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観光以上移住未満の「関係人口」に注目が集まる中、今年も開講した丸の内プラチナ大学「逆参勤交代コース」。逆参勤交代とは、大都市圏社員の「地方での期間限定リモートワーク」のこと。江戸の参勤交代では藩邸が建設され、全国には街道や宿場町が整備され、江戸には地方から新たな人の流れが生まれ、経済・文化が大きく発展しました。逆参勤交代はこれを逆の発想で捉え、東京から地方に人の流れを創ることによって、地方にはオフィスや住宅、ITなどのインフラが整備され、ひいては、関係人口の増加につながることを意図しています。逆参勤交代を行う社員にとっては、週に数日は本業に従事し、あとの数日は地域のために働くことで、地域の担い手にもなることができます。すなわち、現代の逆参勤交代は、地方創生と働き方改革の同時実現を目指した構想なのです。
その実現に向けて、昨年よりスタートした地方フィールドワーク「トライアル逆参勤交代」。 2019年は、2泊3日のフィールドワークを北海道上士幌町、埼玉県秩父市、長崎県壱岐市で実施し、受講生たちは、その地域ならでは魅力や課題をそれぞれの視点で発見し、最終日には、各首長に対して地域活性化につながるビジネスプランの発表を行います。
今回は、9月6日(金)〜8日(日)に埼玉県秩父市で実施されたフィールドワークの密着レポートをご紹介します。
<1日目> 西武秩父駅集合→秩父市役所(オリエンテーション)→地域の魅力と課題発見フィールドワーク①(番場通り・秩父神社・買継商通り)→秩父ふるさと館→地域の魅力と課題発見フィールドワーク②(宮側商店街、秩父まつり会館→本町、中町通り、ちちぶエフエム、東町通り)→地元商店街の皆様との意見交換→地域の課題整理・明確化→みやびホテル
池袋駅から西武鉄道・特急レッドアロー号で、約80分。都心からのアクセスの良さに恵まれた秩父市の玄関口、西武秩父駅に一行は集合しました。出迎えてくださった秩父市役所の方々と共に、徒歩3分ほどの距離にある秩父市役所に向かいました。
今回のフィールドワークの拠点となったのは、秩父市役所3階の庁議室。「秩父市に来るのは初めてという方はどのくらいいますか?」――冒頭、「逆参勤交代コース」の講師を務める松田智生氏(三菱総合研究所 プラチナ社会センター主席研究員・丸の内プラチナ大学副学長)が尋ねると、受講生のほぼ全員が手を挙げました。その誰もが、未だ見ぬまちへの期待と興奮が入り混じった様子です。
「トライアル逆参勤交代の最大の目的は、秩父市の課題と魅力を発見し、都市人材の知見やキャリアを活用して課題解決を行うこと。仕事(Work)と休暇(Vacation)を組み合わせた『ワーケーション』があるが、果たして、仕事と休暇だけでいいのかと常々思う。せっかく地域に行くなら、その地域の方たちと交流し、地域のことをしっかり学び、地域に貢献することが大事。つまり逆参勤交代は、地域との交流(Communication)、学び(Education)、貢献(Contribution)を通して、働き方改革と地方創生を同時実現する新しいワーケーションの定義であると共に、観光以上移住未満の『関係人口』にとって、思い入れのある第二のふるさとを創ることでもある。ワークとバケーションだけのワーケーションは、薄っぺらいリゾート・リモートワークに過ぎない。最終日、皆さんには、秩父市長に向けて課題解決プランの発表を行っていただくが、その時のポイントは"自分主語"。私が、秩父に対して何を貢献できるかという視点でぜひ考えていただきたい」(松田氏)
次に、秩父市役所市長室 地域政策課主幹・峯岸克典氏と秩父市役所市長室 地域政策課 移住相談センター主任・三ツ井卓也氏から、受講生に向けて挨拶が行われました。
「今回、内閣官房参事官補佐の照井直樹氏にもお越しいただいた。加えて、テレビの取材も入り、予想以上の展開に、驚きと嬉しさが入り混じっている。多彩なご経歴を持つ受講生の皆さんに、さまざまな角度からご意見、ご提案をいただければ嬉しい」(峯岸氏)
「自身は、移住相談をはじめ、秩父市の関係人口を創る取り組みに従事している。フィールドワークには、ガイド役として皆さんに同行させていただく。3日間、どうぞよろしくお願いします」(三ツ井氏)
▼都心から近く、自然豊かなまち「秩父」の魅力と課題 〜オリエンテーション〜
続いて、峯岸氏が、秩父市の概要についてプレゼンテーションを行いました。秩父市は、池袋から特急で約80分、熊谷から急行で約50分と都心からほど近い立地にありながら、豊かな自然に恵まれたまち。山に囲まれた盆地特有の「夏は暑く、冬は寒い」太平洋側内陸性気候で、約40万株の芝桜が咲き誇る羊山公園の「芝桜の丘」や奥秩父随一の美観とされる「中津峡」の紅葉、岩肌にしみ出る湧水が創り上げる巨大な氷のオブジェ「三十槌(みそつち)の氷柱」、秩父ミューズパークの展望台から一望できる「雲海」など、四季折々の美しい景色を楽しむことができます。
秩父市は、年間300を超える祭りが行われる「祭りのまち」。中でも、毎年12月2日、3日に開催される秩父神社の例大祭「秩父夜祭」や毎年10月の第2日曜日に秩父市吉田で開催される「龍勢祭」は、秩父を代表するお祭りとして知られ、全国各地から多くの人が訪れます。
寺社仏閣も多くあり、江戸時代に活躍した建築・彫刻の名工・左甚五郎の作とされる華麗な彫刻が美しい「秩父神社」や樹齢800年を超えるご神木や龍の姿が浮かび上がる敷石がある「三峯神社」は、関東屈指のパワースポットとして人気を集めているほか、34ヶ所の観音霊場を巡る「秩父札所巡り」で訪れる人も多くいます。また、秩父市地域には、本格的な温泉を楽しめる宿やスポットが多くあり、近年は「秩父温泉郷」として宿泊キャンペーンを打ち出すなど、地元の温泉を盛り上げる動きも活発で、好評を博しています。
歴史、文化、さまざまな見どころと魅力が満載の秩父市には、年間560万人の観光客が訪れ、その数は年々増加の傾向にありますが、その一方では、地域の若者の人口流出が続いており、「最たる課題は、移住者、関係人口」と峯岸氏は話します。その課題を解決するべく、2016年12月に策定された「秩父市生涯活躍のまちづくり構想(秩父版CCRC構想)」は、幅広い地域から幅広い年代の移住者を呼び込み、2地域居住を含めた交流人口の増加を推進する「総合事業」と、アクティブシニアを対象に、居住・生涯学習・社会参加などの基本機能を提供する拠点施設の整備を行う「モデル事業」の2本柱で、さまざまな取り組みを進めています。
具体的には、移住に関する情報を一元化し、移住を検討する人たちのサポートをワンストップで行う「移住相談センター」の開設や、無料で秩父の暮らしを体験できる「秩父市お試し居住住宅」の提供、市営住宅の未使用部分敷地を活用したサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)「ゆいま〜る花の木」の整備などがあります。移住者の助成金制度も充実しており、「空き家リフォーム等工事費助成金」「軽自動車購入費助成金」のほか、45歳以下の移住者を対象とした「若者移住者(IJUターン)就職奨励金」も今年度から実施されています。
「近年は、中心市街地のすぐ近くにある約10ヘクタールの土地を活用した企業誘致にも力を注いでいる。観光客が年々増加する一方、商店街や中心市街地では、空き家や空き店舗が増えている状況。それらの活用方法についてもご意見、ご提案いただけるとありがたい」と受講生に呼びかけ、峯岸氏はプレゼンテーションを締めくくりました。
▼地域の魅力と課題発見フィールドワーク①(番場通り・秩父神社・買継商通り)
続いて、一行はフィールドワークへと繰り出しました。まず向かったのは、秩父神社の参道である「番場通り」。石畳が敷き詰められた通りは"表参道"と呼ばれ、「パリー食堂」や「小池煙草店」、老舗肉屋「安田屋」など、大正後期から昭和初期にかけて建てられたレトロモダンな建造物があちこちに残っています。ふと見上げれば、洋風に統一された街灯。ゆったりとした空気が流れる通りを散策していると、タイムスリップしたかのような感覚が胸に迫ってきます。
番場通りには、秩父麦酒・クラフトビールが楽しめるバル&カフェと民泊施設を融合したラボ「秩父表参道Lab.」やそばとワインが楽しめる「WINE BAR昌楽」など、近年新たに建てられたスタイリッシュな施設もあり、古き良き時代と現代が混ざり合う独特の雰囲気も、この通りの魅力になっています。
そして、一行は秩父地方の総鎮守・秩父神社に到着。2014年に御鎮座2100年を迎えた秩父神社の現社殿は、徳川家康の命により建立されました。主祭神の八意思兼命(やごころおもいかねのみこと)は知恵を司る神様であり、受験シーズンには合格祈願の参拝者が多く訪れます。社殿は、本殿・幣殿・拝殿から成る「権現造(ごんげんづくり)」で、江戸時代の名工・左甚五郎の作とされる「子宝・子育ての虎」や「つなぎの龍」を含む豪華な彫刻群は見どころのひとつとなっています。
数ある彫刻の中でも、注目したいのは「お元気三猿」。同じ徳川家縁りの御社である日光東照宮では、古来の庚申信仰にちなんで、「見ざる・言わざる・聞かざる」の三猿が彫られているのに対し、秩父神社の三猿は、「よく見て・よく聞いて・よく話す」という元気な姿で彫刻されてあり、不老長寿のご利益が期待されると言われています。また、境内の右側にある「柞の禊川(ならのみそぎがわ)」という小川には、秩父神社の御神体山・武甲山の伏流水が流れており、この水に浸すと文字が浮き上がる「水占みくじ」が人気を呼んでいます。
続いて、買継商通りを散策。かつて織物産業で栄えた古い町並みの面影が残る一角に、築80余年の四軒長屋の一軒を改築した雑貨店「ツグミ工芸舎・百果店ひぐらしストア」があります。あいにくこの日はお休みだったのですが、木工作家のご主人と奥さまが営むお店で、秩父の木材を使ったカトラリーや食器など、手づくりの生活雑貨や家具を販売しているのだそうです。
ランチは、「秩父ふるさと館」へ。大正時代に繁栄した銘仙問屋の店舗・主屋だったという建物をリニューアルし、土蔵を活かした地域の物産展示販売を行うほか、郷土料理を中心としたメニューが揃う手打ちそば屋、夜間はお酒を楽しめる観光拠点として賑わいをみせています。この日のランチメニューは、二八そば、野菜天ぷら、麦とろご飯と小昼飯がセットになった「ちちぶ御膳」。新鮮な秩父の食材を使ったごちそうを囲み、くつろぎのひとときを共有した受講生たち。和やかな雰囲気の中、会話を楽しんでいる様子でした。
▼地域の魅力と課題発見フィールドワーク②(宮側商店街、秩父まつり会館→本町、中町通り、ちちぶエフエム、東町通り)
午後のフィールドワークは、宮側(みやのかわ)商店街からスタート。昨今、商店街の活性化策としてナイトバザール(夜市)に取り組む商店街が増えていますが、実はこの商店街こそが、ナイトバザールの発祥地。1987年10月にスタートして以来、現在は、4、6、8、10、12月の年5回、第3土曜日に開催を続けています。ナイトバザールの当日は、500メートル余りの国道が歩行者天国となり、サンバ、福引大会など多彩なイベントを展開するほか、物産の販売などが行われます。30周年を迎えた2017年10月のナイトバザールでは、秩父の屋台囃子の披露や、結婚式を挙げる地元のカップルが秩父神社から商店街を歩くパレードなども行われたのだそうです。
最初に立ち寄ったのは、「ほっとすぽっと秩父館」。この施設は、明治時代に建築された商人宿「秩父館」をみやのかわ商店街振興組合が借り受け、かつての姿を残しつつ改装したのち、地域の交流・観光拠点として活用することを目的に開設されました。1階には、土産物や特産品がずらり。奥には大きな囲炉裏があり、無料休憩所になっています。2階は畳敷きの広大な和空間で、まちづくり講座や貸しギャラリー、宴会などに使用されています。
ほっとすぽっと館のある旧秩父往還沿いには、明治時代に建てられた芝居小屋建築「旧 松竹秩父国際劇場」があります。戦後は、道路に面したファザード部分が改修され映画館として親しまれていました。昭和の最盛期には秩父市内だけで4つの映画館があったそうですが、秩父国際劇場は昭和50年代に閉館。以来、現在に至って市内には映画館がない状況です。老朽化のため、取り壊しも検討されていましたが、当時の外観を残しながらリノベーションを行い、現在はイタリアンレストラン「TRAGHETTO(トラゲット)」として運営しています。
次に訪れたのは、「秩父まつり会館」。日本三大曳山祭のひとつである「秩父夜祭」に関する屋台・笠鉾を主とした関係資料を3Dシアターやプロジェクションマッピングなどで実演紹介するユニークな展示館です。秩父夜祭は、300年以上の歴史を持つ日本屈指の絢爛豪華なお祭り。お旅所の手前には「団子坂」と呼ばれる急坂があり、クライマックスの夜には、最大20トンの笠鉾・屋台がそれぞれ一気に曳き上げられ、7000発の花火が打ち上げられます。国の重要有形民俗文化財、重要無形民俗文化財の両方に指定されている稀少な祭礼で、2016年にはユネスコ無形文化遺産にも登録されています。
館内に入ると目に飛び込んでくるのは、原寸大の屋台と笠鉾。秩父屋台囃子の音楽が流れる中、プロジェクションマッピングを駆使した光と音の演出によって、秩父夜祭の賑わいをリアルに再現しています。秩父の祭りの展示コーナーでは、代々伝承されてきた手づくりの農民ロケット「龍勢」を27の流派が打ち上げ、技術を競い合う奇祭「龍勢祭」や、2月3日に節分追儺(ついな)祭の神事として、三峯神社で行われる「ごもっともさま」など、秩父市ならではのユニークな祭りについて知ることができます。
2階の資料展示コーナーには、秩父夜祭に関する貴重な道具や衣装などが展示されてあり、間近に見ることができます。300余年続く祭りの歴史、その一端を存分に体感できる充実の空間です。
次に向かったのは、本町通り沿いにあるスイーツ店「小さな洋菓子店 Spoon」。この日、一行をガイドしてくださった三ツ井卓也氏(秩父市役所市長室 地域政策課 移住相談センター主任)お勧めのお店です。昔ながらのカスタードプリンやクロッカンシュークリームなど、定番商品と並んで人気が高いのが、季節のフルーツを使ったタルト。受講生のお目当ては、秩父限定品種ちちぶ「山ルビー」のフルーツタルト。生産量が少なく市場にあまり出回らないため、"幻のぶどう"とも称されるちちぶ山ルビーをふんだんに使ったタルトを食し、ご満悦の様子でした。
次に向かったのは、秩父地域のコミュニティFM放送局「ちちぶエフエム」のスタジオ。今年10月の開局に向けて準備中の山中優子氏(ちちぶエフエム株式会社取締役・局長)を訪れました。ちちぶエフエムは、「地域の情報をリアルタイムで地域の人々に届けたい」という想いのもとに立ち上げられた「秩父の人による秩父の人のためのラジオ局」です。可聴エリアは、秩父市をはじめ、横瀬町・・皆野町・長瀞町・小鹿野町の一部で、毎日午前7時から午後9時まで14時間の生放送では、タイムセールやイベントなど、タイムリーに役立つ情報はもちろん、医療、法律、介護、まちの歴史や文化など、専門分野に関しては番組を設け、生活に活きる情報を発信していきます。また、音楽番組やリクエスト番組など、娯楽要素を含んだ番組のほか、市民に出演してもらう機会も検討中です。
「地方都市がどんどん衰退していく中、秩父市も例外ではない。衰退する理由のひとつは、コミュニケーションの不成立。どんなに美味しいお店があっても、楽しいイベントがあっても、それらがあることが伝わっていかなければ、ないのと同じ。秩父市には、地域限定のコミュニケーションを成立させるメディアがなかったことから、"コミュニケーションを成立させ、まちを元気にするメディア"であり、"地域限定の防災メディア"というコミュニティ放送局が果たす役割に注目した。耳に伝える情報発信にこだわる理由のひとつに、高齢者が多いことが挙げられる。ラジオであれば、農業をしながらでも、車を運転しながらでも聞くことができる。秩父の人による秩父の人のための秩父での暮らしが、少しでもハッピーになるよう全身全霊で心を尽くしていきたい」(山中氏)
▼地元商店街の皆様との意見交換
フィールドワークを終えた後は秩父市役所内の庁議室に戻り、地元商店街の皆様との意見交換が行われました。冒頭、秩父市長の久喜邦康氏が登場し、受講生に向けて次のように話しました。
「今回のフィールドワークを通じて、皆さんの知恵が広がっていくことを願っています。最終日の8日に行われる皆さんからの課題解決プランの発表を楽しみにしています。また8日には『ちちぶ乾杯共和国』というイベントが西武秩父駅前で午前11時から開催されるので、もしお時間があれば、お立ち寄りいただきたい。どうぞよろしくお願いします」(久喜市長)
続いて、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局 内閣参事官補佐の照井直樹氏から、地方創生総合戦略の動向についての説明が行われました。
「来年4月からスタートする第2期地方創生総合戦略を策定するにあたって、現在、CCRCについての見直しを行っている。具体的には、CCRC事業のひとつとして、逆参勤交代を取り入れてはどうかと検討を進めている」(照井氏)
照井氏の言うCCRC事業とは、日本版CCRC構想としてスタートした「生涯活躍のまち」構想のこと。その内容については、第1期地方創生総合戦略を進めていく中で、若干方針の修正が検討されています。当初、都市圏の中高齢者を中心とした移住政策を主としていましたが、現在は、地方移住ありきではなく、全世代を対象に二地域居住など、逆参勤交代的な就労スタイルへの転換を検討中です。
「大都市圏の社員が本業に従事しながら、地域を定期的に訪れ、その地域に貢献していくというような循環型の人材の流れを作ってみてはどうかということを今まさに検討している。秩父市をはじめ、北海道上士幌町、長崎県壱岐市の3ヶ所でのトライアル逆参勤交代の成果等も踏まえて、今後、第2期地方創生総合戦略の策定を進めていく予定」(照井氏)
そして、地元商店街の皆様との意見交換へ。東町商店街協同組合理事長・松本和良氏、東町商店街協同組合専務理事・山岸達男氏、番場町商店街振興組合副理事長・朝川知一氏の御三方が受講生のグループに加わり、活発なディスカッションが行われました。
次に、松田氏から出されたお題「秩父市のGOODとNEW。今日秩父を見て、良かったことと真新しかったこと」について各グループで討議したのち、全体で共有を行いました。その内容の一部を次にご紹介します。
<秩父市のGOOD> ・町並みもしかり、年間300以上の伝統的なお祭りが各地で行われているなど、歴史の素晴らしさに感じ入った。 ・まちがコンパクトで、皆さんが協力的。そういったところがまちづくりに活かされていると思った。新旧のお店がうまく混ざり合っていて、調和している。レトロな雰囲気で歩いていて気持ちが良かった。 ・「ちちぶエフエム」の趣旨に感激した。地域の人々の耳に、朝晩の情報を逐次伝えるというのは、最も古く、逆に斬新な企画だと思った。耳で聞き、興味のあるものに対してすぐに行動に移すこともできる。特に、中高齢者にとってはぴったりではないか。この企画がどんどん広がり、やがては日本の代表的なまちおこしのひとつの企画になればいいと思う。
<秩父市のNEW> ・出張などで地方に行く際、食事以外にお酒が飲める店があるかどうかが、宿泊するかどうかを決める大きなポイントになっている。秩父市には初めて来たが、歴史あるまちの中に、バーなどの洒落たお店が次々にオープンしていることを知り、プライベートでもぜひ泊まりに来たいと思った。 ・新参者としては、3Dシアターの映像を含めて「秩父まつり会館」が新鮮だった。あれだけ素晴らしいものが何百年も続いている。もっとその魅力を伝え、広げていけると良いのではないか。
地元商店街の御三方は、受講生の声に対する感想と現在の悩みや課題について、次のように話してくれました。
「自分たちでは思いつかないような貴重な意見をきちんと伝えてくださり、非常に勉強になった。悩みというよりは現状になるが、かつて秩父地域には約250軒の酒屋があったが、現在は3分の1ほどに減っている。酒屋といえば、昔は商店街の店が中心となって地域のために活躍していたが、今はそうではなくなってきている。西武秩父駅前に、西武鉄道が運営する施設ができたことによって、まちの雰囲気も大きく変わった」(松本氏)
「大きな観光協会を立ち上げる必要があるかというとそうではなく、例えば、夜の食事を済ました後に飲みに行けるような場所があれば、秩父に訪れる人、宿泊する人も増えるのではないかという意見をいただき感動した。東町商店街には、最盛期に85店舗あったが、今は高齢化や後継者不足等が原因で49店舗に減ってしまった。廃業や空き店舗が問題になっているが、その多くは住居兼店舗であるため、2階もしくは裏側に年配のオーナーが住んでおり、貸店舗にもできない状況がある」(山岸氏)
「空き店舗が確かに多いが、権利関係が非常に難しく貸せないという状況がある。番場商店街でも、不動産業者からどこか空きがないかという問い合わせを多く受けるが、年配のオーナーたちにとっては、住居を兼ねた店舗であり、駅から近く利便性も良いため、貸したくないとなってしまう。一方、秩父神社の前の通りは活気が出て、人通りも増えてきている。皆さんの意見を参考に、関係人口の方にも喜んでいただけるよう、尽力していきたい」(朝川氏)
一方、フィールドワークに同行してくださった峯岸氏は次のように感想を述べました。
「私たちにとっては毎日見ている光景でも、外から来られた人には、こういったところが喜んでもらえるんだという発見があり、とても新鮮だった。普段は車での移動がほとんどだが、改めて歩いてみて、このまちについて異なる視点から考えるいい機会になった」(峯岸氏)
▼地域の課題整理・明確化
1日の締めくくりとして、各自が感じた秩父市の課題について討議し、共有が行われました。 「進学などを機に、若者が流出するという話があったが、子どもの頃から"地元愛"のようなものを教育していくのか、あるいは刷り込んでいくのか。長い目で見た時に課題になるのではないかと思った」「秩父市には素晴らしいスポットが多くあるが、三ツ井さんのように、このまちを熟知した方がいなければ、とてもたどり着けない。まちの知名度を上げるためにも、彼のような観光ガイドを多く養成し、まち歩きに誘致するといった取り組みが必要かもしれない」――フィールドワークの初日にして、深い洞察力に基づくアイデアが飛び交いました。
一行は宿泊先の「みやびホテル」にチェックインした後、秩父の大人気ホルモン焼店「高砂ホルモン」に集合。秩父市役所市長室室長・宮前房男氏が乾杯の音頭をとり、懇親会がスタート。午後の意見交換に参加してくださった地元商店街の方々も交えて、大いに盛り上がり、秩父の熱い夜は過ぎていきました。
丸の内プラチナ大学では、ビジネスパーソンを対象としたキャリア講座を提供しています。講座を通じて創造性を高め、人とつながることで、組織での再活躍のほか、起業や地域・社会貢献など、受講生の様々な可能性を広げます。