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8月8日、東京・大手町の3×3 Lab Futureにて、丸の内プラチナ大学アグリ・フードビジネスコース特別講座が開催されました。
講座では、基調講演とパネルディスカッションを通じて、日本の食と食文化を世界に発信するための食農ビジネスのあり方が様々な角度から議論、提案され、グローバルな視点とマーケットイン(現地市場のニーズ)を深く理解することが、今、そしてこれから、なぜ重要であるのか、具体的な事例を交えながら語られました。
基調講演では株式会社TNC代表取締役社長である小祝誉士夫氏が登壇し、これからの食農のビジネスに必要なポイントは3つあるとし、講演はスタート。
そのひとつ目が、「グローバル視点」です。
小祝氏は、グローバル視点とはその言葉通り「海外に出て行ってグローバルな観点から見る、俯瞰でイメージして行く」と語りました。
例えば、私たちにとって非常に身近な食材である豆腐、味噌、わかめ、おにぎりは、グローバル市場では今やトレンドの最先端に位置づけられています。豆腐はプラントベースフードの主役級であり、味噌は発酵食品の中心であって「発酵なしには美味しさを作れない」と世界中のシェフに注目されています。わかめは、ひじきや海苔などとともに「ネクストシーフード」や「シーベジタブル」と呼ばれ、新しいタンパク源としてその市場を拡大。おにぎりは持ち運び可能な「モバイル和食」として、パリでは連日大行列の店があるほど人気を博しています。
さらに、海外の食の現場にフォーカスしていくと興味深い景色を見ることができると言います。
売り場に行けば、日本には無い商材があったり、目から鱗の洗練されたデザインが並んでいたりします。ロンドンなどのトレンド先端の地では、「非醤油系」といってシーズニングや様々な調味料でお寿司を食べるなど独自の進化を遂げているのです。
基調講演を担った小祝誉士夫氏
このように「グローバル視点」を持つことは、バイアスがかかってしまい固定概念からなかなか抜け出せない「日本の食材や食文化、食ビジネス」に対して、新たな気づきをもたらしてくれます。そういった気づき、新たな価値観の創出を海外輸出だけでなく一度ローカルに戻すこともまた重要であると小祝氏は語ります。
「せっかくいいものがローカルにはあるので、そういったものを外に繋げていくだけではなく、海外の市場を見ることで得た気づきをもう1度ローカルに戻して、自分たちの事業、食の価値を上げていく、食と農の価値を上げていくことに繋げてほしいです」
同氏は、コロナ禍を経て、ローカルの重要性やコミュニティへの回帰意識が高まっている中、地域固有の食文化や資源の価値を再発見し、それを活かすことが重要だと述べました。
グローバルな視点で得た気づきを持って、地域固有の歴史や文化、自然といった地域資源をさらに掛け合わせることで、ストーリー性のあるプロダクトやツーリズムを創出できる可能性を広げいく。世界からローカルへ。ローカルから世界へ。これからの食農ビジネスに多面的、複眼的な価値を創出してくれる、それこそが「グローバル視点」なのです。
食農のビジネスに必要なポイントの2つ目として上がったのが、今回の講座の主軸である「マーケットイン」です。
これまで主流であった「自分たちが作りたいもの、良いと考えるもの」を出すプロダクトアウト型ではなく、これからは「現地の生活者が求めるもの」を捉える「マーケットイン思考」が、特に輸出事業や海外展開においては不可欠となります。そしてそのために今、圧倒的に足りていないのが「リサーチ」「ヒアリング」だと小祝氏は強調しました。
そして、まさに、この「リサーチ&ヒアリング」を小祝氏は徹底して実施してきました。 「世界70カ国で暮らす日本人女性600名のネットワーク」を、約20年かけ構築し、運用。彼女たちは駐在の方ではなく現地のエキスパート、いわゆる専門性を持って活躍されている女性たちです。そんな彼女たちをハブにして、現地の生活者や専門家、有識者、様々な海外の研究機関と連携しながら、日本と海外の食の価値を繋ぐということを長年取り組んできた、まさにマーケットインのエキスパートなのです。
「私が20年ずっと続けているのは家庭訪問調査です。世界中の家にお邪魔して、どんなものを食べているのか冷蔵庫の中を見たり、スマホで何をしているのか、友達は何人いるのかなど聞き取ったり、そんなことを徹底的に調べています。これがマーケットインの真髄なのです」
現地の生活者が求めるものを、いかに正確に捉え、その生活様式や新しい価値観、トレンドにあるものをどう生み出していくかが、全ての分かれ道であると話しました。
「パスタをずっと食べてきた人たちにとって、手延べそうめん、日本のジャパニーズヌードルと言ってもなかなか価値が伝わらないです。けれども、マーケットインできちんとリサーチをすると、現地の人たちが買うときに見る一番のポイントはパスタ同様『麺の細さ』や『ゆで時間』だとわかったのです。結果、それらをできるだけ大きくパッケージに表示しました。さらに、現地のデザイナーと連携して新しいパッケージを開発することも必要だとわかり、そのデザイナーと生産地の長崎の風景やブランド、そうめんやうどんのストーリーをしっかり共有しました。すると長崎の青い海とそうめんの白の美しさを表現することで、日本ではあまり使われない寒色系の洗練されたパッケージになったんです」
それはまさに、現地の声に耳を傾けたことで得た、現地の人が求めるデザインでした。いかにローカルインサイトを掴んでいくか、現地の生活者の「本音」を掴むことができるか、その成功が心に響く商品開発やマーケティングに繋がっていきます。そしてそのためには、マーケットイン思考、徹底的な現地調査、リサーチが有効なのです。
これからの食農ビジネスに必要な最後のポイントとして小祝氏があげたのが「食の潮流の把握」でした。それはつまり「価値観の変化」をしっかり捕まえることだといいます。そして現在の、世界の食の大きな3つの潮流を紹介しました。
①SUSTAINABLE+1
これは、地球環境への配慮(プラスチック削減、地産地消、CO2削減目標など)で、いまや基礎的要件であり、それにプラスワンを加え、持続可能(サステナブル)な状態を維持するだけでなく、より良い状態に積極的に回復させるという「リジェネラティブ」な取り組み(伝統文化継承、フェアトレード、森林保護など)が共感を生み、消費に繋がっています。
「美味しさの価値」というと、これまでは高級食材を使うとか高度な料理技術といったものでしたが、ミシュランのグリーンスターのような新しい価値基準が出てきたことで、美味しさの価値はただ美味しいだけではなく、人々の価値観に沿うような、共感をもたらすような様々な価値が必要になってきています。その価値観の変化、食の潮流を把握をすることが何より大事であり、共感を呼ぶストーリの創出に繋がっていくのだといいます。
②LOCAL&COMMUNITY
2番目のキーワードは、いわゆる共同体意識です。地域生産者の支援、地元の食材消費、店舗内での栽培(店産店消)、そういったことまでが価値に変わってきています。また、食を軸としたサードプレイス(高齢者、移民難民との交流の場)、ソーシャルダイニング、フードシェアリングなども拡大。こういったローカルを守りながら、しっかりと食の空間をシェアしていくといった「ローカルとコミュニティの共同意識」が、大きな潮流になっています。
③FOODEXPERIENCE
最後は「新しい食の体験価値」です。物販だけでなく、食に関する「学び」や「文化体験」を提供する場、消費者のニーズに合わせたカスタマイズ(ベジタブルブッチャー、カスタムサラダ)、能動的に地域課題に関わる「ファームトゥテーブル」の進化形などが求められています。
こうした3つの大きな潮流を理解しながらマーケットの声に耳を傾けていていくと、食に求める価値が多様化していることがよくわかります。そしてそれは、美味しさの価値が多様化しているということとイコールであり、そこには共感の美味しさがあって、未来の美味しさは、そういった共感を作りながら「食と農のビジネス」を作っていくことが重要だとわかります。
小祝氏は「グローバなル視点で、自社、自分たちのビジネスをどう多面的に見て行くか、新しい価値をどこに見出すかということが非常に大事であり、自分たちの商材、サービスをマーケットインの発想で、共感を得ながらアップデートしていってほしい」と基調講演を締めました。
基調講演後のパネルディスカッションでは、丸の内プラチナ大学アグリ・フードビジネスコース講師である中村正明氏、国内外の商業施設運営のDXやまちづくりを進め、地域と世界をつなぐビジネスを展開する長島秀晃氏(株式会社イーストの代表取締役)も登壇。日本の食、食文化を国内外に発信するための食農ビジネスについて、有意義なディスカッションが行われました。レポートではその一部をご紹介します。
6次産業とマーケットイン思考ついて語る中村氏(写真左)
中村氏からは、6次産業化が抱える問題もまたマーケットインで解決できるのでは、と期待が語られました。
「6次産業化では、本当に美味しい素材でありながら売れないというものが山ほどあるのが実情です。生産者主体でやっている6次産業化の場合は、素材の美味しさやこだわり、思いが強ければ強いほどそういう傾向が見られます。では、どうしたらいいのかと聞かれますが、やはりマーケットイン的な発想、俯瞰して見るというのが大事になっていくのだと思います」
さらにその後、質疑応答に移りました。訪日観光客の食事が話題に上がり、参加者からは「インバウンドツアーをどう作っていくか。ストーリー性をどう持たせれば良いのか」との問いが投げかけられました。長嶋氏は「どうやって食べてもらうか、食べて頂くためのストーリーやその空間、場所はとても重要ですそのためには商品、食に対するアプローチと、そこで体験できる価値空間の提案が不可欠です」と応えました。
インバウンドツアーの作り方について答える長嶋氏(写真右から2人目)
また、小祝氏からは「外国人を単なる旅行者として扱うのではなく、一緒に考えるパートナー的に共創していくことができると、自分たちが気づかない価値に出会えるではないでしょうか。歴史や文化も含めたプロセスを押し付けるのではなく、外からの目線でデザインしていくことを提案したいです」と、訪日観光客を共創者、コクリエイションと見立てる視点の変換が提示されました。
写真左:講座の感想を述べ合う参加者たち
写真右:千葉県香取市の食材、麹を使った料理が懇親会では提供された。同市は、発酵食や6次産業化の取り組みで知られている
講演後の懇親会では、発酵を活かしたまちづくりをされている千葉の香取市の食材、麹を使った料理、日本酒が振る舞われました。その滋味深い料理の数々に舌鼓を打ちながら、実り多きディスカッションや交流が続いていきました。
食と農のビジネスの未来は、グローバルな視点と徹底したマーケットイン思考、そして食の潮流への理解にかかっています。求められているのは、単なる「美味しい」だけでなく、共感を呼ぶストーリーや持続可能性、ローカルへの貢献、新しい体験価値です。そうしたことを踏まえて日本の豊かな食文化や地域資源を、海外の視点や現地のニーズに合わせて再構築し、世界に発信していくことで、新たなビジネスチャンス、食と農の可能性が開けそうです。
(取材・執筆:鈴木留美)

丸の内プラチナ大学では、ビジネスパーソンを対象としたキャリア講座を提供しています。講座を通じて創造性を高め、人とつながることで、組織での再活躍のほか、起業や地域・社会貢献など、受講生の様々な可能性を広げます。
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大手町ラボフェス#3 食と農業とサステナブル 2025年8月26日(火)開催
「GOOD DESIGN MARUNOUCHI」にて14日(土)まで