今年2月、フランスではスーパーマーケットの売れ残り食品廃棄を禁じる法律が可決された。国連食糧農業機関(FAO)などによると収穫されてから食卓に届くまでに、地球上では毎年13億トンの食品が破棄されている。
このフランスの流れに先駆けて、2011年にオープンしたのがデンマーク・コペンハーゲンの廃棄食品を再利用するレストラン「Rub & Stub」だ。
ここには毎日、市内の提携する販売店やレストランから大きさ、重さ、形、色などが規格からはずれた食品や、賞味期限間近の食品が運ばれてくる。精肉や牛乳製品、卵などもあるが、その多くは野菜やフルーツだと言う。
キッチンに並ぶのは、まがったキュウリ、短い葱、房から外れたバナナなどだ。
コペンハーゲン中心部のビルの2Fにあるこのレストランに入ると、まずエントランスに大きく掲げられたコンセプトボードが目に入ってくる。
左から順に、
1.「余剰食品」他のお店で余った新鮮な余剰食品を使っています。
2.「輸送」そのお店の人たちやボランティアの手によって運ばれてきます。
3.「キッチン」シェフとキッチンボランティアがおいしく調理します。
4.「食堂」ボランティアがオーダーをうけ本日のメニューをお届けします。
5.「非営利」このレストランのボランティアはデンマーク難民協議会の決定と共にあり、全ての利益は人道支援プロジェクトの原資になります。
「注文の多い料理店」を思い起こすような、色々な説明がある。実はこのレストラン、今や大変な人気で多くの人は事前に予約をしてから訪れる。そんなお客さんたちだから、このボードの説明は熱心に読み込んでから席につく。
エントランスのコンセプトボードに何度も出てくるようにこのレストランはボランティアによって運営されている。運営の安定性のために有給で雇用されているシェフやホールのリーダー、運営リーダーの他はすべてボランティアの市民たちだ。中にはぎこちなさの漂う人もいるが、それもこの場所の妙。お客さんは皆、コンセプトや仕組みに共感してきているからそうした面も楽しんでいる。きっと飲食店でボランティアで働くなんて、と思う人が多いだろう。
ボランタリーな活動がさかんな北欧でもこれは珍しい事例。働いている人に働く理由を訪ねてみると、「この場所が好きだから」「たのしいから」「このプロジェクトを応援してるから」という声。誰もが楽しんで参加しているから、スタッフの間にもとてもいい空気が流れている。
2月の下旬のこの日のメニューは前菜とメイン料理2種、デザート。前菜はポテトスープ、メインはビーフシチューかインド煮込み料理のダール、デザートはじゃがいものワッフルだ。料理は一般的な量より少なめの量でサーブされる。もし足りなかったら、おかわりができるという仕組みだ。逆に余ってしまったら持ち帰り用の袋が用意されていて各自持って帰るようになっている。たしかにここで残渣をだしてしまったら本末転倒だから、よく練られた仕組みだ。
店内にはこんなボードが飾られている。「救出された食料」と題して店の成果を掲示している。ボランティアの接客のスタンスもそうだし、店内の装飾も、たのしさに溢れている。ここに来ると、捨てられていく食べ物のことや社会の仕組みの課題について必ず会話にあがり、普段から意識的な人も改めて自分の消費分を越えて社会規模で考える契機になる。新しいことや、未来的なこと、ものを大切にすることが好きなコペンハーゲン市民には大人気で3月には廃棄食品を集めたスーパーマーケットもオープンし人気を博している。
法律によって変化がもたらされるフランスをはじめ、今後世界のトレンドになることが予想される廃棄・余剰食品を使ったレストランやスーパーマーケット。デンマークのレストランのメニューが煮込みやスープが主になっているように、元の形や色が作用しないレシピが必要になる。煮込み料理や汁物の豊富な日本でもきっと遠からずこんなレストランが誕生するはずだ。