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【レポート】CSVの実践は"今日、ここ"から

丸の内プラチナ大学 CSV実践コース DAY8(10月25日開催)

10月25日、丸の内プラチナ大学CSV実践コースの第8回が開催されました。本コースは、既存のビジネススキームではなく、「社会イシュー」を起点にしたビジネスの起こし方、「ソーシャルプロダクツ」と呼ばれる社会的価値を提供する商品・サービスのデザイン方法などを学ぶもの。最終回となる今回は、これまでのインプットを活かし、受講生たちがCSV実践のプランをプレゼンテーションします。

講師は志事創業社の臼井清氏。この日は、CSVビジネスに取り組む先行企業として、環境新聞の福原詩央里氏、資生堂の家田えり子氏のインプットトークを前半に行い、後半に受講生のプレゼンテーションを行いました。

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記者が見る「SDGs」―環境新聞

記者が見る「SDGs」―環境新聞

当日のプレゼン資料より

福原氏まず環境新聞の福原氏が、SDGsの日本での受入状況を解説しました。
SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能開発目標)は、2030年までのより具体的な開発計画・目標として、2015年9月、「国連持続可能な開発サミット」で採択されました。これは、大きな行動指針である「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」(2030アジェンダ)に内包されているもの。事実上、2000年に採択され、実施されてきた「ミレニアム開発目標」を引き継ぐもので、ミレニアムでフォローできなかった課題に加え、深刻化する環境問題も含め、17の目標と169のターゲットが設定されています。

福原氏は、環境新聞編集部でSDGsの取材を長く続けており「思い入れも強い」そう。昨年の採択から、つい先日(10月18日)に行動指針骨子が発表されたところまでの流れを解説し、「日本国内ではまだまだ認知が進まない」現状ですが、「ビジネスのタネはいっぱいある」と訴えます。そして、そのポイントを「パートナーシップではないか」と指摘。「国際的にも、環境省でも企業、NGOなどのさまざまな主体と関係を取り結ぶことが必要だと強く認識」しており、さまざまなプレイヤーとの連携するための会議も開かれるようになっているそうです。

そして最後に、「より具体的な行動指針までは出されておらず、どうやってKPIを導入するのかも見えていないが、パリ協定(2015年11月)、G7環境大臣会合(富山、2016年)、そしてSDGsと流れが続き、持続可能目標をどうやってCSVビジネスへ落とし込むのか、徐々に注目度は高まっており、投資も拡大すると見込まれている。最近はCO2排出との相関関係を外した経済成長が注目されており、これを"デカップリング"と呼ぶが、ぜひ皆さんも固定観念に縛られず、新しいアイデアを出してCSVに取り組んでもらえれば」と呼びかけました。

「地域で共創」する難しさ―資生堂「椿の里プロジェクト」

当日のプレゼン資料より

家田氏続いてのインプットトークは資生堂の家田氏。氏は、2012年、資生堂140周年記念の取り組みのひとつとして始まった、岩手県大船渡市での「椿の里プロジェクト」の概要を語りました。
これは東北の復興と新産業創出の取り組みで、大船渡市の市花でもある椿を新しい産業の軸にしようというもの。行政、NPOとも連携しスタートしましたが、しかし、「いざ始めてみると、課題は山積みで何もできていなかった」のが最初の状況でした。そこで、資生堂では生産体制の確立、ブランディング、若年層の取り込みの3点に取り組みを絞って事業を展開。そして、「企業として継続的に関わるためには、地元と企業のwin&winの形をつくることが必要」という思いから、2014年に初めての商品「椿の夢 資生堂 リラクシングナイトミスト」「気仙椿ドレッシング」を開発して販売。「CSR部だったので、商品開発には高い壁があった」そうだが、「初回生産の5000個はすぐ完売、8000個追加生産したほど」で「本当に売れてよかった」と胸をなでおろしたそう。

いわばソーシャルプロダクツといえる製品として広く受け入れられたわけですが、これについて氏は「ストーリーの共感性」と、「本当に良いもの、効果のあるものを作ること」がポイントだったと振り返ります。フレグランスは就寝前のリラクゼーションを促すものですが、当時仮設住宅などで生活を続ける現地の人たちと共同で商品設計、効果測定を行ったそうです。ショートプレゼンながら、地方へ入る難しさとビジネス化のメソッドなど、多くのヒントの詰まったインプットとなりました。

「CSV初心者」とは思えないアイデア

インプットトークの後、10分ほどの準備を挟んでいよいよ受講生たちのプレゼンです。

最初に発表したのは「安全な水からアフリカを元気にする」。SDGs17分野の6番目「安全な水とトイレを世界中に」を選び、アフリカでは約3億人が清潔な飲料水に不足していることを課題に設定、その解決方法を検討しました。

ポイントは「アフリカでは耕作地が5%で食糧不足が続いている」「ボルビックが行ったCRMの"1リッターfor10リッター"は、10年で90カ所の井戸掘りと169カ所の井戸の修繕に留まっている」(原因のひとつに作った井戸の部品がすぐ売られてしまうという点がある)などの、現地の状況リサーチが多岐に及んでいること。結果、単に水不足の解消ではなく、水問題を「食糧不足」「子どもたちの教育問題」といった課題解決につながるレベレッジポイントと定め、集落ごとの井戸掘削と土壌改良、循環型農業の構築、さらに集落をネットワークした街づくりまでを構想しました。

2番目の登壇グループは「シェアキッチン(キッチンハイク)」を利用し、SDGsの8項目「働きがいも経済成長も」を目指すもの。「世界的な課題というよりも日本国内の課題解決を目指すもの」で、特に増加するシニアをリソースにする社会課題解決プロジェクトです。

一言で言うと「キッチンハイク×こども食堂×保育園」で、シニアが子育て支援をするというもの。「NPOを立ち上げるのか、企業でやるのか方法は定まっていない」が、「子育て問題、シニアの課題に加え、空家の問題にもアプローチできる」と先の展開も検討しています。

3番目のグループはSDGs14,15項をテーマにした「VRふる里Dining Network」プロジェクトです。東京(都市部)と産地を、映像やVRでつなぎ、消費拡大と観光促進を狙うというもの。

産地と消費地をつなぐ取り組みには、よく知られたものがありますが、自分たちの観点とアプローチでこうしたアイデアに達したのは素晴らしいこと。「飲食店経営の難しさや、VRの映像コンテツ作成など課題は山積み」だが、なかなかおもしろい取り組みといえるでしょう。

4番目、最後のグループは子どもたちの貧困をテーマにしたプロジェクト。日本、特に子どもの貧困です。まず日本の子どもの貧困解決を阻む問題である、親が使い込むといった「支援が届かない」という課題にアプローチ。現状、子どもに欠けているのが「勉強のための静かな環境」「衣類」であるという現状リサーチから、例えば場所を提供できる高齢者向け施設のスペースを活用し、子どもたちに提供しようとするというもの。「子どもたちのライフサイクルすべてにコミュニケーションポイントがある」とし、勉強場所の提供だけでなく、文具、おやつ、衣類の提供など、あらゆるところでコミットできると分析。企業側は、子どもたちへの物品提供をマーケティングやロイヤルカスタマー獲得の機会として利用できるとしています。

また、このグループが特徴的であったのは「課題解決される側も努力すべきではないのか」という視点に立っていることかもしれません。「CSVの例を聞いていて、救われる側がなんの努力もせずに、支援を受け入れているというのはおかしいと感じていた」「結果の平等、機会の平等ではなく、努力に対する平等を担保したい」という言葉は、なかなか興味深いものでしょう。いろいろ異論のある意見かもしれませんが、コースを通じてこうした見解に至ったことは、丸の内プラチナ大学のカリキュラム、授業設計の秀逸さの証左であると言えると思います。

今日、ここから始まる「実践」

インプットトークの福原氏、家田氏に加え、この日アドバイザーとして、日立製作所 CSR環境戦略本部の佐藤亜紀氏、リコー サステナビリティ戦略本部の中本映子氏も現場に参加。この4氏から総評をもらったあと、講師の臼井氏が「素晴らしいアイデアだった」と総括。「CSV実践コースで目指したことは、こういう議論を居酒屋でやるとカッコイイよね、ということ。それは"Creating Salaryman Value"ということでもある。"実践コース"とは銘打っていたが、みなさんが本当に実践するのは、まさに今日の今これから。やる気のある人は丸の内プラチナ大学の事務局、3×3Lab Futureを尋ねて」と呼びかけて締めくくりしました。

今回のプレゼンテーションは、もしかするとどのグループも現実味には薄いところがあるかもしれません。しかし、それは経験の不足から来ているものであって、決して企画力不足によるものではありません。むしろ自分たちの言葉と思考を積み重ねて、こうしたアイデアにたどり着いたことは賞賛されるべきこと。あるグループは、たまたま皆が衰退する地方出身者であるという共通のバックボーンがあったことから会議(@居酒屋)が大いに盛り上がり、「その会話やアイデアの全部を詰め込んだら今回の企画になった」と話しています。

このCSV実践コースでは、自分ごととして熱心に取り組む受講生が多く、「ちゃんと自分の言葉で、自分なりの解釈で考えてくれている」と話すのは講師の臼井氏。これにはカリキュラム設計の妙があったと言えるでしょう。「アカデミックな人はできるだけ避けて、実際に"やっている"人をゲスト講師にお迎えして」インプットを積み重ねてきたそう。
しかもうまいのはその順番。ある人のインプットを聞いて「でもそれってキレイごとでしょ?」という疑問が出ると、次の回にはきちんとビジネスでやっている話になる。「でもそれって大企業だからできるんでしょ?」と思うと、次の回には個人でやっている人が登壇するといった具合。「最後のプレゼンテーションに向けたチームビルディングや企画の練り込みをする時間不足といった課題はあり、消化不良の方も多いのでは」と臼井氏は心配していますが、受講生の多くの方が、その消化不良もあり、丸の内プラチナ大学の次期講座も受講したいと語っています。

CSVに興味関心のある人には、ぜひおすすめしたいコースといえるでしょう。しかも、できるだけ頭を空っぽにしてフラットな姿勢で臨むのが吉。CSVやCSRというものは、トレンドにおどらされるだけでなく、泥臭くても、自分の想いと言葉でやるものであり、そのステップとなる丸の内プラチナ大学の次期講座に向けて、ますます期待の高まりを感じさせる最終回となりました。


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