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【レポート】幸せな地域の未来をつくるには

都市と地方の未来~リビングラボの未来を語る 2019年11月25日(月)開催

9,11,17

都市部と地方――それぞれが抱える課題や目標を共有して向き合えば、よりよい未来が実現するのではないか。そうした考えのもと、新たな手法を探るリビングラボ。
今回開催されたイベントでは、東京大学 先端科学技術研究センター(以下、東大先端研)の地域共創リビングラボ、エコッツェリア協会、プラチナ社会研究会・三菱総合研究所が一同に介し、それぞれの取り組みを紹介しながら、3者が描く未来社会の実現を加速させる際の手法・環境・課題について、深い部分に切り込みました。

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強み、取り組み方は異なっても志は変わらない

強み、取り組み方は異なっても志は変わらない

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開会の挨拶として登壇したのは、三菱総合研究所 プラチナ社会センター長の柏谷泰隆氏です。「プラチナ社会研究会」は、東京大学・元総長/三菱総合研究所(以下、三菱総研)・理事長である小宮山宏氏が提唱する「プラチナ構想」の理念普及・実現に向けて、プラチナ社会センターが2010年に設立した会員組織。21世紀に必要な社会モデルとして、グリーン・シルバー・ピンクイノベーションなど、多様な形で環境エネルギーや高齢化、女性活躍等に対するイノベーションの起こる社会を「プラチナ社会」、その社会を実現する構想を「プラチナ構想」と名付けています。プラチナ社会研究会には、産官学で約500の会員が参画。約180の自治体が入り、日本全国から意見が集まるアクティブな会員組織です。

「東大先端研は、国内外のリビングラボの総本山。横につながるハブのような組織を持っている上に研究のストックも豊富。エコッツェリア協会は大手町など都市部で働いている人に加え、各地域とのネットワークも持っている。三菱総研・プラチナ社会研究会では、産官学連携でさまざまな社会実証実験をさせていただいています。このように3者の強みは違いますが、都市と地域の未来を考える志は同じ組織です。ぜひ今日ご参加いただいている方ともコラボレーションを進めていければと思います」(柏谷氏)

新たな組み合わせを通じ共創スキームを探る

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3者のプレゼンの口火を切るのは、東大先端科研究 特任教授の近藤早映氏です。都市計画や都市工学研究を主軸に、地方都市の中心市街地の活性化や、市民拠点・市民交流拠点のあり方などを研究。現在は、リビングラボにおける共創スキームの研究を進めています。今回は「リビングラボの挑戦」をテーマに、大学と地域がつながるリビングラボでの活動を紹介いただきました。

地域共創リビングラボが立ちあがった背景につき、近藤氏は「人が中心の社会」を指摘します。
「国内外の社会が、多様で複雑な課題に直面している現在。日本ではSociety5.0のように人が中心の社会へ変革し、対処しようと動いています。静的な因果関係から課題を見て解決する"論理的・理性的なアプローチ"から、動的に人が理解と対話と思考をつなぐ"共創的なアプローチ"へと、課題解決手法も転換している。それを実践していくのが地域共創リビングラボです」(近藤氏)

日本が模範的な例としているのが、北欧のリビングラボ。すでに北欧では、社会参加活動として20年ほど実績があります。現在、ヨーロッパを中心にした「ENoLL(エノール:European Network of Living Labs)」というネットワーク組織には、約150のリビングラボがメンバーとして登録。積極的に情報交換や研究活動を行なっています。日本からの参加は、2019年3月時点では1つだけですが、国内でも日々リビングラボは増え「全国から注目を集めている活動といえる」と話します。

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リビングラボの定義については「まだ曖昧としているのが正直なところ」と近藤氏。ENoLLによる一般的な定義は5つ。「active user involvement」「real-life setting」「multi stakeholder participation」「multi method approach」「co-creation」。なかでも参加する人たちが共創的に入っていかなくてはいけない「active user involvement」と「co-creation」が肝になると考えているそうです。デンマークの事例を紹介しながら、具体的な取り組みをお話くださいました。

続いて、国内で近藤氏が取り組む事例を紹介します。実は東大先端研では、リビングラボを作る前から産学連携して、地域課題などさまざまな課題に取り組んでいたといいます。

「研究者個人で地域特有の課題を解決する取り組みはありましたが、蓄積されたノウハウや技術が共有されないといった課題もありました。ノウハウや課題感を共有すれば、より地域に届きやすく、生まれるものがあるのではないか。そこで先端研では、組織の学際性・国際性・公開性・流動性の特長を活用しながら、メンバー内での共有や共創の流れを作るところから取り組んでいます」(近藤氏)

リビングラボを起ち上げたのは2018年。その際、現場の課題を探り、その結果3つの本質的課題が浮かび上がりました。
「まずはつながり方の問題です。アイデアが出ても実現できるキーパーソンがいなかったり、アイデア自体が白紙にされてしまったりするケースがありました。次に伝え方の問題。地域のリソースだけでは解決できない時代です。各ステークホルダー(利害関係者)の言葉の間に違いを感じる。また、伝わったところで実現に向けた際には、体制づくりがわからないという問題がありました」(近藤氏)

このようなケースでも対処できる仕組みを、先端研地域共創リビングラボでは考えています。地域課題解決は、非常に大きな活動です。地域コミュニティにいる大学や自治体、企業を始め、さまざまな団体と協力関係を結びながら回すことが重要になります。そこで、「多様な主体の参加・交流と教育」「対話によるニーズとシーズの発掘」「共創の実証実践」「運用体制づくり・セオリー確立」「社会へのOutreach」をポイントに、共創メソッドやスキームができあがることを期待しながら1年間活動しているといいます。

まず多様な主体の参加・交流と教育。リカレント教育プログラムを提供できないかということで、課題を話し合うセッションを開き、関心を持ってくださった方には教員から話をさせていただいています。そして、対話によるニーズとシーズの発掘。先端研ではキャンパス公開をしていますが、中高生向けのイベントだけでなくラボツアーなども行なっています。研究者を訪れて地域の課題をぶつけることで、今後一緒にできることがあるかもしれません。このようにニーズとシーズを発見し、マッチングをしています。共創の実証実践についてはのちほど熊本の事例を檜山先生にお話しいただきますが、その後の運用体制づくり・セオリー確立や社会へのOutreachを含めたサイクルがグルグル回ると、新たな組み合わせが生まれ、いずれらせん状に連なると考えています」(近藤氏)

ナンバーワンではなくみんなでよい社会を目指す

続いて、エコッツェリア協会プロジェクトマネージャー・田口真司氏から「丸の内から始まるオープンイノベーション」をテーマに、フューチャーセンターとリビングラボの未来についてお話しいただきました。田口氏によると、協会の活動はまだ「リビングラボの手前」の段階。課題を設定しながら「これからみなさんと一緒に何を説いていくのかを日々模索している」と始めます。

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約100棟のビル・28万人の就業者・4300の事業者が集まる都内随一のビジネス街である「大手町・丸の内・有楽町=大丸有(だいまるゆう)」。非常に小さな地域に集約していますが、目指すのはこのエリアの発展だけでなく「集約したリソースを全国、全世界に使ってもらうこと」だと訴えます。エコッツェリア協会は、サードプレイス『3×3Lab Future』の運営のほか、サステイナブルな社会の実現に向けてソフト部分を含め、多面的に活動しています。

「エコッツェリア協会という名称に"エコ"とある通り、環境問題をスタートに、食品ロスの調査をしたり、子供も一緒に楽しく食べ残しをなくそうといった取り組みを進めています。社会課題の中で、経済性優位を求めると、どうしても環境は度外視されがちです。都心だからこそ、環境を考えていくべきとの思いから始めましたが、その後の震災などを経て、みなさんと一緒に力を合わせて新しい価値を作っていこうと、オープンイノベーションやSDGsなどにもテーマが広がっていきました」(田口氏)

活動としては、未来をみんなで考えるブリーフィングを開催するなど、大企業の多い地域ながらも、最近はベンチャーを積極的に誘致し、中小企業を支援している機関とも連携してイベントを行なっています。同時に、ダイバーシティにも積極的に取り組み、女性も活躍できる社会について考えている組織です。会員向けサロンや、コミュニティ活動として2009年4月からは「丸の内朝大学」という市民大学を開始。農業のアグリーフードや観光など、さまざまな切り口から、結果としてつながる地域・地方創生に携わっています。

「我々は宮崎県と連携協定を組んでいて、私も毎月のように現地に行って地元企業の人とのコネクションを築いています。最近では御殿場市とも連携協定を組みました。アウトレットモールに来た人を市内にも誘客させようと取り組みを始めています。また身近なところでは横浜みなとみらい。ここでは街づくりのフューチャーセンターとして、みんなで未来を考える活動をしています。例えば、2030年の未来像。テクノロジー面や生活面などから、かなり細かく議論しています。このようにテーマを持つことが大切です。まだ机上のアイデアが多いですが、未来感を持ったら社会はこうなるよね、とみなさんと話しながら、街に実装しようと考えており、これがリビングラボにつながると思っています。そのための活動のひとつとして、「TMIP(ティーミップ):Tokyo Marunouchi Innovation Platform」を2019年8月に発足しました。都市だからこそできるリビングラボ『アーバンラボ』を進めており、多くの企業や人が集まるこのエリアで、壮大な実験ができないかと考えています。一方、あるアイデアが東京以外のほうがマッチするのではないかとなれば、宮崎や御殿場などに持っていく。そのようなことを日々検討しています」(田口氏)

活動の理由について「時代の変化」だと話す田口氏。今までのようにナンバー1を目指すだけでなく、社会課題を地域で考えて解決することが重要。グローバルが当たり前の現在では、ローカル色を出すことも必要とした上で、「1番」ではなく「みんながいいことを目指す」という考えが広がっていくのではないかと持論を展開します。

自身も地方出身だという田口氏。
「東京には地方から来ている人が多い。だからこそ、この場で集まる情報や人、さらにはお金を循環させることで、地域とつながることができる。お互いに街づくり・社会づくりをしていくような、新しい仕掛けとしてリビングラボをしていきたい」と締めくくりました。

都市と地方で人材を共有する「明るい逆参勤交代」

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「今日のテーマは都市と地方のコミュニティ論。ここに集った人もある意味コミュニティ、仲間です。隣に座った人も何らかの縁。せっかくですので、お名前を言って握手してください」と、思いがけない提案から始まったプレゼン。場内はざわつきながらも、数秒後には和やかな雰囲気に変わりました。

「握手をすると笑顔になるでしょう?心理学的に手を触れ合って目を合わせれば笑顔になる。都市と地方の目指すリビングラボも笑顔あふれるコミュニティです」と松田智生氏。
松田氏は、三菱総合研究所プラチナ社会センター主席研究員として、地域活性化やアクティブシニアを専門とし、国や自治体の仕事に従事しています。具体的な例として挙げるのは、都市と地方を結びつける「逆参勤交代」。簡単に言えば、都市部で働く社員の「期間限定型リモートワーク」です。例えば、遠方に移住・転職ができなくても、パソコンと電話があれば2〜3週間のリモートワークは可能。普段は東京での仕事をしながら、週に1〜2日地域のために働く。それは「働き方改革」と「地方創生」を同時に実現するものだと話します。

「キーワードは"関係人口"です。観光以上移住未満を増やすことが鍵。人口が減る日本で、移住者のパイの奪い合いをするのではなく、都市と地方で人材を共有する狙いです。江戸参勤交代は大変でしたが、江戸に藩邸ができ、街道が整備された。同じように考えれば、地方にオフィスや住まい、ITインフラができるということです」(松田氏)

「逆参勤交代」では、通勤時間が短縮され、これが働き方改革と地方創生につながります。さらに東京と大阪の大企業に勤める1千万人のうち、約1割が1ヶ月参加すれば、約1千億円の消費市場を創造すると話します。ワークライフバランスが整う、雇用や税収が増える、地域創生や働き方改革、人材育成、健康経営につながる......江戸の辛い参勤交代と違って、本人にとっても自治体、企業にとってもうれしい「明るい逆参勤交代」です。現在は、新規事業重視の「ローカルイノベーション型」や健康経営重視の「リレッシュ型」、バブル世代や団塊ジュニアに向けた「セカンドキャリア型」など、多様なモデルが考えられます。エコッツェリア協会と共催する「丸の内プラチナ大学」という市民大学では、「逆参勤交代コース」を開講。2019年には、3市町村で2泊3日のトライアル逆参勤交代を行なったそうです。今回は、秩父市の事例として実際のコースの様子を動画でご紹介いただきました。
(動画)https://www.youtube.com/watch?v=MJbdKsjOAxI
神のパワースポットや地ビール工場、ワイナリーなどをめぐり、町の魅力を発見。どうすれば地元が活性化できるか。移住した方や地域おこしの方とディスカッションして、秩父の良さや課題を協議したといいます。

「このトライアルを通じて得られた知見があります。これまで、関係人口はパイが少なく、一部のITやベンチャー企業などにとどまっていましたが、大企業のマスボリュームを一気に動かすことがポイント。今回3市町村に参加した計30名にアンケートをしたところ、100%が『今後もこのような地域課題に取り組みたい』と答えました。なかでも印象的だったのが、『転職や移住は無理でも地域にかかわりたい』と考える人材が、あらゆる世代に存在したことでした。東京オリンピックもチャンスです。在宅ワークを認める企業が増加し、地方でリモートワークする機会が一気に増えるのではないかと考えています。またリビングラボにおいても、エビデンスが大事。私も体験してみて、通勤時間やストレスは減り、モチベーションやコミュニケーションは上がりました。一方で歩行数は減り、酒の量と体重は増える。いいことも悪いこともデータとして蓄積することが重要です」(松田氏)

最後に、松田氏は次のようにまとめます。
「明るい逆参勤交代が描く都市と地方の未来。人口が減少する日本で、都市と地方で人材を共有しましょう。それは、地方創生と働き方改革を同時に実現するモデルです。都市と地方、参加者同士、移住者と地元の人の接点が増えると良い化学反応が起きます。最後に必要なのは、一歩を踏み出す勇気です。100の構想よりも1つの実行、100人の有識者よりも1人の実行者。ひとりでは難しいかもしれません。しかし、今日ここに集まった方々が踏み出せば、それは日本にとって大きな一步になると思います」(松田氏)

第二部では、松田氏がファシリテーターを務め、パネルディスカッションを行いました。

「生活者が中心のリビングラボの未来 産官学がなすべきことは?」ということで、討議を進めたいと松田氏。
「前半の討議を受けて、具体的にどう進めていけばいいか。論点は3つで、リビングラボへの期待、課題、解決策です。導入として、檜山先生から事例の紹介をお願いします」(松田氏)

テクノロジー×街づくりで地域を元気に

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紹介を受けマイクを手にしたのは、東大先端研の檜山敦氏です。コンピュターサイエンスを専門に、情報通信技術の研究開発に関わる同氏。今回は「地域創生リビングラボ」のテーマに合わせ、テクノロジーを使った地域の活性化に向けた事例をご紹介いただきました。同氏が取り組んでいるのは「GBER(ジーバー):Gathering Brisk Elderly in the Region(地域の元気高齢者を集める)」。地域の中で高齢者の社会参加を促進するサービスです。

「今流行りのUBERは地域移動のシェアリングサービスですが、GBERは地域参加シェアリングサービス。響きにもかけていますが、そこに関わるプレイヤーが"じぃじばぁば"です。具体的には、地域における仕事やボランティア、生涯学習活動など広い意味での"高齢者の社会参加"を応援するマッチングプラットフォームを設計しています。大きく3つの機能があり、1つ目がカレンダーユーザーインターフェイス(UI)。画面の日付をタップするだけで、自分が参加したい地域活動を手軽に発信することができます。2つ目がマップUIで、地図上から、今どのような地域活動の募集があるかを検索できるものです。3つ目がQ&Aカード。ある活動に興味があるかないか、など簡単に答えられる質問セットを、さまざまなジャンルで用意しています。回答によって、利用者が興味を持ちそうな地域活動を推定するプロファイルデータが簡単に集められます」(檜山氏)

GBERを実験的にスタートしたのは、2016年4月。千葉県柏市の一般社団法人セカンドライフファクトリーで、就労・社会参加支援を目的に開始しました。アクティブユーザーとしては30名程度と小さいコミュニティではありながらも、現在までのべ3,000を超える人が社会参加人数を達成しています。コミュニティの中で欠かせないツールとして展開、運用する中で、さまざまなフィードバックを受け、より多くの人に広がるよう日々改良に取り組んでいるといいます。また、地域共創リビングラボを通じて、新しいGBERの取り組みも進んでいるそうです。
「熊本県でGBER熊本版の導入を始めました。熊本地震の発生を踏まえ、熊本県と東大先端研の間で包括連携協定が締結され、復興に向けて研究の成果を展開することを考えています。その活動のひとつがGBER。先ほど近藤先生のお話にありました『共創の実証実践』の一例です。地域の中のコミュニティを強くするという一側面において、震災からの創造的復興の文脈に続きます。例えば、地震があった際、カレンダー機能を使ってボランティアのスケジューリングをしたり、マップ機能を活用して救援物資のニーズを発信したり、Q&Aカードでボランティアのスキル調査をしたり...。混乱する状況で新しいツールに対応する余裕はなかなかありません。普段から使い慣れたツールであれば、災害時に情報弱者が取り残されることなく、ライフラインとして機能できる可能性があるのではないかと考えています」(檜山氏)

現在、メディアでも取り上げられ、多くの問い合わせを受けていますが、檜山氏だけでは対応できないところがあるといいます。そこで、地域共創リビングラボの、地域や企業との関係を作っていくスキームを活用していければ、と続けます。
「例えば、地域共創リビングラボ発のイノベーションモデルとして地域に実装するような仕組みをみなさんと一緒に考えられたらと思います。例えば、GBERを事業として地域に根付かせることがひとつの目標の設定になりますが、そのためには関心のある人を集めてコンソーシアム(共同事業体)を構築していく必要があります。メンバーは自治体や法人、またはシニア人材かもしれません。そこで持続可能な体制―ビジネスモデルを考えてマネタイズする仕組み、それを地域で動かす人材を育成する仕組みを議論していきたい。そこに地域共創リビングラボに参加している街づくりの専門家の方々と連携し、私の専門であるテクノロジーを組み合わせ、地域を元気づけるようなモデルについてみなさんと議論を進めたいと考えています」(檜山氏)

メリットと課題を参加者とともに考える

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檜山氏の話を受け、ファシリテーター・松田氏の先導でパネルディスカッションに移りました。その一部を紹介します。
まずはビジネス視点から考えるGBERのリビングラボへの期待、さらにはリビングラボのメリットについてお話しいただきました。

田口「ビジネスの観点から、新しい事業開発は常にやっていかなくてはなりません。そのためには、研究所で実験するだけでは実装できない。その点で、檜山先生は実際に街で実験をし、フィードバックを受けている。企業目線から見るとメリットがあると思います。また、地元側の課題についても考えていますよね。高齢者がどう参画していくか、明確な課題があり、それに対してテクノロジーで解決していこうと、アプローチの順番が非常にきれいです」

檜山「地域の課題がまずあり、そこにテクノロジーが何をなしうるかを考えて設計しています。新しいことに取り組む、新しいものに対して解決策を練ることで、技術としても新しさが生まれる。それが日本の技術を更に強くすることにつながると考え、更にはリビングラボでも機能していければと考えています」

近藤「東大先端研でリビングラボを起ち上げて、個人的に実感するのは、今まで交流がなかった研究者とつながれることのメリットです。大学の中で。違う先生の違う知見、例えば檜山先生のGBERのようなテクノロジーが導入されると、こんな効果も生まれるのではないかと新しい発想ができる。そのような意味では大学の中でも情報を共有し、なおかつ研究者も共創していくことが非常に大事だと思っています」

檜山「先端研は、東大の全分野の先生が集う特殊なプチ東大です。そのコミュニティのおかげで熊本のGBERを始め、地域で活動する際にはかなり助けてもらっています。また、経験を通じて発見したのは、法学部と工学部の近さ。対局に捉えられがちですが、いずれも実践型の学問です。使っているツールがデジタルなテクノロジーか言語の違いであって、社会の課題を解決する意味では、近い関係にあることに気づきました」

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本イベント当日は、熊本県交流推進課の担当者にも参加いただいていました。GBER熊本版の導入について伺います。

熊本県担当者「熊本県は高齢化率が全国よりもかなり進んでいるエリアです。そのような状況の中で、高齢者が生き甲斐を持っていつまでも働けるよう、高齢者の就労を促進する形で2018年から協議会を立ち上げて活動しています。そのメイン事業としてGBERを導入しました。今年度から、一部のコミュニティや企業団体でGBERを使った就労支援システムを実装しています。使い勝手を修正してもらいながら進めており、現在もいくつかの企業や団体から興味を持ってもらい、徐々に広がっていく可能性が見えてきている状況です」

またリビングラボのメリットだけでなく、導入や実践で阻む壁や苦労、課題についてお話いただきました。

檜山「私たちが取り組んでいる内容は、今まで世の中になかった『退職後の高齢者の社会参加の活性化・就労支援の活性化』です。社会参加の活性化に関しては、県内の健康づくりイベントなどから情報を取り入れることで道筋が見えています。しかし、そこから更に一步踏み込んだ先、就労につなげていくルートを考えた時に、地域の中でシニアに対して開拓する仕事をどう発掘していくか。これが課題です。地域企業と、リビングラボの活用への理解を得なければなりません。先ほど松田さんのお話にあった「逆参勤交代」もひとつの姿になると思います。地域の中でどう生きていくのかを考えた時に、地域を活性化していくために、そこに住む人に何ができるのか。地域と接点を持ち、新しい仕事の創出を議論していけば、リビングラボになっていけるのではないかと思いますが、どうすれば実現できるのかが、その手法が課題ではないでしょうか」

近藤「課題や苦労はたくさんあります。一体リビングラボは何なの?とよく聞かれますが、ひと言で説明できない。自治体や企業でも、ステークホルダーを招いて課題発掘やワークショップに取り組んでいますが、リビングラボとの違いについて問われると、正直、私自身が『ここからがリビングラボ』といえる明確な境界線の答えを用意できていません。現時点で、私がお話できるのは、それをみなさんと活動を通じて考えていきたいということです。また、私が考えるリビングラボに手法はありません。1つの装置です。入力はさまざまなステークホルダーや生活者、アウトプットは課題に応じてみなさん。その先のアウトカムとして、持続可能で豊かな地域の生活があるのかなと考えています。装置をみんなで設計していくことも、ひとつのリビングラボだと捉えています」

田口「課題はいくつもありますが、地域と都市をつなぐ観点から感じるのは、都市側の勘違いです。課題があるとはいえ、その中で生活している人がいます。地域の方々とつながっていく、地域に根ざしたことに携わる責任感を持つことが重要だと考えています」

さまざまな課題に対し、これから求められるのはリビングラボのあり方の明確化、すなわち「もう迷わないリビングラボ」と称し、松田氏は解決策について意見を求めました。

檜山「GBERを例に見ても、新しいサービスが地域に根づき、規模を広げるには時間がかかるといった課題がありますが、このような事例を地域内で横展開をしていくことがひとつの方法ではないでしょうか。最初は一企業から始まる小規模なものかもしれませんが、柏市のセカンドライフファクトリーのような介入によって、コミュニティとして拡大していく可能性はあると思います。また、今後は熊本県のまちづくりで感じている視点を取り入れたい。地域を知った上で、自分が何をなしうるか。地域のまちづくりの視点から、住民と一緒に考えながら再定義したいと思っています。自分が住んでいる場所をどう良くするか、当事者意識で取り組むからこそできることもあるはずですし、そのような空気を加えていきたいですね」

近藤「とてもうれしい意見です。これこそがリビングラボの答えかもしれません。ひとつのレイヤーで成し遂げようとするのではなく、複層的に人脈づくりを重ねていくこと。例えばGBERのようなサービスを通じて、他人ごとではなく「自分ごと」にすること−−複層化しているものを、多様な活動によって縦に貫くことが重要です。現在、関東圏の自治体でもリビングラボは急激に増えています。キーパーソンとなるのは、その地域の中小企業です。彼らは地域にどのような課題があり、どんな人がいるか、誰にどうリーチすべきかといったリビングラボのデザインができると思います。そのような企業が事業の一環としてリビングラボを推進できれば、企業の資本となりマネタイズも可能です。このような目線で、利益が明らかになれば、リビングラボや地域の振興活動は持続的に回っていくのではないかと思います」

檜山「そしてもう一つ、地域での見えづらい課題を明確化できるのは、インターネットの力です。各ステークホルダーが小さい課題に向けて行動を起こしてもらうよう発信していくことが大事だと考えています」

松田「問題を考える際の主語は、企業や地域、大学ではなく、先ず『私が』という生活者主語の視点。日々の生活を元気にする、また課題を解決することです。海外からも注目を集める日本、その中でも多くの人が集まる丸の内で行なう意義とは何か。日本は課題の先進国ではなく、課題解決の先進国だと、いまこそ世界に打って出るべきだと私は思っています」

地域の活性化を願う多くの方が集まった今回。パネルディスカッションやその後の質疑応答では、参加者もマイクを取りながら、実にアクティブな議論が交わされました。まだ手探りの部分もあるリビングラボ。しかしながら、今回のプレゼンの事例や参加者の意見を含め、多様なアイデアを重ねてつなぐことで、加速度的に発展していきそうです。


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