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都心からアクセスしやすい位置にありながら、受講生のほぼ全員が初めての訪問となった秩父市フィールドワーク。1日目は昔から残る歴史やいま新たに起きている活動に触れながら、「秩父市のGOODとNEW」というテーマのもと、魅力についてディスカッションしていきました。 2日目以降には、さらなる一面を探るべく、さまざまな活動に取り組む地域の人のもとを訪れます。 前編はこちら
<2日目> 地域の魅力と課題発見フィールドワーク③(ベンチャーウイスキー秩父蒸溜所・秩父麦酒・兎田ワイナリー・ツーリストテーブル 釜の上 秩父うさぎだ食堂・市有井ノ尻住宅・和風コワーキングスペース「多豆」・秩父ビジネスプラザ・秩父新電力株式会社)→移住者・地域おこし協力隊との意見交換→地域の課題整理・明確化→みやびホテル
2日目のフィールドワークは、ワールドウイスキーアワードで世界一に輝いた「イチローズモルト」を蒸溜する「ベンチャーウイスキー秩父蒸溜所」からスタート。基本的に一般公開していない蒸溜所を見学できるということで、受講生たちは興奮気味の様子です。秩父市役所の車で市街地から約30分。蒸溜所に到着すると、ブレンダーの三沢秀氏(株式会社ベンチャーウイスキー秩父蒸溜所)が出迎えてくださいました。
▼地域の魅力と課題発見フィールドワーク③(ベンチャーウイスキー秩父蒸溜所・秩父麦酒・兎田ワイナリー・ツーリストテーブル 釜の上 秩父うさぎだ食堂)
秩父蒸溜所は、羽生蒸溜所創始者の孫・肥土伊知郎氏が創業し、2008年2月に稼働を初めて以来、秩父の風土に根ざしたシングルモルトウイスキーづくりを行っています。三沢氏は製麦、仕込み、発酵、蒸溜、熟成、ブレンドの製造工程を説明しながら、各施設を案内してくれました。麦芽は、基本的にはイギリスやスコットランドから輸入していますが、地元の大麦を使いたいという想いから、全生産量の約10%は地元の大麦でまかない、自社でのモルティング(モルトづくり)を行っているそうです。
「どれほど素晴らしい原酒を作れたとしても、いい樽と巡り合わなければ、美味しいウイスキーにはならない。我々は、いい樽と巡り合うために、各製樽業者が拠点を置く現地へ赴き、親交を深めることを大切にしている。新樽については、ジャパニーズオークと言われるミズナラを主とした樽づくりを自社で行っている。ミズナラの樽で熟成したウイスキーは、オリエンタルなフレーバーが特徴的で、世界的なトレンドにもなっている。神社仏閣の香りがするとも言われている」(三沢氏)
蒸溜所見学のあとは、試飲タイム。秩父蒸溜所と、創業者・肥土伊知郎氏の祖父が創業した羽生蒸溜所の原酒をヴァッティングしたダブルディスティラリーズ、ワイン熟成に使われた樽で熟成させたシングルモルトウイスキーなど、全7種類のイチローズモルトを好きなだけ試飲できるという贅沢なおもてなしを受け、受講生たちは嬉々としてグラスを手に取り、それぞれの試飲を楽しみました。
▼秩父麦酒
続いて、秩父市下吉田にある「秩父麦酒」の醸造所を訪ねました。代表・醸造責任者の丹広大氏は、北海道出身。奥様の仕事の関係で秩父に移住し、新婚旅行でドイツを訪れた際に、ビールの美味しさに魅せられたのが、ビール造りを始めたきっかけでした。自分たちでビールを造りたいと、日本各地の醸造所で作業を手伝いながらビール造りを学び、2017年11月、秩父麦酒の生産をスタートさせました。
醸造設備は、数百年の歴史を持つ秩父菊水酒造から買い取りました。秩父市でビールを造り、ビールとジンギスカンを楽しめるレストランを開きたいと準備を進めていた先代社長の想いを知るうちに、丹夫妻は、この地を拠点にビール造りをしていくことを決めます。
「ヨハンアルブレヒト」と呼ばれるドイツ製の釜では、1回につき約1000リットルの麦酒を仕込むことができます。ビール小瓶にしておよそ3000本。11時間半ほどかけて、じっくり仕込んだ麦汁は、約1週間の発酵と3週間の熟成期間を経て、ようやくビールとして完成します。
ひと月の生産量は約6万リットル、ビール小瓶で18万本。醸造所の作業は、現在、丹氏を含む2名で担っており、瓶のみならず、樽でも出荷しているため、フル回転で製造を行っています。
「仕込みを行う室内の温度は、約40℃。煮沸工程では45℃くらいまで上がる。サウナのような状態の中で日々作業にあたるので、休みがないとやはり体ももたない。今後は、設備投資と共に、仕込みや瓶詰めの作業を行える人材を育てていきたいと考えている」(丹氏)
▼兎田ワイナリー
次に向かったのは、秩父市吉田兎田地区に拠点を置く「兎田ワイナリー」。「楽しみながらワインの魅力や歴史に触れてほしい」という想いのもと、地域経済循環創造事業交付金を活用してオープンした自社ワイナリーです。
兎田ワイナリーは、ブドウ栽培からワイン醸造まで一貫して見学できる施設。内陸性気候に属する秩父市は昼夜の気温差が激しく、特に夜の気温が低くなるとブドウの糖度が高まり、着色も良くなることから、ワイン用ブドウの栽培好適地と言われています。2.0ヘクタールの広大な自家畑では、約5000本のブドウの木を植栽し、「垣根仕立て」と呼ばれる手法で栽培しています。加えて、契約農家との連携により高品質なブドウを安定生産し、全4種類の「秩父生まれ 秩父育ちの兎田ワイン」を製造しています。
見学後は、兎田ワイナリーが運営する「ツーリストテーブル 釜の上 秩父うさぎだ食堂」でランチタイム。一行は、食堂に併設したお土産ショップでワインの試飲やショッピングを楽しみました。
▼地域の魅力と課題発見フィールドワーク③(市有井ノ尻住宅・和風コワーキングスペース「多豆」・秩父ビジネスプラザ・秩父新電力株式会社)
午後のフィールドワークは、秩父市中村町にある「市有井ノ尻住宅」の見学からスタート。元々は、2003年度から中堅所得者向けの優良住宅として管理運営を行ってきた特定公共賃貸住宅でしたが、現在は、管理形態を変更し、従来よりも入居基準を緩和し、都市部などからの移住者も入居できる市有住宅として、入居者を募集しています。
続いて、秩父市道生町の「和空間 多豆」へ。昭和3年に加藤春吉・多豆により建てられた古民家をリノベーションして、2016年春からは、多目的アートスペースとコワーキングスペースを兼ねた施設として運営しています。コワーキングスペースは1階と2階にあり、1階は、和の中庭に面したカウンター席とテーブル席、2階は和室の趣を残した広い空間に、引き戸仕様のボックス席(貸アトリエ)を数席完備しています。黙々と静かに作業したい人、会社のデスクから気分を変えて仕事したい人など、さまざまな目的を持つ多様な人々を温かく迎えてくれるコワーキングスペースです。
この日、フィールドワークの最後に訪れたのは、西武秩父駅から徒歩約3分、秩父市役所の前に建つ「秩父ビジネスプラザ」。2階、3階は「コワーキングスペース 働空間(はたらくうかん)」というコワーキングスペースになっています。2階には、カウンターデスクや打ち合わせスペース、3階にはレンタルオフィスがあり、6名から最大30名を収容できる2つの会議室も完備しています。
次に、秩父ビジネスプラザ内に本社を置く「秩父新電力株式会社」の取り組みについて、同社副社長の滝澤隆志氏からプレゼンテーションが行われました。秩父地域の豊かな自然を活用した「再生可能エネルギーの地産地消」を図ること。電力料金として域外に流出していた資金を地域内で循環させることで「地域経済の活性化」を図ること。同社は、これら2つの目標を実現するべく、2018年4月に地域新電力会社として設立しました。
「2019年4月より、市や秩父広域市町村圏組合など532軒の公共施設への電力供給を開始した。今後は、段階的に企業や一般家庭への電力供給を行っていく予定。秩父市の姉妹都市である豊島区や荒川区とも、電気を通じた交流を深めていきたい」(滝澤氏)
▼移住者・地域おこし協力隊との意見交換
続いて、秩父市役所庁議室で、移住者・地域おこし協力隊の方々との意見交換が行われました。
秩父市地域おこし協力隊として、移住相談業務を担当している山﨑知彦氏。秩父市に生まれ育ち、大学卒業後に化粧品会社に就職。昨年定年を迎え、秩父に戻ってきました。その1年前までは、12年間海外に駐在しており、当初はマレーシアやタイへの移住を検討していたのだそうです。しかし、いざ住むことを考えると実感が湧かない。そんな折、「本当は秩父に帰りたいんじゃないの?」と奥様に言われ、「図星だった」と言います。
「若い頃は秩父から出たくて仕方がなかったが、仕事を離れると同時にコミュニティとのつながりが完全に切れてしまうことを痛感した。友人は多くいるが、それはコミュニティではない。私にとって、何かしら地域とのつながりを感じられるのは、やはり秩父だった。東京へのアクセスの良さもあり、妻も秩父に暮らすことを快諾してくれた」(山﨑氏)
同じく、秩父市地域おこし協力隊として移住相談を担当している松田あずさ氏。千葉県市原市の出身で、秩父市出身のご主人との出会いを機に、このまちを訪れるようになったと言います。「コンパクトで落ち着くまち。自分の居場所のようなものが自然とできるのではないかという印象を持った」そうです。
「当初から、夫には秩父に帰りたいという気持ちがあって、いつ戻ろうかときっかけを探していた。もしかしたら、体力もあってバリバリ働ける今こそ、戻ってみるのも面白いかもしれない。私が地域おこし協力隊に応募して採用になったら移住しようという話になり、今に至る。これから秩父市に移住したい人、興味のある人に対して、いち移住者としての体験談を伝えられることも含めて、やりがいをもって仕事に取り組んでいる」(松田氏)
秩父市出身のシステムエンジニア・松田直之氏は、松田あずさ氏の旦那様。高校卒業後の17年間を東京・神奈川で過ごしたのち、奥様が秩父市地域おこし協力隊に採用されたことをきっかけに、秩父市に居を構えることになりました。
「昔から秩父は好きで、2ヶ月に1回くらいは帰省していた。ここにまた住むようになってからも、しばらくは都内まで通勤していたが、この11月からはフリーランスのシステムエンジニアとして独立することを決めた。帰ってきて思ったのは、秩父は人と人のつながりが強いということ。今、ここにいる人たちとも、地元のイベントを通して知り合い、フットサルなど知らぬ間にコミュニティに参加できていた。これは、都心にいた時にはなかったこと。自身のスキルを活かして、地元に貢献できることを模索しながら毎日を過ごしている」(松田氏)
大阪府で10年ほどグラフィックデザインに従事していた吉田武志氏。転職を考えたタイミングで、秩父市在住の知人から声がかかり、「秩父の情報はゼロで、仕事ありきで移住した」と言います。
「当初は、大阪に比べてコンビニや飲み屋も少なく、どちらかと言うと、不満なことの方が多くて東京に行きがちだった。3年前、秩父表参道Lab.の店員として働くようになってから、イベントなどを通して100人くらいの地元の人たちと知り合い、楽しくなってきたと同時に、このまちの人と人のつながりが見えてきた。アーティストも多く、一緒に何かやろうと意欲的な人も多い。会社に属するよりも、一人で動いた方が色んなことができるなと思い、今年の頭から、『malme design』を立ち上げ、グラフィックデザイナーとして独立した」(吉田氏)
フィールドワークの初日にもお話を伺った山中優子氏は、生粋の秩父人。進学で東京に出たのち、就職で地元に戻り、6年半ほど熊谷市の企業でOLをしていました。その後、東京に転職しましたが、月に2度は実家に戻っていたのだそうです。
「その際、イベントの司会などを頼まれることがあって、秩父には面白い人がたくさんいることを初めて知った。以前は、住んでいてもあまり秩父と関わろうとしなかったし、自分が知らなかっただけだと気づいた」(山中氏)
山中氏には、地元で山小屋「甲武信小屋」を経営する父の想いを継ぎたいという強い気持ちがありました。
「(父親の高齢化に伴い)誰が山小屋を継ぐのかという問題があった。うちは三姉妹で、上の姉たちは結婚して家を出ていた。私ひとりで切り盛りできるものでもなく、父は別の後継者を見つけてなんとか落ち着いたが、父が抱いていた地元に対する想いを別の形で受け継ぎたいと思った。秩父にコミュニティFM放送局ができるとなった時、この仕事なら想いを継げると感じたし、秩父がもっと元気になったら面白いなと思った」(山中氏)
移住者・地域おこし協力隊の方たちが各グループに加わり、ディスカッションが繰り広げられました。その後、ゲストの方々に対する素朴な疑問や移住に対する質疑応答が全体で共有されました。
Q. 秩父神社前にある「秩父表参道Lab.」について、もっと教えてほしい。
「秩父表参道Lab.には、『SKY-LOUNGE』というコワーキング・レンタルスペースがあり、カフェ&バルでコーヒーやビールを1杯注文すると、最長2時間まで無料で利用できる。普通に利用する場合は、平日が1時間1,200円(税別)、土日・祝祭日が2,000円(税別)。上の階は、『ちちぶホステル』というゲストハウスになっていて、宿泊しながらレンタルスペースでワークショップイベントを行う人もいる。クラフトビールを飲みながら、くつろげるお洒落な空間になっている。移住者とは、いわば転校生。どこにも繋がれずに悲しい想いをしている人もいるので、"つなぐ場、集う場"を増やしていきたいと思っている」(吉田氏)
Q.コミュニティスペース以外にも、「あったらいいな」と思う施設などがあれば教えてほしい。
「移住したい人だけでなく、移住に興味がある人などが、気軽に集まれるオープンな場所が あるといいと思う。移住という言葉には重みあるが、もう少し敷居を低くして、情報交換できる場所をできれば任期中につくりたい。すでに移住してきた人も、そうした繋がりを求めている」(松田あずさ氏)
「絶対的に、宿泊施設が足りない。都心から近いがゆえに、日帰りするケースが多いが、宿泊施設がもっとあれば、状況はまた変わってくるのではないかと思う。旅行者の視点で言うと、まだWi-Fiが繋がっていないところがあるのは難儀。あとは、朝食を食べられる飲食店。最近やっと1軒できたが、もっと必要かも」(吉田氏)
「レンタサイクルが午後5時までしか借りられないのは、もったいない。もうちょっと長ければいいなと思う。生後半年のお子さんのいるお母さんいわく、『子どもを連れて行ける場所がない』。また困った時に、『助けて』とすぐに頼れる場所がないとも言っていた。シルバー人材センターで、子どもを見守るための取り組みはあるが、登録や面談が必要なので、今すぐに対応してもらえるかといえば、そうではない状況にある」(山中氏)
▼地域の課題整理・明確化
1日の締めくくりとして、受講生たちは、地域の課題整理と明確化を行いました。2日間のフィールドワークを通して学んだこと、秩父市にこれから貢献したいことなどについて各自のアイデアを共有し、最終日に市長に向けて行う課題解決プランの発表に備えました。最後に、松田氏から2日目の感想が述べられました。
「ベンチャーウイスキー秩父蒸溜所では、地元の高校生4人を採用したと聞いたが、あれこそまさにローカルイノベーションだと思った。兎田ワイナリーも素晴らしかった。オーナーさんに聞くと、人材を特に必要としているのは収穫期だが、時期が読めないらしい。募集は直前になるそうだが、ボランティアの人が多く手伝いに来るらしい。ウイスキー、ビール、ワインと、これだけお酒が揃っているなら、仕込みや収穫などの体験も含めた、お酒に特化した取り組みも有効的ではないかと思った」(松田氏)
この夜、移住者や秩父市地域おこし協力隊の方たちを交えて懇親会が行われました。懇親会では、兎田ワイナリーで購入したワインも振る舞われ、賑やかな時間となりました。
<3日目> 課題解決プラン討議・まとめ→カジュアルフレンチレストラン「マチエール」→市長への課題解決プラン発表・総括
最終日の午前中、受講生は、課題解決プランの討議・まとめ作業に取り掛かりました。課題解決プランを書き込む「地方創生シート」には、What(何をするか)・Why(なぜするのか)・Who(私は何を担うか)・Whom(誰をターゲットにするか)・How(どのように実現するか)の項目があり、「〜〜プロジェクト」というタイトル付けがされています。作成を終えた一行は、徒歩圏内にあるカジュアルフレンチレストラン「マチエール」でランチを取りました。レストランのすぐ横には秩父鉄道が走っていて、週末は、蒸気機関車「SLパレオエクスプレス」を間近に見ることができます。そんな話をしていると、ちょうど外から汽笛の音が近づいてきました。受講生たちはスマートフォンを片手に店の外に飛び出し、その姿を収めようと一斉にシャッターを切りました。
▼市長への課題解決プラン発表・総括
秩父市役所庁議室には、久喜市長をはじめ、竹中郁子副市長、宮前房男氏(秩父市役所市長室室長)らが勢ぞろいし、課題解決プランの発表が行われました。以下、発表順にプロジェクトのタイトルを記します。
(1)ご近所学び場 秩父SCHOOL構想 (2)CBS(Chichibu Business School)の立ち上げ 起業家育成コミュニティを目指して... (3)CC2H(秩父ロングステイプロジェクト) (4)みっちー(街の案内人)増産プロジェクト (5)西武旅するレストラン 52席の至福 特別貸切プロジェクト (6)私のなりたい「Story」プロジェクト (7)秩父人つなぎプロジェクト (8)シビックプライド育成プロジェクト (9)総勢300人の秩父お掃除バトルプロジェクト 〜街づくりは掃除から始まる〜 (10)若者から秩父LOVERに!! 「秩父スタータープロジェクト(案内人)」
前半5名の受講生のプレゼンテーションを終えたところで、竹中副市長より総括が述べられました。
「大変熱の入ったプレゼンテーションに深く感謝したい。お聞きしていて、さまざまな秩父の見方があることを感じた。"秩父市をビジネスマンの学びの場にしよう"というプランについては、秩父市がビジネスマンにとって学びの場になるという視点が、非常に興味深かった。3日間のフィールドワークで、何かビジネス的なものを感じる側面があったのか、また何かの機会に教えていただけたら嬉しい。秩父セカンドホーム構想については、"秩父市に長くいることで楽しめるものとして何があるだろうか"と聞きながら考えた。そのひとつとして、お祭りが挙げられる。それぞれの方が参加できるような仕掛けがあると、お祭り好きの方には、長くいていただけるのではないかと思った。また、当市役所の三ツ井のように、秩父市の人、文化、歴史などに精通する人は多くいるが、外に向けて発信することの難しさがある。発信側として十分なことができていないと反省を込めて感じた。西武旅するレストランのプランについては、"市役所、頑張れ"とエールを送ってくださっているのだと思いながら聞いていた。素晴らしいシチュエーションの観光列車なので、多くの人に利用いただくために、市役所として何ができるかを考えてみたい」(竹中副市長)
後半のプレゼンテーションが終わり、久喜市長が総括を述べました。
「企業人の方ならではの幅広い発想で、非常に面白かった。秩父市は、少子高齢化、人口減少など、全国の地方都市が抱える課題のすべてを持つ、典型的なまちではないかと思う。言い換えれば、それらの課題は日本各地の地方都市に共通する問題でもあるので、皆さんが秩父市を対象に考えてくれたことは、今後、地方創生に取り組まれていく上で、大きな礎になるのではないかと思う。秩父市も多くの問題を抱えているが、一つずつ克服していくことが大切であり、従来とは違う発想を変えたところから取り組んでいきたいというのが、皆さんと共通している点だと思う。今、秩父圏域の1市4町が連携する『定住自立圏構想』のもと、協定による『ちちぶ定住自立圏』を形成し、医療や産業振興、水道の広域化などの事業を展開している。秩父市だけでなく、地域全体として地域を発展させていくことが今後目指している方向性である。最後に、松田先生に秩父市を選んでくれたことを感謝したい。今回のトライアルが、企業人としての皆さんに役に立つことを願っている」(久喜市長)
逆参勤交代コースの中で、松田氏が常々、受講生たちに呼びかけているのは、「続けること、深めること、広げること」。
「継続的に続けることの具体案として、丸の内プラチナ大学の秩父分校を創ってはどうか。例えば、年1回はここに来て、ビジネススクールや案内人に関わるようなミニシンポジウムを開催する、あるいは、東京で秩父市のウイスキーや地ビール、ワインを楽しめる"秩父ナイト"のようなイベントを行う。深めることについては、今日発表された課題解決プランをより先鋭化させていくということ。もう一度、市役所の中でご覧いただき、既存事業や来年度の事業で一緒にできそうなものがあれば選んでいただきたい。広めることについては、(今回トライアル逆参勤交代の対象となった)北海道上士幌町や長崎県壱岐市との広域連携もあるし、久喜市長の前職が医師ということで、首長医師連合などを通して広めることもできるのではないかと思う。大丸有エリアには、約4000のビジネス拠点があり、28万人の就労者がいる。逆参勤交代経営者連合を創り、首長医師連合と連携することも一案として挙げられるだろう」(松田氏)
都心から近く、豊かな自然に恵まれたまち、秩父市。その魅力を五感で満喫し、課題を目の当たりにした2泊3日のフィールドワークは、受講生たち、関わってくださった地域の方たちの双方にとって有意義な時間となりました。地域の人々と交流し、地域について学び、地域に貢献するーー新しいワーケーションの定義としての逆参勤交代をリアルに体験した受講生たちは、「秩父が好きになった」「また、必ず秩父に来ます」と口々に言っていました。これこそがまさに関係人口づくりの第一歩といえるでしょう。これから秩父市とどのように関わり合っていくのか。そしてまた、秩父市はどう発展していくのか。今後の展開と逆参勤交代の動向から目が離せません。
丸の内プラチナ大学では、ビジネスパーソンを対象としたキャリア講座を提供しています。講座を通じて創造性を高め、人とつながることで、組織での再活躍のほか、起業や地域・社会貢献など、受講生の様々な可能性を広げます。