誰かがふと思った。エコだという大丸有は本当にエコロジカルなのか。その本当の成果を見ることはできないのか――。エコロジーというのは難しいものです。言うは易し、行うは難し。その結果を公平に評価することは尚、です。そんな誰もが感じていることに応えるべく、大丸有のエコロジカル・ネットワークの取り組みをしっかりと可視化し、誰もが見られるようにしたのが、「生きものデジタル図鑑」です。
ローンチは1年前でしたが、最近になって、3×3 Lab Futureの入り口にほど近いところに設置され、誰もが気軽に触れるようになりました。さまざまなコンテンツが詰まった「生きものデジタル図鑑」には、いったいどんな想いが込められているのか、そしてどんな機能があるのでしょうか。三菱地所開発推進部 エリアマネジメント推進室の溝口修史さん、3×3 Lab Future生物多様性担当の深須布美子さんのお二人にお話を伺いました。
この「生きものデジタル図鑑」には「生きもの図鑑」「生きもののすみか」「丸の内ハニープロジェクト」「お濠の水浄化プロジェクト」「生きものをさがそう」の5つのメニューがあります。
「生きもの図鑑」は、大丸有にどんな生きものが生息しているのかを定期的に観測し、観測結果に基づいたデジタル図鑑で、写真やさまざまな情報が掲載されています。これが「生きものデジタル図鑑」のメインコンテンツと言えるでしょう。
「生きもののすみか」は、大丸有エリアの環境拠点「大手町ホトリア」「大手町フィナンシャルシティ」「一号館広場」の情報を掲載。これらは周辺環境や生物多様性に配慮した植生や設備を有しているもの。「環境に配慮したまちづくりが主流になり、大丸有には現在こうした拠点が多く作られるようになってきました。今後この項目はさらに拡充していきたいと考えています」と溝口さん。
「丸の内ハニープロジェクト」は、その名の通り、大丸有エリア内のビルの屋上でミツバチを飼育し、採蜜しているプロジェクトの紹介です。丸の内の2カ所で飼育しており、今年で3年目。昨年は0.5トンを採取、大丸有のショップに供給するまでになっています。銀座ミツバチプロジェクトの指導を仰いでこのエリアに勤務する方々がボランティアとして作業に参加。「ミツバチを中心にした関係者のネットワークができつつあります。蜂蜜を丸の内の特産品として、いろいろなところに提供していくことができればと考えています」と深須さん。
余談ですが、ミツバチはとてもかわいいです。フワフワした和毛があって、ちょっとドジ、生涯をかけてティースプーン1杯の蜂蜜を集めます。こんな健気でかわいいミツバチに興味のある方は、ぜひボランティアへの参加をご検討ください。モニターではそんな情報を見ることもできます。
「お濠の水浄化」は、3×3 Lab Futureがある大手門タワー・JXビルの地下にある浄化・貯留装置の説明です。年間50万立米の処理能力を有しており、理論上、45万立米あるという皇居外苑の水を1年かけて浄化していることになります。とてもメカニカルかつドラマチックな施設となっており、普段見ることができませんが、ここで楽しんで勉強することができるので必見です。
「毎年夏になるとアオコが繁殖し、水質汚染も進んでいましたが、浄化装置が設置されてからそれも緩和されていると聞いています。昭和40年に玉川上水の流入を停止してからの問題が、ようやく解決に向けて動きだそうとしています」(溝口さん)
「生きものをさがそう」は、観察した結果を生きもの図鑑に反映するための「生きものモニタリングツール」の紹介を掲載しています。では、このツールを使うことでどんなことができるのか、メインコンテンツの生きもの図鑑の説明とともに詳しく見ていきます。
このモニタリングツールは、ユーザーが生きものを見つけて写真に撮ると、「鳥類」「昆虫」「植物」「その他」の4つに分類し、位置情報とともに図鑑に自動的に掲載するという優れものです。
地図に掲載されているカラードットがすべて登録された生きものたち。このドットにタッチすると、そこに登録された生きものの詳細を見ることができるようになっています。
生きものはいつ誰が登録しているのでしょうか。実は、みなさんも自由に登録することができます。「生きものを探そう」からモニタリングツアーをスマホにダウンロードして街に飛び出すだけ。
が、興味はあってもいきなり登録するのはハードルが高いかも? そんな方は、不定期に開催されている、専門家とのモニタリングツアーに参加してみてはいかがでしょうか。「丸の内生きもの調査」の体験レポートのように、専門家と自然観察に出かけるのはこの上ない楽しみです。また、自然を「感じる」だけでなく、「知る」ことでより深い喜びが生まれます。
そしてまた、大丸有の清掃や管理をしているスタッフのみなさんが、日々生きもの観察をしており、その結果も反映されています。「管理会社のみなさんが、参加することで『街を生き生きとしたものに感じられるようになった』と話しているそうです。また、スタッフのみなさんも、仕事にさらに精が出るのか、生き生きとした様子で働くようになったという話を聞いています」と溝口さん。生きものを身近に感じるだけで、「生きる」というもっとも基本的な営為が変わっていくようです。
この「生きものデジタル図鑑」にはどんな意味があるのでしょうか。実は2013年から続く検討会の成果を反映したもので(東京都心部における緑化推進検討会 過去記事 2013年、2015年)、「まちづくり」「自然環境」2つの方向の想いが託されています。
「まちづくりでは、ビジネス街である大丸有エリアで、生物多様性を担保した自然環境を整備することで、働く人々の環境を豊かにすることができないかという想いがあります」と溝口さんは言います。また、自然環境に配慮したまちづくりが一般化しつつある今、より深く生物多様性に関わることで、ほかの街との差別化を図るという意味もあるようです。
また、自然環境に対しては、「公平な定量観察をすることで、都市の自然環境のありのままの姿を捉えたい」と溝口さんは指摘。
「公平な」とは、「外来種は認めない、観察しない」「在来種だけをモニタリングする」というような在来種への偏重をしないということ。外来種も在来種も等しく観察すること。それによって、都市の自然環境を冷静かつ客観的に評価できるようになり、今後の都市環境の評価指標になり得るのです。
と、小難しい理屈を並べましたが、要は大丸有のエコロジカル・ネットワークに見て触れて、体験できる大変貴重なツールだということ。3×3 Lab Futureへお立ち寄りの際には、ぜひちょこっとモニターにタッチしてみてください。きっと都市の豊かな自然に触れることができるに違いありません。