イベント食農プロジェクト・レポート

【レポート】「バスあいのり便」でつなぐ・広がる、地方と都市

第一回バスあいのり協議会準備会 2019年11月1日(金)開催

9,11,17

大丸有エリアのビルエントランスでマルシェが開かれているのを見たことがある方は、少なくないのではないでしょうか。実は、現在この大丸有エリア13カ所で、日本のさまざまな場所から送られてきた新鮮な野菜や果物が販売されています。その中には、都心のスーパーでは中々見地方の希少な食材も多いのです。
この取組の名前は「バスあいのりマルシェ」。高速バスの空きスペースを活用した貨客混載「バスあいのり便」により、従来の物流では県外へ出荷できなかった新鮮かつ希少な食材を産直所から都心に直接届ける新しい物流の仕組みにより実現したもので、2018年夏から本格稼働をスタート、2019年11月現在、全国42の地域と50路線のバスが連携しています。

(「バスあいのりマルシェ」詳細はこちらの記事を参照)

この取組をさらに展開するにあたり、全国各エリアの事業者をつなぐプラットフォーム「バスあいのり協議会」の来年度中の設立を目指して、11月1日、第1回バスあいのり協議会準備会を開催、当日は全国30の地域から120名超が参加しました。

本協議会準備会では、産地と消費地のそれぞれの課題に応じた「バスあいのり便」を活用したソリューションの事例と、今後の展開の紹介、そして会の最後には実際にあいのり便を利用して運ばれてきた地方の食材を使った多彩な料理を囲み、懇親会が行われました。

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あいのりバス4地域の事例紹介

あいのりバス4地域の事例紹介

これまでの取り組み事例として、パネルディスカッションに登壇していただいたのは以下の4つの産地の関係者の方々です。
■高知県安芸市
一般社団法人高知県地産外商公社 外商局外商第二課課長補佐 島田貴広氏
株式会社安芸水産 代表取締役 山本高正氏
■岩手県雫石町
小岩井農牧株式会社 代表取締役常務 辰巳俊之氏
株式会社肉のふがね 代表取締役 府金伸治氏
■栃木県益子町
株式会社ましこカンパニー 販売部門フロアチーフ 太田浩之氏
益子町 産業建設部農政課係長 上田昌史氏
■石川県金沢市
西日本JRバス株式会社 企画部経営企画課 梅本貴弘氏
JA金沢市 ふれあい課広報 三原千明氏
全国農業協同組合連合会中央会 JA改革推進部JA改革推進課 原澤恵太氏

初めに、「バスあいのりマルシェ」の実施運営を担当する株式会社アップクオリティ(以下UPQ社)代表取締役社長 泉川大氏と、三菱地所株式会社街ブランド推進部担当部長 井上成氏から本取組のコンセプトおよび事業フローの説明がありました。
まず、UPQ社が各産地の直売所から産品を買い付け、各バス会社の空きトランクに積み込みます。東京で乗客を降ろした後産品はそのまま大丸有エリアバスで運搬し、到着後UPQ社が荷下ろし。その後、マルシェや卸先の店舗まで同社が運搬するという流れです。

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今現在、42地域50路線の便であいのり便が運行されており、今年度のマルシェ開催数は500回に達する見込みだと井上氏は説明します。
「特徴は朝採れ・夕採れ、名産品、希少品など。これまでロットが小さいために、地方から都心部へ出荷されることのなかった『県外不出』の産品が実はたくさんありました。これらの産品は、バス便であれば小ロットでも運べてなおかつリードタイムが短くできる」(井上氏)

ここからは、各産地の出荷産品や、あいのり便によるメリット、今後の課題について紹介していただきました。

▼市場で仕入れたものより新鮮!? 高速バスが実現したコスト削減と美味しさ
<高知県安芸市>

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バスあいのり便の運行地域最南端である高知県安芸市。ここは、四国の中でも一番南に位置しており、昔からインフラが悪いと言われてきたと島田さんは説明します。
どうにか交通・流通の悪さを改善したいと考えていたところ、UPQ社の取り組みを新聞で知り、すぐに連絡を取りました。何度かのやりとりでUPQ社の泉川氏が現地に足を運ぶこととなり、実際にそこで食べた「しらす」に泉川氏は衝撃を受けたと言います。

「こんな美味しいしらすを食べたことがありませんでした。ふわふわのしらす。このとれたてのものをそのまま東京に持っていきたいと思いました。それがあいのり便で実現し、銀座のアンテナショップの2階レストランで、曜日数量限定しらす料理が提供されています」(泉川氏)

高知は、カツオのイメージが強いですが、ゆずやミョウガ、はちきん地鶏など、他にも名物はたくさんあるので、これまであまり東京に出てきていなかった産品を中心にさらに届けていきたいと島田氏は語ります。
しらすについては、安芸水産の代表である山本氏に実績報告をしていただきました。

「高知県は非常に自然が豊かで川が多い。その川から流れてくる豊富な栄養が浅瀬のプランクトンのエサになります。うちで扱っているしらすは、この栄養豊富なプランクトンを食べているので、必然的に質が良くなるんですね。これまでは豊洲を中心に送っていましたが、どうしても流通のために翌々日の納品になってしまいます。私たちも冷蔵の方が食味がいいとわかっているので、冷蔵で送りたいという気持ちは以前からありました。けれど、配送のリードタイムを考えると冷凍して送らなければいけませんでした」(山本氏)

高知のあいのりバスのスケジュールでは、朝採れたしらすを冷蔵し、19時55分の夜行バスに載せます。次の日の7時20分にバスタ新宿に到着し、そのまま大丸有エリアに運搬することで、早ければ9時10分くらいには各店舗に納品できるということです。
「午前中に大丸有エリアの飲食店に届けることができるので、ランチに冷蔵しらすを提供することができます。もう1つのあいのりバリューとしては、市場の仲買の中間コストを削減することができ、飲食店側の仕入れ価格の低減にもつながる点もありますね」(泉川氏)

▼産地のセントラルキッチン化で運送コスト低減! さらに定期便で在庫調節も可能に
<岩手県雫石市>

2組目の登壇者は岩手県雫石市です。丸ビルの5階にレストラン「小岩井農場TOKYO」を運営する小岩井農牧株式会社の辰巳氏が、小岩井農場について説明します。

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「小岩井農場は盛岡市から北西12キロに位置し、東京ドーム640個分もある広大な牧場。その歴史は古く、1891年の明治期より環境保全・持続循環型を理念として立ち上げられました。小岩井農場TOKYOでは、小岩井農場の牛肉やチーズ、野菜、または岩手素材の野菜や果実をこちらへ運び、料理として提供しています」(辰巳氏)。

これまでは小岩井で育てた牛を現地で一部を精肉して東京へ配送していたと言います。それを株式会社肉のふがねの協力で、ソーセージやミンチなどの一次加工を現地で施してから東京へ配送することに。
こうすることで、レストランでの調理工程が減り、できた時間をメニュー開発に当てるなど、働き方改革につながっているそうです。。

「盛岡市から北にある岩手町に加工工場があります。そこから盛岡市まで毎日、市内の百貨店に納品するための定期便を出していたので、そこからあいのり便に搬入させていただくことになりました。物流コストの上昇や増税もあり、飲食店の方々からも懸念の声が上がっていた中でしたので、小岩井農場さんや東急バスさんの経費負担を削減できる事業になるかなと思い協力させていただきました」(府金氏)
東京までのあいのり便とこれまでの宅急便での配送費を比較したところ、なんと半額にまでコストを低減することに成功したと言います。

また、小岩井農場では、東銀座にある岩手県のアンテナショップ銀河プラザに乳製品の納品もしています。そこでは小岩井農場のソフトクリームが大人気で、毎日300個も売れているとのこと。現在はヨーグルトのみあいのり便で運んでいますが、今後ソフトクリームも運ぶ見込みです。

実は都心のアンテナショップは立地が良いために家賃が高く、在庫商品を置いておくスペースにも非常にコストがかかります。そこで、あいのり便で定期的に配送することで店舗の在庫を調節が可能となり、無駄なコストを削減することができるようになりました。

▼マルシェを通してブランド化。「あいのりイチゴ」の誕生秘話
<栃木県益子町>

栃木県の益子町といえば「益子焼き」で有名な町。美しい里山が広がる自然豊かな益子町からは、道の駅ましこの太田氏と上田氏が登壇しました。

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道の駅ましこは、2016年10月にオープンした道の駅。全面ガラス張りのおしゃれな外観は、中からも益子の里山が眺められるような設計で、店内は栃木産の杉を使っています。
農産物売り場に飲食店、イベントスペースが併設され、さまざまなツーリズムも行なっている道の駅ましこですが、一番力を入れているのがイチゴです。

栃木県全体でブランドとして打ち出しているイチゴに「とちおとめ」がありますが、この益子町では「つる付きとちおとめ」を限られた農家だけで作っています。
つるを残すことで水分の持ちが良くなるので、残さないものよりも日持ちが1〜2日伸びるそうです。しかし、収穫に手間がかかるので大きい農家では対応できないため、県内でも限られた農家だけしか栽培していません。

大丸有マルシェのイベントとして全国各地から希少なイチゴを集めて「あいのりイチゴ」を販売するにあたり、益子町からこの「つる付きとちおとめ」を朝採れで出荷することになりましたが、ここで大きな問題に直面することになります。
当初パック詰めをしての出荷を想定していましたが、朝の収穫からバスに載せるまでに加工が間に合わないことがわかったのです。

イチゴの収穫は朝7時から始まり、バスに乗せる時間が9時になるので、ほぼ収穫するだけで時間が尽きてしまいます。選別して詰めるところまで完了できないのです。
さらに、イチゴは収穫した後に味を安定させるため、6時間ほど予冷することが必要で、こういった諸問題により生産者の方々からは、なかなか同意を得ることができなかったと太田氏は言います。

「最終的に、朝収穫したものをそのままコンテナに入れて出荷することになりました。貨客混載だからこそできた取り組みだと思います。色々と生産者さんには無理を言って協力していただきましたが、結果的に約7000パックとコンテナ43個分の販売を達成しました。外販でこれだけの実績をあげることはなかったので次につなげていきたいです」(太田氏)

今年は大型台風もあり収量は未定ですが、マルシェで「つる付きとちおとめ」が好評だったこともあり、計画生産も考えているそうです。

また、全国的にも農作物の獣害が問題となっている中、益子町ではイノシシの食材利用に取り組んでいます。ここ数年捕獲数が増えており、益子町の隣町である那珂川町から「イノシシの加工肉をどこに売り込み行けばいいか」という相談を受けたところから、あいのり便での都内への出荷検討が始まりました。

「ハブ的な役割を我々が担いUPQ社さんに協力していただくことで、那珂川町さんの課題を1つ解決できました。これからジビエ肉も含めてさまざまな産品が期待できると思いますが、現場ではジビエ肉を加工する手間暇や、今後の消費と供給の課題も同時に抱えています。今回の事例を足がかりに、これからもみなさんと積極的にあいのり便の活用法を考えていきたいです」(上田氏)

▼希少野菜を全国に! 知名度アップにあいのりバスが貢献
<石川県金沢市>

最後に登壇していただいたのは、2015年に北陸新幹線が開通し、今や観光地として大人気の石川県金沢市。日本海に面する食の宝庫として有名ですが、「加賀野菜」のブランドでも知っている方は多いのではないでしょうか。その「加賀野菜」以外にも、若い生産者たちが作る野菜をブランド化しようということで立ち上げたのが「金沢そだち」です。

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まだ認知度は低いですが、一定の条件を満たした5品目の野菜のうち、スイカだけで昨年13億もの売り上げを達成しました。若い生産者が活気付いている流れをさらに応援しようと、JA金沢市では農家の所得増大という目標のもとさまざまな取り組みをしています。そんな中で、あいのり便の話を紹介されたと三原氏は言います。

「初めはピンと来ませんでしたが、我々の野菜を買い取っていただいて首都圏に運んでもらうという形なのでメリットしかないと考えました。送料や運ぶ上での野菜の品質保持の問題など、さまざまな疑問はありましたが、その都度泉川さんが丁寧に答えていただいたので、JA金沢市でも信頼して任せることができましたね」(三原氏)

もともと西日本JRバスがJA金沢市に話をして実現したこのあいのり便。西日本JRバスは、京阪神と金沢市を拠点として関東方面や東北、中四国など津々浦々を結んでいるほか、金沢市内の観光地をめぐるバス事業もしています。西日本JRバスでは、以前から山間部や過疎地の物流を、バスを使って解決できないかと全社的に取り組んでいたそうです。そうした中、UPQ社の貨客混載プロジェクトを知り、自社でできないか相談したのが始まりだったと梅本氏は説明します。

「我々としては、金沢の『金沢そだち』や『加賀野菜』、京都の『京野菜』といった地方の伝統野菜をどうにか全国に動かしていきたいという思いがありました。今回金沢と新宿をつなぐ貨客混載高速バスが実現できたことは大きな一歩。今後は関西の広域でもどんどんつなげていきたいです」(梅本氏)

ブランドとしては知っていても食べたことがないという大丸有エリアの就業者の声もあり、今後は連携してレシピ紹介もあわせてPRしていきたいと意気込みを見せました。

産地の課題と広がる展望。あいのり便で海外も

JAの全国組織であるJA全中の協力がなければ実現しなかったと言ってもいい今回のバスあいのり便。JA全中の原澤氏からは産地からの目線で今後の展開について語っていただきました。

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「産品に付加価値をつけて高く売るということは一番に話題に出ます。しかし、安定的な取引もやはり生産者にとっては大事なところです。今回の取り組みでは、より購買力の高い首都圏にマーケットを広げることができたという点と、マルシェを通して『あいのりイチゴ』などのブランドを作ることで単価をあげることに成功した点が、成果として大きいのではないでしょうか。産地と流通と販売力が噛み合うことで、産地サイドでは農業を軸とした地方創生、消費者サイドではマルシェの賑わいでまちづくりといったように、一体になって進めていけるのは大きい影響力となると考えています」(原澤氏)

続いて、今後の展開として泉川氏からさまざまな取り組みが紹介されました。

「まず1つは出張あいのりマルシェ。いつも産品を出荷していただいている産地にあいのりバスが逆に産品を運ぶというものです。運ぶ産品は同じく全国各地から大丸有に届けられたもの。実は産地によっては端境期の直売所の品揃えに非常に困っているということで、この時期に逆に我々が産品を運ぶことで安定的な集客販売につなげられればと考えています。また、地方では体験が難しかった別の地方の魅力を届けることができるのではとも考えています。貨客混載によって地方連携を推進する仕組みですね」(泉川氏)

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そのほかにも産地のフードロス削減につながるような買取制度や、高松空港から高知の産品を台湾へ輸出する計画、さらに沖縄との間で航空便と連携した形で取組も計画しているそうです。
準備会の後は懇親会で、各地域の食材やお酒が並び、美味しい食事を前に会話にも華が咲いていました。

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アイデア次第では、今後もどんどんさまざまな場所や人をつなぐ明るい展開が期待できる「バスあいのり便」。大丸有エリアのビルエントランスでマルシェを見かけたら、ぜひ立ち寄ってみてください。


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