イベント地域プロジェクト・レポート

【レポート】新たな地域活性化のかたち

4月16日 第1回 DBJ&3×3Labo合同ワークショップ

強力タッグ、結成

DBJ(日本政策投資銀行)は2013年にオープンイノベーションプラットフォーム「iHub」を設立、新しいビジネスの創発に向けて活動を続けています。広島での多角的企業コラボレーション、大阪では複数企業とアライアンスを組んで「健康」「ヘルスケア」ビジネスに多角的に取り組んでいる例のほか、しっかりと各地で地盤を築いたブランチがあり、iHubを起点としたセミナーや交流を地方で開催するなどの活動もしています。
(iHubの取り組みについて>リンク

そのDBJが、エコッツェリア協会と初めてタッグを組み、合同ワークショップを開催。地域活性をテーマに、企業が取り組むイノベーション、ソーシャルアクションの可能性を探りました。

3×3Laboは「中小企業×大企業」「中央×地方」を軸に活動を展開しており、DBJの持つ方向性と親和性が高い―というよりも、今まで協働していなかったことが不思議なくらいシンパシーがあるといってもいいでしょう。この日は、両者とも地域活性に限らずソーシャルアクションの最先端に関わる"精鋭"が揃い、40名を超える人員が集まって高密度・高精細なワークショップを行いました。

続きを読む
魚心あれば水心あり。水魚の交わりのワークショップ

魚心あれば水心あり。水魚の交わりのワークショップ

冒頭、DBJを代表して中村聡志氏から挨拶があり、「今日のDBJのメンバーと多種多様なバックグラウンドを持った方々とのワークショップを通して、社内の人間とでは思いつけないようなビジネス創発につながれば」と期待を語りました。

DBJは全国各地に支店があり、人材などのリソースもあります。地域の課題も見えています。しかし、その次の"ラストワンマイル"的ステップに踏み出せないでいることが多いのだそう。多彩な人材を揃える3×3Laboとの協働で、そのステップを軽やかに踏み出したい考えです。一方の3×3Laboは、地域活性化のボトルネックである「資金調達」の課題を解決するヒントを見出したい。両者が持つリソースをがっぷり四つに組み合わせることで上のレイヤーに上がろうという両者の思惑がぴったりと合致した格好のコラボレーションです。

大丸有、大都市が果たすべき役割とは

ワークショップに先立って、3×3Laboから地域活性化の活動に取り組んでいる2者の講演がありました。

最初のプレゼンテーションは、「大丸有つながる食プロジェクト」プロデューサー、日本食文化文化機構で代表理事を務める中村正明氏。氏は東京農大卒業後、歌手だったこともある異色の経歴の持ち主で、一環して東京と地域を"つなぐ"活動を続けてきています。

「大丸有つながる食プロジェクト」は、大丸有の新たなまちづくりの方向性から生まれてきたプロジェクトで2012年にスタート。都市と地方、生産者と消費者を"つなぐ"新しい関係性を模索するため、フォーラムや生産者ツアー、行幸マルシェへの出店などを行っています。
「ただ"有機だから""無農薬だから"という理由だけで生産者を選ぶのではない。消費者のためになる食、つながりを取り戻す食、大丸有だからできる食を三本柱に、生産者と消費者を"つなぐ"活動をしている」と中村氏。

どこの誰が作った野菜なのか――? そんな基本的なことからも消費者が切り離されているのが都市の基本構造です。そこに新たな有機的なつながりを取り戻そうという試み。生産者もまた消費者に新たにリーチし、ビジネス的にはテストマーケティング、販路拡大などのツールともなります。これまでの2年間でさまざまな地域とリレーションを取ってきましたが、2014年に丸の内朝大学の復興クラスとのタイアップで、青森県と新たなつながりを得た事例を紹介。さらに今後は、「いろいろなコミュニケーションの中で、丸の内が担える役割として、生産品に"価値"を付ける、ということも見えてきた。商談会やマッチングに加えて、ブランド認定のような事業も行いたい」と中村氏。

一方で、地域活性の課題として「市民協働の欠如」「人材不足」を指摘。市民協働とは、市民、行政、企業、学校といったプレーヤーが同じテーブルで、同じ言語で語り、同じ方向性を目指す体制と言えるでしょう。中村氏は「今は市民協働の本質が理解されていないこと、また、さまざまなステークホルダー同士が話し合う土俵がないのが問題になっているように思う」とし、千葉県で「とみさと協働塾」「さくら塾」といったラウンドテーブルを構築し、活動の輪を広げている事例を紹介しました。

当日のプレゼンテーション資料より抜粋

また、人材不足については、コーディネーター育成、農業と企業をつなぐ共通言語の醸成のために「日本食文化コーディネーター養成講座」を開講、先ごろ第一期の修了生を輩出しているそう。

氏は最後に市民協働のイメージを「ドラムが行政、ギターが企業で、サイドギターは商工会。ベースは学校。そして、社協のコーラス、観光協会のパーカッションで市民・NPOがボーカルで歌う」と、分かりやすいたとえで示し、講演を締めくくりました。

現場だから分かること、浮き彫りになる課題

続いて登壇したのは、丸の内朝大学の東北復興クラスの第1期生として「遠野パドロンプロジェクト」などに携わる和良地(わらち)克茂氏。本業の不動産投資の仕事の中でも、地域と都市のビジネスリソースが未接続であることに課題意識を持っていた氏は、丸の内朝大学の「東北復興・農業トレーニングセンタープロジェクト」に参画するようになり、復興と地域活性化で精力的に活動を展開しています。

同プロジェクトは「東京のビジネスパーソンと、東北の農業現場の生産者をつなぐプラットフォーム」であり、「地域の新しい農業ビジネスを創出し、地域活性化を図っていく」ことを目的にしています。プロジェクトの東京サイドはビジネススキルと熱い思いメンバーが集まっていますが、「主役はあくまでも生産者」。生産者が課題意識を持ち、課題を顕在化させ、プロジェクトアウトしていくまでを、生産者とともに進めていきます。

その代表的な事例が「遠野パドロンプロジェクト」です。パドロンというスペイン原産のししとうを生産する遠野の農家をサポートし、商品化、流通確保、ブランド化を推進する取り組みです。流通のためのデザインや商品名を担当、マーケティングも行い、昨年はキリンの協力を得てキリンシティの39店舗でメニュー販売を行い、枝豆を超えるオーダー数をマークしたそうです。首都圏で活動するビジネスマンのスキルがあってこその展開でしょう。

遠野パドロンのポスターより抜粋

オンタイム、リアルでこうした活動に取り組んでいるため、提示した課題も実にリアルで参考になるものが挙げられます。「まず効果を得るためにとにかくイベントを1回やってみることが大切だが、(ボランタリーで参加している人が大半で)時間や経費の捻出、ミーティング場所の確保などに苦労した」というような、やっている人間ならでの意見には説得力があります。

示唆的なのが「(生産者ら現地のプレーヤーとのコミュニケーションでは)リーダーとファシリテーターは別にしたほうが良い」という指摘。今、首都圏では"地方の食べものや飲み物を楽しみたい"のではなく、"地方活性化に自分も参加したい"と考える人が増えています。それがボランティアで増えていることは喜ばしいのですが、それだけに人の配置が難しくもなります。「各メンバーの役割分担の公平性、世代間の意識や技術のギャップ」も難しい課題だったようでした。

現在も遠野パドロンプロジェクトは進行中で、冷凍フリットの開発と商品化、新規就農者の誘致などの活動に取り組んでいます。

ワーク白熱、迫真のブレスト

講演のあとはテーブルごとに感想のシェアを行ってアイスブレイク、いよいよ本番のワークショップへ。各テーブルは、DBJ、3×3Laboのメンバーが固まらないように入りじまった混成チームになっています。

ワークのテーマは「これからの地域づくりサポートのあり方を考える」。地域の中小企業の経営者が今、悩んでいるであろう8つの項目を挙げ、そこからひとつ選んでチームで打開策を考えていきます。
掲げられた項目は
・事業承継
・人材不足
・売上減少
・新規事業への挑戦
・販路拡大
・インフラ不足
・社内教育、人材育成
・大手企業との競合
選んだテーマに対し、「ありうべき理想の姿は何か」、そして「その実現ためにできるアクション」という2段階でワークを行いました。

双方"精鋭"が集まっただけにワークショップは白熱。それぞれが持つ課題を提示していくだけでも相当な深堀ができるうえに、多様で高いスキルを持っているために、それに対するアクションアイデアも幅が広く、多角的になります。主宰の3×3Labo、田口氏は「ぜひDBJの方は金融以外の考え方を、逆にそれ以外の人は金融の考え方をしっかりと持ち帰ってほしい」と促しました。

手で触れそうなくらいしっかりとしたプランも

ワークの後は、全体シェアが行われ、さらに多くの知見が得られました。ここではそのすべてを発表することはしませんが、ひとつだけ挙げると、地方の某蔵元の関係者がいるチームでは、DBJに日本酒の関連事業に携わるメンバーがいたうえに、地域活性化のプロデュース業に携わる人もおり、極めて具体的なアクションプランが掲げられ、近く視察を行う、というところまで話が進められていました。そこまで具体的なプランが出たのは稀ですが、一般的には、こうしたワークがアイデア出しの頭脳労働に終わり、現場へのリンクに欠けることが多い中、具体的でステップアップにつながる「現場感のある」ワークであったと言えるでしょう。

主宰の3×3Laboの田口氏は、「DBJのみなさんの熱量が非常に高く、公的性格の強い金融機関ならではの高い意識を感じることができ、各地で携わっている事例を多く聞くこともできて良かった。ただの発散に終わらず、具体性があり、実業につながる現場感もあった」と、今回の取り組みにしっかりとした手ごたえを感じており、「3×3Laboの目指すところとベクトルは合致すると改めて感じた。さらに一緒に活動を展開していきたい」と今後の期待を語りました。

同じく今回DBJ側の主宰で、弊サイトでのインタビューでも登場してくれた島裕氏も、強い手ごたえと今後の展開への期待を感じたといいます。
「DBJではどうしても各支店、その地域内での活動に終始してしまうきらいがあり、中央とのリンクを考えてこなかった。今回改めて中央との結びつきを考えることができた。3×3Laboとの共催で、ここに集まる多様で、強い自発性を持って地域問題に取り組む人々の激論にさらされたのも良い経験になった。今後、こうしたイベントを繰り返し開催し、ビジネス、サービスのアウトプットを中期的目標に据えることも考えたい」

さまざまな形で波及を

ソーシャルグッドな活動でも、団体や企業を越えて交流するのは意外なほどに難しいものです。ましてやビジネスアウトともなればさらに困難でしょう。

しかし、高い意識さえあれば、それも決して難しいことではないということを強く感じさせる共催イベントだったのではないでしょうか。両者の今後の活動にも期待したいし、多様な団体・企業間の交流のモデルとして、多くの団体、企業、人々の範になることも期待したいと思います。


関連リンク

地域プロジェクト

地方と都市との新しい関係を築く

「地方創生」をテーマに各地域の現状や課題について理解を深め、自治体や中小企業、NPOなど、地域に関わるさまざまな方達と都心の企業やビジネスパーソンが連携し、課題解決に向けた方策について探っていきます。

おすすめ情報

イベント

注目のワード

人気記事MORE

  1. 1【丸の内プラチナ大学】2024年度開講のご案内~第9期生募集中!~
  2. 2【大丸有シゼンノコパン】大手町から宇宙を「望る(みる)」ービルの隙間からみる、星空の先ー
  3. 3大丸有でつながる・ネイチャープログラム大丸有シゼンノコパン 冬
  4. 4【丸の内プラチナ大学】逆参勤交代コース 壱岐市フィールドワーク
  5. 5【大丸有シゼンノコパン】【朝活】大丸有で芽吹きを「視る(みる)」ー春の兆しは枝先からー/まちの四季
  6. 63×3Lab Future個人会員~2024年度(新規・継続会員)募集のお知らせ~
  7. 7【レポート】遊休資源が輝く未来へ 〜山形に学ぶ持続可能な地域づくりの挑戦〜
  8. 8フェアウッド×家具~ものづくりを通じた自然や生態系への貢献~
  9. 9指導経験ゼロから日本一のチームを作った「日本一オーラのない監督」が語る存在感と自己肯定感
  10. 10【大丸有フォトアーカイブ】第2回 みんなの写真展  2月21日~3月4日