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東京駅日本橋口前から徒歩約1分という好立地にある「TOKYO TORCH Park」。2021年の開業以降様々なイベントが開催されるこの大規模広場では、エコッツェリア協会もいくつかの環境プログラムを開催してきました。その中のひとつが「TOKYO TORCH Parkから星空を見上げよう! ~秋空に月と惑星を楽しもう~」です。
一般的に自然に囲まれた野山で行われるイメージを持つ方が多い天体観望ですが、実はTOKYO TORCH Parkのような高層ビルが立ち並ぶ都心でも星を見ることができるのです。そのことを多くの方に知っていただき、星を見る楽しさや自然について考えるきっかけを提供しようというのがこの環境プログラムです。天文学普及プロジェクト「天プラ」協力の下、2022年9月16日に開催されたプログラムの様子をご紹介します。
この日はTOKYO TORCH Park開業1周年を祝う「TOKYO TORCH 1周年まつり」が開催されていたため、会場は大勢の人々でにぎわっていました
このプログラムは2021年に続いて 2年連続で実施されたものです。前回はコロナ禍での開催となりましたが、170名以上の方に都心での天体観望を体験していただきました。今回は、前年と比べて新型コロナウイルス感染症の影響が落ち着いていたことに加え、TOKYO TORCH Park開業1周年を祝う「TOKYO TORCH 1周年まつり」が開催されていたこともあり、とてもにぎやかな雰囲気の中での実施となりました。
「Mitaka」を使って宇宙について説明する高梨氏(写真左)。この日は10名の天プラスタッフも参加し、参加者に天体望遠鏡の使い方を説明したり、星空について解説をしていただきました
この日は、地球から25光年離れた距離にあること座のベガや、同じく430光年離れた距離にある北極星などを天体望遠鏡で観望することができました。また、会場には国立天文台が開発する宇宙シミュレーションができるフリーソフトウェア「Mitaka」も用意され、天プラの代表であり東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム特任准教授の高梨直紘氏の解説を受け、宇宙の全体像をイメージしながら天体望遠鏡に目を通し、実際に宇宙に触れられるという取り組みも催されました。
この日天プラに用意いただいた天体望遠鏡
プログラムは日没後の18時半からスタート。当日の東京は朝から晴天に恵まれていたものの、プログラム開催中には上空にやや雲がかかっていたため「絶好の天体観望日和」とは言えない環境でした。それでも、プログラムの共催団体である天プラメンバーの丁寧なセッティングとガイドによって星を見るのに支障は生じませんでした。本プログラムは事前申し込みが不要であり、開催前には参加者数を予測できない状況でしたが、スタート直後から多くの人が絶え間なく天体望遠鏡を覗いていました。参加者は家族連れ、仕事帰りの会社員グループ、若い友人連れやカップル、天体観望が好きな方など、実にバラエティに富んでいました。東京駅でプログラムのチラシを見て興味を持って参加したという女性は、「星座や宇宙に詳しいわけではありませんが、プラネタリウムが好きなので来てみました。天体望遠鏡を覗く体験ができたことも良かったですし、星や星座の名前を丁寧に教えていただきながら夜空を見られたのは貴重な体験でした」「東京駅の目の前で天体観望を体験したことで、自分たちの生活空間の延長線上に星空があることが実感できました」と感想を語ってくれました。また、天体観望が趣味という男性は、「普段は自然が豊かな場所で天体観望をしますが、都会で星に触れられるのもひと味違った楽しさがあります。それに、身近な場所で天体観望ができれば、子どもたちも楽しみやすいですし、宇宙や天体観望に関心を持ってくれるのではないでしょうか」と、まちなかでの天体観望の意義を話してくれました。
家族連れから友人同士、個人の方まで、多くの方に参加いただきました
さらに、8月にエコッツェリア協会と天プラで共催した「 自分だけのオリジナル望遠鏡を創ろう! MY 天体望遠鏡づくりワークショップ」の参加者の姿も見られました。小学生の子どもと共に、ワークショップで制作したオリジナル天体望遠鏡を持参した女性は、「ワークショップで自分だけの望遠鏡を作ってから星空や宇宙に興味を持ち始め、図書館で関連図書を借りるようになりましたし、晴れている日は必ずと言っていいほどオリジナル望遠鏡で夜空を眺めています。今日は高梨さんに改めて望遠鏡の使い方を教えていただいてとても楽しんでいましたし、また家に帰ってからも一緒に星を眺めたいと思います」と、宇宙や星空に魅了されている様子を微笑ましく話してくれました。
この日は、普段は天体観望に馴染みの薄い人の参加が中心でしたが、それでも、前回の2倍となる340名もの方が東京駅前での天体観望を体験してくれました。非日常的なお祭りという空間の中で、現代では非日常的な体験となった天体観望を楽しむ参加者たちの多くは、ハレの場での高揚感を表情に漂わせながら楽しんでいる様子でした。
8月に開催したワークショップで制作したオリジナル天体望遠鏡を持参してくれた参加者も
天プラ代表の高梨直紘氏
2021年のイベント、並びに8月のワークショップに続いて共催いただいた天プラは、研究者や天文学関係者、学生や社会人などの有志が集まって活動するグループで、2003年の設立以降、宇宙との楽しい付き合い方の模索・発信をしています。その代表を務める高梨氏にお話を伺いました。まず高梨氏は、この日のプログラムを次のように振り返りました。
「東京駅のすぐ近くという都心での開催だったこともあり、普段は天体望遠鏡を覗かない人が中心でしたが、星が見えることに喜んでくれる方が多く、私たちとしても楽しみながらプログラムを進行できました。中には8月のオリジナル望遠鏡を制作するワークショップに参加してくれたご家族もいて、その後星に興味を持ってくれたことや、望遠鏡の使い方や、宇宙を観察していて疑問に感じたことなどを質問してくれた点も、個人的に嬉しい出来事でした」(高梨氏、以下同)
このプログラムの特徴のひとつに、東京駅前という都心で星空に触れることが挙げられます。この点について高梨氏は、次のような意味があると話してくれました。
「天体観望が趣味の方でもない限り、日常生活の中で星を見ることは少ないと思います。そうした方々に対して都心で天体観望の機会を提供できると、その後の生活の中でもふとした瞬間に星空を見上げる機会が増えると思います。そうして『この前東京駅で見た星が今日も見えているな』と思っていただけると、人生の楽しみ方がひとつ増えるんじゃないかと思うんです。今日参加してくれた方の中にも、望遠鏡を覗いた後にとてもいい表情をしていた方がいましたし、何か心に響くものがあったら嬉しいですね」
その一方で、高梨氏は参加者とのコミュニケーションを通じて、いろいろなことを学べたと言います。
「今日見ていただいたベガや北極星は星空に親しむ際の"基本のキ"とも言える星たちでしたが、多様な年代の方がそれらの星を見て楽しんだり、感動したりされているのを見ると、自分が最初に見たときの感動を思い出させてくれたと感じています。また、今日は子どもも多く来てくれましたが、星空や天体に関してたくさんの質問を投げかけてくれる子、木星の衛星に興味を持つ子、ブラックホールが大好きで、何度も『Mitaka』でブラックホールを見せてほしいという子など、皆が夢中になっているものを教えてくれました。それもまた自分が忘れていたものを思い出させてくれると同時に、『自分も負けないように頑張ろう』と奮起できるありがたい出来事でした。これは私だけではなくて、今日参加してくれたスタッフたちも感じていたことだと思います」
高梨氏は、今後もエコッツェリア協会と連携して観望会やワークショップを開催していきたいという意向も口にしてくれました。大手町・丸の内・有楽町エリアのような高層ビルがひしめき合う場所でも星空に触れられるということは、日本全国どこでも天体観望を楽しめることを意味します。一日の終わりに、ちょっと夜空を眺めてみる。そのほんの少しの動作で、人は宇宙とつながれる──これからもエコッツェリア協会では、そんなことを実感させてくれる環境プログラムを開催していきます。乞うご期待ください。
ほんの少し夜空を見上げるだけで人は宇宙とつながり、人生の楽しみ方がひとつ増えるのかもしれません
エコッツェリア協会では、気候変動や自然環境、資源循環、ウェルビーイング等環境に関する様々なプロジェクトを実施しています。ぜひご参加ください。