シリーズVOICE

【VOICE】笹谷秀光さん

株式会社 伊藤園 取締役
CSR推進部長

「トリプルSのCSR」を実現する場に期待

環境経営サロンにお招きいただいて、伊藤園の「茶畑から茶殻までの共有価値の創造」についてお話ししたことが縁で、「CSRイノベーションワーキング」に参加するようになりました。これは、まさに私がライフワークとして掲げた「トリプルSのCSR」というテーマともマッチングしています。また、CSRイノベーションはTPOも良い。TimeはCSRイノベーションがまさに時流にかなっている点。2013年は東京オリンピック決定、富士山の世界文化遺産登録、和食の世界無形文化遺産登録などが重なった節目の年となりましたが、これを2014年につなげるためにCSRイノベーションが果たす役割は大きいでしょう。また、Placeはこの新丸ビルです。東京駅正面のオフィスビルの象徴で、情報感度、環境感度の高い方が多く集まる場所ですね。そして、CSRイノベーションは、その感度の高い方々が集まる機会、Occasionを提供してくれているわけです。今後、このコミュニティが新たなCSRイノベートを花咲かせ、世界へと発信してくれることを期待しています。

Q1
伊藤園はどんな取り組みをしているのですか?
A1
持続可能な社会・環境の実現のために解決すべきさまざまな課題があります。曰く「地球環境問題」「生物多様性の破壊」「食の安全の確保」「食料自給率の低下」「価値観の変化」「少子高齢化」「伝統・文化・教育」。その解決に貢献できるよう伊藤園は「環境にやさしい企業」「人にやさしい企業」「社会にやさしい企業」になることを目指しています。具体的には、茶畑から茶殻までのバリューチェーンで共有価値の創造を目指す、人づくりのためのESD(Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育)に力を入れるなど、活動を体系化しています。
Q2
「トリプルSのCSR」とは何ですか?
A2
2010年11月発行のISO26000(社会的責任の手引)によってCSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)が定義されました。画期的だったのは、持続可能な社会・環境の実現には、企業が本業を活用することが重要であると明確にされた点です。さらに、2011年にマイケル・ポーター教授がきわめて戦略性の高い「CSV(Creating Shared Value、共有価値の創造)」の概念を提唱しました。この2つの概念によって企業は網羅的な取り組みが可能になりましたが、それを理解できる人材の育成が必要です。それが「ESD」。この補強された「CSR」、戦略性の高い「CSV」、人材育成の「ESD」それぞれの「S」をとって、「トリプルSのCSR」と呼んでいます。
Q3
しかし、「CSR」は分かりにくいし、素人にはハードルが高いように思います。
A3
先ごろ拙著『CSR 新時代の競争戦略―ISO26000活用術―』(日本評論社)を発刊し、この「トリプルSのCSR」についていろいろな企業・組織の事例を紹介して素人分かりするように説明してみましたので、ぜひご一読してみてください。テーマとしても、環境、コミュニティ活性化、消費者課題など幅広く取り上げました。これからのグローバル化時代は「CSR」ではなく「SR」ではないかと思うのです。Social Responsibility(社会的責任)を持つのは企業だけではありません。ISO26000は、正確には、企業のみならず、大学も病院もNPOなども、メディアも、あらゆる組織が責任を果たすべきとして「SR」 の手引として定められたものです。ISO26000を共通言語にして「パートナーシップ」を構築して共有価値を創造し、社会課題の解決に当たるべきです。エコッツェリアには大学の先生も来るし、企業人も来る。NPOの方も来る。まさに、多様な関係者による共有価値創造のために相互に学ぶ ESD の実践場になっていると思います。
Q4
大丸有で好きな場所はどこですか?
A4
仲通りです。パリにいるかのような気分になりますね。この一帯は景観に配慮された美しい町。最近は緑化も進んでいて、1日散歩していても飽きが来ないです。
Q5
あなたが大切にしているものは何ですか?
A5
「信頼」です。Confidenceですね。言っていること、していることのconsistency(言行一致)と言ってもいいかもしれません。「あいつは信頼できるヤツだ」と思われる人になりたいと思っています。
笹谷秀光(ささや・ひでみつ)
株式会社伊藤園 取締役・CSR推進部長

1953年生まれ。1976年東京大学法学部卒、1977年農林省(現農林水産省)に入省。中山間地域活性化対策、食品流通対策、農産物国際交渉などを担当。2005年環境省大臣官房審議官、2006年農林水産省大臣官房審議官、2007年関東森林管理局長を経て2008年に退官。同年伊藤園入社、知的財産部長、経営企画部長を経て2010年より取締役、2012年5月よりCSR推進部長。著書『CSR 新時代の競争戦略―ISO26000活用術―』(日本評論社、2013年12月)。

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