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【レポート】苫前町の絶品食材をプロモーションせよ!生産者の想いから地域ブランディングを考える

【丸の内プラチナ大学】アグリ・フードビジネスコース DAY5 2024年11月25日(月)開催

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丸の内プラチナ大学のアグリ・フードビジネスコースでは、日本の食と農が抱える課題解決を目指し、フード・イノベーションや食を活かした地域活性化について実践的に学んでいます。同コースのDAY5が11月25日、東京・大手町の3×3Lab Futureで開催されました。この日は北海道苫前町の農業・漁業の生産者を招き、6次産業化のプロモーションについて考えました。

苫前町も他の地域と同じく人口減少が続き、現在の人口は約2,700人。そのうち65歳以上の高齢者は4割を超え、担い手不足が深刻化しています。この影響で1次産業のみならず、2次産業や3次産業も衰退しつつあります。この負のスパイラルを何とか食い止め、6次産業化や地域ブランディングを通じて新たな未来を切り開いていくことが喫緊の課題となっています。

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「異次元の美味しさ」、「食事の主役を張れる」など驚きの声が続々

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image_event_241125.002.jpegアグリ・フードビジネスコース講師の中村正明氏

講師の中村正明氏は冒頭で「今回は地域ブランドを具体的に考えていきます。まずは苫前町の若手生産者3名からそれぞれの生産や商品へのこだわりを聞き、試食していただきます。その後各グループで彼らの事業のプロモーションを考えます。地域の特長を生かして商品やサービスを高付加価値化し、地域全体のイメージを向上させることが地域ブランディングの要です」と述べました。

image_event_241125.003.jpegとままえ特定蔬菜生産部会南瓜部門副部長の平井徹氏

最初に登場したのは、とままえ特定蔬菜生産部会で南瓜部門副部長を務める平井徹氏です。39歳の平井氏は大学卒業後、一度一般企業に勤め、2018年にUターンして実家の米農家を継ぎました。苫前町の高齢化の波は米農家にも波及しており「苫前町には100軒近くの米農家がいるが、そのうち40代以下は3割程度しかいない」と平井氏は言います。

そのような状況下、少しでも苫前の米を差別化しようと取り組んでいるのが、北海道独自の認証制度「YES!cleanマーク(北のクリーン農産物表示制度)」です。平井氏によれば、このマークを取得するには、堆肥など有機物を使った健康な土作りや、土壌への負担を減らすための化学肥料の低減、必要最低限の化学合成農薬の使用などの条件を満たす必要があり、環境への配慮が求められます。「苫前町の農家さんはこれを当たり前にやっていて、北海道の基準よりも農薬や肥料をおおむね30~50%低減している」(平井氏)とのことでした。

また、苫前の米は粒の大きさが特徴的です。一般的に流通している米は1.9~1.95ミリの粒の大きさのところ、苫前の米は2ミリ以上だけを出荷しているそうで、「0.05ミリに意味はあるの?と思われるかもしれないが、一粒一粒がしっかりして、食べた時の食感が大きく違う。ですから一度食べるとリピーターになる方が多い」と平井氏は話しました。

受講生らは実際に平井氏が育てた「ゆめぴりか」をいただきました。今回は食べ比べのために他地域の米も提供され、参加者からは「ゆめぴりかの方がもっちりとしている。そして一粒ずつしっかりしていて粒を感じる」といった声や、「柔らかさがある」といった意見が聞かれました。また6次化商品としては2ミリに満たなかった米を加工したポン菓子も提供され、「懐かしい味」と好評でした。

image_event_241125.004.jpeg左:米をおにぎりにして食べ比べ。右の付箋付きが苫前町産ゆめぴりか
右:苫前のお米で作ったポン菓子

次に登壇したのは、伝統的な樽流し漁でミズダコ漁を行っているinakaBLUE代表小笠原宏一氏。小笠原氏は次のような話から始めました。「私は苫前町で生まれて漁師になって15年経つが、子どもの時に見ていた苫前町と漁師になってから見る苫前町は漁師コミュニティも含めて寂しくなったと感じる。昔あったものがどんどんなくなっていき、仕方のない部分もあるが黙っているのはすごく悔しい」

image_event_241125.005.jpeg inakaBLUE代表の小笠原宏一氏

そんな現状を打開するために、自分にも何かできないかという思いから、小笠原氏は2019年から漁業改善プロジェクトを始めました。プロジェクトではミズダコの乱獲を防ぐため、一定サイズ以下は海へ再放流し、科学的な見地から樽の数量制限を行っています。そんな小笠原氏が取り組む6次化商品が「ReTAKO」です。ReTAKOは漁獲した新鮮なミズダコを一度茹でてから急速冷凍し、ECサイトなどを通じて漁師から直販する仕組みです。

「ReTAKOの『Re』は、戻すとか再びというような意味があります。この漁師からの直販システムによって利益を確保できるだけでなく、タコの獲りすぎを防ぐことができる。また、お客様にストーリーをしっかりと届けることができる」とメリットを語りました。さらに、「海を守りたいと思う消費者が購入してくれることで、海洋資源に対する皆さんの思いを体現し、それが地球環境や地域の持続可能性に繋がると良い」とも話しました。

試食ではミズダコの足と頭の部分のスライスが提供されました。受講生からは「普段のタコとは全く別物」「初めてこんな柔らかいタコを食べた。今まで食べた中で異次元の美味しさ」と驚きの声があがりました。

image_event_241125.006.jpeg試食として提供された「ReTAKO」のミズダコの切り身。苫前町で獲れるミズダコは柔らかさが特徴

最後に登壇したのは、苫前町で農業を営む上田ファーム株式会社の代表取締役、上田卓司氏です。「私はかぼちゃ農家。大学卒業後サラリーマンを経験したが、地元である苫前町にUターンし、2014年に実家の農家を継いだ。就農して10年が経ち今では東京ドーム1個分に相当する約4.7ヘクタールの農地にかぼちゃを作付けしている」と自己紹介しました。

上田氏は2024年に約80トンのかぼちゃを生産したそうですが、「定植から収穫、その後の乾燥まで、すべて手作業で行わなければならない」とかぼちゃ生産の苦労を語りました。

image_event_241125.007.jpeg上田ファーム株式会社代表取締役の上田卓司氏

上田氏は大規模にかぼちゃを栽培する一方で、「希少性」をキーワードにさまざまな挑戦をしています。「珍しい品種のかぼちゃに挑戦したり、苫前町では栽培されていないアスパラを生産したり、苫前町には焼きたてのパンを提供するお店がないということで、自分でパンを焼いて販売したりしている」と話しました。

上田氏の6次化商品はかぼちゃを使った加工品です。かぼちゃ団子とかぼちゃスープを試食した参加者からは、「とっても美味しい。これは売れる」、「ご飯のおかずになれる」、「かぼちゃは彩りとして使われることが多いが、このかぼちゃ団子は主役を張れる」といった意見が聞かれました。

image_event_241125.008.jpeg 左:上田氏が栽培したかぼちゃを使ったかぼちゃスープ
右:かぼちゃ団子。ジャガイモを混ぜずに作り、加工しやすく、ほくほくした栗のような甘味が特徴

いかに生産者の想いを消費者に届けられるか

講座の後半では、平井氏、小笠原氏、上田氏の事業に対して、それぞれどのような切り口でプロモーションを行えばよいかを考えるグループワークが行われました。それぞれのチームは、各生産者に対する印象を語ったのちに、課題や解決策を紹介していきました。

image_event_241125.009.jpegチームで話し合いながらプロモーション案を考える受講生たち

最初のチームは「商品の完成度やクオリティが高い上に、環境への負荷を抑えていて素晴らしい」と各商品の魅力をしっかりと把握した上で、プロモーション案として、今日の商品を使った料理をフルコースとして提供する案を出しました。また、『生産者ボックスセット』といったように、少しずつ色々なものが入っている箱詰め商品をふるさと納税で提供する案もありました。

次のチームは、各生産者の人となりが印象的だったと語りました。「彼らのチャレンジ精神や故郷への熱い想い、そして未来を見据えていることを消費者まで伝えてほしいと感じた」。そのうえで提案としては、「受け身の消費者ではなく、応援者や推し活のように想いに共鳴してくれる人たちを獲得してほしい。そのために、10月のハロウィーンの時期を狙ってパンプキンパーティーなどのシチュエーションとして打ち出すと、響く人もいるのではないか」と発表しました。

3番目のグループも「生産者の想いの強さが印象的だった」と語りました。「農業や水産業を未来に残していきたいという意志の強さが伝わった。商品もとても美味しいので、今日のようなお話を聞ける場があることが重要なのではないか」と話します。プロモーション方法としては、「例えば週末に都内でイベントを行うなど、味を知る機会を作っていただくことが重要だ」と話しました。

最後のチームは苫前町でのプロモーションを提案しました。「関係人口を増やすためには、苫前町に訪れる人を増やさなければならない。同町を訪れたときに一番困ったのは食事の場所が少ないこと。そこで例えば中華の有名店と提携し、『日本で一番行きづらいレストラン』としてオープンしてはどうか。苫前町には温泉もあるので、漁業やかぼちゃの収穫を体験できるようなアクティビティもセットにして、期間限定で有名店をオープンし話題性を作っていってはどうか」と発表しました。

image_event_241125.010.jpegプロモーション策を発表する受講生たち

グループワークの発表を受け、登壇者の平井氏は「皆さんに美味しいと言ってもらえて、素材で勝負できると再確認できた」と話し、小笠原氏は「個ではなく面でも戦えるということを改めて感じた」と述べました。最後に上田氏は「やはり、まずは食べてもらうことが重要だと実感した。私たちは生産者として食材の旬を知っているので、旬をいっぱい詰め込んだ商品をお届けしたい」と語りました。

講座を締めくくる中で、講師の中村氏は「私は、生産者はアーティストだといつも思っている。特に今回の生産者たちにはそのアーティスト性を強く感じた。地域ブランディングはデジタルをはじめいろんな接点を活用していく必要がある。多彩な人たちと連携や協働していく中で地域ブランドを作っていくことができれば、田舎のまちだって有名なアーティストを生み出すことができるはず。苫前町は独自の戦い方をしているので応援していきたい」と述べました。

image_event_241125.011.jpeg

「生産者はアーティスト」という中村氏の言葉は非常に印象的でした。しかしながら、彼らが作るアート作品も想いやこだわりが伝わらなければ魅力が半減してしまいます。この想いやこだわりをまとめ上げ、さまざまなタッチポイントで発信していくことで、地域のブランド化はさらに成長していくのだと思います。今後もこのような発信の場がもっと増えていくことを願ってやみません

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