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2017年度から始まった大丸有フードイノベーション(DFI)プロジェクト。 DFIでは、商品開発や販路開拓、ブランディングの仕方など、個々の生産者が抱える課題を解決するサポートを行なっています。その上で、大丸有エリアの飲食・物販に関わる事業者やオフィスワーカーとの連携を図り、生産者と都市をつなぐプロジェクトを展開しています。
12月6日には、プロジェクトの一環として、4組の生産者を招いての生産物・加工品の品評会・交流会が行われました。 【千葉県印西市】柴海農園(柴海祐也氏) 【徳島県鳴門市】エイチニュー株式会社(睦谷仁志氏) 【茨城県古河市】Hola Sol Hacienda(阿部直人氏) 【北海道福島町】福島町役場産業課(石川秀二氏)
コーディネーターを務める中村正明氏は冒頭で、これまでの取り組みの中で、実際に商品が大丸有エリアのマルシェや物販店で取り扱われることになったり、飲食店との連携により新しいメニュー(オリジナルメニュー開発)が作られた事例を紹介。 「生産者と都市(大丸有エリア)の食のコミュニティ(食と農に関心の高いオフィスワーカーや、飲食・物販店等) をつなぎ、都市ニーズを捉えながら生産者の課題解決を図るようなWin-Winの関係を目指し、新たな価値を創造する取り組みにしていきたい」と語り、商品のブラッシュアップ、ブランディングにつながる積極的な意見の提供を参加者に呼びかけました。
▶︎選りすぐりの珍しい野菜を、気軽に楽しめるサラダセット ①「サラダ野菜セット」――柴海農園(千葉県印西市)
最初の登壇者は千葉県の印西市で400年続く農家を継ぐ柴海氏。 東京農業大学卒業後に実家に戻り、無農薬有機農法で野菜を作りたいとの思いから、実家でもともと作っていたトマトではなく、独自の考え方で農園を始めました。
「たねテロリスト」と仲間から呼ばれている柴海氏はとにかくタネを蒔くのが好きだそうで、今では100種類ほどの野菜を栽培しています。 柴海農園の野菜には、普段小売店で目にすることが少ない珍しいものも多いようです。
今回紹介する「サラダ野菜セット」は、そうした珍しい野菜の中から柴海氏が旬の美味しいものを厳選し少量ずつ詰め合わせた商品。 「サラダを食べたいけれど、一つ一つ野菜を買うと量が多くて食べきれない」というお客様の声が商品の開発のきっかけとなったそうです。 実際に野菜を卸しているレストランのシェフの声も参考に、海外原産のものも含む季節によって変わる7種類の詰め合わせになっています。 柴海氏は以前、農業法人国立ファームで飲食店向けにサラダ用の野菜を仕入れて提供するという経験を積んでおり、その選別眼も活かされたチョイス。
「例えばスティックキャベツという珍しい部位を入れることもあります。これはキャベツを一度収穫した後に出てくるキャベツの脇芽で、茎の部分が甘く、菜花の部分はほろ苦いんです。こうした美味しいけど知られていない野菜もセットにして、お客様に提案しています」(柴海氏) 他にも「キャベツの花」や「大根のさや」など見た目にも楽しく、驚きも感じてもらえるような野菜を入れているそうです。そんな野菜を通じて「農業をもっと自由に」したいと柴海氏は語りました。
評価委員からは「野菜をセットにして販売している所はまだマルシェではあまりないが、小売店で並んでいるのを見ることも最近多いので消費者のニーズに合っているのではないか」という意見が出されました。また、「季節によって野菜が変わるのは消費者を飽きさせない工夫として良い。収穫後もいろんな形で食べられる、あまり知られていない野菜というのも面白い」と好評価。 一方で、「そういった柴海農園のストーリーや思いがパッケージからはわからない。QRコードをつけたり、野菜に関するメモをパッケージに入れるのはどうか」といった意見も出されました。
試食では、柴海農園の自家製ピクルスとオリーブオイルをかけた野菜セットのサラダがふるまわれ、あまりの人気ぶりにサラダ待ちの列が絶えない事態に。 参加者のほとんどがサラダの野菜の種類に興味津々の様子で、柴海氏に野菜についての質問を投げかけて盛り上がっていました。
「野菜一つ一つへの質問が多く、興味を持ってもらえて生産者として嬉しいです。農園のスタッフみんな思いを持って野菜作りをしているので、そういったストーリーも消費者の皆さんに知ってもらえるように取り組んでいきたいです」(柴海氏)
▶︎︎衛生・利便・保存性を兼ね揃えた食用花 ②「うずの花(エディブルフラワー)」――エイチニュー株式会社(徳島県鳴門市)
パックの中に可愛らしく詰められた赤、黄、青、紫など色とりどりの花は、一際参加者の注目を集めました。この「食べられる花」を持ち込んだのは徳島県鳴門市から参加のエイチニュー株式会社の睦谷氏。 エディブルフラワーと呼ばれるこの食用花は、バブル時代に一時流行した後にあまり見なくなりましたが、昨今のSNSの流行などにより再び注目を集めている商材です。
しかし、睦谷氏は飲食店などを訪問する中で、多くの利用者が市場に出回るエディブルフラワーに対する不満を持っていることを知りました。
まず衛生面の問題として、土植えでの栽培であるがゆえに土がついている花が混じってしまうことがあげられました。また、土を落とすために洗いすぎてしまうと花の品質が落ちてしまう点も問題です。
そして利便性の問題として、季節によって欲しい色の花がないことがあるという点。
さらに保存性の問題もあります。あるレストランでは届いた花を確認したところ、半分腐っていて使い物にならなかったという声も聞かれたそうです。
そのいくつかの問題点をクリアするために、睦谷氏が考えたのは「植物工場での生産」でした。 それによって、土に植えない水耕栽培による衛生的な花の生産が可能になり、その上年間通して安定的な供給が可能になると考えたのです。 睦谷氏は植物工場の設備を自らホームセンターの資材などでエディブルフラワー用に改修し、5種類のビオラ栽培を実用化させました。
「今後は花の種類を増やし、ゆくゆくは青いバラの栽培にも挑戦したいです」と、意気込むのは12月開設されたばかりのエイチニュー株式会社東京営業所の岡久希氏。 また、花を詰める保存パックにも改良を施しました。黒い容器にすることで冷蔵庫内に2週間も新鮮な状態で保存することが可能になりました。
評価委員からは「とても植物工場向きの商材であり、コスト的にも高く売れそう。飲食店からは色を指定したニーズが高いと思う。また花の部分だけではなく、葉や軸がついた部分も需要がありそうだ」と、期待の声があがりました。 試食の際には柴海農園のサラダにのせて彩りを添え、見事にサラダとの調和を果たしていました。試食した参加者からは「食べた際に花の香りを感じる」と好評でした。
▶︎茨城でつくる南国フルーツ・青パパイヤ ③「青パパイヤピクルス」――Hola Sol Hacienda(茨城県古河市)
「農家の庭先で見かけて、一目で作りたいと思いました」 そう語るのは、茨城県の古河市で夫婦二人三脚で農業を営む阿部氏。 彼らが生産するのは「青パパイヤ」です。パパイヤというと南国のフルーツをイメージしますが、阿部氏もはじめは関東で育つことに驚いたそうです。
パパイヤはメキシコ南部から西インド諸島を原産とする作物で、7〜8mにまで育ち25年ほどで寿命を迎えます。 しかし関東の冬の気温ではパパイヤは越冬できず、毎年4〜5月に苗を路地植えした後、2月頃に未熟な青パパイヤの状態で収穫します。 完熟した黄色い状態のパパイヤになるための栄養価を蓄えたままに収穫するため、実は青パパイヤのほうが栄養価は高いそうです。
日本であまり馴染みがない青パパイヤをどうしたら手軽に食べてもらえるだろうか、と阿部氏が考えた末に作りだしたのは「青パパイヤのピクルス」でした。 数十種類のハーブを調合した漬け汁はチキンステーキやムニエルの味つけにも合うそうで、青パパイヤのアジアン料理のイメージを越えて、多くの方々に食べてもらいたいと阿部氏は考えています。 試食した参加者からは「お酒に合いそう!」という感想が多く、評価委員からも「調理する手間がないので、バーなどのおつまみとして付加価値がつけられる飲食店への提供はどうか」という意見が出されました。
「やはり馴染みがないからか、手には取ってもらえるもののマルシェではなかなか売れません。一方で青パパイヤを使ったイタリア料理のイベントなどでお酒とマリアージュする企画ではとても好評いただいており、これからも続けていこうと思っています」と阿部氏。
農園の名前「Hola Sol Hacienda」は太陽の農園という意味だそうです。農園では青パパイヤの他にビーツやズッキーニを作っており、昨年から行なっているグリーンツーリズムも好評なのでぜひ遊びにきて欲しいと阿部氏は呼びかけました。
▶︎20年以上の研究を重ねた陸上養殖アワビ ④「陸上養殖アワビ」――福島町役場産業課(北海道福島町)
アワビというと古くから日本で縁起物の高級食材として知られていますが、この日はなんと300個のアワビが北海道福島町から届きました。 福島町役場では地方創生事業として、日本で初めて特許を取得した「陸上養殖アワビ」システムを実用化し、このたび商品として出荷できるまでにたどり着いたということで、満を持しての参加となりました。
アワビの陸上養殖実用化の背景には、人口4100人という小さな町が抱える「高齢化」や「後継者不足」、「著しい人口減少」を解決するための新たな産業創出をしなければならないという課題がありました。
福島町は北海道の最南端に位置し、津軽海峡に面することから地域産業は漁業と水産加工業。イカ釣り漁業でのイカの加工品では全国有数の生産量を誇ります。
しかし、「近年の資源量の減少から原料確保が年々厳しくなってきています」と福島町役場産業課石川氏。
採る漁業から育てる漁業への転換を旗印に、これまでも海でのアワビの養殖に取り組んできたと言います。
「中間育成したアワビの稚貝を海に放流して資源維持を試みていましたが、成長に3〜5年かかる上に実際に漁獲につながるのが1〜2割程度。漁獲率を上げるという目的とともに、産業創出、雇用創出を目指しています」(石川氏)
重ねて配置されたアワビの特製養殖棚は一つ一つアワビの部屋が区切られており、海水を常に一番上の棚から下の段に流しています。これにより従来の海での養殖よりも低コスト、かつ餌の供給量が管理しやすくなり安定的に生産が可能になりました。 肝心の品質ですが、一つあたり5.5〜6.0cmとやや小ぶりで、天然アワビと比べると歯ごたえが柔らかく磯臭くありません。また「ウロ」と呼ばれる内蔵に苦味もない点も特徴的です。 「やや小さめですが、従来のアワビよりもかなり短い1年半から2年で出荷でき、天候に左右されず安定した生産・供給ができる。柔らかいのでお年寄りや子供にも食べやすいのではないかと考えています。販売実績がまだないので色々な意見をいただき、これからの事業経営につなげるために勉強させていただきたいと思っています」と石川氏は語ります。
評価委員からは「本来アワビが持っている高級感は必ずプラスになる」と高評価。 また、暫定小売価格が1個300円という安さにも驚きの声が上がりました。 「加工品にするとなると、乾物にして保存を効かせる、煮貝にするなどの方法がありそう。アワビを入れたおかゆ状の料理など病院での需要もあるかもしれない」との意見も。 試食した参加者からは「むしろこのサイズと柔らかさがウリになるのでは」との声も聞かれました。
各生産者のブースでの試食会の後半では、料理家の四分一氏が、この日それぞれのプレゼンターが持ち寄った食材を使って腕を振るった料理が並び、立食形式での生産者と参加者の意見交換は大いに盛り上がりました。
「国内にはまだまだ知られていない美味しいものがあると、消費者として改めて気づかされた。そういった情報をどんどん大丸有エリアから発信して、地域と地域、人と人とがつながる展開になって欲しい」 「これから販路を拡大するには一般の消費者にいかに知ってもらうかが重要。ただ商品を売るのではなく、生産者の方にはDFIを情報発信の場として活用し、地域の活性化につなげてもらいたい」 「生産者の方々が本当にいろんな取り組みをしながら、魅力ある商品を作る努力をしていると改めて実感した。飲食業界に携わる者として、その魅力を消費者の人々に伝えられるようにより一層努力していかなければならない。ぜひこれからも応援させていただきたい」 と参加者から感想を述べられ、生産者の熱い語りとおいしい料理に、胃も心も掴まれたようでした。
どの生産者からも次の展開につながる有意義な場になったとの感想が寄せられ、交流会は盛況のうちに閉会となりました。
大丸有エリアにおいて、日本各地の生産者とエリア就業者・飲食店舗等が連携して、「食」「農」をテーマにしたコミュニティ形成を行います。地方創生を「食」「農」に注目して日本各地を継続的に応援し、これらを通じて新たな価値創造につながる仕組み・活動づくりに取り組みます。