
緑を見るとホッとするという人は多いのではないでしょうか。3×3LabFutureに集うみなさんへの一問一答シリーズ「VOICE」でも、大手町・丸の内・有楽町エリアの好きな場所として、屋外の街並みや緑地帯、皇居周辺、お濠のカモなどの自然を挙げる方が多くいます。ビジネスの最前線で働く方々にとって、街で目にする自然は、仕事の緊張をほぐす役割があるのかもしれません。
こんにちは。Ecozzeria編集部です。2018年最初のコラムのテーマは「生物多様性」。世界有数のビジネス街・大丸有エリアですが、緑豊かな皇居に隣接する立地を生かして「都市における生物多様性」に取り組んでおり、さまざまな種類の生きものが生息しています。(参考記事「都市緑地における生物多様性に配慮した新たな評価の方向性についての検討委員会実施報告(2013年度)」
という、エリアでの生物多様性の取り組みは知っていたものの、これまで生きものに注目したことがなかった私たち編集部。今回のコラムテーマが「生物多様性」に決まったことで、まずは実際どんな生きものがいるのか、定期的に行われる「丸の内生きもの調査」を取材しようとなったのですが、冬だし、生きものがいるのか、植物があるのか。記事がつくれるのか心配していました......。
取材を行ったのは、1月17日の午前中。今回の観察場所、ホトリア広場に向かおうと、3×3LabFutureの入口前を通ると、!
!!
きれいな鳥がいる!
これまで何度も大手町を訪れていますが、ハト以外の鳥を認識したのは初めて。すぐにiPhoneで連写です。興奮していると、「おはようございます」と話かけてくださる方が。こちらが本日の取材に同行してくださるNPO法人生態教育センターの佐藤真人さんと3×3LabFuture生物多様性担当の深須布美子さん。
佐藤さんは大丸有エリアの生きものを2009年から定期的にモニタリング調査している自然観察のプロ。深須さんは2014年まで「自然環境情報ひろば丸の内さえずり館」(現在閉館/運営:三菱地所㈱環境・CSR推進部)の運営に携わっていた経験から、エリアの生物多様性の取り組みに精通しています。
早速、いま撮った写真を見せると「ハクセキレイですね」とのこと。図鑑の写真はこちら。
ハクセキレイ(写真提供:NPO法人生態教育センター)
白と黒の色がきれいな鳥です。ユーラシア大陸のほぼ全域に分布・繁殖している種で、水辺を好みますが、都市環境でも生きることができます。
「鳥でしたら、ほらあそこにもいますよ」という佐藤さんにうながされ、木を見上げると「ヒーヨヒーヨ」と大きな声で鳴く灰色の鳥がいます。鳴き声の通り、ヒヨドリです。
かつては越冬のため日本に渡ってくる冬鳥でしたが、いまは季節によって移動しながら国内に留まる留鳥となりました。
広場内の木を見渡すといくつかの巣箱があります。これは?
「シジュウカラのために作った巣箱です」。シジュウカラは日比谷公園や皇居から飛んできて、ビル街の街路樹を転々と移動しているそう。春の子育てシーズンには、オスとメスで巣にエサとなるガやチョウ、その幼虫を運ぶ回数が平均200回を超えます。
シジュウカラ(写真提供:NPO法人生態教育センター)
「2015年春に設置したのですが。なかなか棲んでくれないので、2月末に新しい巣箱に架け替えて、スズメの巣箱にしようと考えています」(深須さん)
最近はスズメが住宅難(!)とのこと。人のそばを好み、人家の軒先などに巣をつくる隙間が好きな鳥ですが、ビジネス街ではそういった環境が少ないため、巣をつくる場所に困っているそう。そのため、通常ではあまり見られない場所に巣をつくっており、ホトリア広場から皇居側に渡る信号機の隙間をよく見ると、枯れ草や植物の葉が運ばれた小さな巣をみることができました。ほかに大丸有エリア内の珍しい場所としては、皇居外苑の楠公レストハウス前、楠木正成像にも巣があるそうです。
接続金具の隙間にスズメが営巣している(スズメの写真はNPO法人生態教育センター提供)
「大丸有エリアの野鳥観察で忘れてはいけないのは、皇居のお濠。さきほど大手濠を観察したところ14種類、約100羽の水鳥たちがいましたよ」と佐藤さん。
大手濠の水鳥の様子。(写真提供:NPO法人生態教育センター)
「3×3Lab Futureのある大手門タワー・JXビルの地下施設ではお濠の水を浄化しています。1年で外苑の堀の水がそっくり入れ替わるシステムで、この影響で水質が良くなったためか、水草などの植物が増え、それを食べに大手町側のお濠に、有楽町側から水鳥が移動してきているのかも知れませんね。」(深須さん)
ヒドリガモ(写真提供:NPO法人生態教育センター)
ハシビロガモ(写真提供:NPO法人生態教育センター)
ユリカモメ(写真提供:NPO法人生態教育センター)
キンクロハジロ(写真提供:NPO法人生態教育センター)
オオバン(写真提供:NPO法人生態教育センター)
越冬のため、北国から海を越えて飛んでくる水鳥にとって、お濠は羽を休めることができる大切な環境になっているようです。
取材できるのか、と心配だった私たち編集部もたくさんの野鳥を観察できて一安心。次は、大手町パークビルディングと大手門タワー・JXビルとあわせて約3,000平方メートルにおよぶホトリア広場の植物をみていきます。まず気づいたのは、黄色い実をたくさんつけた「キンカン」。3×3LabFutureのすぐそばで、こんなに実がなっているのにこれまで全く気づきませんでした。
ほかにも、広場内にはさまざまな実をつける植物を観察できました。
背の高い木に赤い実がなるクロガネモチ
ナンテン
マンリョウ
ヤブラン
それぞれの実をヒヨドリなど野鳥が食べにきます。赤や黄色の目立つ色の実を付けるのは、鳥に見つけてもらいやくし、子孫を残す工夫。黒い実も、鳥の目にはよく見えるそうです。広場内には、鳥のフンによって運ばれた種子によって、積まれた石の小さな隙間から生えてきたマンリョウが見られました。
小さな花も咲いています。黄色い花はツワブキ。白い花はヤツデです。花の蜜を虫が吸いに来ます。ピンク色のアセビ は、漢字で書くと「馬酔木」。枝葉に有毒成分を含んでおり、馬が食べると酔って足がダメになるという由来から名付けられており、殺虫効果があります。
佃煮のきゃらぶきとして調理されることもあるツワブキ
ヤツデ
アセビ(※つぼみの状態)
広場を見渡せば、高い木に低い木、いろんな高さの植物があり、こするといい香りがするセキショウ、やすりになるトクサなど、様々な植物が生きています。
セキショウ
トクサ
「ホトリア広場は都市部としてはとてもチャレンジングな植栽をしている場所ですね。ビルの近くは鳥のフン害や害虫被害などを嫌がって生きものが寄り付かない植栽にすることも多いのですが、ここでは生物多様性に配慮し、生きものの食べもの となる食餌木や吸蜜植物を取り入れています。在来種や地域種を主体とした植栽は木々の高さを変えることで、陰をつくって生きものが隠れられる場所にしたり、たくさんの工夫がみられます」(佐藤さん)
広場には、小鳥が水を飲んだり水浴びがしやすいように浅瀬も設けてあります。午前中が水浴びを目撃できる狙い目の時間。広場を流れる水は地下を通り循環しています。
広場は、水の底に養分を蓄えやすい土を入れ、細かな隙間のある多孔質の石を積んであります。
石の間の隙間をわざと作り、ヤモリが住みやすいようにしているそうです。
鳥やチョウ、トンボなど数種を誘致目標として設定し、毎月行うモニタリング調査で見える化。これはホトリア広場に限らず、大丸有エリア全体で行われています。都市に緑を増やすだけではなく、多様な種や生態系を持つようなまちづくりが行われています。
今回取材して強く感じたのは、植物をじっくりみたり鳥を探したりするのって想像以上に楽しい、ということ。この植物はなんだろう、木の実はおいしいのかな、あんなところに鳥の巣がある!などワクワクしながら観察しました。この気持ちは......、ただ単純に「わーっ」という驚きや感動を味わう時間の贅沢さや新しい発見に興奮する気持ちもありつつ、生きものと共生してきた人間の自然な感覚が蘇るような、生きものと触れ合うことを人は求めている、ような気もします。
丸の内生きもの調査は毎月行われています(次回3月の日程は決定次第、エコッツェリアWEBで紹介します)。ホトリア広場では、春を待ちきれない植物たち(ユキヤナギやツツジ)の狂い咲きも見られました。取材は冬でしたが、これから季節が進めば、花が咲き、チョウやテントウムシなどの虫も活動をはじめます。3×3LabFutureでの仕事の合間に、大丸有エリアを散歩する気持ちで参加していただけば、いろんな生きものに出会えるはずです。
ユキヤナギ
ツツジ
次回のコラムも引き続き生物多様性を取り上げます。3×3LabFutureに設置されている、大丸有エリアの生きものデジタル図鑑と、野鳥観察でも紹介されたお濠の浄化システムについて、またエリアで進む養蜂、丸の内ハニープロジェクトについて話を聞きます。お楽しみに!