グリーンズ※の代表として、2007年からアイデアとアイデアをつなげる対話の場[green drinks Tokyo]を主宰する鈴木菜央さん。さらに、若い世代に選挙を"じぶんごと"として考えてもらう[せんきょCAMP]や、独立型のミニ太陽光発電システムの手づくりをとおして、エネルギーを自分たちの手に取り戻そうとする[わたしたち電力]など、活動の輪を広げている。その活動の源泉と成功の秘訣はどこにあるのか、鈴木さんに訊いた。
※グリーンズは"ほしい未来"をつくるためのヒントを共有するためのウェブマガジン"greenz.jp"などを手がける「ソーシャルデザイナー」を応援するNPO法人。
建築コンサルタントのイギリス人の父と日本人の母の間に生まれた鈴木菜央さんは、バンコク生まれ、東京育ち。幼い頃から喘息持ちで、なぜ、自分を苦しめる大気汚染や有害な化学物質が生み出され、そうした問題が解決されないままになっているのか、なぜ、多くの大人たちは夜遅くまで働いてつまらなそうに生きているのか、社会に対してさまざまな疑問を感じていたという。
「一人ひとりが社会の主役として創造性を発揮して、芸術家のように生きていけないだろうかと考えていました。もっと楽しく、ワクワクするような世の中にしたいという思いを抱いたことが、僕の活動の原点でしょうね」と鈴木さんは言う。
ただ、何をしたら社会を変えられるのか、子どもの鈴木さんには見当もつかなかった。転機となったのは、大学浪人時代に、阪神淡路大震災発生から2週間後に神戸入りし、3ヵ月間ボランティア活動をしたことだった。「全国各地から集まったボランティアの人たちが、皆、輝いていることにとても驚きました。どんどん新しいアイデアが生まれるし、難しい仕事から率先してやっている。年齢も立場も違う多様な人たちが対等に話し合い、ベストな答えを見つけ出している姿に感動しました」。
「ところが東京に帰ってきたら、相変わらず大人たちはつまらなそうな顔をして下を向いている。いくら科学技術や経済が発展しても、このままでは社会は変えられない。何か、世の中を変えるようなアクションを起こさなければと強く感じました」。
ちょうどその頃、世の中に登場したのがインターネットだ。20歳になった鈴木さんは、インターネットが世の中をがらりと変える新しいメディアになると確信し、インターネットによるメディアを立ち上げることを決意した。さっそく父親にお金を借りてパソコンを買い、独学でコンピュータの勉強に励み、大学ではデザインを学んだ。その後、自身の志に近い取り組みをしている雑誌『ソトコト』の編集者となり、3年間ほど経験を積む。念願のWebマガジン"greenz.jp"を立ち上げたのは、2006年7月のことだ。
当初、"greenz.jp"で発信していたのは、世の中を変えるようないいニュース、ポジティブニュースだった。しかし、いっこうにアクセス数が伸びない。
「いいニュースを伝えることで読者を増やせると思っていたのですが、あるとき、それは違うんじゃないかと気づいた。僕たちが伝えるべきなのは、ニュースじゃなくて、グッドアイデアだと。その差は受け手が受動的か能動的かの違い。ニュースは単なる情報でしかないけれど、アイデアなら読者が実践でき、ときには人生さえも変えることができる。だから、グリーンズでは『主人公はあなたです』と言い続けています。多くの人がさまざまなアイデアに共感し、それぞれが行動することで、皆にとって〈都合のいい未来〉をつくることができると信じています」。
〈都合のいい未来〉とは、個々人の困りごと(環境問題や介護、健康、仕事、人間関係、老後、くらしのことなど、さまざまな悩み)を解決してくれるような社会のこと。そのためには、従来の成長経済下で進展してきた社会システムとは違う文脈でのアプローチが必要だということに、鈴木さんはいち早く気づいていたのだろう。
ちなみに、現在 "greenz.jp"に関わる制作スタッフはライターだけでも50人にものぼり、なかには海外に拠点を置く人もいる。1本のギャラは決して高くないが、活動に共感し、共通の思いをもつ人たちが制作の担い手にもなっているのだ。
「まさにモチベーション3.0ですよね。共有できる思いがあり、人間的に成長でき、かつ社会に貢献できるといったモチベーション、つまり内発的な動機づけこそが人を動かすのだと思います」。
さらに鈴木さんは2006年9月に、アイデアとアイデアをつなげていくための読者の集いとして[green drinks Tokyo]を立ち上げた。以来、毎月欠かさず開催し、いまや、学生から40〜50代くらいまで、幅広い年代の人が100名近く参加するイベントに成長している(現在は、毎月第2木曜日に虎ノ門・リトルトーキョーにて開催)。
その手法には、単なる"ワイガヤ"で終わらせない工夫を凝らしている。10のテーブルの上にそれぞれ、A4の白紙が置いてある。そこに事前に申し込んだ参加者の悩みや解決してほしいことを書き込んでおき、会が始まると1人1分ずつ、その悩みについてプレゼンをしていく。プレゼンが終わったら各テーブルに散って、解決策について40分ほど話し合う。最後に対話で得た成果を裏紙にまとめて発表する、というものだ。
「スタート時は、スピーカーとしてオピニオンリーダーを呼んで話をしてもらっていたのですが、話を聞いて帰るだけならネット上にTEDなどの素晴らしい動画がたくさんある。そこで、皆が主人公になれるように、対話形式へとシフトしていったのです。実際に[green drinks]をきっかけに新しい仲間が見つかったり、企画をブラッシュアップできたり、ビジネスにつながったり、マーケティングにつなげたりと、さまざまな動きに発展しています」。
さらに2010年からは[green drinks]を全国に展開し始めた。もともと[green drinks]というのは、2004年にロンドンで始まったもので、"グリーン"や"サスティナビリティ"をテーマにした定期的かつ非営利なオープンソースムーブメントのこと。今や世界600地域・都市に広がっているグローバル・ムーブメントなのだ。それを東京だけで独り占めするのはもったいないと、情報を共有し、全国の[green drinks]を開催したい有志をサポートするためのWebサイトを立ち上げのだ。
「全国100ヵ所以上で開催され、今でも定期的にアクティブに活動している[green drinks]が60ほどあります。僕らからは『green drinksやろうよ!』と呼びかけて、ウェブサイト(http://greendrinks.jp)をつくり、広報を少しお手伝いしているだけで、後はすべて、自然発生的に生まれてきた活動です。人気の秘訣は、テーマを絞りすぎないことにあるのかもしれませんね。グリーンというと、環境も子育てもまちづくりも、なんでも含まれてしまう。だから人が集まりやすいのでしょう。ちなみに、東京では毎回半数くらいが初めて参加される方たちなんですよ」。
皆が主役だからこそ、自発的に動き出す。それこそが、グリーンズが成功している一番の秘訣と言えるのだろう。
ここへ来て、グリーンズの活動はさらなる進化を遂げつつある。震災を契機に、活動をより明確にして、シンプルで動きやすい組織にしようと、NPO法人として再スタートを切ったのだ。また、活動に共感する人を対象に年会費制の会員制度を設けたところ、100名弱が賛同して会員となった。
「NPOにして改めて考えたのは、ほしい未来をつくるためには、自らが努力するだけでなく、社会に働きかけていく必要がある、ということ。これまで、メディアをつくってワクワクの種を播き、コミュニティをつくって心を通わせる仲間をつくり、さらにスクールを開催してグッドアイデアを生み出すチームづくりをしてきたけれど、まだ足りないと感じています。とくに、政治システムへのアプローチとエネルギーへの取り組みが不足しています。どちらも、現在の日本では残念ながら、本当の意味では民主化されていない。それを自分たちの手に取り戻すための活動を始めています」。
政治については、お任せ主義を返上し、市民が対話により合意形成をしながら、新しい社会をつくっていくための方法論を探るため、2012年12月、元内閣官房参与・工学博士の田坂広志さんと、アースガーデン代表の南兵衛さんとともに[せんきょCAMP]を立ち上げた。
「[せんきょCAMP]とは、政治に[green drinks]の方法論を当てはめ、『他人事な政治と社会参加をじぶんごとにする対話の場』。こちらも[green drinks]同様にオープンな活動で、非営利で開かれた場であるというルールを守ってくだされば、誰でも開催することができます」。
ここで採用しているのが、メンバーの組み合わせを変えながら小グループで対話するワールドカフェ方式だ。自己紹介の後、3人ずつのグループに分かれて、ワールドカフェを20分ずつ3ラウンド(①ここへ来た理由と詳しい自己紹介、②私がつくりたい社会、③つくりたい社会に向かって、私がしたいこと)で対話をし、最後に全体で議論をする。現在まで40ヵ所以上で開催され、次の参院選に向け、広がりを見せつつある。
もう一つのエネルギーへの取り組みとして始めたのが[わたしたち電力]プロジェクトだ。こちらは、独立型の50Wのミニ太陽光発電システムを組み立て、再生可能エネルギーを自分でつくることを通じて、エネルギーを"じぶんごと"にしようという試み。今年度から資源エネルギー庁の予算を獲得し、本格的に動きだしたところだ。
「ポイントは、ワークショップを通じて自分でシステムを組み立て、使い、人とつながるところです。先駆者としては、イベントやお祭りに再生可能エネルギー電気を提供したり、ワークショップで発電キットづくりを展開していた藤野電力さん(神奈川県相模原市藤野)がいます。[わたしたち電力]は、彼らのような市民発のすばらしい取り組みをサポートし、全国に広めていく枠組みです」。
ミニ太陽光発電システムは4万2800円で、1日充電すればパソコンやスマートフォン、モバイル端末、LED電球、充電式の扇風機や掃除機など、仕事まわりの電化製品の電力なら十分に賄うことができる。
「近所で数軒が導入すれば、パネルとバッテリーを持ち寄って映画上映会や小さな音楽ライブも開催できるでしょう。実際に僕も導入をしていますが、自分で電気をつくるって、すごく気分がいいんですよ。こうした経験があれば、普段の生活の省エネにも敏感になるし、地域の発電事業にもリアリティが持てるでしょう。これからはますます、自分で考えて、自分で動いて、自分で責任をとるような生き方をしていかなければならない時代になっていく。僕らの活動が、そうした生き方に踏み出す一助になれば嬉しいですね」。
greenz.jp 発行人/NPO法人グリーンズ 代表理事。1976年バンコク生まれ東京育ち。東京造形大学卒。2002年より3年間「月刊ソトコト」にて編集業務に携わる。独立後、2006年に「あなたの暮らしと世界を変えるグッドアイデア」をテーマにしたWebマガジン"greenz.jp"を創刊。07年よりグッドアイデアな人びとが集まるイベント[green drinks Tokyo]を主催。メディアとコミュニティをとおして、持続可能でワクワクする社会に変えていくことを目標にしている。