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学生からビジネスパーソンまで全世代を対象にした市民大学「丸の内プラチナ大学」の第9期が開講しました。開講式の9月5日、各コース共通のオリエンテーションが3×3Lab Futureで開催され、同大の小宮山宏学長(一般社団法人プラチナ構想ネットワーク会長/株式会社三菱総合研究所理事長)の基調講演やコースガイダンスが行われました。
「プラチナ社会への道筋」と題した基調講演では、小宮山学長が冒頭、現在が人類史的な転換点を迎えているということを強調しました。「一つは気候変動です。今年の6月までの一年間で産業革命以前の平均気温から1.5℃上がり、不可逆的なティッピングポイントを迎えたのかもしれないと懸念されます。次にAI(人工知能)が出てきました。今は人類史的な大転換期を迎えています」。小宮山氏は16年前からプラチナ社会(「地球が持続し、豊かで、すべての人の自己実現を可能にする社会」)の実現を提唱し、これから私たちの進むべきビジョンになると語りました。
転換期に関する小宮山氏の分析はさらに続きます。「20世紀まで無限に思えた地球が、今や人間の活動に比して小さくなってしまいました。また、人間の長寿化もあります。産業革命以降に十分な食料を生産できるようになったため、今や世界の平均寿命は73歳まで伸びました」。さらに3つ目として爆発的に増える知識を挙げました。小宮山氏は現在の知識の総体をハリセンボンに例え「ハリセンボンの針一本一本が専門知識、つまり高い専門知識が膨大にあるものの、多くの人はほとんど知らないのです。これら無数の専門知識を正しく活用することができれば、現代社会の多くの問題は解決できるはずです」と語りました。これまでの常識が通用しなくなってきている今こそ、ビジョンとしてプラチナ社会を掲げることが必要なのです。
続いて小宮山氏は2050年を見据えて循環型社会の構築の重要性を語りました。「2050年には温暖化もさることながら、多くの資源が社会の中に飽和するため循環していくことが求められます。例えば2050年には自動車を作るための鉄は廃車になった車の鉄を使い回すでしょう。世界全体がものを循環する社会になっていきます。それにはエネルギーが必要で、そのエネルギーを再生可能エネルギーで賄うという完全循環社会と自然共生の二つは、今後日本が世界を先導できるコンセプトになると思っています。2050年までに今は常識と思っていることが、本当に変わります」。それでは2050年までに私たちは何をすべきでしょうか。同氏はこれらに対応するための構想を語りました。「僕らは志を同じくする人たちを募り、まとめていくプラチナ産業イニシアチブを立ち上げることを決めました。昨年は森林産業で立ち上げ、今後は再生可能エネルギー、健康産業、人財育成産業、そして観光産業でもイニシアチブを立ち上げていきます。」(小宮山氏)
次に小宮山氏は、プラチナ社会に向けた取り組みを紹介しました。まず健康産業に関して、「長く生きたいという希望はある程度は実現しました。いま目指すのは健康寿命をできるだけ伸ばすことです」とし、ビックデータの活用がカギになると語りました。北海道大学は岩見沢市と連携して妊婦の健康状態のデータを収集・分析し、そのデータをもとに妊婦への食や生活に関して個別にアドバイスすることにより、2015年には10.4%だった低出生体重児の割合を2019年に6.3%まで下げることができました。この成功要因について同氏は「大学と一緒に取り組むというのは信頼感があります。また、ビックデータをもとに個々にアドバイスできたことは重要でした」と分析しました。次に同氏が「2050年の最大産業」と位置付ける人財産業では、「日本の教育は記憶力を重視しすぎています。人材育成は結局自分で考え答えを導き出せるような人を育てるためにも、アクティブラーニングが重要です」。その実践例としてプラチナ構想ネットワークのプラチナ未来人財育成塾を紹介しました。同塾では、中学生が3日間、2050年の社会をプラチナ社会にするためにはどうすればいいかを考え、議論し発表します。小宮山氏は「中学生だけでなく、大学生にチューターとして入ってもらい、シニアや留学生なども参加してくれる。そうすると非常に多様性のある意見交換の場ができます。これをコミュニティスクールとして全国に広げていきたいですね」と展望も話しました。今後の人財育成で重要なのは学生の力で、その実例が種子島で行われている超大学です。超大学は東京大学の寄付講座を中心に19大学から学生が集まり、エネルギーや観光、農業など様々な分野についてプラチナ社会への方法を島の高校生に教え、高校生が市に学習成果を発表します。小宮山氏によれば「数年前から現役の首長も議論に参加しています。学生にとってもアクティブラーニングになり、自治体のためにもなる。だから他の地域でも学生を社会課題解決のための仲間として巻き込んでほしいですね」と語りました。
最後に地球と社会の関係において重要なのはエネルギー産業と森林産業だと小宮山氏。「今は原子力発電がたびたび話題になりますが、原子力は日本で必要なエネルギーの10%未満しか賄えず、主要な議題ではないのです。それよりも2050年までに再生可能エネルギーで日本の電力の8割を賄うにはどうすべきかの方が重要です。日本は原子力が注目されて再生可能エネルギーの割合が増えていない一方、ヨーロッパや中国は着々と再生可能エネルギーの割合を増やしています。日本も本気で取り組めば、太陽光発電だけで現在の総発電量の3倍の電力が確保できるはずなんです」と現状の日本のエネルギー方向性に警鐘を鳴らしました。
そのうえで小宮山氏は改めて日本は資源自給国家になれると予言します。「日本は資源のない国だと言われてきたのは鉄鉱石や化石燃料など地下資源が無いためです。しかし先に話した都市鉱山のように、資源は回せば良いのです。また再生可能エネルギーで日本のエネルギーは十分に賄えますから、これからは資源のない国などと言ってはいけません」。エネルギーや地下資源のほかに、食料や木材も7割から8割の自給率を目指すことで少子化や地方創生、安全保障などすべての解が導かれるということも示唆し、講演を締めくくりました。
小宮山氏の基調講演の後は各コースに分かれてのコースガイダンスが行われました。今期開講されたコースは以下の通り。
コース1 逆参勤交代コース
コース2 アグリ・フードビジネスコース
コース3 繋がる観光創造コース
コース4 アートフルライフコース
コース5 ライフシフト起業コース
コース6 Social SHIFTテーブルコース
コース7 再生可能エネルギー入門コース
コース8 ウェルビーイングライフデザインコース
コース9 物語思考デザインコース
丸の内プラチナ大学第9期のご案内はこちら
https://www.ecozzeria.jp/events/platinum/platinum2024.html
パンフレットはこちら
https://www.ecozzeria.jp/events/entryimage/20240723/platinum2024_pamphlet.pdf
※一部のコースでは、途中からの参加やスポットでの参加が可能なようです。気になるコースがあればぜひ確認してみてください。
今期新設された物語思考デザインコースのガイダンスには、およそ10名の受講者が集まりました。同コースの講師である梅本龍夫氏は、小宮山氏の基調講演を振り返りながら「データに基づいた話でx、熱い想いがあり、大きな構想もありました。ただ、小宮山学長が時折『どうしてこれができないのか』と仰っていたように、残念ながら数字だけでは人はなかなか動かないですね。それがなぜかを理解する手掛かりは物語にあると思います。小宮山学長は世界全体を捉えた展望を提示されました。私たち一人ひとりの物語が繋がり、これまで見えなかったものが見えるようになればプラチナ社会を実現できると思います。その方法を皆さん一緒に探究していきましょう」と呼びかけていました。
受講生たちからは「自分の視野を広げたい」、「会社内の他部署とうまく連携していくヒントが得られるのでは」、「説明からは内容が想像できないので面白く感じた」などの期待が語られ、講師・受講生のインタラクティブなやりとりは盛り上がりを見せていました。
他のコースも含め、開講式には様々な経歴、年齢の方が参加していました。仕事のため、自分のため、セカンドキャリアのためなどそれぞれに学ぶ動機は異なるかもしれません。しかし、小宮山氏の基調講演に真剣に耳を傾ける姿やその後のコースガイダンス・懇親会で交流する姿は、受講生たちがプラチナ社会の実現に向けて一歩を踏み出そうとしている強い志を感じるものでした。今後の丸の内プラチナ大学の躍進に期待したいと思います。
丸の内プラチナ大学では、ビジネスパーソンを対象としたキャリア講座を提供しています。講座を通じて創造性を高め、人とつながることで、組織での再活躍のほか、起業や地域・社会貢献など、受講生の様々な可能性を広げます。