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【レポート】「近い電力、遠い電力」から考える、日本の再生可能エネルギーのあり方

【丸の内プラチナ大学】再生可能エネルギー入門コース DAY2 2024年9月10日(火)開催

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「再生可能エネルギー入門コース」は、再生可能エネルギーのことをわかりやすく学びながら、地球温暖化やこれからのまちづくり、社会のあり方について考える講座です。

コース別では初めての講義となるDAY2では、電力中央研究所で需要予測などの研究に従事し、現在は所エネルギーシステム工学研究所の所長として、電力の研究や大学で教鞭をとっている所健一氏をゲスト講師にお招きし、「エネルギーとまちづくりの未来 エネルギーの最適活用とスマートシティ」と題した講演が行われました。

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「近い電力、遠い電力」という概念に端を発して、電力のあり方を捉える

「近い電力、遠い電力」という概念に端を発して、電力のあり方を捉える

image_event_240910.002.jpeg左:再生可能エネルギー入門コース講師の三上己紀(エコッツェリア協会研究調査室長)
右:ゲスト講師の所健一氏

所氏の講演は、再エネと一般の人々の距離感をわかりやすくするために、「近い電力、遠い電力」という言葉の紹介からスタートしました。この言葉は、元滋賀県知事で現在は参議院議員の嘉田由紀子氏が提唱した「近い水、遠い水」という概念に端を発して、電力のあり方を捉えたものです。近い水とは、井戸水や湧き水、川の水など、人の生活拠点のごく近くに存在し、コミュニティの参加者として活用できるものです。利用者は水のレジリエンス(回復力)の維持・向上に務める義務があります。一方、遠い水とは水道のことで、人々は消費者として対価を支払った上で使用するものです。日本では水道局が管理を行うため、利用者はその維持管理に責務を負いません。

「『近い水、遠い水』を知った京都大学の喜多一先生は、この考え方を社会システムに当てはめて『近いシステム、遠いシステム』という表現を用いました。その喜多先生に触発されて私が考えたのが『近い電力、遠い電力』です。近い電力とは、皆さんのご自宅に設置されている再エネ機器によって作られる電力です。この電力は自分たちで使用するか、公共財としてご近所共同体で使用するもので、レジリエンスも自分たちで担保します。遠い電力は、電力会社が作る系統電力のことで、私たちはお金を払い、消費者として利用するものです。この2つの電力は、どちらがいい、どちらを使っていくべきだというものではありません。これからのまちづくりを考えていく上で、両者のメリットとデメリットを考え、平時だけではなく非常時のことも考えながら、適切に使い分けていくことが必要になります」(所氏、以下同)

近い電力は、長距離の送電には適さないものの、安定した電源供給が可能な直流で主に作られます。反対に遠い電力は、長距離送電に適し、発電効率も良い交流で主に作られます。従って、現在私たちが家庭などで使用している電気のほとんどが交流です。しかし、非常時を考えるという意味では、蓄電池に溜められるのは直流の電気のみであることから、いかにして直流の電気の生成と利用をしていくかも重要となります。そこで、金沢工業大学や沖縄科学技術大学院大学といった大学では、太陽光発電や蓄電池の直流電力を交流に変換せず、そのまま活用するシステムの実運用や実証実験を行っています。

近い電力は、余剰電力が発生すると、それを共同体の中で活用するケースもあります。その背景について、所氏は「コモン(common)」という言葉を使いながら説明しました。

「例えば哲学者の斎藤幸平さんは、水や電力などの公共財を自分たちで民主主義的に管理していくことを推奨し、それをコモンの定義としました。また、エッセイストの内田樹さんは、血縁や地縁共同体の瓦解、相互扶助システムの不在といった索漠たる現状を何とかするために、ご近所共同体というコモンが必要だと言っています。両者に共通しているのは、コモンで近い電力を使う時には、単なる消費者という立場ではなく、システムに関わりながら活用する方法を考えていくべきということです」

コモンでの余剰電力は、ブロックチェーンを活用したP2P取引など資本主義的な活用法と、コミュニティ内で貸し借りし、互いに融通を利かせ合う活用法の2つがあります。後者の場合、コミュニティ内で域内通貨のようなものを作って譲り合ったり、例えば農作物のような電力以外のものと交換したりする方法もあると、所氏は説明しました。

スマートシティ構築に求められる「近い電力を活用する知恵」

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このように、コモンを形成する上でも重要性が増す再生可能エネルギーですが、もう少し広い視点として、まちづくりをしていく上ではどのような活用があるのでしょうか。所氏は、電気の学術的な調査・研究や、広報・普及を行う電気学会で議論された「スマートコミュニティモデルの検討」に触れながら解説をしていきました。

「再生可能エネルギーは出力が不安定なため、知恵を使ってうまく使っていかなければなりません。ここで言う知恵とはシステム技術のことです。情報技術やエネルギーマネジメント技術、蓄電技術などがありますが、電気学会では知恵の良し悪しを評価するためにスマートコミュニティモデルというものを作りました。電力、ガス、水処理、産業、業務、家庭、鉄道という7分野の相互作用を考慮して電力、熱、水道の活用を検討するためのモデルです。エネルギー消費量、エネルギーコスト、CO2排出量の3項目から評価することで、様々な知恵を定量的に比較できます」

例えば水処理であれば、上水道を利用して使用電力のピークシフトと余剰電力の吸収をするというものです。また、鉄道であれば、余剰電力に合わせて運行方式を変えていくというものです。こうした知恵を評価して、近いシステムと遠いシステムのメリットとデメリットを考え、多分野の相互作用を考慮しながら、多様なエネルギーを活用していくことが大切になってくると所氏は話します。

「スマートシティを考える上で重要になるのは、近い電力を活用する知恵です。その知恵とは、ひとつはコモンとして余剰電力を上手に活用していく意識を持つことがあります。そこに対して、今回紹介したようなシステム技術を組み合わせていくことも非常に大切になってくるでしょう。私は『こうすれば正解』という答えを持っているわけではありませんが、今日紹介したような知恵について考えながら、理想のスマートシティを検討していくことが良いのではないでしょうか」

賢国日本で日本発のビジネスを構築する

image_event_240910.004.jpegこの日は30名近くが参加。気になるスライドをチェックして熱心にメモを取る人も

講演の終盤には、エネルギーの最適活用に関する考え方を紹介しました。エネルギーを最適な形で活用するには、電力需要や再生可能エネルギーの発電量などの予測に基づき、エネルギーの供給と消費に関する計画を立てることが不可欠になります。この時に重要になるのは、予測の精度そのものよりも、予測を基にして立てた計画がどれだけの効果をもたらすか、ということです。そのような計画を立案するためには、予測と計画を一体的に捉え、両者のバランスを考慮しながら検討していくことが重要になると、所氏は説明しました。

「予測と計画のバランスを取るうえでポイントとなるのは、計算時間と誤差の関係です。例えばタイムリミットギリギリのところで予測をすれば、当然誤差は小さくなりますが、1週間前だと誤差が生じます。しかし、供給と消費の計画を立てるには相応の時間が必要となるため、できるだけ余裕を持って臨みたいところです。従って、両者が適切で許容できるタイミングを見計らっていくことが重要になるのです」

こうして予測を立てることで、集合住宅や特定のエリアの電力使用量が推測できるようになります。当然ながらあくまでも予測のため外れることもありますが、こうした準備を行うことで、エネルギーを適切に活用するための土台をつくることができるのです。

一方で、エネルギーの最適活用には課題があります。エネルギー機器の運転を最適化するために、近年ではセンサーやクラウド、AIなどを活用して効率化していますが、効率化して削減した分のコストよりも、最新機器を活用するためのコストが上回る恐れがあるのです。この課題を解決するためには、現実の事象を簡略化して抽象的な物事に置き換えて考えるモデリング(モデル化)という手法が有効になります。モデリングすることで簡易な計算を行い、コストの削減方法、余剰電力量の推測と活用方法などを算出していきます。それにより、コストの見極めをしやすくしたり、その背景にあるエネルギー問題の複雑な部分を単純化して解決策を見つけやすくしたりできるのです。

このように再生可能エネルギーやエネルギー問題との向き合い方について解説した所氏。最後に次のような言葉で講演を締めくくりました。

「日本は今、少子高齢化や気候変動問題、インフラの老朽化など多くの問題を抱えています。こうした課題を解決するには、賢国日本(スマータージャパン)と称して、日本発の社会システムを作り、コモンとシステム技術で課題を解決し、それを海外展開していくことができると面白いのではないかと考えています」

講演を終えたところで質疑応答へと移りました。最初の質問は「性善説に則るコモンシステムは、昨今社会情勢ではうまくいかないのではないか」というものです。これに対して所氏は「その指摘は一理ある」と認めた上で、次のように回答しました。

「自分では余剰電力を出せず、活用だけするフリーライダーはどうしても登場してしまいますし、それがコモンの弱点だと思います。ただ、そうした人は、ある程度までは許容されますが、どこかの線で拒絶され、村八分のような状態になってしまいます。それが正しいかという議論はまた別でありますが、そうした対応が取られるでしょう」

また、「東京のような巨大な都市では、自活できるだけのエネルギーを個人が作り出すのは難しいと思われるため、地方に人口を分散させるなどの対応が必要になるのでは」という質問に対しては、次のように答えます。

「確かに、都心で再生可能エネルギーを作ることには限界がありますので、技術システムを組み合わせたり、地方から再生可能エネルギーをもらったりするなど、何らかの仕組みを作る必要はあると思います。また、東京で近い電力、遠い電力の理想的なシステムを作れたとしても、それをそのまま地方に持っていっても使えるわけではありません。地方には地方に合った近い電力、遠い電力があるからです。従って、それぞれの地域に適した近い電力、遠い電力の使い方があるのではないかと考えています」

こうして、再生可能エネルギー入門コースのDay2は終了の時間を迎えました。終了後には懇親会の場も設けられ、皆リラックスした雰囲気で会話を楽しんでいました。

再生可能エネルギー入門コースでは、今後もエネルギーの専門家をお招きし、多様な角度から再生可能エネルギーについて考える場を提供していきます。興味のある方々はぜひチェックしてみてください。

image_event_240910.005.jpeg講演終了後には懇親会も開催。ここでも多数の質問が飛んでいた

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