イベント地域プロジェクト・レポート

【レポート】対立ではない"都市―地方"関係を目指す

トークイベント「燕三条“ものづくり”で“まちづくり”」

燕三条の持つパワー

TIP*S(中小機構)の岡田恵実氏と、3×3Labo(エコッツェリア協会)の山下智子氏が並んで司会に立ったのは、ある意味でエポックメイキング的な出来事であったかもしれません。

これは、トークイベント「燕三条"ものづくり"で"まちづくり"―工場の祭典を通じたまちの魅力発信―」のオープニングでのひとコマ。10月に新潟県燕市・三条市で開催される「工場(こうば)の祭典」を前に、都心でのPRをかねてTIP*Sと3×3Laboの共催で開催されたものです。冒頭のあいさつで、岡田氏は「東京と地方を対立するものではなく、対等に学び合う形にできないか」という思いから、「実際にフェスの実行委員の方に来ていただいて、生の声、思い、ストーリーを東京の人にも聞いてほしい」と今回のイベントを企画したと語りました。

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シビックプライドが醸成される地方とは

シビックプライドが醸成される地方とは

上から永塚製作所・能勢氏、武田金型製作所・武田氏、三条市役所・渋谷氏この日登壇したのは、工場の祭典実行委員会から委員長を務める能勢直征氏(三条市・永塚製作所)、武田修美氏(燕市・武田金型製作所)、渋谷一真氏(三条市役所経済部商工課)の三氏。燕市、三条市がどんな街なのか、どんな人々が暮らしているのか。そして、今年で3回目を迎える工場の祭典がスタートしたいきさつや、今年の見どころなどを、トークショー形式で語ってくれました。

能勢氏の永塚製作所は十能(じゅうのう)、火起こし、火バサミなど"火"にまつわる鉄製品を中心に、近年はゴミ拾いに使用するゴミばさみを製造販売し「スポーツゴミ拾い大会」に積極的に関与するなどメーカーの枠を超えて活動する企業。武田氏は、プレス用金型を製造する企業ですが、非常に多彩な金属を扱い、マグネシウムの引抜加工が可能な日本でも数少ない企業のひとつです。

ファシリテートする渋谷氏から、燕市、三条市の特徴を問われ、生まれも育ちも燕市の武田氏は、「子供のころから工場が遊び場で、それが人々の共通言語になっている」と、燕三条の人々が、生粋の工場人、職人であると説明。そして「良くも悪くもギリギリにならないとやらない、最後の追い込みになって初めて高いクオリティとスピードで仕事をするのが燕三条の職人さんたちの特徴」と語り、「燕時間っていうのがあって、18時30分に開催と連絡したら、19時に始まるのが普通。告知通り18時30分に始めると逆に失礼だと怒られる(笑)」と笑いを誘いました。

能勢氏は他県でサービス業に従事していましたが、跡継ぎに請われ、8年前に奥さんの実家である永塚製作所に入社。「とにかく言葉が違うので苦労した」そうですが、今では地元企業の集まりにも受け入れられるようになり、実行委員長を務めるまでに。ここまでで印象的だったのは「飲み会になると、ひたすら細かい技術について議論し合う。2次会、3次会になっても最初から最後まで技術の話。最初はそんなのが面白いの?と不思議に思ったほどだった」そう。

渋谷氏も「三条市の子供たちは小学校で鍛冶体験するし、鉄と鋼の違いも全員が知っている」と職人魂が育まれる環境であることを解説しています。地方創生の文脈で「シビックプライド」の重要性が語られるようになりましたが、江戸時代にルーツを持ち、今では世界的にも高く評価される技術を持つ燕三条では、ごく自然にシビックプライドが醸成されている。笑いの絶えない明るく楽しいトークを通じて、そんな燕三条の姿が垣間見えた気がします。

お金ではない価値を体験する

工場の祭典は、三条市で開催されていた物販中心の「鍛冶祭り」と、東京の出版社が開催していた「工場見学ツアー」を下敷きにスタートしています。燕三条の名だたる工場が一般に公開され、自由に見学できるいわゆる"オープンファクトリー"。「今年は68工場が開放されて、予約いらずで自由に見学ができる、ワークショップでモノ作り体験ができるといった特徴がある」(渋谷氏)。武田氏の武田金型製作所では、1時間ほどの金属加工プログラムで、金属製のオリジナル定規を製作します。三条の包丁メーカー「タダフサ」では参加費用1万円、丸1日かけて包丁を製造するワークショップもあるなど、非常に幅広い体験ができるようになっています。

そして、もうひとつの特徴が「ピンクのストライプ」。火をシンボライズしたピンクと、金属をイメージした銀色。参加する工場では、自由にストライプをアレンジして工場の祭典で開放していることをアピールします。また、登壇三氏が来ているTシャツを、開催期間中に着用し、ファッショナブルに装う職人さんもいるのだとか。

「現場でしか感じ取れない、火の温度や工場の音や振動から、感動を感じてほしい」と渋谷氏は話しています。1000円の包丁と1万円の包丁を店頭で比べると、値段の違いばかりがクローズアップされがちですが、「工場で作っている過程を見ることで商品の価値が伝わり、情緒的価値を感じてくれる」。物販イベントだけだったら結局のところ価格競争になってしまいがち。しかし、作る現場を見ることで、値段以上の価値を見出すことができるようになるのです。

"つながる"人と人、工場と工場

また、見る側だけではなく、開催している工場や職人さんたちにもメリットがあるのが工場の祭典の特徴です。

「職人さんたちが日々淡々と仕事をしている現場によその人が来てくれることで、職人さんたちが明るくポジティブになる」と能勢氏。また、工場の中は、整理整頓はされていてもあまり見た目にこだわらないのが普通で、「工場の祭典に向けてキレイにしてくれるのもうれしい(笑)」。

そして、工場の祭典のコンセプトは「工場で人をつなげる」。燕三条と他県の人々を観光でつなぐ、来場するクリエイターやデザイナー、バイヤーとつながり新しい取り組みが始まることもあるのはもちろんですが、さらに工場同士がつながり、交流が活性化するのも特徴のひとつ。「工場同士でもお互いの工場を知らない、見たことのない人が多かった」(渋谷氏)のが、「祭典でお互いの工場を知るようになって、仲間が広がって仕事を回し、お客さんを共有するようになった」(能勢氏)と、現場同士のつながりを深まっている事例があるそうです。

また、つなげるのは"今"だけではありません。「"ああなりたい"と思ってもらうことで未来の職人もつなぐ」(能勢氏)という効果もあります。これまでの開催で、工場の仕事に感銘を受けた芸術系の学生が燕三条に就職を決めたケースもありました。オープンになって、つながりを広げることで、さまざまな効果が生まれているのが工場の祭典の最大の特徴かもしれません。

地方創生のもうひとつのカタチ

この後、会場からの質疑応答も交え、工場の祭典の課題も提示されました。
そのひとつが現地での2次交通。「上から下まで30㎞の距離がある範囲で、歩いて回るのは難しい。電車の本数は少なくバスでは制約も多い。ツアーバスも組まれているが、自由度の高さを魅力とすると、もっと個人が自由に動ける方法はないか」と渋谷氏。自動車で回る人が多いそうですが、駐車場に限りもあり、難しい課題になっています。「時間通りに工場に来られないのも悩ましい。イベントを始めて、遅れてくる人がいると申し訳なくなる」と武田氏も指摘。「都会の人と時間間隔、距離感覚が違うのも問題かも」。

もうひとつの課題が、情報発信。東京の優れたクリエイティブブティック3社が、いわば"心意気"でお手伝いをしてくれており、そのグレードの高さはパンフレットなどの制作物を見れば一目瞭然。しかし、PR部分でまだまだ情報発信が不足していると渋谷氏は話しています。

10月の会期中、TIP*S/3×3Laboでは、燕三条訪問特別ツアーを人数限定で実施し、工場の祭典の現状を学ぶとともに、課題の掘り起しと解決に向けた活動に取り組む予定です。都市と地方、大企業と中小企業。都市も交えて地方創生に取り組む珍しい事例と言えそうです。


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