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【 SHAREISM Vol.6 】A pioneer's Talk:パタゴニア日本支社長 辻井隆行

人と人の間をつなぐ”ストーリーテラー”に。

製品の背景にあるストーリーを伝え、消費の在り方を問う。
ワールドシフトしていくためのパタゴニア日本支社の挑戦とは。

ジレンマと向き合うこと

2014年3月まで丸の内に期間限定の直営店がオープンしている、世界的アウトドアブランドのパタゴニア。全コットン製品を枯れ葉剤や農薬を使わないオーガニックコットンにいち早く切り替え、また、淡水汚染や森林破壊、遺伝子組み換え問題などさまざまな環境キャンペーンに熱心に取り組んでいる。

「これまでの活動は、表面化する環境問題に対してばんそうこうを貼るような対症療法に近いところがあったが、創業40周年を迎えた今、根本的な経済の在り方を見直し、"責任ある経済"を提唱する時機がきた」と日本支社長の辻井隆行氏は話す。

企業を存続させるには、利益を出し続けなければならない。しかし、利潤だけを追求することは大量生産、大量消費に繋がることでもあり、少なからず地球環境に影響を与える。

「そこにジレンマがあるんです。だからこそパタゴニアでは"Meetthe demand"が大切だと考えています。いつ、どこで、どんな目的で使うのかをお客様から聞き出し、それに適した製品でニーズに最大限お応えする。たとえ環境負荷を減らした製品であっても、不必要なものの消費を奨励することは、"責任ある"態度とは言えない。真に必要なものを、長く使い続けて頂くことが大切です」

経済活動のジレンマを受け止めながら、責任ある経済について想いを馳せ、行動する。その真摯な姿勢や努力は、パタゴニアが広く支持される理由の一つであろう。

"利他"の火種に火が点く瞬間

パタゴニア日本支社には現在、400人以上のスタッフがいるが、その全員が同じ環境保全意識を共有して未来に進んでいるのだろうか。

「地球環境や未来に対する基本的な意識は共有されていると思います。ただし、僕自身、入社当初はアウトドアスポーツそのものが第一優先でした。誠実な心や優しさは数値化出来ないことを大学院で学び、社会の疑問を解決出来た経験や創業者イヴォンから言われた"消費をしたくない"矛盾を、ギリギリのラインで考えさせられる刺激が原動力となっている。本質的なことを言えば、人間誰しも、誰かの役に立ちたいとどこかで思っていて、その"利他"の火種にいつ、どれくらい大きな火が点くかは人それぞれのタイミングがあると思うんです。与えられた環境やそれぞれの個性に応じて、強みを大事にしてもらうことも大切です」

今、アウトドアスポーツだけに深くコミットしているスタッフも、自然と対峙し、人と出会うことによって、他者や地球環境をより深く考える時がくる。そうして点火された利他の心の火は、強風が吹いても消えないことを辻井氏は語っている。

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ストーリーテラーであるために

ストーリーテラーであるために

自分たちの役割を、"ストーリーテラーである"と語る辻井氏。

「製品がどのような過程を経て、どんな想いを持って作られたのか。自分達が出来ることを実践しながら、細分化され、分断化されたビジネスの背後にあるストーリーを伝えるのが僕たちの役割。自分の好きなものや身に着けているものが、もし誰かの犠牲や環境破壊の上に成り立っているとしたら、幸せではないですよね。でもストーリーを知って納得できるものに囲まれた生活は気持ちが良いし、それは、食品や化粧品、ジュエリーなどあらゆるものを選ぶ基準になっていくと思うんです」

また、細分化された世界とはビジネスだけでなく、人間社会にも当てはまると言う。

「英単語の"個人=individual"はin(不可)とdivide(分ける)から成り、これ以上分けられないという意味です。地球、国、地域、家族、個人と細分化していくと、その間にはつながりがなく分断しているように感じてしまうかもしれない。でも、日本語の"人間"は人の間と書きますよね。個人そのものに焦点を当てるのではなく、人と人との間に存在する関係性に重きを置く。僕たちにはそうした素晴らしい文化的背景があるし、日本人としてその強みを再認識することで社会はもっと良くなっていくと思う」と辻井氏。

単なる販売ではなくストーリーテラーとして、製品を通して、人と人、人と環境の間をつなごうとする辻井氏とパタゴニア。その行動と想いが、世界をそして地球環境を少しずつ変えていく推進力となっている。


東京・丸の内店では、ビジネスエリアらしくタウンユースの着こなしも提案されている。
「パタゴニアの製品デザインの目指すところは"Not fashionable."ファッショナブルではないが、15年経った後も恰好悪くないのが理想」と辻井氏。

パタゴニアのミッション・ステートメントは、"最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に 警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する"。
辻井氏は、「ミッションの冒頭が示すように、最高の製品を作るという"プロダクト・リーダーシップ"があってこそ、背後のストーリーにも意味が生まれる。だからこそ、お客様には製品のクオリティで選んでいただきたい」と話す。

「優秀なビジネスパーソンが集まるこの丸の内ストアを通じて、レスポンシブルエコノミーという考え方を丸の内ワーカーの方に伝えたい。僕たちは"会社"という自己矛盾と闘いながら、どうしたら地球の自浄能力を超えずに経済が成り立つかを考えなければならない」と辻井氏。


インタビューを終えて

大量生産大量消費になりがちな企業経営の中、いち早く地球環境を意識した適正消費と適正利益へ取り組んだパタゴニア。その日本支社長だからこそ、言える、環境共生型の販売と消費論。 まさに、企業と消費者と地球の価値が共有化されている。

辻井 隆行(つじい たかゆき)

大学卒業後、日本電装(現デンソー)に入社。26歳で早稲田大学大学院へ。その後、シーカヤック専門店で勤務し、本格的にアウトドアスポーツを楽しむ。1999年からパタゴニアにパートタイムスタッフとして勤務し、2000年に正社員として入社。2009年より日本支社長。

パタゴニア サイト

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