イベント特別イベント・レポート

【レポート】バリキャリから自分らしい道へ。人と地域を繋ぐ架け橋になる

女性アントレプレナー発掘プログラム2021 ~Program3~ 2021年8月17日(火)開催

8,11

全4回開催される「女性アントレプレナー発掘プログラム2021」も、今回で3回目となりました。
Program3のテーマは「地域との共創」。講師の話を通して、自分の「ありたい姿」「自分らしい道」を一緒に考えていきます。 今回の講師は株式会社サムライウーマン 代表取締役の高原友美氏、NPO法人 水と緑の環境フォーラム 副理事長の伊藤恵里子氏の二人です。ファシリテーターに株式会社STORY コミュニケーション・デザイナーの若松悠夏氏、ナビゲーターには株式会社リコーのアクセラレータープログラムTRIBUSを立ち上げた大越瑛美氏を迎え、大手町の3×3 Lab Futureから、会場の参加者と全国各地の参加者をZoomでつなぎます。

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モーレツ営業の中での奇跡の出会い

モーレツ営業の中での奇跡の出会い

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1人目の講師は伊藤恵里子氏。伊藤氏はNPO法人水と緑の環境フォーラムの副理事長、もったいないkids植林プロジェクト代表理事、NPO法人埼玉ネットの理事など多岐にわたって活動しています。

伊藤氏のキャリアは「与えられた部署でがむしゃらにやり続けた」ことで積み重ねられてきました。広告代理店総務部の受付係として入社した1974年は、寿退社が当たり前で総合職の女性は資格をもつスペシャリストだけだった時代。なぜ男性と同じように働けないのだろうと思いながら、当時はまだ珍しかった出産休暇を取得します。しかし、復帰すると受付業務は外部委託されており、同僚の先輩はお決まりの秘書室勤務、当の伊藤氏は異動を強要され自宅近くの営業所勤務となりました。ここが最初のターニングポイントになったと、伊藤氏は振り返ります。

「入社以来他の仕事は経験がなく不安でしたが、営業所ではデスクとして経理事務や総務、営業補助などの一切を任されたことで全ての業務を学ぶことができました。再び本社に戻った際に営業職になることを希望したのは、営業所で過ごした6年間で自信がついたからです。」

ところが、当時は男女雇用機会均等法制度がなく、広告業界における女性の営業職は前代未聞の存在であったため、周囲から孤立した毎日を送ることとなります。しかし、伊藤氏には仕事に対する熱い思いがありました。
「とにかく私が売り上げ獲得をしないと、やっぱり女はだめだと言われます。だから絶対にトップセールスを取ろうと思って、毎晩、猛烈に働きました。」
日本で最初の女性参議院議員となった市川房枝の「女性が社会で何かを語ろうとするならどんな仕事でもいい、社会に関わる仕事を止めてはいけない」という教えが支えとなっていました。

子育ては夫と数名のベビーシッター、ポケットベルの存在に助けられました。誰も営業の方法を教えてはくれませんでしたが、根気強くひとつひとつの仕事を積み重ねていく中で、子育てとの両立に対する職場からの理解も段々と得られるようになりました。毎晩タクシーで帰宅するモーレツ営業を続け、社内の賞も獲得します。その結果、伊藤氏が営業職に就いた2年後には、営業職として入社する女性社員が誕生しました。

そんな中、伊藤氏に第2のターニングポイントが訪れます。2004年にノーベル平和賞を受賞した故ワンガリ・マータイ氏が来日する際のイベント企画を担当することとなったのです。イベントは大成功。さらに、同じホテルに宿泊していたマータイ氏とイベント終了後にばったりと遭遇します。伊藤氏はその衝撃的な瞬間を以下のように語ります。

「マータイさんは私をぎゅっとハグをして、『あなたと一緒にやりましょう、やってね!』といった趣旨のことを言いました。私も興奮していたことと英語が得意ではないのも相まって、よくわからないまま思わず『yes!』と言ってしまったのです。その一瞬で私は彼女の虜にされてしまいました。」

来日して「MOTTAINAI」という日本語を多く聞いたマータイ氏は、その意味を知り、世界中に広めることを提唱していました。「『勿体ない』は『その物自体の価値』を示しています。物に対して『リスペクト』するという意味です。このような言葉を昔から持っている日本人にこそ、世界の先頭に立って環境問題を解決できる子ども達を育ててほしい」とマータイ氏は言いました。その言葉に感銘を受けた伊藤氏は、それを自身のライフワークにすることを決意したのです。

地域の人と「一緒」に創る

マータイ氏と出会った3か月後に早期退職した伊藤氏。それまでは60歳の定年まで同じ会社で働くつもりでした。しかし、32年間勤務した広告代理店を辞め、環境の勉強と同時にNPO法人を立ち上げ、森林保全(27都道府県53か所で子ども達と「木育」と「植樹会」を開催)と地域活性化の活動に情熱を注ぎます。がむしゃらに始めた「木育」を人と森林の歴史や日本の森林教育の流れから確立したいと、62歳で大学院に入学し経営学の修士を取得。今回のテーマである「地域の共創」について、伊藤氏は埼玉県飯能市で地域再生事業を足掛け9年間行ってきました。

「地域の人は、自分たちの地域の事をよく知っており、様々な事をしていらっしゃいます。ですから、『地域おこしをしましょう』と一方的に言うのではなく、地域で活動している人達と『一緒に創る・手伝う』という気持ちと、彼らから見えていない部分、例えば都市から見える地域のイメージや新しい考え方を提供したり、都市の人達と実際に交流する事が必要不可欠だと思いました。外からの目線で語るだけではなく、地域の良さを都市にPRし招き入れる(流動人口を増やす)ことが大切です。自分の貢献の場として、また地域で勉強させてもらうような気持ちがないとなかなかうまくいかないのです。」

活動開始後最初の2年間は地域の将来を担う子ども達にこの地の良さを伝えようと思い、飯能にある木の種類を調査したり、森林保全のためにどのような事が大切かを調査した教本を作りました。しかし、「飯能には何もない」と考える大人の言葉が強く、なかなかうまくいきません。そこで、飯能には魅力がたくさんあることをまずは大人に知ってもらおうと考え、大学教授の講演とワークショップ「市民100人の会議」を月に1回約7か月間に渡って開催、この地域の「宝」とは何か、5年後の飯能をどのようにしていきたいかについて話し合いを行いました。

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大人が自分達の地域について自信を持って話すようになると、子ども達も地域から出ていかなくなるのではないか、という構想でした。NPO法人や、東京農業大学と連携する「丸の内プラチナ大学」との連携で数度の飯能ツアーを企画し地域と交流してもらいました。また、都市の学生と地域課題に取り組むうちに、移住特区(市街化調整地域にある休耕地を住宅地として販売しその土地の3分の1を「農的」に使用することで税制上の優遇措置が受けられる「半農暮らし」制度)のPRも進み、流動人口も多くなったと言います。活動を支援した対象地域には5年間で103人93世帯が移住し、廃校の危機もあった小学校にも7名の新入生が入学しました。

「小さな数字ですが、とても大切な数字です。飯能市は、平成17年の合併で市域が194K㎡に及ぶ広さとなったこともあり、地域のコミュニケーションが不足していたため、交流の活性化を目的に飯能市内に住む人々数百名を取材した『森と湖のある暮らし』という情報誌2冊の発行をしました。この冊子に関する多くの問い合わせが市に寄せられ、地域内外に多くのコミュニティが生まれたと好評を得ています。大人が自分達の地域を自慢しながら子ども達を引っ張っていくという動きが、今まさに始まっているようです」と伊藤氏は期待を寄せます。

女性が自分らしく「ヨクバリに」生きられる社会を目指して

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2人目の講師は株式会社サムライウーマン 代表取締役、まちのてらこや保育園 代表の高原友美氏です。現在、2人目のお子さんを妊娠中ながら、本プログラムの講師として参加されました。

高原氏は大学卒業後、三井物産株式会社に就職。2014年に同社を退社し、「株式会社サムライウーマン」を立ち上げ、翌2015年に「まちのてらこや保育園」を開園しました。
会社員時代は、朝7時頃に出社し、深夜2時~3時に帰宅するのが当たり前の生活。それでも仕事は楽しく、やりがいもあったそうです。一所懸命仕事に取り組んではいましたが、30歳を目前に将来に対する不安を自分の中に抱くようになりました。

「これから私はどのように生きていけばいいのかなと思っていました。会社の仕事はとても楽しかったのですが、今一歩死ぬ気でやれていない、自分事にできていないという漠然とした不安や、物足りなさを感じていました。もともと、大学でジェンダー学を勉強しており、女性たちが『女性に生まれてよかった』と思える社会を作りたいという想いを持っていました。その気持ちに立ち返り、そこで自分の仕事ができないかと思い始めました。」

設立した会社の名前は「サムライウーマン」。会社・社会という戦場で戦っている女性たちをサポートしたい、という想いが込められています。また、『全ての女性が自分らしく「ヨクバリに」生きられる社会を作ること』を会社の理念に掲げました。安定した仕事を捨てて会社を立ち上げるのは、大きな決意のいることです。当然、高原氏にも悩んでいた時期があったそうです。そんな時に高原氏の背中を押してくれた言葉が2つありました。

1つ目は、ジャパンビジネスラボ創業者である杉村太郎氏の著書『アツイコトバ』(中経出版)にある「才能とは自分を信じる力である」。どんなチャレンジも自分を信じるところからスタートするという意味。難しいと思ったとしても、もしかしたら自分にもできるかも、と思うことが成功の第一歩だと高原氏は力強く語ります。2つ目は、ホリエモンこと堀江貴文氏の著書『ゼロ』(ダイヤモンド社)にある「小さな成功体験の前には、小さなチャレンジがあって、そのチャレンジはノリの良さから生まれる」という言葉。30歳手前の高原氏は「ノリ」の大切さに気づき、起業に一歩踏み出すことができたそうです。

まずは自分たちから「地域」に繋がっていくこと

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高原氏は、株式会社サムライウーマンを設立した翌年の2015年9月に「まちのてらこや保育園」を東京日本橋に開園しました。「まちのみんなが先生で、まち全体が保育園」がキャッチコピー。現在、都心の保育園のほとんどは園庭がないため、地域にある公園を園庭の代わりとして使っています。「まちのてらこや保育園」は、まち全体を自分たちの保育園として活用しながら、まちのみんなで関わって、地域の中で育んでもらおうというコンセプトで作られた保育園です。

「保育園はどうしてもセキュリティを万全にする必要性があり、地域から隔離されがちなイメージがあると思います。だからこそ私たちがなるべく外に出て、たくさんの地域の方とふれあうことで、保育園に対するイメージを変化させてきました。」と、高原氏は続けます。

保護者と保育士だけで完結していた子育ての輪に、昔ながらの「地域」が加わって、「このまちの子供たちを育てている」という意識が地域の中にも広がりました。それでだけでなく、保護者が地域に入っていくきっかけにもなっています。保護者の多くは日本橋で育った方はではなく、様々な地域から、それぞれ異なった理由で転入してきた方がほとんどです。そういった人々が、子供たちの保育園での活動を通じて、日本橋というまちに愛着を持ってくれるようになったことが、この6年間でのひとつの成果です。

最後に、高原氏はこれから事業をやりたいと思う人へのメッセージとして、「事業性をしっかり検討すること」を提案しました。

「自分のやってみたいことが、社会にとって役立つのではないかという『想い』はとても素敵ですが、『事業性』を両立させるのはなかなか難しいのです。事業をすることを考えた時に、『きちんと継続できるか』を必ず考えていただきたいなと思います。」

想いだけでは、自分自身も周りの人も息切れしてしまいます。事業が途中で倒れてしまった時に、たくさんの方に迷惑をかける可能性もあります。事業をスタートする際は必ず「事業性」も一緒に検討することが重要です。また、経営が安定するまでには2年から3年はかかります。その間、ほとんど収入がなくても生き延びられるような準備を行う必要があると高原氏は締めくくりました。

地域の人からの感謝の言葉が明日の活力

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講師の話の後、参加者同士がディスカッションを行い、意見の共有と質疑応答が行われました。

「へこたれそうな時、どのように突き進む元気を作っていたか。」という質問に対して、伊藤氏は次のように回答しました。
「『やっぱり女はダメだと言われてはいけない』という気持ちがありました。とにかく一番を取って、自分の後に他の女性が続いて来られるように頑張りました。」

次に出てきた質問は、「まちを巻き込む『仲間作り』はどのようにしたのか。」というもの。これに対して、高原氏は「私たちからたくさん声をかけていくことをやっていました。『こういうことに困っています、助けてください。』とこちらから声をあげることが大切です。声をかけると意外と人が集まってくれます。」と答えました。

バリキャリ女性の起業には参加者も興味津々です。「事業を行うときに『どこ』でやるかが重要だと思うが、なぜ日本橋を選んだのか。」と高原氏への質問が続きます。
「事業をどこでやるかはとても大切な観点だと思います。私が日本橋を選んだ理由は大きく分けて2つあります。1つは前職で働いていた時、中央区の観光大使の仕事を通じて、中央区の様々な人と縁ができたことです。私と同じように他の地域から引っ越してきた人達は地域とのつながりを作ることが難しいです。しかし、一歩踏み込むととても温かいコミュニティがあることを、観光大使として活動するなかで知り、この縁をなんとか子育て世帯の保護者たちに繋げていきたいと思いました。もう1つは、今23区の中でも中央区は人口が増えていることです。同時に子供の人口も増えてきています。それもビジネスを行う上では非常にメリットがあると考えました。」と回答しました。会社での仕事での縁も活かしつつ、リサーチを行う点に頷く参加者の姿も見られました。

「事業を続けるにあたって、途中でモチベーションが落ちた時や辞めたいと思った時、どのような方法でモチベーションを保っていたのか。」という質問へは、「私は辞めたいと思った時『明日、誰が保育園のカギを開けるの?』と自問自答することで踏みとどまっていました。子供たちの笑顔と保護者の方の『助かっている』という言葉にも支えられて、6年間続けてくることができました。」と高原氏は答えました。

最後に、各自で「気づきの振り返り」を行い、グループごとにシェアしました。振り返りのテーマは「社会の中で、あなたはどんな役割を果たしたいか」。
パワフルでエネルギッシュな講師の言葉に、参加者は「がむしゃらに今を生きる姿で自然と周りの人を勇気づけられるような人になりたいと考えていたが、講師おふたりの話を聞いて、その気持ちを再確認できた。これからも頑張り続けたい」と改めて勇気づけられる姿が見受けられました。活発なディスカッションを通して、自身の将来像や地域へ貢献する姿、想いがより明確になりそうです。

次回はいよいよ最終回のProgtam4、テーマは「はじめの一歩を踏み出すために」です。ゲスト講師にマーケティング・コンサルタントで、株式会社ウエーブプラネット 代表取締役、ビジネス・コーチのツノダ フミコ氏を迎えて、新たな一歩を踏み出す勇気について考えます。

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