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【レポート】第3回ソーシャルグッド会議

グローバルとローカルの狭間で

地元カンパニー・児玉さんがおすそ分けに持ってきてくれた旧武石村のアスパラ

「ローカル」をテーマに議論百出

5月27日、第3回ソーシャルグッド会議が3×3Laboで開催されました。第2回はクローズドで今後の方向性が検討されましたが、それを受けて再びオープンでの開催。しかも、クローズドで行われたラウンドテーブル方式を踏襲しつつも、来場者からの意見も自由に取り入れる方式となりました。

そして今回のテーマは「ローカル」。

現在もっとも喫緊にして幅広い課題である「地域」の問題です。地域活性を考える読者は決して少なくないでしょう。今回は、地域で実際に活動しているいプレイヤー、ステークホルダーらを招いて、活発な議論が交わされました。

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ソーシャルグッドは思いの共有から

プレイヤーとの「思い」の共有

すっかり定番になった多角形のテーブル。時には7角形、時には6角形。ソーシャルグッド会議は不揃いのポリゴンテーブルが特徴だ。

第3回会議は、クローズドで開催された第2回会議を受けて開催されています。第2回会議のテーマは「クールジャパン」。「日本」をどうブランディングし、海外へ出していくのか、その課題はどこにあるのかなどが議論されました。そこで確認されたのは、単に日本文化をコンテンツ化して輸出するのではなく、さまざまな企業が相乗りできる、より大きな「OS」のような仕組みが必要なのではないかということ。また、歴史や過去に深く沈潜していくのではなく、未来を構築する志向性をもったクールジャパンでなければならないのではないかということでした。
また、興味深かったのはクリエイター、デザイナーがテーブルに着いた点。日本を代表するクリエイターが世界のトレンドを語り、改めてブランディングにおけるクリエイティブの重要性を確認しました。

こうした議論を踏まえての第3回会議は、「クールジャパン」を背景にしつつ「ローカル」を俎上に載せました。

冒頭、主宰のエコッツェリア協会・田口真司さんは「今までの時代は都市先行型で、地域が都市を追いかけてきた。しかし、これからはこのようなある種の主従関係を逆転させ、都市が地域に学ぶ必要があるのではないか」とコンセンサスを確認しました。

今回もまた、国、地方自治体などの行政サイド、中央の民間企業、地域で活動する中小企業など、さまざまなクラスターの人物が出席しています。余談ですが、多くの時間を割いて行われる冒頭の自己紹介は、ソーシャルグッド会議の見所のひとつではないかと筆者は感じています。こんなセクションのこんな人が、こんな問題意識を抱えて活動していたのか!という新鮮な驚きは、同じ問題意識を持つ人に大きな励ましを与えてくれるからです。参加者が持つビジネスリソースとともに、「思い」を共有することが、ソーシャルグッドの構築には必須なのかもしれません。

テーブルに着いた14名のメンバーの自己紹介を聞きながら、主宰者のひとり、プロジェクトデザイナーの古田秘馬さんは「(中央の)企業は地域が"お金になりづらい、儲からない"と思っている。一方で地域で活動しているプレイヤーは"儲かる、ビジネスになる"と信じている。そのギャップはどうして生まれるのか、そこがひとつのポイントかもしれない」とし、今回招いた地域プレイヤーのプレゼンテーションへと移ります。

地域発、世界へ。富山市の再生可能エネルギー

富山市に設置された水車(富山市HPフォトトピックス「上滝に小水力発電所2施設が完成」より)

口火を切ったのは、富山市役所の中村圭勇さん。富山市は2011年に環境未来都市の認定を受け、「環境技術と超高齢化対応で、世界にも類のない先進事例を地方から生み出し、地域活性化、経済成長のエンジンにする」ために活動していると中村さん。その富山市が今取り組んでいるのが、再生可能エネルギーを海外に輸出するビジネスモデルです。

富山市役所・中村さん「富山市はLRT(Light Rail Transit。次世代型路面電車システム)を導入し、沿線に都市機能を集中させるコンパクトシティを目指しています。これに加え、再生可能エネルギーで農業を活性化する事業に取り組み始めました」

中村さんによると、富山市は全国でも2番目の水力発電のポテンシャルを持つ土地。それは「4000mの立山連峰から富山湾までの落差がわずか50km圏内に入っている」ことと、「日本一の水田率と農業用水水路延長がある」ためです。また、こうした地勢を背景に歴史的に水車の開発が進んでいたことも大きな要因だといいます。

「これまで小水力発電は、電力会社ベースの取り組みがほとんどで売電目的でしたが、富山市は電圧変換装置技術を軸に、安定させた電気を無電化地域に供給し、農業に活用しようというものです」と中村さん。これに対し、長野県の東京観光情報センターの熊谷晃さんから「普通農業の問題は、遊休地の活用や6次産業化などに集中しがち。再生可能エネルギーに結びつけた発案力はすばらしい」というコメントも。

一方で、「日本には水利権の問題のため自由なビジネス展開が難しい側面があり、だったら海外へ展開を」という発想で、今年3月からインドネシア、バリ州タバナン県と提携し、再生可能エネルギーの輸出事業に取り組み始めたのです。具体的には農業用水から発電する水車のメーカー、生産された電気を使う農機具関連メーカーと組んでの海外展開となっているそう。

「連携の民間企業は4社。富山市に限定せず、周辺自治体からも招いています。ビジネスモデルとしては、現地法人を立ち上げ販売を展開し、そのローヤリティ収入を日本で受け取る格好を想定しています。行政がかかわるのは、周辺分野、自治体との連携、提携のサポート。周辺の自治体へビジネスを広げる手伝いをしています」

ローカルとグローバルが交わるところの課題と可能性

このプレゼンに対し多くの質問、意見が出されましたが、要約すると以下の3点に尽きるでしょう。

(1)行政の役割とその範囲はどこまでなのか。移譲はどのようにするのか。
古田さん、ジャストギビングの佐藤大吾さん、リクルートライフスタイルの沢登次彦さんらが質問したのがこの点です。クールジャパン機構の村岸康彦さんによると、地方行政が主導して海外へビジネス展開を行う例はそれほどないそうで、そこに質問が集中しました。

(2)海外展開モデルの仕組みとして、より大きな枠組みは作れないか。
これは前回から引き続き議論されている点で、多くの企業が相乗りできるような仕組みが必要ではないかという視点。村岸さんは水ビジネスの例を挙げ、「今の日本では、浸透膜、メーターなどのメーカーがばらばらに海外に展開している。これでは弱い。全体をマネジメントして戦う陣容を整えなければ世界に勝てない」としています。古田さんはアンテナショップの例を挙げ、「例えば長野県のアンテナショップで九州の物産を扱えるかというと難しい。逆に消費者側から見る、本来のビジネス視点に立つと損している部分もあるのではないか」と、地域性とともに「クールジャパン」という全体性を見る視点の重要性も指摘しました。

(3)地域の産業空洞化には対応しにくいのではないか。
これは田口さんが指摘した問題です。「地域の製造業、工場にはよくも悪くも"城下町"がついて回る。製造業に直接関与しない飲食店や小売店が、工場の周りに集中するが、工場が撤退したとたんにそこに携わる多くの人口が失職する。ローヤリティビジネスだけでは、地域の雇用の創出には難しい面もあるのでは」。

こうした質問や議論は、決して中村さん、富山市を責めるのではなく、むしろ自分たちの問題として解決するためにそれぞれがどう取り組むか、という視点で出されたものです。地域活性化ビジネスの可能性と今後の課題点がより浮き彫りになる議論であったといえるでしょう。

そして、「地域でリスクを引き受けてゼロからリアルビジネスをやっている人がいる一方で、国や省庁の行政は大きな議論をしていてアナライズするばかりになり、そのゼロからイチの部分が欠落しているのではないか。"育てる"と言いながら地域プレイヤーと交わっていない、間を詰める人がいない、そんな状態になっている」と古田さんが改めて問題提起し、次のプレゼンに移ります。

お金か、教育か

地元カンパニーの活動で田植えをする児玉さん(地元カンパニーHP「地元のためにできること」より)

次に登場したのが、長野県上田市武石で活動する「地元カンパニー」の児玉光史さんです。武石(たけし)は、平成の大合併で上田市に吸収されるまでは武石村として存在していた地域。「いずれ武石村を再び独立させようと思っている」という児玉さんは、地元カンパニーで、武石の生産物、日本各地の産品を販売するカタログギフトの発行を行っています。

地元カンパニー・児玉さん「今問題だと感じているのは、地域活性化を考える視点が『何人雇用できるのか、何年維持できるのか』という点に限定されてしまっていること。何をするのか?といったことは考えてはくれない。結局官僚組織は産業別の切り口でしか地域を見なくて、それは当たり前ではあるのだけど、そこに合致しない地域は切り捨てていく。地元の人は、そんな産業別の視点なんてどうでも良くて、地元を守るために何をするのか、どんなOSを作るのかが重要で、それを理解してくれる人は地元・行政の両方にいるのにもかかわらず、決定ルートに理解しない人が一人いるだけで続かなくなってしまう」

地域プレイヤーが感じる問題を端的に語ってくれます。

「期待すべきは、自分にはできないがこいつなら実現してくれそうだと思う"その人"にお金を出してくれる大人。僕はそんな人をカッコイイ大人と呼んでいます」

これに対して、復興庁に出向し、地域と中央をつなぐ「結の場」を立ち上げた実績のあるNECの山本啓一朗さんが質問。

「お金だけでいいの?」

多くのNPOに携わってきた佐藤さんも「(地域やNPOには)お金だけじゃダメなことが多いように思う」と感想をもらします。しかし、それに対する児玉さんの回答は「お金でいい」でした。

「僕はお金でいい。なぜなら、僕が一番お金をうまく使えるから。今、そういう気概を持った人がほとんどいない。それは仕方ないことかもしれない。そういう教育をしてこなかったんだから」

ここで、改めて『教育』の問題が浮上してきました。古田さんは「結局補助金の類は、"どこにどう使うのか"が議論の的になり、"何を生み出すのか"というところに集中しない。児玉さんのように"俺に金をくれ!"という人を育てるにはどうしたらいい?」と質問を投げかけます。

熊谷さんは明治時代の貧しかった長野県の状態を伝え、「農業だけで成り立たないために生糸の生産を始めたが、そのためには生物学から横浜の生糸相場まで学ばなければならなかった。そのためにみんなでお金を出し合って作られたのが開智学校。"稼ぐ"という生活のリアルを土から学ぶという姿勢はこれからの時代も重要なのでは」と指摘。「今は農家を含む地域もみなバーチャルに走ろうとしているが、それは均質化を招くように思う」とも話しました。

また、教育について児玉さんは「エリート教育が必要」と断じます。

「高校生までは、みんなで仲良く育とうぜ、と言われ、そうかと思っていましたが、実際そうじゃない。『お前がやらなきゃダメなんだ』という、いい意味でのエリートを作る教育が必要なんだと思います」

児玉さんがそう思うようになったのは、大学の野球部で四番バッターを任されてからだそう。「東大野球部で、ご存知の通りとても弱い。『お前が打たなきゃ勝てないんだよ!』と言われ、確かに打てそうなヤツもいなくて、そうか、俺じゃなきゃ守れない物がある、そう振舞っていいんだ、と感じたときに僕の中で野生が芽生えました」。

「僕だから守れる社会があると感じたときに自由になれた。僕の意識の範囲は、旧武石村の3500人。それ以外はどうでもいいと思ってる。隣町なんてぶっ潰しちゃってもいい(笑)。そういう人を育てるには学校教育ではダメで、それが言える大人、それを実践している大人の姿を見せるしかない」

時代はコミュニティ消費を目指すのか

丸の内朝大学の「鼓童プロデュース! 和太鼓クラス」では佐渡島で1泊2日の体験実習がある

教育については、佐藤さんが長年「ドットジェイピー」で議員インターンシップに取り組んでいます。
「早稲田や東大に政治家や官僚が多いのは、もちろん優秀な頭脳のためもありますが、何よりも"先輩がやっているから"というリアルな可能性を感じているからにほかならない。アクターズスクールだってそう。昨日まで隣で踊っていた子がデビューしてスターダムを駆け上れば"私だって"と思うのは当たり前。そんなリアルリティを伝えるきっかけ作りとしてインターンシップに取り組んでいます」と佐藤さん。そして、「最近は若者の東京バッシングがすごい。Go Globalで思い切り海外に行くか、思い切りどローカルにいくか、そのどっちかが最先端になっている」と近年のトレンドを指摘します。

古田さんがこれを受け、観光旅行のスタイルの変化を例に「量から質の時代」への変遷について語りました。

「かつての団体旅行は、受け入れ側のコストパフォーマンスはすごく良かったが、個人の満足度はすごく低かった。個人旅行の時代になり、高付加価値型商品が主流になると、個人の満足度は上がったが、旅館や地域はいろいろなものを用意しないといけない、1人のために準備しなければならないと、非常にコストパフォーマンスは悪くなっている。次の消費モデルは『コミュニティ消費』ではないかと考えています。例えば、佐渡島の有名な『鼓道』に太鼓を学びにいくツアーなんて、30人の枠があっという間に埋まる。受け入れ側も用意するのは太鼓だけで、利益率も高いし、参加者の満足度も高い。地方のコミュニティにローヤリティ、付加価値があれば、利益も高くなり、企業も絡みやすいのではないか」

また、田口さんはコミュニティのありようについてこう話します。

「今、コミュニティを作る、ということが東京でも地域でも主題になっていますが、これには縦軸がないといけないと思っています。横のつながりを作り、面を広げるのがコミュニティ作りだと思われていますが、そこには、何らかのZ軸、縦軸がないと機能しない。例えば、今貨幣経済の限界を感じている中で、貨幣という仮想価値を、リアルの軸にどうやって戻すのかという縦軸がある。そういう軸を、私は『勝手なる使命感』と呼んでいて、個人が持つ、さまざまな軸が、たくさんあればあるほど、その社会は多様化していく。そうした取り組み方、社会のありようもまた、日本のブランドとして海外に打ち出せるものになるのではないか」

この後も、コミュニティ消費、地域振興としての未来型の観光の可能性など、議論は百出し、尽きることなく続きました。この一見とりとめのない議論の流れに、古田さんは「この答えのない試行錯誤のプロセスを共有していくことが重要。今後さらに議論したいテーマを募りながら、3×3Laboに残された半年弱の期間で、人育ても含めて、何を生み出せるか。そんなことを考えていきたい」とまとめました。田口さんからは、「テーブルに女性がいなかったのはこちらの手落ちだった。次回からは女性も招いて、議論を深めていきたい」と方針についてのガイドがあり、今回の会議も波乱のうちに幕を閉じたのでした。

児玉さんと来場者の方とアスパラと

最後に、今回のテーマ「ローカル」にもっともふさわしいものとして、地元カンパニー・児玉さんの言葉を引いて、今回のレポートを終わりにしたいと思います。
「俺がいい!と思ったものは、1億2千万人の日本人のうち、一人くらいはいいと思ってくれるはず。大切なのは、自分がいい!と思ったものを、自信を持って発信する勇気なんじゃないでしょうか。結局地域が人の集積だとしたら、自信を持って発信する人が多い所が魅力的になっていくと僕は思います」

「健康」をテーマにした第4回は6月17日に開催されました(レポートは近日公開予定)。第5回ソーシャルグッド会議は7月15日開催の予定です。テーマは「食」。非常に幅広く、かつ魅力的なテーマで、いったいどんなプレイヤーが参加し、ソーシャルグッドを語るのか。見逃せません。


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