕事なんですね。
都内には、私たちのようなインタープリターがいる施設が、水元公園、葛西臨海公園、桜丘すみれば自然庭園などにあります。ぜひ機会があったら行ってみて、またまちの中を観察してみてください」
エコッツェリア協会では、気候変動や自然環境、資源循環、ウェルビーイング等環境に関する様々なプロジェクトを実施しています。ぜひご参加ください。