3×3Labo仕掛け人・田口真司氏が聞く対談シリーズ第5回目のゲストにお招きしたのは、伊藤園の常務執行役員 CSR推進部長の笹谷秀光氏。農林水産省から転身、50代半ばから民間企業の世界に飛び込み、経営企画などの部署を経て、CSR担当に。今では伊藤園のCSR/CSV展開になくてはならない存在だ。
また、2013年にCSRを国際基準で定められたISO26000から読解した『CSR新時代の競争戦略 ISO26000活用術』を上梓して以降、CSRからCSVへ、そして地方創生へと活躍ドメインを拡張し、日本のソーシャルセクターの活動を牽引するほどになった。
丸の内では、エコッツェリア協会の環境系のセミナーはじめ、3×3Laboの丸の内プラチナ大学などに協力いただくなど、これからの3×3Lab Futureにもなくてはならない存在と言えるだろう。そんな笹谷氏が、講演の際によく口にするのが「私は"チーム田口"の一員です」というセリフ。それだけに、笹谷氏と田口氏の関わりは、長く、深い。今回は、そんな知られざる? 2人の関係、そして日本におけるCSVやCSRの現状、今後の展望についてお話しいただいた。
田口:今、力を入れていらっしゃる活動と現状についてのお考えを伺えますか。
笹谷:まず、現状についての見方としては、「持続可能性」(サスティナビリティー)の意味を深く突き詰めていく時期に入ったと思います。そこにあるのは、この数年の間に多くの日本人が「持続可能性」を身近に体験しているということなんです。
2013年から2015年にかけて、ユネスコの有形文化遺産に、「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」、「富岡製糸場と絹産業遺産群」「明治日本の産業革命遺産」が登録され、あわせて「和食;日本人の伝統的な食文化」、「和紙 日本の手漉和紙技術」も無形文化遺産に登録されました。
このことは、「日本に歴史と伝統の中で伝えられてきた素晴らしい文化と技術があり、それを持続可能な社会のため、環境のために守ってください」と、世界からいわれたということ。持続可能性の価値観に裏付けられたユネスコへの登録が認められたことによって、日本人が培ってきた価値観が世界に認められたことを意味します。また、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定し、日本人が世界中から訪れる方々をおもてなしする機会がやってくることになりました。このいずれについても、根底に流れているのは全て「持続可能性」です。
田口:「持続可能性」に注力するに至った今までを振り返っていただき、農林水産省時代から現在への経緯をお話しいただけますか。
笹谷:農林水産省というと、国内の農林漁業に関する業務が多いと思われがちですが、私は海外との交渉など、海外関係のセクションに所属している時期が長かったんです。中でも、1981~83年の2年間、人事院の研修でフランスに留学したことが自分に大きな影響を与えました。その後、在米日本大使館で農業分野の一等書記官として、ワシントンD.C.で勤務。この時期の海外経験が、今につながっています。
田口:農水省に所属していながら、海外にいることが多いというのはやや変わった経歴のように思えますね。その後は、どのような仕事をされましたか。
笹谷:日本に戻ってからは、中山間地域活性化室長、築地卸売市場などの市場課長を経験したことで、地域課題、食文化および和食について見識を深めるきっかけとなりました。また、環境省に3年間出向した時期には、2005年にカナダ・モントリオールで開催された「国連気候変動枠組条約第11回締約国会議」(COP11)に参加し、地球温暖化対策としての温室効果ガスの排出削減に関わりました。
その一環として、「クール・ビズ」政策の推進や生物多様性についても取り組みました。関東森林管理局長が最後の仕事で、北は佐渡から、南は小笠原まで、関東の森という森を見に行く機会に恵まれました。この時の経験も今に生きているものが多々あります。ひとつの経験が後に知見としてどのように生きてくるかわからないものだと思います。
田口:最初に設計して、あれとこれをやろうとしたのではなく、ある意味、偶然的にいろんな場所での多岐にわたる経験がつながって知見が深まっているんですね。そして今、それらを融合したうえで、伊藤園では何をしようとしているのでしょうか。
笹谷:最初は知的財産部長として特許や商標を担当し、次に経営企画部で中長期計画の策定を担当したのですが、この時に出会ったのが2010年11月に発行されたISO26000(社会的責任の手引)でした。これを機に、企業や組織が持続可能な社会のために何をすべきか、国際標準に基づく本格的な議論が社内で始まりました。以降は、「CSR」(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)の推進が、私の中心業務となっています。
田口:ISO26000に関しては、とても長い時間をかけて築き上げられた規格だけに、網羅的になっていますよね。笹谷さんの仕事を拝見していると、新しいものを取り入れる時に思考や考え方の「フレーム」を上手に使われるという印象を受けます。
笹谷:「CSR」に関していえば、ガイダンス規格であるISO26000は企業がそれぞれの本業の中で社会的責任を果たせと、本業推奨を明確化した点が重要です。この規格を活用することによって組織力をつけることが可能になります。「やるべきことリスト」も示され、組織統治、人権、労働慣行、環境、公正な事業慣行、消費者対策、コミュニティへの参画など、7つのテーマに基づいて、各社の関連事項を洗い出していくことが大事です。本業を見直すことによって、関係部署すべての能力が問われますから。
田口:笹谷さんがよく仰る「トリプルS」のひとつ目の「S」ですね。
笹谷:そうです。伊藤園では、ISO26000を中期経営計画(2012~14年)に取り入れ、CSRを体系化した報告書もまとめました。2つ目の「S」が、2011年にハーバード大学のマイケル・ポーター教授らが、リーマンショック後の動きを踏まえて提唱した「CSV」(Creating Sheared Value=共有価値の創造)です。これは、社会課題と経済価値の同時実現を目指すという魅力的なもので、深く分析された戦略です。市場の見直し、価値連鎖(バリューチェーン)の見直し、産業集積の形成などの方法も示していて、CSVは学ぶほどに競争戦略として素晴らしいものだとわかったので、取り入れたいと考えました。
ただ、注意すべきは「CSRから CSVへ」ではなくて、ISO26000規格に基づいたCSRをベースにコンプライアンスやサステナビリティの基礎を固めたうえで、強化すべきところにCSVを上乗せし、テコ入れを行う。それによって、相互が補完されることになります。いわば、CSRと CSVの両刀使いですね。
さらに、こうしたことを理解し、推進できる人材を社内で育成すべきだという考えのもと、人材育成に関しては持続可能性についての学びの手法である「ESD」(Education for Sustainable Development=持続可能な開発のための教育)を取り入れました。これが3つ目の「S」です。この3つの総称である「トリプルS」を実践的に進めています。
田口:伊藤園のトリプルSな取り組みは、対外的な評価も得られていますね。
笹谷:ええ。2013年には、独自性のある、優れた戦略を実行している企業に贈られる「ポーター賞」を受賞しました。CSR/CSVを本格導入した13年から15年にかけて、パートナーとの協働も評価されて、さまざまな受賞につながっています。
例えば、15年の日経ソーシャルイニシアチブ大賞の企業部門賞では、茶葉調達の一部を産地育成から行う独自の取り組みを行ってきた成果を評価していただきました。 2001年から農家、行政と連携して行ってきた「茶産地育成事業のうち新産地事業」があります。機械化、IT化などのノウハウ提供によって、農家の生産性向上をサポートし、農家に対しては全量買い上げ契約を結んでいます。農家にとっては経営が安定しますし、弊社にとっては製品原料の安定調達が可能になります。また、後継者不足によって耕作放棄地となっていた茶園も新産地事業として展開することで、その解消にも役立てます。
田口:ひとつが動くことによって、次の動きが生まれる。次のそのサイクルが生まれるために必要なポイントは何でしょうか。
笹谷:伊藤園の「お客様第一主義」という経営理念がポイントです。「社是」では社会からの「信頼を得るを旨とする」を重視しています。
田口:笹谷さんは、CSR/CSVについて説明する際に「三方よし」を使っていますよね。
笹谷:「自分よし、相手よし、世間よし」の「三方よし」です。これは、かつての近江商人に伝わってきた哲学ですが、現在の日本においても通用する価値観です。もっとも、日本人には良いことは隠れて行う「陰徳善事」という特性がありますが、自ら発信しないと、相手に伝わらず、良いことも広がりません。自分なりの座標軸を用いて、世間の動きを見ることは学びになりますし、良いことは発信することが大事です。持ち帰った学びを、自分の組織で発信する「発信型の三方よし」に改造すべきだと考えています。その場合、重要なのは、メディアも含めて幅広いパブリック(関係者)との間のリレーションシップ(関係性)を強化して発信していく意味での、「パブリック・リレーションズ」が重要です。
田口:笹谷さんがお考えになっている、これから使っていきたいフレームは何ですか。
笹谷:今や、国や企業といった単位では解決できない問題が多くなっています。グローバル化によって社会課題が複雑化しているのです。
これらに対して、2015年9月には、「国連 持続可能な開発サミット」が開催され、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択。2015年までの「MDGs」(Millennium Development Goals=ミレニアム開発目標)を発展させ、先進国も含めたユニバーサルな目標として「SDGs」(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)が設定されました。ここで掲げられた17項目が、今後の世界が目指す目標であり、さまざまな物事を考えるための「フレーム」になると思います。
また、グローバル課題の代表例が環境ですね。空に国境はありませんから、大気汚染も温暖化も先進国、途上国をふくめた全世界が取り組むべき課題です。この点は、15年12月にパリで、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で「パリ協定」が採択されました。世界共通の長期目標として2℃目標のみならず1.5℃への言及がなされ、主要排出国を含むすべての国が削減目標を5年ごとに提出・更新すること、共通かつ柔軟な方法でその実施状況を報告し、レビューを受けることが盛り込まれたのです。
すべての国が参加し,公平かつ実効的な枠組みが採択された点で高く評価されます。
田口:世界中の国にとって達成目標となるSDGsに並び、国連が提唱する責任投資原則のベースである「ESG」(Environmental Social Governance=環境・社会・企業統治)の重要度も上がっていますよね。
笹谷:ESGは、投資家が指標とする重要な3要素がバランスよく盛り込まれています。気候変動や環境汚染などの環境問題、人権や労働問題などの社会的課題に取り組み、ガバナンスがしっかりしている企業。または、そうした企業への投資は、持続可能な社会の発展に欠かせません。ある意味、ISO26000に基づく本業CSRにとても近く、これを投資側面から見たものと思います。投資的な視点に立てば、CSRがESGに置き換えられるともいえます。
田口:もっとも、ESG投資については、日本はまだ成長途上のようです。ある調査によると、ESG投資の割合はヨーロッパで58%、アメリカでも2、3割に達しているのに対して、日本はほとんどありません。日本の企業の中でCSRの活動は増えてきましたが、投資との結びつきは弱いという印象を受けます。
笹谷:ESG投資に関する2015年の大きな動きとしては、世界最大の機関投資家と呼ばれ、日本の年金百数十兆円を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が日本の公的機関で初めて、国連責任投資原則に署名したことが挙げられます。今後は、ESGにしっかり取り組む企業に投資すると、世界最大の運用規模を誇る組織が決定したのですから、日本ではいよいよ本格化するはずです。2016年は、ESG元年といえるような節目の年になると思います。そして、ESG投資に応えるためには、企業側として「価値創造のストーリー」を語っていけることが求められます。今の時代は、人・もの・金・情報を融合させた成果として、どんな製品やサービスを提供できるのか、企業として発信して「コーポレート・ブランド」を確立することが重要ですから。
田口:「トリプルS」「ESG」を通して、地方創生への取り組みに力を入れていらっしゃいますが、この点について詳しく伺えますか。
笹谷:今、もっとも解決しないといけない課題のひとつが、人口減少問題です。日本創成会議によると、約1800ある自治体のうち、「消滅可能性都市」が896、全体の約半数と、危機的な状況です。東京への一極集中を解消し、国際都市へ発展するカギになるのは地方創生です。石破茂地方創生担当大臣が推進している「まち・ひと・しごと創生」は、私のバックグラウンドである農水省時代からの経験ともつながりが深く、CSR・CSV・ESDの「トリプルS」応用版として関わっていきたいと考えています。
田口:今までの仕事の集大成としての位置付けになりそうですね。
笹谷:そうですね。先ほどのサステナビリティーという価値観があり、アウトバウンとインバウンドが交錯して、ICT技術が情報伝達を加速しています。グローバル化といわれて久しいですが、今や「新」グローバル時代です。私なりに、今までの経験を総動員したいと思います。自分なりに理解し、読み解く。事例分析を行い、頭の中を整理してみる。それを皆さんに伝えて反応をいただき、さらに理解を深めたうえでフィードバックをしたいと考えています。これは、私自身がESDをやっているようなものですね。ここで大切なことは、発見であり、気付きです。
近く拙著の延長として、「笹谷秀光の協創力が稼ぐ時代」と題したウェブ版の連載(ウイズワークス社)も始まる予定です。最新の考えを発信しますのでご期待ください。
田口:地方には、私達のような都市側と、他方には地方側という2つのプレーヤーが存在します。高齢化が進んでいる、人が足りないといったさまざまな課題がある中で、地方側のプレーヤーが取り組むべきことは何でしょうか。
笹谷:2016年3月までに、各自治体において「地方版総合戦略」の策定が行われ、課題の洗い出し、および課題解決に向けてのプラン作成が行われています。ここで必要なのが「まち・ひと・しごと創生本部」が提唱している「産・官・学・金・労・言」の連携です。産業界、行政、学界、地方金融機関、労働関係、マスメディア、NPOやNGOの関係者まで、あらゆる立場の人をいかに取り込んでいけるか、ということです。
田口:課題が複雑化しているからこそ、あらゆる立場の人が知恵を出し合うことが求められますね。
笹谷:関係者が連携することによって生まれる「協創力」こそ、地方創生の要になります。ここで肝心なのは、皆が集まるためのプラットフォームを作り育てること。「産官学金労言」の人たちに参画を働きかけるためにも、プラットフォームは大事です。さらに、従来は「産」(企業)にする働きかけは、協賛金や寄付といったフィランソロピー(社会貢献活動)が多かったのですが、これは本業のCSRに切り替えていくことが効果的です。
その理由のひとつは、企業が本業できちんと対応しないのに一方で環境保護に寄付するだけの行為は許されなくなるであろうため。また、2つ目に、寄付だと、経済状況の変化による影響を受けやすく、継続性がないこと。さらに3つ目として、本業を生かすことによって、能力を効率よく引き出すことが出来る点です。
これは、企業の持つ価値を創造する力=エネルギーをどう引き出すかという課題であるとも言い換えられます。地方創生という課題に向かって、そのエネルギーをどのように引き出していくか。周囲に対しても、フィランソロピー型のCSRではなく、本業のCSRをやっているということは、企業の想いをうまく伝え理解を得やすいという点がメリットになるでしょう。
田口:プラットフォーム作りの話が出ましたが、私達が手がけている3×3Laboもまさに、プラットフォームであることを目指してスタートしたものです。私自身がこの活動を始めたきっかけのひとつは、「ワールド・カフェ」を学んだことでした。カフェのようなリラックスした雰囲気の中でオープンに会話をし、少人数で組み合わせを変えながら話し合うことで、多くの人と意見交換が出来て、ネットワークも築くことができる。そこにヨーロッパ発祥の「フューチャー・センター」をプラスするイメージです。「産官学」が一体となって未来志向で話し合い、子どものための社会、より良い未来のために実際に取り組んでいくためのプラットフォームにすることができればと考えています。
笹谷:3×3Laboは、今までの日本になかった場で、素晴らしいと思いますね。何より、場の雰囲気がいいんです。雰囲気の良し悪しで、集まる人々の気持ちは大きく変わりますから。また、「開かれたコミュニティ」の感覚も大切だと思います。ほんわかとした雰囲気の中でこそ、いい知恵も出てきますよね。もうひとつ、3×3Laboの魅力としては、皆の意見をつなぎ、取りまとめるコーディネート力があります。会議を活性化するためには、コーディネーターやファシリテーターの役割がとても重要ですが、日本語には当てはまる言葉がない。つまり、従来の日本にはない概念だということですね。
田口:日本語だと、調整役、仲介役でしょうか。あまりピンときませんね。
笹谷:ヨーロッパの「フューチャー・センター」には、必ず、そういう役割の人がいて、うまくまとめてくれるから、皆の知恵がかたちになりやすい。調整機能として成熟しています。その意味からも、3×3Laboのコーディネート力は、プロ中のプロだと思います。
田口:ありがとうございます。いろんな人が集まるためには、場を作るだけでなく、場をまとめるコーディネーターが重要だということを、多くの方がわかっていると思います。地方の方から、3×3Laboのような場を作りたいという話がよく来ます。
しかし、そこで問題になるのが、場所も課題もある、人が集まるメドもあるけれど、ファシリテーターがいないということ。
ひとつの解決方法としては、東京からファシリテーターが行く方法がありますが、それでは持続性がありません。そこで今、まだ案の段階ですが、3か月ほど、現地のファシリテーターに3×3Laboで学んで、帰ってもらおうかと考えています。それによって、実際に学ぶだけでなく、東京側とのネットワークが出来ますから、東京と地方をつなぐ役割を担うことも出来ます。
笹谷:うん、それは素晴らしいアイデアですね。1800の自治体がそれぞれの地方創生プランを作っていますが、その成否は皆が集えるプラットフォームをどのように作るかということと、人々のつなぎ役にかかっています。東京で良いやり方を学んだ人が、地方で実践することによって伝播していく。育成する人を育成することになりますね。人育ての技は、東京が持っている大事な役割のひとつだと思うんです。育った人がいろんな組織の中に入り込んでいくと、良いやり方がさらに伝播し、ますます活性化する。いい循環になるでしょう。
田口:「産・官・学・金・労・言」を実現するために、もうひとつ必要なのが、常に顔を合わせて話し合える場です。オンラインだけでなく、物理的なオフラインで話すことで蓄積されていく経験が大切なんですよね。月に1回、打ち合わせをやるだけでは、なかなか距離は縮まらないし、お酒を飲みながら話したことは忘れてしまいます。今後、地方の場づくりについては、私達も協力していきたいと思っています。
笹谷:3×3Laboの良い面は、参加者が主体的に参加している点です。組織を代表しているのではなく、柔軟な立場で共有価値を生み出そうとしています。創造へ協力して働く、すなわち「協創」に参加することで、エッセンスを自分のものにして、それを組織や地域へ持ち帰っていく。その配慮が行き届いている点がいいと思います。
田口:私が大事にしているのが、いろんな立場で関わっている人達をパートナーとして接すること。それぞれの得意分野を生かして、役割を分け合い、同じ目標へ向かって進んでいく。これは、3×3Laboらしさのひとつですね。
笹谷:東京のど真ん中、丸の内から地方へ向けて発信するテーマが良いですね。「日本の良いものを発見しよう」ですから。
田口:地方には、地方ならではの良さがあるということが、そこで暮らしている人自身は気付いていないことが多いんです。あまりに当たり前すぎて......。それに対して、外側の私達だから伝えられることがあるんじゃないかと思いますね。
笹谷:何をやってもうまくいかない......、というサイクルを壊すことから始めるといいんじゃないでしょうか。「これいいね!」の投げかけに対して、「どこがいいんですか?」という会話が大事。都会や外国、メディアなど、外からの視点を伝えることで変化が起きるはずです。最近は、急増した外国人旅行者がその役割を果たしてくれています。雪を見たことがない国の人が、雪山を雪上車で周ったり、吹雪の中を歩くツアーなどは、視点を変えることで活性化した例ですね。地元の人にとっては、こんなものが喜ばれるのかという驚きだったはずです。「いいね!」となれば、次に活動のねらいを理解してもらい「なるほど!」となって、さらに継続「またね!」というサイクルを目指しましょう。
田口:今、課題だといわれているものが商材に変わるチャンスがあるかもしれません。地方は人手不足が深刻で、雪かきやみかん狩りは、おじいちゃんやおばあちゃんには負担が大きい。でも、そうした季節的に人手が必要な時に、外部からの体験ツアーを組んで人手を補うやり方があります。片方を良くすると、みんなが良くなるといった成功体験を感じられると、今まで見えなかったことが理解できるようになるはずです。
笹谷:成功体験という表現は、すごくいいですね。今の時代に必要なのは、技術だけでなく、やり方のイノベーションです。人との出会いを機にイノベーションが起こり、新たなやり方が生まれることがとても重要です。その意味で、東京オリンピックを経て、日本人は大きく変わるはずです。拡大するインバウンドの動きもとらえ、全国津々浦々のクールジャパンを発信し、2020年までに「人を育てるレガシー」が生まれると思っています。時代のキーワードはインバウンド、クールジャパン、レガシーです。
田口:2016年春からスタートする「3×3Lab Future」も、まさにそうした場でありたいと思っています。複合的に、俯瞰的に全体を見た時に、どこに横串を通すとつながるのか。その見極めが、ますます重要になります。
笹谷:2020年までにと「締切り効果」が効いて、皆の力が結集してパワーが引き出されますから、タイミングとしてはすごく良いんじゃないでしょうか。集まって「わいわい がやがや」をし、Trial&Learnを重ねることで、驚くような成果が生まれる可能性があります。外部からの刺激や認知、内省を通して、「気付き」を得たら、それを発信していく。そのやり方もまた、新たなレガシーになると思います。常に世界をにらんだ、地方創生+国際都市東京+レガシー=日本創生につながっていくはずです。
1953年生まれ。1976年東京大学法学部卒、1977年農林省(現農林水産省)に入省。中山間地域活性化対策、食品流通対策、農産物国際交渉などを担当。2005年環境省大臣官房審議官、2006年農林水産省大臣官房審議官、2007年関東森林管理局長を経て2008年に退官。同年伊藤園入社、知的財産部長、経営企画部長を経て2010年より2014年まで取締役、2014年7月より現職。著書に『CSR 新時代の競争戦略―ISO26000活用術―』(日本評論社、2013年12月)、『ビジネス思考の日本創生・地方創生 協創力が稼ぐ時代』(ウィズワークス、2015年10月)がある。