「以前はボランティアって特別な人がすることだと思っていました」と、照れ臭そうに話す松崎氏。彼は、アーロンチェアで有名なハーマンミラー社の日本法人のトップ。被災地支援に向けて海外の人々が積極的に現地入りする映像を目の当たりにし、昨年11月に社内のボランティア制度を活用して支援活動を発進。集まった世界各国の同僚12人とともに石巻市に乗り込んだ。
家具メーカーである同社が被災地で出来ることは何か。それを探るために昨年夏から度々仮設住宅を訪れ、問題点を洗い出す作業からスタート。家具に関わる人間として、どうアクションするかをひたすら考え続けたと松崎氏は話す。
「物干し竿が高すぎるから縁台を作ろう、仮設住宅のコミュニティ作りに外に持ち運べるベンチはどうだろう。みんなで話し合って、最終的に4つのプロダクトを作ることにしました。加えて、被災地の方々に家具づくりのワークショプに参加して頂き、ネジ一本でも組み立て作業に参加してもらった方に、"自作"として提供しました」
この体験を通じて人生観が大きく変わっていくさまを、彼は感慨深げに振り返る。
「ワークショップを通して、地域の人たちと朝から晩まで作業。ご飯を食べることを忘れるほど家具作りに没頭しました。自分が人の役に立っていることがダイレクトに伝わってくるのが嬉しくて、気がつくと休み無しで働いていた感じです。今回この家具作りを通して、ゼロからコミュニティが出来上がっていくことの喜びを知りました。英語でmeaning という言葉がありますが、まさに"生きている意味"を実感したのです」
被災地でのものづくりが松崎氏の人生を豊かにしたことは間違いない。それは、彼の行動とともに地域のコミュニティが元気になったことと関係がありそうだ。仕事を辞めたり、私財を使って献身的に地域を元気づける手法もあるが、今回のように普段から取り組んでいる"家具作り"を地域活性につなげることで、自分と地域がWinWinで成長するモデルがあることを、彼の取り組みは示している。
1965 年宮崎県生まれ。大学卒業後、JR 東海、マッキンゼー、 米国留学を経て国内外の IT ベンチャーの代表などを歴任。 2007 年ハーマンミラージャパンの代表取締役に就任。