11月9日、3×3Laboで、協力イベント「レジリエンスの未来」共創フォーラム vol.2 「"しなやかさ"と経営デザイン」が開催されました。
これは、これからのまちづくりにおいては、多様なプレイヤーがこぞって取り組む「共創」が必要になるという強い認識に基づいて大成建設が主宰しているフォーラムで、さまざまな企業の参画を求め、一般から参加を募って開催しているもの。7月に続く2回目で、テーマを「"しなやかさ"と経営デザイン」とし、前半は"世界のレジリエンスシティ100"にも選ばれた富山市の森雅志市長による講演、後半は会場も交えた参加型パネルディスカッションを行い、レジリエンスについての議論を深めました。
冒頭、主宰する大成建設耐震推進室の小野眞司氏が、これまでの経緯を振り返るとともに、今回のフォーラムテーマである「レジリエンス」について解説。レジリエンスとは、「天災という変化を危機にしないための創造的な社会システム」のあり方を集約的に表す言葉であり、その実現のために変化が常態化したニューノーマルの世界においては、複数の企業・団体との「共創」が必要であると語りました。
続く講演の冒頭、森市長は「実務者として、まちづくりの実例を示すことしかできない」と謙遜しましたが、その実例が抜きん出て多彩で豊富でなのが富山市の特徴でしょう。今や富山市の代名詞ともなった「LRT」(Light Rail Transit。次世代型路面電車システム)、LRTにまつわる居住地の誘導政策、中心市街地への投資拡大施策、高齢者を中心に人の移動を活性化させる施策など、さまざまな取り組みが語られました。
交通施策で見ると、人口減少と分散によって、社会インフラの脆弱化が進み、充分な行政サービスの提供が難しくなるという課題に対し、公共交通を軸にした拠点集中型のコンパクトなまちづくりを目指しています。これには、沿線への居住を促し、行政サービスのコンパクト化を進めることができるという利点もあります。また、高齢者を中心に、市街地へ日常的に出かけやすい環境を作ることで、利用者の増加にも務めているそう。よく知られているのが、65歳以上は市中心部で乗降すると運賃を100円にするなどの施策です。高齢者の外出を誘導することで、中心部の活性化を促すとともに、高齢者の健康寿命の延伸を図る狙いもあるのだとか。
また、LRTの利用促進とともに市中心部の活性化を図り、民間の投資の拡大にも務めています。民間投資が増加する鍵は、端的に言えば、「人」の活性そのもの。人の移動、消費行動を喚起するための数々の施策が採られています。LRTの普及によって、極端な車社会であった富山市の車利用率が低下し、その結果、休日の市街地訪問がLRTに切り替わり、お酒やビールを飲む客が増えたりもしたというから驚きです。また、ハード面では、複合商業施設に隣接する全天候型の広場「グランドプラザ」が、市街地活性化に大きな役割を果たしています。これは、民間の施設運営者と行政によって共同で運営されているもので、通例であれば、都市計画法が適用されるべき施設ですが、「広場」指定をしない、全天候型だが開口部を大きくすることで屋外扱いにするなど、空間利用の自由度を極力高めるために行政が弾力的に解釈・運用している点は特筆すべきでしょう。そのおかげで、グランドプラザでは細かな制約が極端に少なく、市民によるさまざまな活動が行われています。
この他にも農業施策はじめさまざまな活性化プランが語られましたが、こうした取り組みは、最終的に「シビックプライド」へと集約されていくと言えそうです。シビックプライドとは、「良い街だ」という住民の誇りのこと。良い街だと感じることでのみ人口は増加しうるのです。現に東京に出た学生の多くが富山で就職したいと感じているという事例を紹介。森市長は、アムステルダムやバルセロナの例を挙げて、今後さらにシビックプライドの醸成に務めていきたいと話しています。
後半の参加型パネルディスカッションは「フィッシュボウル」と呼ばれる形式で行っています。
フィッシュボウルは、希望者が複数登壇し意見交換するもので、テーマを俯瞰し、より広い視野で議論するのに役立ちます。質問や議論は、主に富山市が「レジリエンス」を確立するために生じるさまざまなハードルをどうクリアしてきたのか、ということに集中しました。行政で思い切った施策を取るのは、民間企業以上に難しい側面があります。また、それが市民に受け入れられるためには、やはりまた常ならぬ努力と工夫が必要。参加者の多くが、NPO、民間企業、行政といった違いはあれど、まちづくりに関わるプレイヤーであったため、非常に具体的な意見が交わされたのが印象的でした。
フォーラムを主宰する大成建設は、今後も企業活動を通して社会のレジリエンスを高める方法を模索していくそうです。そして、その「方法」とは、一社でできるものではなく、マルチステークホルダーで臨むべきものであり、さらなる企業の参画を積極的に呼びかけていきたいとしています。