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大手町・丸の内・有楽町(大丸有)エリアで持続可能なまちづくりを推進しているエコッツェリア協会は、地方と都市の関係性を改めて考え直し、双方が共に発展する未来を模索するため、「地方創生ビジョン検討会」を立ち上げました。同協会の田口真司は「地方が疲弊すれば、その影響はいずれ都市にも及ぶ。人口減少や高齢化が進む地方に活気を取り戻すために、都市部はどのような関わり方ができるかを考えることは、大丸有エリアのまちづくりにもつながるテーマだ」と言います。
同検討会のメンバーは、奈良市月ヶ瀬と三重県尾鷲市を訪れ、両地域の対照的な取り組みを視察しました。
検討会メンバーはまず奈良市月ヶ瀬に向かいました。月ヶ瀬地域はかつて奈良県月ヶ瀬村でしたが、平成の大合併により2005年4月に奈良市に編入されました。この地域では人口減少が続き、現在の人口は1,200人。また同地域が位置する奈良市東部は市の面積の60%を占めるものの、3%の人口しか住んでいない過疎地域です。
コロナ禍を経て、多くの商店や飲食店が閉店に追い込まれ、地域の足ともいえるバスも1日2~3便になってしまうなど、生活空間の存続が危ぶまれています。しかし、月ヶ瀬ではLocal Coop大和高原プロジェクトとして、住民の共助や自治によって、この困難な状況を打開しようとしています。
地域住民の交流拠点「月ヶ瀬ワーケーションルームONOONO」に到着した一行は、このプロジェクトを推進する株式会社paramitaディレクターの本間英規氏から現況を伺いました。
月ヶ瀬ワーケーションルームONOONOは給食センターを改修し、住民の交流拠点やワーケーションの場所として開放されている
本間氏は、現在の社会状況について「今の社会システムは人口の拡大を前提につくられている。人口が増えている時は税収や給料が増えて公助と自助の両輪がうまく回っていた。しかし、現在は人口減少期に入り、税収は減り、高齢化やニーズの多様化によって支出は増えた。公助は縮小せざるを得ないし、民間企業においても人口が減ると撤退や倒産が増えてくる。もう公助と自助だけでは地域の生活を守れない」と警鐘を鳴らします。
そして、共助の重要性を「地域課題を自治体に頼って解決する時代ではなくなっている。地域住民が地域の課題を自分事として考え、意見を出し合って解決していくことが大事だ」(本間氏)と述べました。
月ヶ瀬での共助や自治について説明する本間英規氏
本間氏は、同プロジェクトにおいて、①税金以外での資金調達と関係人口の創出、②共助型サービスの提供、③住民の自治への参画を促すことを重視していると言います。
① に関してはまだ構想段階ではあるものの、新潟県長岡市旧山古志村でのデジタル住民票を例に挙げ、山古志村の取り組みを参考にして、関係人口にお金を継続的に払ってもらえるような仕組みを検討します。
②の共助型サービスについてはすでにいくつか開始し、例えば郵便局の集配サービスの空きスペースを利用して、ネットスーパーで買い物した商品をこの地域の拠点まで運んでもらいます。住民は拠点まで商品を受け取りに来なければなりませんが、そのラストワンマイルが共助であり、人が集うことでコミュニケーションも活性化します。
また、コミュニティバスと資源ごみの回収は、奈良市が手掛けていたものを市から受託して運営しています。双方とも効率を上げるためのルート変更やステーション数を削減しました。資源ごみからは売却益が得られるそうで、「売却額は決して大きくはないが、大事なのは自分たちが頑張って分別した資源が月ヶ瀬の収益になり、自分たちの生活向上に還元されることだ」と本間氏はコスト削減だけが目的ではないと言います。
住民自治の説明に耳を傾ける検討会メンバーら
③においては、「自分ごと化会議」という住民主体の意思決定会議を年4回開催しています。同会議では、無作為抽出した住民に参加してもらい、話し合いの結果を住民投票で決議した後、提案書にまとめ行政や関連企業に提出します。
「参加した人から『地域の問題を自分事化する大切さがわかった』という意見も聞かれた。徐々に自治意識を高めていきたい」と述べる本間氏。「今は自治体からの収益や地域おこし協力隊など外部からの援助を頂き共助の仕組みを回しているが、将来的には月ヶ瀬が得た収益を使って地元の人たちが共助の仕組みを自走できるようになれば」と語りました。
「建築における『型』をつくりたい」と話す土谷貞雄氏
月ヶ瀬ワーケーションルームONOONOでは、他にも共助の取り組みの一環として、セルフビルドがコンセプトの小屋づくりが展開されています。合同会社小さな村づくり応援団代表社員の土谷貞雄氏は、「僕は特別な建築を作ろうとは思っていない。自然の中でどのような暮らしをするか、いかに綺麗に普通に家を作れるかを常に考えている。それは、建築における『型』を追求することであり、型とは誰もが作れて余計なものを排除した姿だ」と言います。
土谷氏が提唱するセルフビルドの家は、基礎工事を除くと4畳半サイズで工期は約5日とシンプルで、かつ低コストなものです。さらに、土谷氏は「たくさんの制約があるよりも、大きな制約がひとつあることで、私たちはより創造的になれるし、自分で家を作ることは『身体的な知(体を動かすことによって得られる知識や知恵)』に繋がり、新たな発想が生まれる」とセルフビルドの意義を語ります。
月ヶ瀬ではすでに4棟が建築中で、土谷氏は「このような場は、すべての人が地方とどのように関わっていけるか、地方でどうやって生きていけるかを考える場になる。今後は日本全国に100か所作ることを目指したい」と将来の展望を語りました。
左:月ヶ瀬ワ―ケーションルームの敷地内に建築中のセルフビルドの家
右:共助の在り方やセルフビルドの家について質疑応答の様子
月ヶ瀬の取り組みが住民自身の共助や自治というボトムアップの活性化策によるものなら、それとは対照的に、行政や企業が主導して地域を活性化させようとしているのが三重県尾鷲市です。
尾鷲市は市の面積の92%を山林が占め、山林から流れ込む養分が伊勢海老やぶりの獲れる豊かな海を育んできた地域です。視察2日目、検討会一行は同市九鬼町の市有林を訪れ、同市水産農林課課長の芝山有朋氏に尾鷲の林業ついてお話を伺いました。
尾鷲市で「みんなの森プロジェクト」を主導する芝山有朋氏
芝山氏によれば、尾鷲ヒノキ林業は日本農業遺産にも認定されており、尾鷲市はかつて林業が盛んな地域でした。しかし、現在尾鷲で林業に従事する人はわずか40人程度。尾鷲の山は急峻で、山が荒れると土砂崩れが起こるかもしれず山の手入れは欠かせませんが、市場に木材を出しても赤字になるので切ることもできずにいます。尾鷲の財産である豊かな森を守れないと、同氏は非常に悔しい思いをしていました。
しかし尾鷲市は、豊かな森をもう一度取り戻そうと2022年にゼロカーボンシティを宣言し、民間企業と連携し、「みんなの森プロジェクト」を始動しました。同プロジェクトでは林業とカーボンニュートラルの両立を目指し、伝統的な尾鷲ヒノキ林業を継続しながら森林の若返りや生物多様性の整備に取り組むことで、林業に新たな環境価値を創り出すことを目指しています。検討会一行が到着した市有林は、この「みんなの森プロジェクト」の現場でした。
「みんなの森」は生態系の保全を推進するだけではなく、企業や学校との交流の場にも使われている
一行は、みんなの森を歩きながら、水脈整備により生き物や植生を豊かにし、森林の再生に向け択伐(たくばつ)や広葉樹の植樹を進めていることを学びました。芝山氏は、「今までの尾鷲の森林は間伐材が放置され、針葉樹のみの単一樹種で、水脈も長年の林業施行により粘土層なった土壌の下に滞っていて、麓まではたどり着いていなかった。今後は広葉樹も増やし針広混交林化を図り、水脈を回復させて山の有機物が海にまで到達できるように整備したい」と語りました。
左:「しがらみ」の語源ともなった柵(しがら)を説明する芝山氏
写右:環境省のレッドリストで準絶滅危惧種に指定されているアカハライモリもみられるようになった
市が取り組む継続的な資金確保策として注目されているのが、森林が吸収したCO2をクレジットとして企業や自治体に販売できる「J-クレジット」です。芝山氏によれば、尾鷲市が所有する人工林と天然林を合わせて、年間最大6,580t-CO2の販売が可能で、すでに連携企業が毎年500トンずつ10年間購入する契約を締結しています。
芝山氏は、「私たちがJ-クレジットで得た資金や、企業からいただいた寄附は基金に積み立て、今後の横展開や森林ゾーニングマップの作成、さらには林業の雇用や人材育成にもつながるネットワークスクール構想に費やしていく。尾鷲市の一次産業の再興と企業価値の向上を両立させていく」と話しました。
その後尾鷲市役所に場所を移し意見交換が行われました。
芝山氏は、「まずは企業との取り組みが継続的かつ計画的に展開できるよう、コンソーシアムを設立する。そのコンソーシアムに加入することで、企業にもメリットが生じる仕組みを作り、合わせて企業から資金を呼び込める仕組みを作りたい。そして今後その資金を使って、これまで学んだ森の整備を継続しながら、尾鷲の山全体を恵みの山に変えていき、民有林の所有者も含めて『尾鷲に山を持っていて良かった』と思ってもらいたい。山が豊かになれば、漁業まで含めて地域全体に恵みをもたらす仕組みになる。そうして流域の住民も尾鷲の山を守る活動に巻き込んでいければ」と今後への期待を語りました。他の参加者も月ヶ瀬地域との対比や、市と企業の継続的な関係構築に向けた課題など活発な議論が交わされました。
意見交換の様子
こうして2日間にわたる視察が終了しました。
今回より明瞭になったのは「自分事化の大切さ」です。住民は地域の課題を自分事として考え解決を模索し、都市部の企業もまた企業活動を広い視野で捉える中で、地域の課題を自分事化する。各ステークホルダーが地域の課題を自分事化できた時、解決への一歩を踏み出すことができるのでしょう。
「地方創生」をテーマに各地域の現状や課題について理解を深め、自治体や中小企業、NPOなど、地域に関わるさまざまな方達と都心の企業やビジネスパーソンが連携し、課題解決に向けた方策について探っていきます。
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