和歌山県の南紀白浜空港から車で約5分の場所にあるワーケーション施設、WORK×ation SITe南紀白浜にて、地域連携ビジョン検討会(南紀白浜)が二日間にわたり開催されました。
エコッツェリア協会はこれまで日本各地が抱える様々な社会課題に対し、地域との連携機会を創出し課題解決に取り組んできました。今回、地域との連携活動をより活性化するためのシナリオを描くべく、地域連携施策の一つであるワーケーション事業に着目し、その先進事例を有する南紀白浜において現地メンバーとのディスカッションの機会を設けました。南紀白浜のワーケーションのメリットや今後の課題、地方創生まで様々な意見交換が行われた様子をレポートします。
今回の検討会参加者は、行政から和歌山県移住定住推進課ワーケーション担当、白浜町総務課企画政策担当、スポーツツーリズムやプロスポーツ選手などの合宿を誘致する団体役員など7名。民間企業からは、アドベンチャーワールド(株式会社アワーズ)のSDGs地域連携担当、白浜町の企業誘致で拠点を置いたIT企業の代表や会社員、農業DXに取り組む株式会社たがみ代表取締役社長の田上氏、宿泊業の株式会社白浜館の代表取締役社長中田氏など南紀白浜のキーパーソンら11名が集いました。さらに地方創生に関心を持ち「わかやまCREW」という地域体験を切り口に短期滞在可能な制度を利用し米作りをしている大学生も参加し、様々な立場から意見が飛び交いました。
検討会の冒頭、エコッツェリア協会のスタッフがこの検討会への期待や、これまで関わってきた地方創生の取り組みを通じて感じた思いなどを語りました。
「エコッツェリア協会は、東京で環境まちづくりからスタートし、さまざまな地域と一緒にそのまちの魅力を高めていくため、社会課題や、都市と地方のお互いの課題を共有して一緒に課題解決を目指しています。今回、ワーケーションを全国に先駆けてされている南紀白浜エリアの皆さんに、実際に取り組まれたメリットと課題をお聞きしたいです。また、ワ―ケーションに関しては、1回目の訪問があったとしても、2回目、3回目と持続していない現実もあります。持続することが課題であることと、私たち第三者の目線で地域をみて、都市の面白い企業や技術を送り込むことも検討できたらと考えています」(エコッツェリア協会 田口)
「地方創生に取り組み多くの方々とお話する機会を得て思うのは、人口減による地域の担い手不足や高齢化、宿泊場所不足等の全国的に共通する問題です。どの問題も核になる部分は同じだと感じました。また、首都圏に暮らす人でも地方創生を真剣に考える人がいらっしゃることを知れたのは大きな発見でした」(エコッツェリア協会 長倉)
「人口減少と共に、日本でエネルギーを自給できないのは非常に大事な問題です。エネルギーや食料の自給率の問題に対しては厚みを持った政策、私は『小さなグリット化』と呼んでいますが、人口が少ない地域だからこそ、電力などのコンパクト化が可能かを住民に了承を得ながら実証実験を行うといったことができるかもしれませんね」(エコッツェリア協会 三上)
参加者から、食やエネルギーの自給率低下の課題について技術のハイブリッド化から地産地消でできることを伸ばす発想に新たな発見があった等の声がきこえ、場の熱量は高まっていきます。
次に、現地メンバーの方々から南紀白浜ワーケーション事業の興りについて説明がありました。
南紀白浜は、東京・羽田から飛行機で約75分、青い海と温泉のある自然の豊かなリゾート地で、観光資源も豊富な国内外で人気のスポットです。現在は、WORK×ation SITe南紀白浜を中心に、 Wi-Fi環境の整えられたコワーキングスペースやキャッシュレスといったインフラ整備も進み、プロ野球やサッカー、ラグビーの選手が合宿できるスポーツ施設や、ヨットのナショナルトレーニングセンターなどの施設でスポーツ合宿もさかんに行われ、空港利用者もコロナ禍前よりも増え続けています。
そんな南紀白浜でのワ―ケーションは、2004年に空き保養所や有休不動産の活用、企業誘致からスタートしました。同年、和歌山県の持つ地域課題の一つの県外への人材流出に対応すべく、魅力的な雇用を生み出すため、県内にIT企業の集積地にする構想が立ち上がり保養所にIT企業を誘致するも、ソフト面での整備が不十分で思うような結果が得られませんでした。その後2014年に国が「ふるさとテレワーク」(オフィスへ通勤せず地方でテレワークをすること)施策を実施し、また同年大手IT企業が南紀白浜を拠点として業務を開始したところ、生産効率が上がったという好事例が生まれ、その事例を加速させるため2017年にワ―ケーション事業が始まりました。
本来は、企業誘致の文脈とワーケーションの文脈は全く別のものです。しかし、コロナ禍において「ワーケーション」の普及が目指されてから、企業側としてもテレワークをベネフィットとして受け入れる態勢ができたことで、2つの文脈が合流しました。雇用創出のため官民一体となってローカルイノベーションを生み出す取り組みが数多く実施され、多くの人々が和歌山県に訪れるようになりました。現在、和歌山ワ―ケーションは南紀白浜空港を運営する株式会社 南紀白浜エアポートが窓口となり、自然を感じながら仕事をするワーケーションや、企業の持つ課題や目的別に合わせて研修や教育のコーディネートを行い、視察を含めた年間来訪件数は約800件と増加し続けています。
また、企業誘致でオフィスを構えたIT関連企業との連携による地元雇用や地域交流も進んでいます。NECソリューションイノベータ株式会社と協力した「IOTおもてなしサービス」は、顔認証サービスを使い、ホテルやレストランなど商業施設で「手ぶら&顔認証」「キャッシュレス」で地域全体をアミューズメントパークのようにすることを目指しています。2004年に元保養所を改修して作られた「白浜ITビジネスオフィス」には、IT企業がオフィスを構え、現在2棟あるビジネスオフィスは満室状態。オフィスを白浜に移転する企業も増え、こうした状況を視察したいという企業の声も多く寄せられています。南紀白浜空港隣接の空港公園内に新しくコワーキングオフィスが建てられ、増加するワ―ケーション需要に応えています。
続いて、実際に受け入れる側の立場ではどのような課題を感じるかについて意見交換が行われました。ワ―ケーションの視察依頼の中には、観光に近い文脈もあると話すのはNECソリューションイノベータ株式会社兼白浜町総務政策係の中尾氏。
「ひとくくりに企業側からワ―ケーションといっても、農業体験や、現地とのコミュニケーション等目的は多岐に渡ります。一方、地域側も誰でもいいから来てほしいではなく、こういうことやりたい人来てくださいと、お互いの期待値が一致するような形でまちづくりしていかないと、期待値のミスマッチや、受け入れ側は応えることに消耗してしまうのではという心配もあります。」(中尾氏)
中尾氏の意見に対して、元和歌山県庁職員の日根氏も同意します。
「耳が痛い話ですが、社員のウェルネスを上げる、五感を持って働く、クリエイティブ力をあげる場として和歌山のワーケーションをビジネスパーソンに届けていたつもりでしたが、それがいつの間にかお互いがwin winになる『交流』ではなく『観光』的な要素が目的になってしまったのかもしれません。」(日根氏)
ワーケーションの人気スポット、ホテルシーモアの営業担当の松平氏からは、受け入れる側の施設整備についてのご意見がありました。
「ワーケーションが浸透するなかで、大きく変化したのはシングルユースへの対応です。元々、白浜温泉の旅館は宿泊客以外お断り、お一人様お断りでしたが、ワーケーションのため、時間とお金をかけて、大がかりな構造改革とリノベーションを行っています。一つ大きな課題感は法的な整備ですね。退勤後の観光での労災認定や税金面などでの不透明さを感じています。他にも、ワーケーション参加者は車を持たずに来る人がほとんどですから、素泊まりで自炊をする場合スーパーまでのタクシーやバスなどの交通の面で不便さを感じさせてしまわないようになど、細やかな見直しは必要と感じています」(松平氏)
株式会社クオリティソフトの小笠原氏からは、南紀白浜への移住で得られた体験もお話いただけました。
「この白浜に会社を移したのは、1つ目は空港が近いから。郊外の自宅から都心に行くのと、白浜に行くのも同じ時間だったからです。2つ目の理由は、顔が見える関係を築きやすいことです。例えば都心に住んで首長と知り合いになることはほぼありませんが、白浜であれば白浜町長も和歌山県知事も知っています。これは都心では難しいと思います」(小笠原氏)
他にも電車通勤がなく時間の使い方が有意義なこと、五感を使って仕事ができることが挙がりました。一方、家族と移住する場合は子どもの教育面での問題は大きく、生徒数の少ない地域では親子へのケアは必要になるとの指摘もありました。
参加者はそれぞれの立場から気づいたことを共有しました。
「白浜の良さは、ヨソの人たちを受け入れる文化があること。だからワーケーションの文化が醸成されていると思いました」
「今回の検討会で印象的だった言葉は『いつも使っていない五感を使う』でした。普段当たり前に関わっていると思っていたことも直接関わっていなかった気づきを得られました」
「地域課題と共に都市課題についても知りたいですね。お互いに、高付加価値があると思います」
最後にエコッツェリア協会田口が次のように述べ、検討会を締めくくりました。
「地域にはまださまざまな課題がありますが、今後新しい取り組みをするためにも、首都圏と地域でお互いがより行き来できたらいいです。外部の人の方が地域の良さをわかることも多く、今使えるアセットが出てきたり、事業のアイデア交換や事業承継につなげたりして、交流を増やしていきたいです」(田口)
今回の検討会は、ディスカッションからイノベーションが生まれる期待を感じさせる場となりました。今後も、エコッツエリア協会では、変化し続ける白浜町とともに地域創生に取り組んでいくようです。
「地方創生」をテーマに各地域の現状や課題について理解を深め、自治体や中小企業、NPOなど、地域に関わるさまざまな方達と都心の企業やビジネスパーソンが連携し、課題解決に向けた方策について探っていきます。