これまでシニア世代を中心に、「セカンドキャリア」を始めるための心構えを学んできた「丸の内プラチナ大学」。今回は、いよいよ2016年の本格開講に向けた、「プレ講座」開設の案内がありました。
冒頭、3×3Laboプロデューサー・田口真司氏からこれまでの丸の内プラチナ大学の概略説明があった後、三菱総研の森卓也氏、企業間フューチャーセンター・志事創業社の臼井清氏からは心構えについてのコメントが。森氏はプラチナ大学の目的を「失敗できる場所を作ること、チームを作ること、地方へアプローチすること」であると話し、その端緒であるプレ講座に向けて、積極的に参加してほしいと呼びかけました。
臼井氏は大手メーカーで「企業内失業」し、新たな人生を歩み始めた経験から、短期的な近い将来において、企業内には「限界集落職場」ができると予言。そこでは、せっかくの能力を持ったシニア世代が「下流老人」扱いされて集められることになることを「もったいない」とし、「そうならないために丸の内プラチナ大学を、(山頂へのアタックのための)ベースキャンプにして英気を養ってほしい」と期待を語りました。
アイスブレイクを挟んで、プラチナ大学に備えるための講演が行われました。
登壇したのは、日本政策金融公庫東京創業支援センター長 新井秀樹氏、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科の中村昌子(よしこ)氏、グリーンデザイン 代表取締役の中村正明氏の3名です。プレゼンテーションのあとにはワークショップが行われ、活発な意見交換が行われました。
起業を支えるのは人材と資金。いくら面白く優れたアイデアがあっても、人材と資金の支えがなければ事業化はできません。セカンドキャリアを起業で考えている人は、事前に資金繰りの体制を整えておくことが重要なのは自明の理。この日登壇した日本政策金融公庫の新井氏は起業者の前途を明るく照らす成功事例とさまざまな支援サービスを示してくれました。
ご存知のように、日本政策金融公庫は平成20年に国民生活金融公庫と農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫の3つの公庫が統合されて生まれた会社。株式会社ではあっても、日本政府が100パーセントの株式を所有する政策金融機関だということです。
同公庫は他の信用金庫や銀行と比べると、多くの小企業(90万企業)に対して少額(約700万円)の資金援助を行っているところが特徴。さらに融資にあたっては無担保が基本で、社会状況に合わせて融資の条件緩和がなされているのだそうです。同公庫には「女性、若者/シニア起業家支援資金」という制度があり、その中で今回、新井氏はシニアに絞った傾向と創業にあたってのポイントを示していました。シニア創業の傾向として示されたのは、次の4点です
・創業動機は社会貢献をしたい
・経験を活かしたい
・高収入は求めず、家計を支える程度でいい
・介護などのソーシャルビジネスを志す起業が多い
「経験を活かした」創業が多い反面、まったくの未経験分野での創業を志す人が多いのもシニアの特徴だということです。高収入を求めないことに関しては、年金などの定収入があるからだろうという指摘もありました。さらに、シニアが創業するにあたってのポイントとして、次の2点を指摘していました。
・在職中に準備しておくこと
・自分の強み/弱みを自己分析しておくこと
この2点は、これまでプラチナ大学でも繰り返し指摘されてきた「準備期間の必要性」と「勘違いへの気づき」に通じることではないでしょうか。このあと新井氏は、成功事例と現在進めている支援サービスの内容を紹介し、日本政策金融公庫がセカンドキャリア起業の助けとなりうることを強調し、気軽に窓口を訪ねてほしいと呼びかけていました。
次に登壇した中村昌子氏は、航空旅客機の元客室乗務員で、長くチーフパーサーを務めた経験と現在の学びを踏まえて、「多世代協働型の成熟社会を目指して」をテーマにスピーチを行いました。
中村氏が最初に掲げた成熟社会のキーワードは次の2つです。
・世代間の相互理解と協働・共生が可能な社会
・自立しアクティヴなシニア世代が、積極的に社会に参画できるしくみつくり
自身はポスト団塊世代で、2013年に早期退職を選択し、"学び直し"で立教大学へ。もともと立教大学文学部英米文学科出身で、学業に"人生のやり残し感"があり、もう一度真剣に勉強しようということで選んだ進路だということです。やり残しとして挙げたのは、英米文学科になかった「ゼミを経験したい」ということと「論文を書きたい」という2つ。この2つを経験することで自己基盤の再構築をはかり、さらに学びたい意欲が湧き、立教セカンドステージ大学進学し、現在も在籍中とのこと。
中村氏は、学び直しの中で出会った多くの仲間の多様な生き方を紹介し、成熟社会の在りようを示しました。また、多様な人たちと接することで得た男性に対する"気づき"は示唆に富んでいました。これを中村氏は、人気のある人/残念な人に分けて示していましたが、多世代協働社会に求められる人材像が見えたように思えます。"残念な人"に対する対策として中村氏は、「お父さん変身講座」プロジェクトを企画し、実際に講座を開設しているとのこと。多世代社会に受け入れられるには、残念な人からの脱却も必要なことなのでしょう。
そして最後に、多世代協働プロジェクトにシニアとして参加するときの心得を紹介しました。シニアは若者を相手にすると自身の経験をもとに「こうしなきゃいけない」というべき論を口にしがち。それは若者には受け入れられない。一緒にワクワクするように「ビジョンの共有」をはかり、失敗したことや挫折したことを話すと若者も受け入れやすくなるのだといいます。逆に高齢者とのコミュニケーションでは知的好奇心の刺激が重要といい、自身が作成した「故郷のメロディーで覚える世界の挨拶」という替え歌を披露しました。その歌の歌詞には世界の国の挨拶の言葉が盛り込まれていました。
さらに最後に、同世代へのメッセージとして「人は一生進化し続ける」という言葉を示し、ポスト団塊世代へエールを送っているように感じました。
グリーンデザインの中村氏は「まちづくり人材育成と地方創生」をテーマにプレゼン。サブタイトルには「"食"をいかしたまちづくりのデザイン」とあり、さまざまに注目される"食"の課題と、その食を中心に置いたまちづくりに求められる人材について話が進められました。
中村氏は現在、6次産業化プランナーや地域創成の要請を受け、多くの地域でまちづくりにかかわっているということです。その経験の中でわかったまちづくりの現状と課題を示し、まちづくりに求められる人材像について話を進めました。
まちづくりの大きな課題は人材不足といいます。中村氏は地域の抱える課題は、ひとつのチャンスと捉えることができる。とくに食と農には、その魅力がつまっているといいます。しかし、そのチャンスをビジネスに展開したり、コーディネートしたりできる人材がいないというのです。
中村氏はかつて音楽にかかわっていたこともあり、まちづくりに求められる人材像を音楽グループのパートに当てはめて、画像にあるように紹介しました。
まちづくりの主役は市民やNPOなのでヴォーカルとして、まちづくりのリズムを刻む行政はドラムに。地域企業を支える商工会議所や商工会はサイドギター、そして、全体を見渡す役どころのまちづくりコーディネーターは演出家の位置づけです。このようにまちづくりにかかわる組織や人材を決めていくと、求められる必要な能力が見えてくるのではないでしょうか。
なお、中村氏は10月から始まるプラチナ大学プレ講座で講師を務めることになっていて、6次産業化の実際を肌で学ぶ講座が用意されていることを予告。予定されているフィールドワークでは、伊豆熱川のみかん農家が抱える課題に実際に触れ、事業承継の解決案やビジネスプラン立案を実際に考える内容を示し、参加者を募っていました。
4、5人ずつのグループに分かれ、テーブルなしで、椅子に座って膝詰めのワークに。最初からアルコールが入り、飲みながらの名刺交換に始まり、意見交換へと移っていきました。
今回は3つの講演の内容を素材にして、起業という視点での意見交換が期待されました。しかし、話題は多岐にわたり、さまざまな話題展開が見られ、会場は活気に満ちていました。
・金融の話
・地域課題の意見交換
・キャッシュフロー維持の難しさ
・地方の取組みの話題
・地方の食のバリエーション
・地方と東京の関係に注目した話 /など
どのようなきっかけでプラチナ大学にかかわったかなどの話も加わり、話題は尽きず、参加者同士のつながりにも結びついているようでした。
イベントの最後に、10月から開講する3つのプレ講座の説明がありました。この日登壇した講師陣もあらためて教鞭を取ることが紹介され、各人から意気込みが語られました。3つのコースは次のとおりです。
1.地域デザインコース
2.農業ビジネスコース
3.CSV実践コース
さらに、各コースに入る前に共通講座が2回用意されており、受講にあたってのもっともベーシックな基礎知識が得られるような構成になっています。各コースはそれぞれ3回の講義で行われ、終了後は最終回の共通講座である全体報告会で成果発表が予定されています。
今回のプレ講座で注目は、共通講座の初回の基調講演として、株式会社三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏が登場すること。東京大学元総長でプラチナ構想の推進者である小宮山氏は、基調講演の依頼に対して「俺がしゃべらないで誰がしゃべる。プラチナのことは俺に任せろ」と快諾してくれたそうです。最初から楽しみの予感でいっぱいのプレ講座に期待したいと思います。
丸の内プラチナ大学では、ビジネスパーソンを対象としたキャリア講座を提供しています。講座を通じて創造性を高め、人とつながることで、組織での再活躍のほか、起業や地域・社会貢献など、受講生の様々な可能性を広げます。